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かぐや姫奇譚  作者: くらげ
かぐや姫奇譚
7/12

狐vs宇宙人(?)

「空間波長誤差MF+3。同調回路による修正完了』


 そう呟いたサングラスの男の目の前に虹の膜が現れ、その膜に彼がめり込んできた。


「やばっ」


 言葉と同時に狐は翔の手を掴んで走り、さっきまで翔が気にも留めてなかった小さな祠に急いで触れる。



 竹林にいたはずが、狐と翔、かぐやはどことも知れない山の中にいた。周りの木も竹ではない。

 同じなのは小さなお稲荷があるだけ。

「どこだよ。ここ」

「一応千里くらい引き離したはず」

「千里ってどれくらいの距離だ?」

「さあ。でも助けてもらったんだから、せめて祠の落ち葉くらい払ってあげなよ。敵が諦めるまでは暇なんだしさ」

「『さあ』って」


 狐に言われたことが分かったようでかぐやは翔がため息を吐く横で、手が汚れるのも構わず、落ち葉にうずもれ半ば朽ちかけた祠から落ち葉を払った。


「絶対大丈夫って言っていたのに」


 翔は人を責められるほどのことを何もしていないが、あれほど「大丈夫だ」と太鼓判を押しておいて何だと言う気にはなる。


「うーん。なんというか。ラジオの周波数に例えたら良いのか。

しっかり聞こえる周波数が『現実』で、たまに遠くの音を拾ってしまうのが、神隠しってことになるのかな。私達妖怪は一族でその周波数を一つか二つほど知っている。私達は隠れ里と呼んでいるが。で、彼らはどんなに遠くの周波数も拾えるチューナーを持っていたって事だな」


 狐は土がつくのも構わず座り、それに習って翔とかぐやも地面にじかに座る。


「まあ、こんなに引き離したのだから、向こうも諦めるだろう。それにな、日本ではかぐや姫は月に帰ってしまうらしいが、私の国ではかぐや姫は竹取の青年と幸せに暮らす話だ。どうせなら、縁起のいいほうを信じよう。また追いついて来ても稲荷を使えば良い」


 祠にタッチしたら、なぜ瞬間移動できるかさっぱり原理が分からない。が、翔はそんなことよりも狐がかぐやを安心させるように優しく語りかけているのが微妙に気に食わない。


「妖怪もラジオを使うのか?」

「産業革命やら二度の大戦やらで、人間に関わるのをやめて隠れ里に引っ込んだ妖怪がほとんどだけれど、子孫がいたらやっぱり気になってしまうからなぁ。たまにこちら側に出てきたりする」

「子孫?」

「人間の女性と結婚して、宿屋の主人やってたことあるんだ。千年くらい前に」


 そんなおとぎ話みたいな話をされても、どう反応すれば良いのか、困ってしまう。

 うっかり聞いたのは翔のほうだが。


「黒義も元は人間だし、吸血鬼の彼も妖怪にしては術の効きが弱いからたぶん――」


 そこまで言った狐は、不意に耳をぴくぴく動かして、建物の天井くらいの高さをじっと眺める。


「昔話はここまでのようだ」


 彼が緊張した面持ちで立ち上がり、それにつられて翔たちも立ち上がる。

 強い光が突然空中に現れる。


「しつこいな」


 狐がうっとおしそうに髪を掻き揚げ、ため息を吐く。

 翔にも降り立つ光にしっかり見覚えがあったが。


「一人足りない」


 敵は小太りの男一人とサングラス三人だったはずだが、サングラスが二人になっている。


「『ターゲットA確認』」


 敵はやらかした。こぶし大の赤い光が狐の小さな置物ごと祠を粉々にくずしたのだ。


「きゃ!」

「『ターゲットB破壊完了』」


 先ほどのレーザーポインタのような小さな光を出した同じ拳銃からだ。

 かぐやも祠が粉々に崩れるのを見て、顔を真っ青にする。


「ちょ……罰当たりにも程があるぞ!」


 文字通り、神をも恐れぬ暴挙だ。

 たとえその祠がどんなに小さくても、祟りを信じて無くても、祠を壊すなどと言うのは見ただけで心の奥が恐怖でざわつく。  


 その直後、霧が上がったかと思うと狐から声をかけられる。「動くんだ」と一言。その一言で身の緊張が薄らぐ。

 霧がうっすら漂うなか、自分達にそっくりな幻影が七組も現れぱらばらに動き出す。


「無駄だ」


 総勢二十人以上。だが、サングラスの男は、あれだけダミーがいるのに、こちらをしっかり見据えている。 


「「「「「「「「狐火を食らわせてやるよ!」」」」」」」」


 偽物七人に本物一人、計八人の狐の前に大きな炎がうねる。

 サングラスの男は避けるわけでもなく、そこに佇んだまま。

 炎にまかれるかと思いきや、すべての炎は確かに当たったのに、すり抜けてしまった。


「周り木だらけだぞ」と翔が叫ぶ。 


 木々にぶつかる直前に狐が手を振り、炎をすべてかき消した。


「ちっ。あっちも空間ずらしてきやがった!」

「は?」

「こけおどしは効かない上、こっちと同じ術を使われたんじゃ。ついでに私の知っている異界じゃない」


 狐の額に汗が浮かぶ。

 こちらからは敵が見えなくて、敵からはばっちりこっちが見えるということは。


「つまり、後ろから銃で撃たれても、わからないってこと?」

「そう。ついでに言うと、こんな山の中だから、多少手荒なことしても誰にも気づかれない」


 粉々に砕かれた祠が嫌でも翔の目に入る。

 あちらはサングラスが二人もいて、こちらは戦力に数えられるのがたった一人。

 幻はもう5組くらいに減っている上、霧も徐々に消えてきている。


「こんな山の中で死んじまったらどうなるんだよ!」

「明日の朝には捜索願が出されるかな」


 敵がこちらにしっかり照準を合わせている状態では、新たなダミーも効果が薄いだろう。

 翔が頭を抱え、狐が敵をじっと睨みつけている横で、かぐやの一人が敵に向かってとことこ歩き出す。

 ふと見れば、翔たちの傍にいたはずの本物のかぐやがいない。 


「行くな!」


 翔は叫ぶが、駆け出す前に、左腕を掴まれた。

 振り返ると、こちらを真剣な瞳で見つめる狐の顔があった。


 この瞬間、翔は思い知った。妖怪達かれらが誰を守っていたのか。 

 北川ははじめ彼女だけを竹林に連れて行こうとした。最初に狐が亜空間だか異界だかに引っ張り込んで、先に安全を確保されたのは翔だった。北川は『彼女を引き渡すのでも、守るのでもどっちでも構わない』と最初から言っていた。


 最初から彼らの中で優先順位は決まっていたのだ。


 かぐやはにっこり微笑み、「しょー」と呟く。

 敵とかぐやは強く大きな白光に包まれ始める。


 翔は、狐の手を振り払うとその白光に走っていった。


「おい!」


 狐は、翔を引き戻そうとするが、彼の肩に触れる直前で、翔たちは光に飲み込まれ消えてしまった。 



 銀狐は、しばらく光の消えた場所を眺めていたが、すぐ次の行動に移った。


 一つ吠えると、キツネが一匹そろりと現れる。

 まず、ここから一番近い稲荷を聞き出さないと黒義たちの所に戻れない。

 キツネの頭を撫でてキツネの声で語りかける。


「騒がせてすまなかった。この祠は新しいのをちゃんと作り直すから、な」


中国の一里……時代によって違いますが、400m~500mくらい。


東京-盛岡間 400キロメートルくらい

東京-神戸間 400キロメートルくらい


らしいです

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