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かぐや姫奇譚  作者: くらげ
かぐや姫奇譚
3/12

占い師

 預かってから四日。かぐやに元気だけは戻ったが、記憶は戻らなかった。

 怖い記憶を思い出さないかとひやひやしながら、神社の竹林にも連れて行ったが、笹の葉を引っ張って遊んでいるだけだった。


 彼女に関して分かったことといえば、何度教えても月を地球と呼ぶ、と言うことだ。


 彼女がそれ以外に言った言葉は『にわ』『しゅっか』の二つだった。

 庭が燃えたのか? とも思ったが、彼女はそれ以外は『しょー』と翔の名前を呼ぶだけだった。



「この際、超能力者とか霊能力者とか占い師でもいいからどーにかならんか」


 学校の休み時間も翔はかぐやのことを考えていた。

 もうしばらくしたら、かぐやは病院より遠い施設に引っ越すことになる。

 そうなれば、翔たちは毎日、彼女の様子を見に行くことができなくなる。

 退行催眠も頼ってみたがまったく効果が無かった。


「なになに? どうしたの?」


 人影が落ちる。

 見上げると女生徒が面白そうにこちらを見ている。


「……」


 他の人間にかぐやのことをどう説明して良いかわからない。

 返事をしなかったことに機嫌を悪くするでもなく高木はにかっと笑って翔に一つの助言をする。


「そういうオカルトじみたの大好きなのが3-4にいるって聞いたけれど」


 好きでは困る。なんとか手がかりを掴んでもらわなければ。


「吸血鬼ってのが一人と占い師と一人、幽霊みたいなのが一人」


 翔は彼女の言葉に眉を顰める。『吸血鬼』や『幽霊』とは何のことだろう?

 まあいい。とりあえず用があるのは…… 


「その占い師って、当たるのか?」

「まあまあ……ね。 実際助かったし」

「はあ?」


 この助言が、未知の世界への切符だとはこのときの翔はまだ知らない。



 放課後。翔は3-4の教室の前にいた。


 占いなんて本気で信じているわけじゃないが、どんな占いなのか知るだけでも……

 嘘っぽそうだったら、回れ右をしたらいいだけだ。


「占い師の先輩がいるのはこのクラスですか?」


 やはり、上級生の教室に入るのは緊張する。入り口から声をかける。


佐伯さえきぃ! 客だぞー」


 はやすように声をかけた男子生徒「でかい声出さなくても聞こえている」と不機嫌そうに返した占い師は――


「高三になっても占いなんて、『少女趣味だ』ってからかわれるのに」


 男だった。占いと言うからてっきり女だと思い込んでいたが。

 特にすごいオーラみたいなのを放っているようには見えない。ごく普通の高校生だ。


「なんだ。また事件か?」


 横からハシバミ色の髪と目をした男子生徒が割って入る。

 その瞳は面白いおもちゃを見つけて……その……物騒な言い方をすれば、そのおもちゃをどう壊そうかとたくらんでいる目だった。


「誰の紹介できたの?」


 その瞳が翔の顔を覗き込む。


「あ、同じクラスの高木って生徒から。紹介がないとダメなのか?」

「別にそういうわけじゃないけど。サジったら期末本気でやばいからね。単なる冷やかしならお断り」


 そう言う間も、ハシバミ男は翔の頭のてっぺんからつま先まで眺めて、満足そうに笑う。

 どうやらサジと言うのは佐伯の渾名のようだ。


 佐伯先輩はクラスメイトを軽くこついた。


「勝手に問題持って来る奴が言うな。 高木さん元気にしていたか?」

「は、はい」

「良かった。じゃあ、何を知りたいのか教えてくれる?」



 かなり端折って伝えたが、佐伯先輩はところどころ頷くだけで、ほとんど質問を挟まなかった。


 ただ、話を聞き終えた後に……


「本人から許可さえ貰えばどんな夢でも入れるんだけれど、家、学校から近いのか?」


(夢の中に入る?)


「いえ、こっから電車で四駅」

「う~ん。その“かぐや”さんに電話かけられる?」

「えっ」

「一言、『うん』って答えてくれるだけでいいんだよ」


 怪しい。とても怪しすぎる誘いだ。

 『○○するだけで、大丈夫』みたいなのは、九割がた碌な目に遭わないと相場が決まっている。


「なんか……その大丈夫ですか?」

「まあ、ある意味悪魔の誘いだな」


 翔の問いにハシバミ男がくすくす笑う。


「信じる信じないは君の勝手だ」


 ハシバミ男の言葉は完全無視して(と言っても、うっすら青筋が見えているような気がするが)占い師がキッパリ言う。

 一旦引くのも、騙す手口にありそうだ。


 まあ、騙されたとしても高い壷を売るわけじゃないだろう。

 携帯で家に電話を入れ、母からかぐやに電話を代わってもらってから、佐伯先輩に携帯を渡す。


「君がかぐやさん?」


 しばらくの沈黙。  


「君の夢に入らせてくれる?」


 しばらくの沈黙の後、佐伯先輩は困ったように携帯電話を返した。


「……その、一言『うん』って言ってくれるように頼んでくれないか? 頷いてくれるだけで構わないんだ」


 たぶん電話の向こうのかぐやは意味が分からずに答えを返せなかったのだろう。

 翔が「さっきのお兄ちゃんは俺の友達だから、次話しかけられたら、『うん』って元気よくうなずくんだぞ」とかぐやに言い聞かせて、また佐伯先輩に携帯電話を貸す。 


「夢の中に入らせてくれる? ……ありがとう」 


 無事に許可を取れたようだ。佐伯先輩は携帯電話を翔に返した。

 それまでのやり取りを見ていたハシバミ男は。 


「顔を合わせなくて大丈夫か? 今まで依頼者の顔はしっかり見てたろう」

「これも、どこまでできるかの実験だ。ま、上手くいかなければ、後は直接出向くか来て貰うしかないけれど」


「実験?」


 物騒な言葉を聞いてしまった翔は険のある顔を佐伯先輩に向ける。


「え? あぁ。こっちはこっちの事情があるだけ。彼女に危険が及ぶことは無い……はずだから。

何も分からなくても報告はするから安心して」


 占い師の先輩は毒気を抜くような笑いを浮かべ、鞄を持って「じゃ」というとハシバミ男と並んで、さっさと帰っていってしまった。

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