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かぐや姫奇譚  作者: くらげ
外伝
11/12

夢幻

『楽園』だけかぐやの一人称です。

◇楽園◇


『ガーデン・オブ・エデン』……神の園を模した人間達の庭。


 身体が重かった。自分のモノではないから、違和感を感じるのは仕方が無い。

 それは、突然与えられた膨大な知識についても同じだった。


 身体をオリジナルと交換し、知恵の実と呼ばれる短期学習装置で知識を与えれられた私達は、服を渡された。

 人間になったプレゼントだと言われたけれど……

 きっと、魂がクローンとはいえ、身体はオリジナルだ。粗略に扱うわけにはいかないのだろう。

 お母さんがくれたワンピースは新しい体では、ほんの少しサイズが合わなくなっていた。


 知恵の実を与えられた私は、過去で出会った“彼ら”のことを学者から何度もたずねられた。


 良く分からないまま、彼らの会話に出てきた単語を並べる。『神隠し』『吸血鬼』『仙人』


 『認識票(タグ)』と言った時には、学者は「良く分かったな」と驚いていたし、『人間と結婚』と聞けば歓喜していた。


 仕事のことはじっくり考えてもいいと言われた。外に出ずこの箱庭で生きることもできるそうだ。

 文字も読める。その文字の意味も理解できる。言葉もしゃべれる。

 でも、与えられた辞書(ちしき)(めく)っても……


 家に帰れる道がどれなのか見当がつかない。


 画面とにらめっこして途方に暮れたまま、いつの間にか眠りに付き、何も思い浮かばないまま目覚める。この一週間、ずっとそんな調子だった。


 だが、今朝は違った。

 目覚めたら、とても大切なことに気づいたのだ。


「道が無ければ自分で作ればいいのよね」


 夢の中で誰かに囁かれた気がする。 

 もしかしたら翔が力を貸してくれたのかもしれない。

 まず、自分が持っていて、学者が持っていない手札を探すのだ。


 ◇


「その時代については、一ヶ月ほどとはいえ実際に滞在しました。もし、妖怪に会いたいのでしたら、現地でのサポートができると思いますが」


 私は学者によって、“ここ”から連れ出された。


 最後に私は、『the Garden of Eden』と書かれた金色の文字を見る。


 ……偽物の人間にとってここは楽園なのだろうか。




◇夢幻◇


サジは今回何の役にも立たなかったわけではない。

 宇宙人だか未来人だかにかぐやが攫われた夜、再度夢の中での接触を試みたのだ。

 一日目の夜は夜中じゅう張っていたが、彼女に接触できなかった。

 翌朝は頭が熟れるかと思うほどの頭痛に襲われたが、二日目の夜、彼女に奇跡的に接触できた。


 『ガーデンオブエデン』


 その芝生の上で少女は真剣な目で目の前に浮かぶ半透明な画像を見つめていた。

 パソコンのウインドウ画面に似ている。


 少し大人びているように見えるが、間違いなく前の夢に出てきた『地球を見つめていた少女』だ。

 少女は天井を見上げる。 その横顔は焦りをにじませた険しい表情だった。


 サジも、同じように天井を見上げると、透明な枝に巨大な林檎の実が()っていた。

 視線を少女に戻し、呼びかける。


「かぐやさん?」


 直接、彼女に会ったことはないが、彼女はほんの少し、こちらを振り返り小さく頷くとため息をついて、画面に視線を戻した。


「どれでも選んで良いって言われたのですけれど、どれを選んだら翔の所に帰れるか分からなくて」


 かぐやは途方に暮れたように画面を見つめている。知識があって、言葉を知っていてもどんな物か想像がつかないのではないだろうか。


 その画面には職業がずらずらと書かれていて職業の横には募集人員と希望者の数も書かれている。

 肝心の職種だが、ほとんどが機械の管理・点検・交換と言った仕事のようだ。


 (どの仕事も十分空きがある上、業務時間が一日二時間って……給料大丈夫か?)


 就職氷河期真っ只中にいるサジにとっては、いろいろ複雑である。大学を卒業する頃には景気が戻っていて欲しいものである。


「うーん。君の望んでいる職種はざっと見た限り無いようだね」


 視線を感じてサジは振り返る。 この夢は誰かに観察されている。


 なら。


「じゃあ、さ。『絶滅危惧種を間近で観察してみたくはないか』とこの夢を覗いている悪趣味な誰かに持ちかけてやれ。『代わりに自分を助手にしろ』と、な」


『絶滅危惧種』なんて自分を貶める言い方は好きではないが、夢を覗いている誰かには『生息域での生態調査』ができるなんてとても魅力的な提案だろう。


 相手はこっちの許可が無くても妖怪のクローンを作ろうとしている。

 『ストーカー』と『勝手にクローン』どっちが良いかと言われれば微妙な上、生活を見せたからって、クローンの作成を中止するか分からないが、こっそりやられるよりかは少しはマシかもしれない。



 その後、もう一度かぐやの夢に入ることができて、交渉が成立したと聞いた。

 一応、颯真は二年の教室に訪れて、そのことをさりげなく翔に伝えた。


 所詮(しょせん)、夢の中の出来事。颯真自身もすべてを信じ切れていないのに、下手に希望を持たせてはいけない。


 昨日がその約束の日だったが、さてどうなったことやら。


「サジ、今日から歴史の先生が変わるって」

「はぁ? 今の時期に?」


 北川 正雄との会話の直後、チャイムと共に入って来た教師はすらりとした学者風の教員だった。

 歴史の先生のはずなのになぜか白衣を着ている。

(いや、着ちゃいけないって法律はないだろうが)


 ついでに言うと、夢の中でサジを捕まえようとしようとしたマッドサイエンティストに似ているような気がする。


志麻しま みことだ。よろしく」


 そう言った教師の目がひたっと颯真を捕らえた。

 うっかり目が合ってしまった颯真は寒気を覚えた。


 その後ろで吸血鬼はいつもの眠たそうな顔に挑発的な笑みを浮かべて歴史の教師を見る。


「未来人の血って、どんな味……だろうな」


 ほとんど音の伴わない息が、空気を震わす。

 すぐ前にいる颯真にさえ聞き取れない声に誰一人、気づく者はなかった。

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