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かぐや姫奇譚  作者: くらげ
かぐや姫奇譚
1/12

プロローグ

◆プロローグ1


 真っ黒の中に青い水球みずたまが一つ。


 “それ”を見ていた私にシュッカが声をかけた。


「ああ、あれは--」



◆プロローグ2


 秋の風が笹の葉を揺らす。



 笹の葉が風に擦れあう音。


 うっそうとした竹やぶの奥に人影が見えた。


 それがこちらを向いたような気がした。


 その女は白かった。


 満月が彼女を照らす。



 ◇かぐや姫奇譚◇



「え?」


 高校二年の笹倉(ささくら) (しょう) は勉強に行き詰って、夜の散歩に出ることにしたのだが、笹神様を祀っている神社に差し掛かったとき、無機質なコンクリートに囲まれた小さな竹やぶに人影を見てしまった。


 それが普通の女の子なら、早く家に帰るよう声をかけるか、気にせず通り過ぎるかだが……。


 しょうが思わず声を上げた訳は、女が服を一つも身に着けていなかったからだ。


 目を二、三度しばたたかせても女は消えなかった。

 翔は混乱したまま走って、家にたどり着いた。


「かーさん! お、おおお女の子がた、竹藪、竹やぶに……」

「はぁ? 何? 幽霊?」


 母がからかうように言う。翔があの竹やぶを怖がっていたのは小学校中学年くらいまでだ。


「そんなことどーでも良いから! 何か服!」


 翔は怒鳴りながら母のたんすから適当なワンピースとカーディガンを引っ張り出した。

 疑わしげな母を引っ張って行くと本当に女の子がいた。


 ◇ 


 翔たちは少女を家に連れ帰った。

 年は十五歳か十六か十七か……。おそらく翔と同じくらいか一つ下くらいの年だろう。


「もしかしてあの事件?」

「まさか」


 母が眉を(ひそ)めて言い、翔も同じように顔を(しか)める。


 二ヶ月ほど前、翔の通う高校付近で変質者事件が多発していた。

 隣町のこちらには被害は無かったし、被害に遭ったのは女生徒四人。

 うち一人はスタンガンのようなもので脅されたらしいが、翔の家は男である翔の一人っ子だったからどこか他人事ひとごとだった。


「大丈夫だからね」


 母はぽんぽんと少女の肩を叩き、元気付けようとするが、彼女はきょとんとしていた。

 この時点で、笹倉家の人々は何かがおかしいと気づくべきだった。


 ◇


 その後、母が下着を買いに行ったり、警察に連絡したり、少女を病院に運んだり本当にめまぐるしかった。

 ニヶ月ほど前に起きた変質者事件との関連も疑われたが、現場検証は明日、夜が明けてからするということだ。


「身体的な被害はまったくありませんでした」


 女性警官の言葉に翔たちはその言葉に胸をなでおろす。


「ただ……」

「「ただ?」」

「声は出るようですが、赤ん坊みたいに言葉もしゃべれないし、字も書けないようです。病院に着いた途端盛大に泣かれました」


 婦警さんから「彼女が書いたものです」と渡された紙には、ただ大きな『○』が描かれていた。


「調べたところ該当する捜索願は今のところ出されていません」 

「で、今後あの子はどうなるのでしょうか?」


 翔の母親が心配げにたずねると婦警さんは一度だけため息をついた後、背筋を伸ばして答えた。


「病院に入院。治療に当たりながら、親類縁者を探すことになるでしょうね」 

「声は出る。けれど言葉を忘れている。退行とかってことですか?」


 翔は記憶喪失は詳しくはないが、精神が子供に戻ってしまったと言うことだろうか?


「それは……お医者様が調べてくれていますが、暴れて暴れてなかなか」

「家ではすごく大人しくしていたのになぜかしらね?」


 どころか彼女を家に連れ帰る間も、まったく暴れなかった。


「えーっと、その……知り合いが見つからなければどうなるんですか?」

「病院で様子を見て、保護者等が無ければ、しかるべき施設へ……ということになります」



 翌朝、閑静な住宅街に突如現れたパトカーは十分人目(ひとめ)を惹いた。

 (昨夜呼んだ時は夜中だった上、赤色灯・サイレン無しで静かに来たので、大きな騒ぎにはならなかった)


 昨夜からほとんど寝ていない翔は目撃者として警官と一緒に竹やぶに向かったが、犯人の手がかりどころか、少女の身元を証明するものは何一つ発見できなかった。


 綺麗な黒髪と顔立ちから東洋人であることはほぼ間違いないが、彼女が日本人であるかどうかさえはっきり分からなかったのだ。

 病院の人も試しに色々な言語で彼女に話しかけたが、まったく無反応だったという。


 その後も、翔と翔の母は交代で少女の見舞いに病院を訪れた。

 少女は相当病院が嫌いらしく、翔たちが訪れる時は「しょー」とつたない声で名前を呼んで笑顔をむけてくれるが、それ以外の時は布団に包まって隠れているか、隙を見て外に逃げ出そうとするらしい。


 母はよほど彼女のことが気になったらしく、ここ数日なにやら父と話し込んでいる。



 一週間、二週間経っても彼女の記憶は戻らなかった。


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