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神様

作者:

僕じゃなく廻りが狂っているのだと、思いたくて仕方が無かった。

今、僕が手にしているゲームのコントローラー、そしてその先に広がる世界は『Makeing・Wrod』という世界創作ゲームだ。

このゲームはプレイヤー、つまり僕が神様になって1つの世界に色々な環境や動植物、機械、病原菌を入れて世界を作る、育成系ゲームと呼ばれるものだが、ゲームバランスが悪くて、人間ばかりの社会が出来上がりやすい、いわば『クソゲー』である。

僕の作りたい世界はこんな世界じゃない、僕が僕であるための世界、僕ではなく、僕の周りが狂うのでもなく、僕だけが、住み心地の良い世界……。

「良樹、ねえ、そろそろ学校へ、ね?」

(うるさいなあ)

母親とか言うものが遠慮がちに僕の殻をノックするが、そんな事ではこの殻を打ち砕くのは不可能だ。僕は知っている、この母親という生物は……僕が望めば何でもいう事を聞き、殴ろうが蹴ろうが文句を言わないそれなりに『出来た』生物であると。

しかし、そんな事より僕はこの世界創造を急がねば成らない。

この世界を、より良い方向へ導いて行けるのは僕だけなのだから……。

(くそ、また人間社会だ……しかも、下種な奴等ばかり、リセットだリセット!)

日の入らず、カーテンを閉め切った殻の中で僕はリセットボタンに手を伸ばす。途中で僕の手がカップ麺を薙ぎ倒したけど、知るものか。

ブツっといやな音を立てて画面が黒くなった一瞬後、起動音とともにディスクの読み込みが始まる。ぼわ、ぼわっという妙な選択音を響かせながら、『初めから遊ぶ』を選択しボタンを押す。

ぴょろーん

間抜けな音もこのゲームを『クソゲー』に貶めている理由だろう。

初めの説明を読み飛ばし一旦セーブ『このデーターに上書きしますか?』『はい』

ぴりょりーん

これでポリゴンの人間達はあっさり消え去ってくれる筈だった。

「酷いじゃない」

「?」

誰の声だ?妙に甲高い、学校の女どもよりは幾分年上そうだが、それでも若い声だ。

テレビのタレントのような聞きやすい声ではなく、感情のままにまくし立てた声は、テレビのスピーカーから流れ出ていた。

(まさか……)

「作っといて勝手に消すなんて、酷いって言ってるの!」

(誰だよ?)

僕は狂っていない、狂っていない、狂っていない。ディスプレイに浮かぶのはポリゴンの女ではなく、どこか生身を髣髴とさせる、局面がずいぶん丸い女が……。

「ちょっと、聞いてるの?ああんもう!こんなのが『神様』だなんて!あたしたちの事なんだと思ってるのよ!」

「うるさい!」

「っきゃ!」

女の甲高い声に切れて、電源を引き抜くと僕はそのまま布団へ潜り込んだ。

嫌だ嫌だ嫌だ!僕が狂ってるんじゃない、僕は正常だ、僕はまともだ、狂っているのは………。

僕以外の全てだ。

ヴゥイン

この音には聞き覚えがある。いつまで布団をかぶっていたのか知らないが、僕が目を開くと、予想通りテレビの電源が入っていた。

これは廻りが狂ってるからだ、僕以外の環境が僕を取り巻く環境が狂っているから勝手にテレビが付くのだ、そうに違いない!

僕は掛け布団から出した目玉を背けようと首をひねった。しかしテレビは一向に僕の視界から出て行ってくれない。

動かない、恐怖?興味?いや、狂っている廻りがそうさせるのだ。

ぼわ、ぼわ

選択音が響く、画面には『Makeing・Wrod』のタイトルロゴが誇らしげに光りはじめた。

ぴょりりーん

おかしいぞ

この音は

『ロード』音だ!

まだあのデーターには上書き保存をしたばかりだから、空白のデーターが、世界の名前も決まっていない、初期配置も終わっていない空っぽのデーターがあるだけだ!

「んも~!神のやついきなり電ブチなんてやるー?マジ最低!」

あの声だ!

女の甲高い、耳障りな声だ!こんなシステムは知らない、僕に知らせないこの廻りが狂っているのだ!そうに違いない!

「ちょっとー、そこでぼーっと見てないでよ!神、聞いてるの?」

女は相変わらず甲高い声で僕に食って掛かり、胸倉をつかまんばかりだ。

胸倉?

テレビから布団はそこまで離れていないが、女の指が見える。

太くて無骨な指、とても女とは思えぬそれが、丸太のような手首につながり、その先に厚い肩が見えた。

「きーてんのー?」

ぶくぶく太ったメス豚が、僕の頭をがくがく揺さぶってくる、息がくさい、駄目だ駄目だ駄目だ、こんなのばかりできてしまうから、このゲームは『クソゲー』なのだ。

僕は神なんだ。

だから、要らない人類は『粛清』しなければならない。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ」

「うるさいなぁ、豚がキャーとか言うなよ」

そばにあった大き目のハサミで喉を突くと、醜い黒髪のメス豚は血を流して僕の部屋の床に転がった。なんだ、簡単だな、だって僕は

なんだもの

ドンドンドン

「良樹、どうしたの、ねえ?何の声?」

メス豚の声を聞きつけたのか、母親という生物が僕の殻を叩く。うるさいなあ、お前の声も耳障りだよ。

ドンドンドン

あまりのノック音に辟易して、メス豚を蹴飛ばして端に寄せると理由だけを簡単に説明する。

「ゲームから出てきた奴を消しただけだよ」

「え?ちょっと良樹……?」

僕の殻が開く。なんだよ、入ってくるなよ、お前みたいな愚民に理由を言ってやってだけありがたいと思えばいいのに!しかもまた「あの女」だ。

素直に消えてれば良いものを……。

「もうリセットだって言ってんだよ」

「良樹、何のこと?きゃああああああああああああああ!」

これでリセット、あーあー、又死んだよ、簡単だな。

ぽたぽたと大きなハサミから滴るしずくは生暖かくて気持ち悪い。久しぶりにシャワーでもあびようかな?

神が不潔じゃ、示しがつかないからな。



ブチ



突然、僕の意識は途切れた。



「どうだー?良子。息子育成ゲームは楽しいか?」

「あなた、これ条件厳しすぎるわ、すぐに引きこもりから殺人者ルートに行っちゃうのよ」

「おっかしなぁ、フラグが立ってないのか?子供の星座変えてやってみるか?」

「そうねぇ、出来れば弁護士ルートがいいんだけど、あ、いっけない、それより夕飯作らなきゃ!」



子供ができない妻に、成長タイプの自律思考式アンドロイドでも買ってやろうと思ったのだが、いかんせん俺の給料では育成ゲームが精一杯だ。これだって夫婦二人の遺伝情報の処理とリアルなグラフィックの兼ね合いで、結構な値段になってしまう。

やれやれ、どうせなら「息子:良樹」でなく「娘:直子」を育てて欲しいものだ。女親はやはり男の子の方が可愛いものだろうか?

俺は夕飯を待つ間、自分のパソコンの電源を入れた。

娘の直子は、今14歳。多感な時期を友人達と健やかに過ごしている。やはりこういうゲームは男の方が得意なのだろう。良子もいい加減諦めて、生年月日を変えるか、画数判断で数値も違うのだから名前を変えてチャレンジしてみればいいのに、良樹にこだわる。

おそらく、また最初の説明を飛ばして保存しておいた初期データーから始めるのだろう。成長したら見せてもらおう。早く良いのが出来てくれないと、俺の自慢の娘を自慢できないのだけが、目下夫婦間の不満ごとである。


「あなたー、お皿並べてちょうだい~」

「ああ、今行く」

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