表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

第一章 君が代を忘れない 〜大和魂の目覚る時〜

あなたは今の日本をどう思いますか。

戦争、略奪、侵略国が蔓延るこの世界で、

日本と日本人はどう見られてると思いますか。

真の敵はなんだろうか?

先代達が護ってきてくれた日本と家庭を守りたい一父親としての物語を書きました。

          登場人物紹介

 

ユウキと家族・周囲の人々

ユウキ: 福岡の下町で居酒屋『さるく』を営む店主。愛する妻と娘を守り、ささやかな

平穏を願う 心優しい父親。ある事件をきっかけに、国家の巨大な闇に巻き込まれていく。 

ヒトミ: ユウキの妻。心臓の病気を抱え体が弱いが、穏やかな微笑みで家族を支える

芯の強い女性。

ミツキ: ユウキとヒトミの愛娘で、物語開始時は5歳。父親の作る鶏のから揚げが世界一

好きで、 家族の希望の光。

ナベさん: 居酒屋『さるく』の常連客。地元のクレーン会社社長で、ユウキたち家族を

温かく気遣う 人情味あふれる人物。


国家の闇に抗う志士たち

カミヤ: 野党の若き党首。新政権の絶望的な状況下でも大和魂を燃やし続ける。

のちに地下組織 『ソシジ』の最高指導者となる。

キタムラ: カミヤの政党仲間。天才的なハッカーであり、情報戦やシステム解析で

組織を強力に バックアップする。

タモガミ: 元自衛官空将。超一流の隠密技術や戦闘術をマスターした、頼もしい存在。

ヒャクタ: カミヤたちと行動を共にする巨漢の男。いざという時には身を挺して

仲間を守る熱い心を持つ。

サクライ: ユウキが収監された刑務所で同室になる寡黙な謎の男。過去に喉を切られ

言葉をあまり発せないが 凄まじい殺気を放つ。

コバヤシ: 元・大手製薬会社『小林薬品』の社長。政府が強行するワクチンの裏に

隠された恐るべき真実にいち早く気づいた天才科学者。


自由党政権・体制側の人物

女性総理: 日本初の女性総理大臣。メディアからは「救世主」と持て囃されるが、

裏では冷徹かつ 強引な独裁体制を敷いていく。

コイズミ: 自由党政権の防衛大臣。政府の命令を「絶対の正義」と信じ込む

冷徹な一面を持ち、 容赦なく反逆者を追い詰める。

カワイ: 自由党政権内で冷徹な実力派として頭角を現す埼玉知事。

   

第1話:救世主という名の絶望


2025年10月、福岡の下町、細い路地裏に静かに灯る赤提灯。居酒屋『さるく』の店内は、炭火で焼かれる焼き鳥の香ばしい煙と、引きも切らない笑い声で満ちていた。カウンター8席と小さな座敷が二つだけのこぢんまりとした店だが、今夜はいつも以上の熱気に包まれている。「おい、ユウキ! ハイボールもう一杯!」 「はいよ、ナベさん! すぐ持っていきます!」店主のユウキは、額の汗を拭いながら、手際よくジョッキに黄金色の液体を注いだ。常連客のナベさんは地元のクレーン会社の社長で、景気の波をまともに受け今日も一人で飲みに来ていた。その隣では、仕事帰りの若いサラリーマン達が、すでに出来上がった顔で枝豆をつついている。彼らの視線は、店内の壁に掛けられた古い液晶テレビに釘付けになっていた。画面の中では、無数のフラッシュが激しく焚かれ、割れんばかりの拍手と地鳴りのような歓声が響き渡っている。『日本初の女性総理誕生!』という鮮やかな赤文字のテロップの下、洗練されたスーツを身にまとった女性が、自信に満ちた完璧な笑みを浮かべて壇上に立っていた。「しかし、ついに女性総理の誕生か。なぁユウキ、これで少しは、世の中もマシになると思うか?」ナベさんが、ユウキから受け取ったハイボールをあおりながら問いかける。「そうなってくれないと困りますよ」とユウキは苦笑交じりに応えた。「長年の増税に、海外へのわけのわからないバラマキ、挙句の果てにはあの不自然なワクチンの強制接種ですからね。うちみたいな小さな店は、もう一歩も引けないところまで追い詰められてますし。景気が良くなって、少しでも俺らの生活が楽になればいいんですけど……」 ユウキがそう言いながら目を向けたのは、カウンターの最端、少し奥まった席だった。そこには、彼の最愛の家族が静かに座っていた。ここ五年前から心臓の病気をかかえ体が弱く、肌の白い妻のヒトミ。彼女は心労と物価高による薬代の負担に耐えながらも、夫の働く姿を穏やかな微笑みで見守っている。その膝の上では、当時五歳だった娘のミツキが、小さな手で大好きな鶏のから揚げを美味しそうに頬張っていた。 「ヒトミちゃん、体調はどげんね? 新しい総理が医療費の負担も減らすって公約しとったから、期待したいねぇ」隣の席の常連客が優しく声をかけると、ヒトミは「ありがとうございます。本当に、そうなると良いですね」と頭を下げた。ミツキも口の周りを油で光らせながら、「パパのから揚げ、世界一おいしいよ!」と無邪気な笑顔を弾けさせ、店内の大人たちを和ませていた。まさに、闇夜に差し込んだ唯一の光。テレビが映し出す新総理の姿は、この小さな居酒屋に集う冴えない労働者たちにとっても、一縷の希望そのものだった。 その時、歓喜に沸くテレビ画面の片隅に、ほんの一瞬だけ異質な光景が紛れ込んだ。新総理の誕生に激しい抗議の声をあげる一団が映し出されたのだ。その中心で拡声器を握り、必死の形相で叫んでいたのは、野党の若き党首・カミヤだった。『騙されるな! 彼女は救世主などではない! 日本の形を内側から破壊し、国民を蟻地獄へ引きずり込む操り人形だ! 目を覚ませ!』しかし、その叫びがスピーカーから流れたのは、わずか数秒のことだった。画面は即座にスタジオの華やかな女子アナウンサーの笑顔へと切り替わり、カミヤの姿はまるで最初から存在しなかったかのように消し去られた。不自然な情報統制。だが、目の前の熱狂と酒の勢いに酔う常連客たちが、その違和感に気づくはずもなかった。「あいつら、めでたい日に水を差すような真似しやがって。うるさい奴らだなぁ」ナベさんが不快そうに鼻を鳴らすと、周囲の客たちも一様に同意して笑った。「本当ですね。ちょっとチャンネル変えますね」ユウキは苦笑いしながらリモコンを操作し、賑やかなバラエティ番組へと画面を切り替えた。それが、後に自分たちの穏やかな運命を根底から狂わせ、そして同時に、この国を救うための戦いへと導くことになる男の姿だとは、この時のユウキは知る由もなかった。日本国民全員が、自ら進んで蟻地獄の蓋を開けていた。その冷酷な現実に気付いている者は、この温かい居酒屋の中には、まだ誰一

人としていなかった。


第2話:牙を剥く世界、狂い始めたシナリオ


世界が牙を剥くまでに、半年もかからなかった。2026年4月のある夜、居酒屋『さるく』の液晶テレビに、赤黒い「ニュース速報」のテロップが飛び込んできた。画面の中のキャスターが、幾分強張った声で原稿を読み上げる。『――本日午後、ホルムズ海峡においてアメリカ海軍の駆逐艦とイラン革命防衛隊の高速艇が衝突、激しい銃撃戦に発展しました。アメリカ政府は即座に報復措置を宣言。連動してウクライナ・東欧戦線もかつてない規模で過激化してり、国際社会は緊迫の一途を辿っています……』「おいおい、また戦争かよ……」さるくのカウンターでハイボールのジョッキを握りしめたナベさんが、忌々しそうに吐き捨てた。その顔は、半年前の明るい笑顔とは打って変わって、心労にやつれ果てている。「ナベさん、他人事じゃないですよ。これで原油価格がどうなるか……」店主のユウキが、炭火の前に立ちながら重い溜息をついた。その懸念は、最悪の形で現実となった。第三次世界大戦の足音が近づく中、世界的なオイルショックが日本を直撃したのだ。原油価格の暴騰は、電気代、ガス代、そしてあらゆる物価を一瞬にして跳ね上げた。仕入れ値は毎週のように上がり、度重なる増税と社会保険料の引き上げに喘いでいた国民の生活は、瞬く間に限界を迎えていった。「ユウキ、悪いけど今月から丸鶏の値段、少し上げさせてもらうけん。こっちも鶏の餌代やガソリンが倍になって、もう持ちこたえられん……」出入りの業者が頭を下げるたび、ユウキは胸が締め付けられる思いだった。客足は目に見えて減り、常連たちの会話からも笑い声が消え、ただ愚痴と将来への不安だけが煙のように店内に充満していた。しかし、この未曾有の危機に対して、あの「救世主」と謳われた女性総理率いる自由党政権が下した決断は、困窮する国民の救済などでは断じてなかった。それは、同盟国アメリカへの絶対的な盲従だった。7月のある日、テレビの報道番組では、眉をひそめたコメンテーターたちが不穏な議論を交わしていた。『政府が本日持ち出した補正予算案ですが、これには大きな欺瞞があります。生活困窮者への一律給付金の原資となるはずだった巨額の予算が、国際社会への“有事の連帯”という名目の下、極秘裏にアメリカ製の型落ち武器の大量購入、および多額の戦争資金提供へと流用されていることが発覚しました』テレビを見ていた若いサラリーマンが、テーブルをドンと叩く。「ふざけるなよ! 俺たちの税金を戦争の片棒担ぎにバラまいて、なんで国内の俺たちが餓死しそうになってるんだ!?」「静かにしろよ、誰に聞かれてるかわからないだろ……」同僚が怯えたように周囲を見回す。かつてのような自由な空気は、この街から確実に失われつつあった。さらに政府の暴走は止まらない。国際社会への『人道支援のアピール』と、労働力不足を低賃金で補いたいという経済界の利権のために、政権は信じがたい暴挙に出た。国会審議を完全に無視し、身内だけで物事をめる「閣議決定」という超法規的措置を連発したのだ。その結果、中東やアジア圏からの「移民・難民」を、実質的なフリーパスで大量に受け入れる入管法の骨抜きが断行された。8月を迎える頃、急激な歪みを受け入れた日本の街並みは、急速にその秩序を失っていった。九州の下町であるこの福岡でも、見慣れない外国人の集団が我が物顔で路地裏を徘徊し、大声で話し込む姿が日常茶飯事となった。言葉が通じない恐怖と、足元から何かが音を立てて崩壊していくような異常な穏さが、街全体を覆いつくしていた。そんな中、恐るべき事件が全国で相次いだ。九州、京都、そして東京の由緒ある寺社仏閣が、謎の連続放火事件によって次々と炎上したのだ。『また由緒ある神社が燃えたってニュースだ。原因不明の不審火って言ってるけど、絶対にアイツらの仕業だろ?』ネット上には、不審な外国人が現場から逃走する防犯カメラの映像が草の根の配信者によって拡散されていた。しかし、主要なテレビ局や新聞社は、その真実を一切報じようとはしなかった。「なぁユウキ、これを見てみろよ」ナベさんがスマホの画面をユウキに差し出してきた。そこには、警察の内部告発とされる書き込みがあった。【上層部からの圧力。加害者が特定の国籍の場合、ポリコレへの配慮と差別助長防止を大義名分として、国籍や実名を隠蔽せよとの報道管制命令が出ている】「これ、本当ですか……?」「ああ。街じゃ毎日のように刃傷事件が起きてるってのに、ニュースじゃ『原因不明の不審火』だの『通行人同士のトラブル』だのとしか言わない。総理直属の広報官が記者クラブを脅してるって噂だ。都合の悪い真実はすべて歴史の闇へ葬るもりなんだよ」ナベさんの声は怒りで震えていた。街には言葉の通じない恐怖と、見えない情報統制の壁が張り巡らされていた。9月、ついに限界を迎えた国民の怒りが爆発した。東京・永田町。国会議事堂を取り囲むようにして、十万人規模の大規模な抗議デモが発生したのだ。「自由党は退陣しろ!」「国民の生活を守れ!売国政策を今すぐ撤回しろ!」民衆の怒号は地鳴りのように響き渡り、その様子はネットの生配 信を通じて瞬く間に全国へと拡散された。地方都市の駅前や役所の前でも、連日のようにシュプ レヒコールが響き渡る。国民の怒りは、まさに沸点に達していた。しかし、その夜のテレビニュースが報じた内容は、あまりにも冷酷なものだった。『本日、永田町周辺で数百人の暴徒による騒乱が発生しました。警視庁は治安を乱す過激派集団とみて、警戒を強めています……』画面に映し出されたのは、10万人のデモではなく、一部の小競り合いの映像だけだった。オールドメディアは、電波法を盾にした政府の脅しに完全に屈し、デモの規模を極端に矮小化し報道していたのだ。「数百人の暴徒だって? ふざけるな!」ユウキはリモコンを握りしめ、悔さに奥歯を噛み締めた。ネットの個人配信では、画面を埋め尽くすほどの真っ黒い人だかりと、必死に国を救おうと叫ぶ人々の姿がはっきりと映っている。その中心には、かつてテレビから一瞬で消し去られた男、野党党首カミヤの姿もあった。『目を覚ますんだ!我々の怒りすらも、彼らは利用しようとしている!』画面の中のカミヤは、声を枯らして叫んでいた。だが、そのカミヤの警告も、沸騰する民衆の怒りにかき消されていく。これほどの大規模な暴動、そして国民と移民との凄惨な分断。それこそが、現政権が【内閣緊急事態宣言】 という、誰にも脅かされない絶対的な独裁権力を手にするために用意した、冷徹な「政治的シナリオ」の第一段階であることに、まだ

誰も気づいていなかったのである。


【第2章:魂の反逆者たち】


第3話:剥き出しの悪意、仕組まれた惨劇


その夜、居酒屋『さるく』のドアを文字通り叩き割ったのは、剥き出しの悪意だった。「カネヲダセ! ハヤクシロ!」狂ったような怒声と共に押し入ってきたのは、二人の大柄な移民の男たちだった。男たちは言葉の通じない恐怖を撒き散らしながら、店内の椅子を振り回して酒棚を破壊し、レジを引に強奪しようとする。「やめて、お願い……! お金なら持っていっていいですから!」病弱なヒトミが必死の思いで止めようと前に出た、その瞬間だった。大柄な男が彼女の胸ぐらを乱暴に掴み、コンクリートの床へと叩きつけたのだ。激しい衝撃と咳き込みと共に、ヒトミの口ら鮮血が床に飛び散る。「ママッ!」奥の部屋でおびえていた六歳のミツキが悲鳴を上げた。男のぎらついた瞳がミツキを捉え、その手に握られたナイフが小さな喉元へと向けられる。「ウゴクナ。ツギハオマエノコドモダ」。「俺の娘に触るなァァァ!!」ユウキの脳内で、何かが音を立てて切れた。厨房から飛び出したユウキの手には、骨を断つための出刃包丁が握られていた。愛する妻を守るため、そして何よりも、愛娘の未来を今ここで踏みにじらせないため、ユウキは獣のような咆哮をあげて男たちに襲いかかった。飛び散る鮮血、狂乱の数分間。気がついた時には、二人の移民は床の上で物言わぬ肉塊へと変わっていた。ユウキは包丁を握りしめたまま、ただ荒い息を吐き、震える娘を抱きしめることしかできなかった。10月、福岡地方裁判所。そこは法の正義を解く場ではなく、底知れぬ「国家の闇」が支配する儀式の場と化していた。薄暗い法廷の空気が、ユウキの肌を刺す。証言台に立たされたユウキを待ち受けていたのは、冷酷極まりない出来レースの裁判だった。「被告人は、被害者らの国籍に対してかねてより強い偏見を抱いており、過剰な排外主義的思考から、執拗な殺意をもって残虐な犯行に及んだものである」検察官が、事実を完全に歪曲した調書を淡々と読み上げる。「違う! 俺は家族を守ろうとしただけだ! 妻は血を吐かされ、娘の喉元にナイフを突きつけられていたんだぞ!」ユウキが声を大にして叫ぶが、正面に座る裁判長の目は、まるで死んだ魚のように微塵も動かない。それどころか、傍聴席に陣取ったオールドメディアの記者たちは、ユウキの必死の訴えを「凶暴な排外主義者の妄言」とでも仕立て上げるかのように、冷笑を浮かべながらノートペンを走らせている。「静粛に」裁判長はロボットのような声でユウキの言葉を遮ると、あらかじめ決まっていた判決文を読み上げ始めた。「……被告人の行為は正当防衛の域を遥かに逸脱しており、多文化共生社会の基盤を揺るがす重大なヘイトクライムである。よって、被告人を懲役十年に処す」 正当防衛など、最初から認めるなどなかったのだ。現政権にとってこの事件は、「移民を迫害する凶暴な日本人」を演出し、国民に「反省」を促すため格好のプロパガンダ、政治の人身御供に過ぎなかった。「パパ! パパーーッ!」法廷の隅で、ヒトミに抱きしめられたミツキが泣き叫ぶ。ユウキは刑務官たちに左右から強引に腕を掴まれ、引きずられるようにして法廷を後にした。防音ガラスの向こうで泣き崩る妻と娘の姿が、遠ざかっていく。胸を引き裂かれるような絶望と、国家への激しい怒りが、ユウキの心に黒い炎となって宿った。 その後、ユウキは北九州の厳重警備な刑務所へと収監された。「おい、前を向け。お前は今日から『245番』だ。ここでは名前などないと思え」冷たい看守の声と共に、分厚い鉄扉が凄まじい金属音を立てて閉ざされる。窓のないコンクリートの独房。差し込む僅かな光の中で、ユウキは自分の手のひらを見つめた。家族を抱きしめはずだった手は、今や冷たい鉄格子を掴むことしかできない。「ヒトミ、ミツキ……すまない……」自分の無力さに涙を流しながらも、ユウキは狂った国家に奪われたすべてをいつか必ず取り戻すと、暗闇の中で深く誓うのだった。一方、福岡の下町では、事件の舞台となった居酒屋『さるく』が、その役目を終えようとしていた。看板は外され、 店内からは荷物が運び出されている。「ヒトミちゃん、本当に、本当に行ってしまうんね……」変わり果てた店の前で、常連客のナベさんが赤くなった目でヒトミを見つめていた。彼の後ろには、仕事帰りにいつも店を賑わせていたサラリーマンや、地元の馴染み客たちが沈痛な面持ちで集まっている。ヒトミは、まだ体調が万全ではない白い顔に無理やり穏やかな微笑みを浮かべ、小さなミツキの手を強く握りしめながら一礼した。「はい。この土地も、お店も、主人の裁判費用や賠償金のために手放すことになりました。これからは、私の実家がある八女の田舎で、この子と静かに暮らそうと思います……」 「すまん……すまん、ヒトミちゃん……!」ナベさんが突如、ボロポロと涙を流して拳を握りしめた。「あの夜、俺が店に飲みに来ていれば、ユウキ一人にそんな大罪を背負わせずに済んだかもしれんと、毎日そればかり考えてしまう。国も警察も、なんであんなクソみたいな判決を下すんだ! ユウキは何も悪くない! 家族を守っただけじゃないか!」「ナベさん、そんな風に自分を責めないでください」ヒトミは静かに首を振った。「主人が命がけで守ってくれたこの命です。私は何があっても、ミツキを立派に育て上げます。だから……」隣にいた若い常連客が、こらえきれずに一歩前に出た。「ヒトミさん、これ……俺たち常連みんなで集めた、本当に少しばかりのお金です。これからの生活の足しにしてください。八女に行っても、困ったことがあったら絶対に俺たちを呼んでください! いつでも飛んでいきますから!」差し出された封筒を、ヒトミは胸に抱きしめるようにして受け取った。「ありがとうございます……。皆様の温かいお気持ち、一生忘れません」「パパのから揚げ、またみんなで食べたいね……」ミツキがヒトミのスカートの裾を引っ張りながら、ぽつりと呟いた。その無邪気な言葉に、常連客たちは一斉に顔を覆って涙を流した。かつて幸せな笑い声と炭火の温もりに満ちていた『さるく』の跡地。静かに灯りが消えた赤提灯を背に、ヒトミはミツキの手を引いて、一歩一歩踏みしめるように歩き出した。見送る常連たちの「頑張れよ!」「負けるなよ!」という声を背中で受け止めながら、二人は息を潜めるように、八女の田舎へと疎開していったのである。


第4話:裏コードと、消え去った人々の怒り


2027年1月、仕組まれた劇の幕が上がる。その日、日本中の家庭や街頭のテレビに映し出されていたのは、いつも通りの退屈な国会からの生中継だった。国民が何気なく画面を眺めていた、まさにその瞬間、画面の向こうの平穏は一瞬で引き裂かれた。『おい! 何だあいつらはッ!?』『うわあああ! 伏せろ、伏せろーーッ!』スピーカーから突然、割れんばかりの怒号と悲鳴が炸裂する。画面の中、議場の重厚な扉を打ち破って乱入してきたのは、過激化したテロリストの集団だった。彼らは手にした手榴弾を議席のど真ん中へと投げ込む。ドガァァン!! という凄まじい爆音と爆炎が吹き荒れ、カメラが激しく揺れる。生中継のレンズは、逃げ惑う議員たちと、硝煙の中で自動小銃を乱射するテロリストたちの姿を克明に捉え続けた。テレビを見ていた一般国民は、あまりの緊迫感と恐怖に総毛立ち、生中継の画面に釘付けになるしかなかった。しかし、惨劇の結末はあまりにも早かった。あらかじめ議場の裏に待機していたかのように、政府の特殊部隊が一斉に突入してきたのだ。彼らは一瞬のうちに、二十人ほどのテロリスト「全員をその場で射殺」した。パン、パン、という乾いた銃声の後、議場には静寂と死体だけが残された。死人に口なし。彼らが誰に雇われ、何のために動いていたのか、真実は完全に闇に葬られた。そして翌日、現政権によるおぞましい情報操作が始まる。政府は即座に、この凄惨なテロの首謀者を「国家転覆を狙った日本保守政党の党首・カミヤ」であると断定した。全くの無実、あまりにも理不尽な濡れ衣だった。カミヤが政府の手によって極秘裏に逮捕され、連行されるその間際。監視の目を盗み、辛うじて接触した政党仲間のキタムラが、悔しさと怒りに震える手でカミヤの腕を掴んだ。「カミヤ先生! 罠です、完全に自由党にハメられた! 今ならまだ逃げられます!」しかし、カミヤは静かに首を振り、キタムラの目を見据えて力強く言った。「動くな、キタムラ。ここで二人とも消されるわけにはいかない。俺の身はどうなっても構わん。……だが、大和魂の火だけは、絶対に絶やすな。あとを託したぞ」それが、カミヤが北九州の刑務所へと引きずられていく前の、最期の言葉だった。この「仕組まれたテロ」を完璧な大義名分として、あの女性総理が全テレビ局をジャックして壇上に立った。画面の中の彼女は、悲劇のヒロインを演じるように、しかし冷徹な目で語りかける。『国民の皆さん。暴徒から我が国と民主主義を守るため、これより「内閣緊急事態宣言」を発令します』テレビ画面の向こうで、総理が「裏コード」の手続きを完了させる。もちろん、ワクチンの真相――国民全員に強制接種された液体の正体が、国民の思考と感情をコントロールするためのマイクロチップであることは、一切明かされない。だが、発令のボタンが押された次の瞬間、人工衛星から特殊な高周波電波が日本全土に向けて照射された。全国一斉に、凄まじい「異変」が国民を襲う。「う、あ……頭が、割れる……!」街ゆく人々が、一斉に頭を抱えてその場に蹲った。脳の奥深くに潜んでいたナノマシンが電波を受信し、頭蓋骨の裏側を直接針で抉られるような激しい痛みが走る。それは単なる肉体的な苦痛ではなかった。脳の神経ネットワークが強制的に書き換えられていく、悍ましい感覚。これまで抱いていた政府への怒り、売国政策への悔しさ、国を憂う熱い情熱といったすべての「自我」が、冷たい水で洗い流されるように急速に消去されていく。脳が内側からハッキングされ、思考する力を奪われ、ただ「政府に従う」という絶対的な命令が脳内を支配していく恐怖。抗うことすら許されないまま、心の中を冷酷な支配者に乗っ取られていく絶望感が、日本全土を包み込む。照射からわずか数秒。次の瞬間、全国で沸騰していた十万人規模の激しい抗議デモが、不自然なほど一斉にピタリと止まった。さっきまで怒号を張り上げていた人々の手が力なく下り、プラカードが地面に落ちる。彼らの瞳からは完全に感情の光が消え失せ、まるでおとなしい人形のような穏やかな虚無へと変わっていた。「……そうだ。政府の言う通りにしよう。私たちが間違っていたんだ」人々は、自らの感情が書き換えられたことすら気づかないまま、従順な羊へと変えられていく。恐怖による支配政治の幕開け、マリオネットの街が完成した瞬間だった。


第5話:狂気のディストピア、ポイントに支配された羊たち


3月、矢継ぎ早に施行された新法により、日本の形は音を立てて完全に破壊された。皇室典範第1条が定める「男系男子による継承」という二千年以上の伝統を無視し、閣議決定と強行採決によって「女性・女系天皇の容認」を断行。さらに憲法第九条の廃止、移民・難民を「日本共民」と改名した手厚い支援など、国家の骨組みが次々と塗り替えられていった。そして、この狂気の支配体制を確実なものにするため、十八歳以上の国民全員に「それ」が強制配給された。国から装着を義務付けられた瞳のデバイス、「NCLナンバーズコンタクトレンズ」である。見た目は普通のコンタクトレンズ。しかしそれを装着すると、本人の視界にだけ、相手の「ポイント」と「国民ランキング」が強制的に電子データとして浮かび上がる。男性は納税、女性は出産でポイントが跳ね上がる。「おい、これ着けてない奴は、非ワクチン対象者として。財産差押えらしいぞ。拒否権無いじゃないか!」役所や職場、学校に特設された配給所で、職員たちが、薄気味悪い半透明のレンズが入ったケースを淡々と手渡していく。列に並ぶ国民たちの間には、得体の知れない不安と恐怖が渦巻いていた。「なぁ、本当にこれを一日中目に入れなきゃいけないのか……?」「さぁな……。噂じゃ、考えていることまで全部政府に筒抜けになるらしいぞ」「め、滅多なことを言うな! 誰に聞かれてるか分からないだろ!」人々は怯えたように周囲を見回し、震える手で冷たいプラスチックケースを握りしめる。拒否すれば破滅。逃げ場はどこにもなかった。自宅や洗面所で、国民が一斉にそのレンズを瞳へと滑り込ませる。その瞬間、悲鳴に似たうめき声が全国で上がった。「うわっ……なんだ、これ……!?」レンズが角膜に触れた瞬間、生き物のようにピタリと吸い付き、二度と外れないような異物感が瞳を襲う。同時に、脳の奥深くへと冷たい電気信号が直接流れ込んでくるような、おぞましい感覚が突き抜けた。視界が一瞬だけ激しくバグを起こすように明滅し、次の瞬間、視界の右上に自分のポイントとランキングが移し出された。数字だけに支配される地獄が始まりを告げた。鏡を見ると、自分の瞳の奥に、怪しく明滅する電子の光が埋め込まれている。そして一歩外へ出れば、行き交うすべての人の頭上に、その人間の価値を示す「ポイント」と「国民ランキング」が、冷酷な電子データとして強制的に浮かび上がっていた。他人のプライバシーも尊厳も、すべてが剥き出しにされる困惑と恐怖。この日から、日本は本当の監獄となった。街には、ポイントで他人を値踏みし、見下し合う「人権マウント」の狂気が満ち溢れた。かつて賑わっていた下町の酒場も、今やその巣窟と化していた。「おい、ポイント400の分際でカウンターの真ん中に座ってんじゃねえよ。ランキングが下がるだろ。端に退けよ」上位のポイントを持つ男が、隣の若いサラリーマンを冷酷に睨みつける。「あ、申し訳ありません……! すぐに移ります、すみません……!」サラリーマンは怯えたように頭を何度も下げ、ジョッキを抱えて隅の席へと負け犬のように移動した。国民同士の絆は完全に引き裂かれ、残ったのは醜い貶め合いだけだった。そこへ、派手な服を着た大柄な「日本共民」の男たちが、大声で笑いながら店に入ってきた。その瞬間、店内の空気が凍りつく。共民たちの頭上には、政府から無条件で与えられた、国民を遥かに凌駕する「おもてなしポイント」が不気味に輝いていた。「アレ、席が空いてないカナ?そこを退け」共民の男がカウンターの客を小突く。「は、はい! 喜んで! どうぞ、どうぞこちらへ!」先ほどまで威張っていた高ポイントの日本人が、一瞬にして卑屈な笑顔を貼り付け、椅子を引いて席を譲った。「お客様!本日も最高の『おもてなしの心』でお迎えいたします!奥の座敷が空いてますのでそちらへどうぞ」店主も客も、自分のポイントを削られないために、プライドをドブに捨ててペコペコと媚びを売る。しかし、共民たちが奥の座敷へ消え、その視線が外れた瞬間、席を譲った男はトイレの洗面台に駆け込み、鏡に向かって拳を血が出るほど打ち付けた。「クソッ……クソォッ!! なんで俺たちが、あんな奴らに……!」偽りの笑顔の裏で、国民は声を殺し、血の涙を流して嘆いていた。だが、その本音すらNCLの思考盗聴に引っかかればポイントは剥奪される。誰もが心を殺し、仮面を被るしかなかった。その後も追加で設立された新法の中に日本共民との二世帯住宅の義務化とポイント0になった国民の二年間の徴兵制度があった。ポイント社会の地獄を家庭内にまで持ち込んだ政府の日本共民への支援は異常だった。バックアップで立場が上になった共民たちが、日本人の家を実質的に乗っ取り、残酷な「主従関係」が完成していた。「オイ! 豚を冷蔵庫にいれるナ! 部屋の掃除もなってイナイ。やる気アリマスカ?政府に通報スルゾ!?」広々とした本階を占拠した共民が、床をドンドンと踏み鳴らして怒鳴り散らす。「申し訳ありません!」薄暗い倉庫部屋に追いやられた元の家主である日本人の父親が、召使のように這いつくばって首を下げる。逆らえば一発で破滅する。我が家の中に、言葉の通じない絶対的な「主人」が君臨している恐怖に、家族は毎日震えていた。さらに、最も残酷な絶望は、夕暮れの街頭で繰り広げられる「徴兵」の光景だった。既存の自衛隊とは完全に切り離され、新設された「新日本軍」。その実態は、戦場の最前線へ送り込まれる、使い捨ての『捨て駒洗脳兵』の集団だった。「嫌だ! 行きたくない! 離せ! 助けてくれ!!」駅前の路上で、まだ十八歳になったばかりの少年が、治安部隊の男たちに両腕を掴まれ、引きずられていた。彼の頭上のポイントは、無慈悲な『0』を示している。「身元確認、これより実行する。静かにしろ。お前のようなゴミは、お国のために命を捧げるしか道はないんだよ」部隊の男が、少年の腹を容赦なく警棒で殴りつける。うめき声を上げて崩れ落ちる少年を、黒塗りのトラックの荷台へと乱暴に放り込む。「息子を……私の息子を返してください!!」母親が狂ったようにトラックにすがりつき、ボロ切れのようになった息子の手を握ろうとする。しかし、銃を構えた兵士がその胸元を乱暴に突き放した。「下がれ! 徴兵の妨害は国家反逆罪だお前もポイントを剥奪されたいのか!」ガシャーン、と非情な音を立ててトラックの鉄子が閉まる。「お母さん! お母さんーーーッ!!」鉄格子の向こうから叫ぶ息子の顔が、夕闇の中に消えていく。周囲にいた何百人もの「羊」である国民たちは、その残酷な光景を目の当たりにしながらも、NCIのレンズの奥で「おもてなしの基準行動」として、ただ静かに、感情の消えた目で、お辞儀をし

てトラックを見送することしかできなかった。


第6話:不自然なブームと、監獄の中で磨かれる牙


2028年、ポイント目当ての「出産ブーム」により、出生率は不自然に三倍へと跳ね上がった。共民との間に生まれた子供も「国民」を名乗れるようになり、純血の日本人は急速にその数を減らしていく。そして、憲法第九条の足枷を外された「新日本軍」は、泥沼化するイラン戦争へと強制参戦させられた。日本中のテレビや街頭ビジョンでは、連日、映画のように華々しい日本軍の「大活躍」がニュースとして報じられていた。砂漠を突き進む戦車、最新鋭の兵器、そして笑顔で敬礼する兵士たち。キャスターは興奮気味に『我が日本軍、東の地で圧倒的勝利! 国際社会へ多大なる貢献!』と叫び続ける。これに合わせ、政府はポイント社会を加速させる悪魔の新制度を設立した。『新日本軍への志願者の家族には、特例として【300万ポイント】を即座に給付する』この発表に、ポイントの飢餓に喘いでいた国民たちは色めき立った。「300万ポイントあれば一気に上位ランキングだ!」「おい、お前国のために志願しろ。家族のためだろ!」と、ポイント欲しさに自ら我が子や夫を戦地へと送り出す狂気の志願者が激増した。しかし、テレビがどれだけ華やかな勝利を演出しても、冷酷な現実を隠し通すことはできなかった。戦地へと赴いた若者たちが、日本へ帰ってくることは二度となかったのだ。異国の砂漠で多大な犠牲者を出し、肉塊となって打ち捨てられる若者たち。だが、メディアはその凄惨な戦死者を「最初から存在しなかったもの」として一切報じず、ただ嘘の栄光だけを流し続けた。そんな狂った世界から遠く離れた、福岡・八女の山奥の古い一軒家。居酒屋『さるく』を奪われたヒトミとミツキは、この田舎の片隅へ移り住んでいた。しかし、そこは決して安住の地ではなかった。「おい、見ろよ。あの家だろ、興味を二人も惨殺した凶悪犯の家族は」「NCLの視界にも『非ワクチン』って赤く不気味な警告が出てるわ。関わるんじゃないよ、ポイントが下がる」村の直売所や細い田んぼ道を通るたび、村人たちは忌々しそうに二人を睨みつけ、あからさまに避けていく。かつての日本的な温かさは消え失せ、二人は「凶悪犯の身内」「社会の異分子」として完全に村八分にされていた。だが、母娘は周囲の冷たい視線に屈しなかった。裏山を切り拓いて畑を作り、大自然の中で完全な「自給自足」の生活を逞しく営んでいた。都会のポイント狂騒曲から離れ、自給自足の清らかな食事と八女の豊かな自然に囲まれたことで、ヒトミの弱かった心臓の病気は、奇跡的に驚くほど安定していた。彼女が強制ワクチンを一度も打たず、脳をハッキングされていない健康な肉体を保っていたことも幸いした。くわを振るい、立派に育った無農薬の野菜を収穫しながら、8歳になったミツキが泥だらけの手で小さなカボチャを抱え上げた。「ママ、見て! おっきいカボチャが採れたよ! 今夜はこれで美味しい煮物にしようね!」小さな身体で健気に笑う娘の姿に、ヒトミの胸がキュッと締め付けられる。「あら、本当に大きいね。ミツキが毎日お水をあげてくれたおかげね。ありがとう」「へへっ、これならパパが見てもびっくりするよね! パパ、カボチャの煮物大好きだもん!」ミツキは声を弾ませて笑った。しかし、その直後、小さな瞳にふっと寂し気な影がよぎる。ミツキはカボチャを胸にきつく抱きしめ、地面を見つめながらぽつりと言った。「……パパ、今頃なにしてるかなぁ。ちゃんとご飯、食べてるかな……」無理に作った笑顔の奥にある、父親に会えない寂しさと、村の人たちにいじめられる辛さ。8歳の子供には重すぎる孤独が、その小さな背中に滲んでいた。ヒトミはしゃがみ込み、泥のついたミツキの小さな手をそっと包み込んだ。彼女自身の目にも涙が浮かびそうになるのを、必死で微笑みに変えて耐える。「大丈夫よ、ミツキ。パパはとっても強い人だから、どこにいても私たちのことを想ってくれているわ。私たちはここで、美味しいご飯をたくさん食べて、パパが帰ってきた時に『おかえり』って笑顔で迎えられるように準備しておこうね」「……うん。そうだね! パパが帰ってきたら、世界一美味しいから揚げをいっぱい作ってもらうんだ!」ミツキは健気に涙を拭い、再び楽しそうな笑顔を作ってみせた。偽りのレンズで支配されず自分の心で愛する人を想い、お互いを気遣い合う二人。心の奥にある辛さを抱えながらも、二人はこの八女の地で、静かに、しかし頼もしく父親の帰りを待ち続けていた。その頃、北九州の厳重警備刑務所。窓のないコンクリートの独房の床で、ユウキは己の限界に挑んでいた。「……九十八、九十九、……百っ!」汗を激しく滴らせながら、指先だけで全身を支える腕立て伏せを終え、ユウキは荒い息を吐いて立ち上がった。彼の相部屋となったのは、サクライと名乗る無口な謎の男だった。サクライは一切の言葉を発しない。ただ、暇さえあれば独房の壁に向かって逆立ちをし、岩のような筋肉を恐ろしい精度で動かし続けている。その剥き出しの背中から放たれる殺気は尋常ではなかった。ユウキはゆっくりと歩み寄り、鋭い眼光でサクライの背中を真っ直ぐに見つめた。息を整え、心の底にある熱い鉄のような執念を声に乗せる。「サクライさん。あなたがなんでここに来たのかは聞かない。だが、俺にはどうしても生きてここを出て、奪われた家族を取り戻し、この国をハメた悪魔どもを地獄へ引きずり落とす理由があるんだ。……頼む、あんたの格闘術を、俺に叩き込んでくれ!」静まり返った独房に、ユウキの決意が響く。サクライはゆっくりと倒立を解き、音もなく床に着地した。やはり言葉は一切発しない。しかし、振り返ったその漆黒の瞳の奥には、ユウキの言葉によって激しく燃え上がった、た国家への「本物の反逆の炎」が宿っていた。サクライは無言のまま、ユウキに向けて冷酷かつ隙のない格闘の構えを取った。言葉よりも確かな、「かかってこい」という漢の熱合図だった。冷たい監獄の暗闇の中。外の世界で若者たちが使い捨てられていく間、ユウキは無口な最高の手本と共に、国家の心臓を撃ち抜くための牙を、狂おしいほどの執念で

研ぎ澄まし始めていた。


第7話:大地の咆哮、引き裂かれる監


2030年10月。その日は、あまりにも唐突に訪れた。ゴォォォォン……と地底の底から響くような、不気味な地鳴りが数秒間続いた直後、九州全域を未曾有の超巨大地震が襲った。上下左右に激しく叩きつけられるような凄まじい激震が、大地を容赦なく引き裂いていく。「アアアアアッ!」「逃げろ! 崩れるぞ!!」人口が過密する福岡の中心街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。築数十年の高層ビルがガラスの雨を降らせながらへし折れ、アスファルトには車が丸ごと飲み込まれるほどの巨大な亀裂が走る。地中から大量の泥水ガスが噴き出し、ひっくり返った何十台もの車から激しい炎と黒煙が立ち上って連続して爆していく。激しい揺れで立っていることすらできず、四つん這いで叫ぶ群衆の上に、容赦く巨大なコンクリートの塊や看板が降り注いだ。九州の心臓部だった福岡の街は、むき出の自然の暴力によって、文字通り一瞬で瓦礫の山へと壊滅していったのだ。その頃、激しい揺れは福岡の南端、八女の静かな山村をも激しく揺さぶっていた。古い平屋の宿舎の中で、ヒトミは十一歳のミツキの小さな身体を必死に抱きしめ、机の下に身を潜めていた。ガタガタと激しい家鳴りが響き、棚からすべての食器が床に叩きつけられて粉々に割れる音が室内に木霊する。ようやく揺れが収まった瞬間、ヒトミはすぐさまラジオのスイッチを入れた。震えるアナウンサーの声が、緊迫した様子で流れてくる。『緊急放送です! 福岡市を中心に最大震度7の地震が発生! 市街地は多数のビル倒壊、火災により完全に壊滅状態です! ライフラインは全滅、通信も完全に途絶しています――』「そんな……福岡が……」ヒトミは血の気が引くのを感じ、ラジオを握りしめた。脳裏をよぎるのは、かつて家族三人で笑い合っていた福岡の街並み、そして、自分たちを逃がすために身代わりとなって捕まった最愛の夫・ユウキの姿だった。「ユウキ……あなた、無事なの……!?」不安に押しつぶされそうになり、思わず涙をこぼしたヒトミの震える手を、小さな手が力強く包み込んだ。ミツキだった。ミツキは涙を浮かべながらも、その瞳には母親を支えようとする強い大和魂の光が宿っていた。「ママ、泣かないで! 大丈夫、パパは絶対に生きてるよ!」「ミツキ……」「だって、パパは世界一強いんだもん! 街がどんなにめちゃくちゃになっても、パパが私たちを置いて死んじゃうわけないよ! だからママ、パパを信じて! 私たちが泣いてたら、パパが心配しちゃうよ!」娘の健気で力強い言葉に、ヒトミはハッと我に返り、涙を拭ってミツキを強く抱きしめた。「……そうね。パパは絶対に生きている…。うん…信じよう」しかし同じ時、北九州にある厳重監獄の地下深くでは、さらに過酷な状況が幕を開けていた。ドゴォォォン!! という爆発的な衝撃と共に、分厚いコンクリートの天井が崩落し、鉄格子がグニャリと歪んだ。停電により真っ暗闇となった監獄に、非常用の赤色灯が不気味に明滅し、破裂した配管から大量の水が激しく降り注ぐ。「おい! 脱出するぞ! 鍵を開けろ!!」「扉が開かねえ! 崩落に巻き込まれるぞ、置いて逃げろ!」看守たちは激しい災害パニックに陥り、囚人たちを置き去りにして悲鳴を上げながら我先にと逃げ惑っていた。立ち込める塵煙と濁水の中、ユウキは歪んだ鉄格子の隙間から外の様子を鋭く見見据えていた。ユウキの隣には、以前から同じ房にいた、普段は一切口を利かない寡黙な男・サクライが微動だにせず立っていた。ユウキは激しい揺れの恐怖を気力でねじ伏せ、妻と娘の姿を想って拳を強く握りしめた。「福岡があの揺れだ……みんなだって無事かどうか分からない。俺は、こんなところで指をくわえて死ぬわけにはいかない……!」ユウキの言葉を聞いたサクライは、静かに瞳の奥の光を鋭く尖らせると、必要最低限の言葉だけを口にした。「……どけ」サクライは言うや否や、行く手を完全に塞いでいた数百キロはあるであろう崩落した巨大なコンクリートの瓦礫の前に立ち超人的な肉体と無駄のない身体操作で、それを力任せに押し退け始めた。「クソッ、俺も手伝う!」ユウキもすぐさまサクライの横へ飛び込み、共に泥と血にまみれながら、必死の形相で瓦礫を力強く退けていく。二人の凄まじい執念の力が合わさり、ゴゴゴと音を立てて脱出路がこじ開けられた。歪んだ鉄格子の隙間を強引にこじ開け、サクライは短い顎で先を促した。「……ついて来い」「ああ!」ユウキは力強く頷いた。崩壊していく監獄の奥深くから、二人の漢は闇の向こうの自由を目指し、余震が続く地下の通路を激しい足音を響かせて駆け出した。大地震がもたらした未曾有の崩壊は、最愛の家族の元へとユウキを引き戻す、決死の脱獄劇の幕開けとなったのである。


第8話:天変地異の地獄絵図、地下皇団『ソシジ』の胎動


福岡を襲った、震度八の未曾有の大地震。北九州のビル群が崩壊し、阿鼻叫喚の地獄絵図の中、北九州にある厳重な刑務所の壁が、凄まじい音を立てて崩落した。震災の混乱に紛れ、瓦礫を押し退け、一人の男が立ち上がる。ユウキは生き延びた。しかし、政府の管理システムは、彼を「震災による生死不明」として処理したのだった。刑務所の崩壊から一時間後。地下から自力で瓦礫を這い出したユウキはサクライを探すが見つける事はできなかった。激しい粉塵の中で、信じられない声を耳にした。「カミヤ先生! カミヤ先生、ご無事ですか!」声の主は、かつての政党仲間であるキタムラ、ヒャクタ、タモガミの三人だった。彼らは崩壊した刑務所へ決死の覚悟で突入し、瓦礫の奥からカミヤを救い出したのだ。「俺は無事だ、サクライが助けてくれた。キタムラ、ヒャクタ、タモガミ恩にきる。すぐにここを出る!脱出準備を頼む。」「ん?誰だ……? ああ、あんたは……あの時の居酒屋の事件の」カミヤは、偶然その場に居合わせたユウキの顔を見て、すべてを察したように低く笑った。「あんたも国にハメられた被害者だな。来い、一緒に行くぞ」ユウキは彼らと共に行動することを選んだ。激しい粉塵と余震が続く福岡の街を、追手を警戒しながら隠れ家へと移動する車内。張り詰めた沈黙を破り、ユウキがバックミラー越しにカミヤを鋭く睨みつけた。「カミヤ先生。なぜあんな無茶なテロを起こしたんですか。ニュースじゃ、あなたが国家転覆を狙った最凶のテロリストだって、毎日刑務所内でもお触れが回ってましたよ」監獄で磨き上げられたユウキの殺気を受け止めながらも、カミヤは不敵に、そして低く笑った。「テロリスト、か。ふっ、まだオールドメディアの戯言を信じているのか」カミヤは窓の外の崩壊した街並みに目を向け、冷徹な声で言った。「あの国会議事堂のテロは、私が起こしたものではない。現政権――自由党の自作自演だ」「自作自演……!? 政府が自ら、国の心臓部を爆破したんですか?」ユウキの拳が、みしりと音を立てて握り締められる。「そうだ。死人に口なし、さ。議場に乱入した二十人ほどの暴徒どもは、待機していた特殊部隊によって一瞬で『全員射殺』された。あらかじめ用意されていた使い捨ての駒だよ。奴らの目的は、自由党にとって最大の障害だった私を社会的に抹殺し、そして……あの悪魔の法、あの『内閣緊急事態宣言』を国民に強制発動させるための、完璧な大義名分を作り出すことだったのだ」「大義名分……。まさか、あのテレビジャックは……」「気づいたか。テロの恐怖を植え付けられた国民は、自ら進んで自由党の軍門に降った。あの強制接種されたワクチンの正体――国民の思考と感情を人工衛星からコントロールするマイクロチップの存在すら知らずにな。あの日を境に、全国で激化していた政府への抗議デモが、不自然なほどピタリと止まった理由が分かるか? 国民全員が、電波一つで従順な羊に変えられたからだ」カミヤの告げる悍ましい国家の秘密に、ユウキの脳裏に激しい衝撃が走った。店を奪われ、家族を引き裂かれた。そのすべての元凶が、仕組まれた劇に踊らされた国家の狂気だったのだ。ユウキの全身から、抑えきれない怒りの波動が立ち上る。「ふざけんな……! じゃあ、俺たちが檻の中にぶち込まれている間に、外の人間は全員、脳みそをハッキングされた操り人形にされてしまってるって言うのか……!」「そうだ。戸籍を奪われ、大切なものを踏みにじられたのはあんただけじゃない。この国そのものが、奴らに乗っ取られたのだ」カミヤはバックミラー越しに、ユウキの鬼と化した眼光を真っ向から見据えた。「ユウキ。あんたが監獄の中でサクライに牙を磨かれ、地獄から這い上がってきたのは偶然じゃない。その怒りと肉体、何のために使う?」ユウキは深く息を吐き、獣のような低い声で答えた。「決まってる。俺からすべてを奪った自由党の悪魔どもを、この手で一人残らず地獄へ引きずり落とすためだ」「いい眼だ。ならば我々と共に来い。この国の狂ったシステムを、根底からぶち壊すぞ! ユウキ、まずこの注射を打て洗脳を回避できる。我が同志が命懸けで開発したアンチチップだ。」ユウキはカミヤの差し出した注射を手に取り、首元に刺した。カミヤが北九州に逮捕され、現政権の発足後、キタムラ達は監視の目を盗んで拠点を福岡へと移していた。サクライはカミヤを助ける為、北九州の刑務所に投獄、(潜入)していた。そして、朝廷の再起を目的とし、脳を支配されていない「純血の日本人」だけを集めた地下皇団『ソシジ』を秘密裏に結成していたのだ。その勢力は、いまや全国に二十万人、実動隊員は五万人規模にまで膨れ上がっていた。この時点では、政府の高性能な監視網ですら、この巨大な地下組織『ソシジ』の存在をまったく掴めていなかった。ユウキもまた、家族を奪った国への復讐を誓い、『ソシジ』の戦士として身を投じるのだった。


第9話:華やかな復興パーティの裏、血煙の脱出


震災から9ヶ月後の2031年7月。大地震によって崩壊した福岡の街のあちこちには、未だ生々しい瓦礫の山と爪痕が残されていた。しかしこの日、女性総理大臣が直々に訪れる福岡復興支援イベントが開催されていた。福岡天神の街頭の巨大ビジョンやテレビは、一人の独裁者の美しい「偽善」によって完全にジャックされていた。画面の中で、非の打ち所がない完璧な笑顔を貼り付けた女性総理大臣が、壇上からマイクを通して語りかける。『被災された国民の皆様。我が政府は、誰一人として皆様を置き去りにはいたしません。これより始まる復興プロジェトにより、この福岡は、共民の皆様と共に手を取り合う、より真に優しく平和な理想郷へと生まれ変わるのです。さぁ!私を信じ、共に歩んで働いて働いて働いてまいりましょう』テレビの向こうで繰り広げられる華やかなパフォーマンス。その光を遮るようにそびえ立つ崩壊ビルの影を、十二歳になったミツキと、体調の回復してきたヒトミが、手を強く握りしめ合って歩いていた。福岡は人口が多いため、都会の雑踏に紛れた二人の姿を気に留める者など、もう誰もいなかった。ユウキの生存を知る為、懐かしい福岡に訪れていた二人。ひび割れたアスファルト、崩れ落ちたかつての街並み。震災の深い傷跡を見つめながら、ヒトミは愛おしそうに娘の顔を見つめた。「ミツキ、本当に大きくなったね……。パパが見たら、きっと喜ぶね」都会のポイント狂騒曲から離れ、田舎で静かに暮らしてたおかげで、ヒトミはあの「強制ワクチン」を一度も打っておらず、脳をハッキングされていない数少ない純血の日本人だった。ミツキは立ち止まり、ギュッと小さな拳を握りしめた。変わり果てた街並みを見ながら、十二歳の少女の瞳には、一切の迷いも絶望もなかった。ミツキはヒトミの目を真っ直ぐに見つめ、力強い声で言い切った。「うん! 街は地震でめちゃくちゃになっちゃったけど、私は絶対に信じてる。パパはきっと生きてる! だって、パパは世界一強くて優しいもん。だから、パパがいつ帰ってきてもいいように、私は心を殺さないよ。ママもいつも言ってるもんね!」健気で、しかしあまりにも気高い娘の言葉に、ヒトミは涙を堪えて「……そうね。必ず帰ってくるよ…」と、娘を強く抱きしめた。二人は震災の悲惨な光景の中でも、パパの生存を信じていた。その夜。街の中心にある高級ホテルでは、昼間の被災地の静けさが嘘のように、総理大臣や政府幹部、そして特権階級の「共民」たちが集う、豪華絢爛な復興パーティが盛大に開催されていた。優雅なワルツの調べと欲望に塗れた笑い声が響く会場の裏口から、2つの影が音もなく潜入する。元自衛官空将タモガミ、そして彼に徹底的に鍛え上げられたユウキだった。彼らの目的は、国民の脳を支配する電波を止めるための「裏コードのパスワード」を奪取すること。武装された自衛隊の厳重な警備を掻い潜りながら、二人は標的を絞り、完全に隔離されたVIP休憩室の重厚なドアを音もなく開けた。中にいたのは、最高級のブランデーを手にしていた政府高官・ニカイだった。ドアが閉まった瞬間、ユウキが野生の獣のような踏み込みでニカイの背後に回り込み、その首元へサバイバルナイフの冷たい刃を突きつけた。タモガミが冷徹な眼光で退路を塞ぐ。「動くな。声を上げたら肉塊になるぞ、ニカイ」ユウキの低く冷たい声が響く。本物の殺気を前にした瞬間、ニカイは情けないほどの臆病者へと成り下がった。一瞬で顔面を蒼白にし、手にしたグラスを床へ落としてガタガタと激しく震え出した。「ひっ……! 助けて、助けてくれ! 命だけは……! 金か!? ポイントか!? 何でもやるから殺さないでくれぇ!」「ポイントなんか要るかボケ! 人工衛星からの洗脳電波を止める『裏コードのパスワード』はどこだ! 吐かなければ今ここで首を撥ねる!」刃が皮膚を切り裂き、一筋の血が流れる。ニカイは恐怖に完全に屈し、涙と鼻水を流しながら、懐から最高機密の電子端末を引っ張り出した。「これ! これに入っている、だから命だけはぁぁ!」泣きながら電子端末を渡すニカイ。「よし、パスワードを確保した! 撤退だ!」ユウキが端末を奪い取った、まさにその瞬間だった。ウーーーッ!! ウーーーッ!! と、部屋全体に真っ赤な警告灯が点滅し、けたたましいアラームが鳴り響いた。それと同時に、ホテルの最上階の監視ルームで警報を察知した女性総理大臣が、般若のような形相で通信機へ向けて激高した。「侵入者よ! SWAT、今すぐ出動しなさい! 何としてでも、テロリストの正体を掴むのよ! 生かして捕らえなさい!」総理の冷徹な命令と同時に、VIP室の重厚なドアが爆破され、最新兵器を装備した政府の特殊部隊SWATが容赦なく部屋へと雪崩れ込んできた。ズガガガガガガッ!!!狭い室内を銃弾の嵐が吹き荒れる。二人は逃走を図るが、一人のSWATが死角からユウキの脳門めがけて銃口を固定した。「ユウキ、どけッ!!」タモガミが叫んだ。彼は迷わずユウキの身体を突き飛ばし、自らの肉体を盾にして銃口の前に立ちはだかった。ズガガガガガンッ!!!凄まじい衝撃音とともに、タモガミの胸や腹へと無数の容赦ない弾丸が突き刺さる。「がはっ……!」タモガミの身体から鮮血が激しく噴き出す。彼は致命傷を負いながらも、最後の手動信管のピンを抜くように、眼前のSWATの銃身をその両手で力任せに掴み取った。「タモガミさんーーーッ!!」ユウキの絶叫が響く。タモガミは血塗れの顔で不敵に笑い、最期の言葉をユウキへ託した。「走れ……ユウキ……! データを、確実にカミヤ先生へ……! お前は生き延びて……家族の元へ……帰るんだ……!」それが、タモガミの最期だった。彼はSWATの銃撃をその身に浴び続け、身代わりとなってその場で立ったまま壮絶に絶命した。「うぉおおおっ!!」ユウキは悔しさに血の涙を流しながらも、タモガミが命を捨てて作った一瞬の隙を突いた。ユウキは脇腹から血を流しながらも、ただ一人狂気のパーティ会場から夜の闇へと脱出することに成功したのだった。偉大なる師、タモガミの命がけで守った、その魂のバトンを受け取り、ユウキは福岡の夜の街へと弾かれたように走り去っていった。コツ、コツ。女性総理がテロリストに近づく。「こいつはタモガミ…急ぎなさい!脳が死なない内に情報を抜き取りなさい!」


第10話:瓦礫の中の再会、妻から託された命綱


「福岡全域に最高警戒態勢を発令。NCL未装着の危険テロリストを検挙せよ」深夜の街に、冷酷な電子音声のアラームが絶え間なく鳴り響いていた。ホテル襲撃事件を受け、街の空気は一瞬にして戦時中のような狂気へと変貌を遂げる。主要道路には治安部隊の大型車両が次々と突っ込み、火花を散らしながら鉄製の巨大なバリケードが火急の勢いで設置されていった。「おい、そこを退け! 検問だ!」銃を構えた警察官たちが、行き交う国民のNCLナンバーズコンタクトレンズのデータを次々とスキャンしていく。街の至る所でブレーキ音と怒号が響き、洗脳された国民たちは「テロリストを見つければ特大の加点だ」とギラギラした目を光らせ、互いを疑い合って不気味に騒めいていた。街全体が、一人の男を捕らえるための巨大網と化していた。息を切らし、脇腹の傷を押さえながらビルの薄暗い陰に潜むユウキ。じわじわと検問の包囲網が狭まってくる。「クソッ……このままじゃ動けない……」ユウキは震える手で古いガラケーを取り出し、泥と血に塗れた指で、ヒトミの番号を叩いた。チリン、福岡のホテルで、ヒトミの携帯が鳴る。非通知。画面を見た瞬間、ヒトミの直感がパパの危機を告げた。「ユウキ……!? あなたなの!?」『……ああ、俺だ。生きている。よかった2人とも無事だったか…』受話器越しに聞こえる、何年も焦がれ続けた夫の懐かしい声。ヒトミの目から、大粒の涙があふれ出す。『だが、街が完全に封鎖された。NCLのない俺は、この警察のバリケード網を突破できるかわからない。……ヒトミ、ミツキ、すまない。またしばらく遠くへ行くことになるかもしれない』「待って、行かないで!」ヒトミは涙を拭い、強く言い放った。「今近くにいるの!ミツキを連れてそっちへ行くから。……あの場所で待っていて!」通話を切ったヒトミは、驚いて見つめる12歳のミツキの手を強く握りしめた。「ミツキ、パパが近くにいる。今から会いに行くよ。何があっても、大きな声を出しちゃダメだからね」「パパが……!? うん、私、絶対に泣かない!」二人が検問の目を盗み、死に物狂いで向かったのは、かつて家族三人の幸せな笑い声に満ちていた、居酒屋『さるく』の跡地だった。いまや震災の爪痕によってただの瓦礫の山と化したその場所で、夜闇の中、七年ぶりの奇跡の再会が果たされる。「パパ……!?」「ミツキ……! ヒトミ……!」ユウキは、十二歳になって少し大人びた娘と、愛する妻をその両腕で強く、強く抱きしめた。三人の身体が震え、声にならない涙が溢れる。しかし、再会を噛み締める時間は一瞬だった。ユウキの脇腹から流れる血を見て、ヒトミが息を呑む。「ユウキ、その傷……! 一体何があったの? あなた今まで、どこで何を……」ユウキはヒトミの肩に手を置き、覚悟を決めた目で真っ直ぐに見つめ返した。「ヒトミ、驚かずに聞いてくれ。俺はあの震災のドサクサで刑務所を脱獄したんだ。そして今まで……国を裏から操る悪魔どもを倒すために、カミヤ先生が率いる地下組織『ソシジ』として行動していた」「ソシジ……?政府が毎日、テレビで凶悪な謎のテロ組織だって言っている、あの……?」ヒトミが目を見開く。ユウキは深く頷いた。「ああ。だが、テレビの言うことは全部嘘だ。本当の悪は自由党政府の奴らなんだ。俺たちは、奴らが国民の脳を支配している電波を止めるために戦ってる。さっきも、政府の裏コードのパスワードを奪い取ったんだ。……やけど、俺を庇って、仲間がSWATに射殺された……。俺を逃がすために、命をかけてくれたんだ!」ユウキの血を吐くような告白に、ヒトミは一瞬言葉を失った。夫が、国家という巨大な怪物と命がけで戦っている。その事実を、彼女は大和魂の宿る聡明な心で、すべて受け止めた。「そう……。ユウキ、あなたは間違ってないわ。悪いのは、私たちの心を奪ったこの国よ」ヒトミは迷うことなく、自分の胸元から命綱である『非ワクチンカード』を取り出し、ユウキの胸元に押し付けた。「これを持っていって。これがあれば、警察のバリケードの検問も、きっとパスできるはずよ」『バカ言うな! そんなことをすれば、お前たちがどうなるか……! 俺は受け取れない!』ユウキは激しく首を振る。ハッキングされていないヒトミにとって、これがどれほど危険な行為か分かっていたからだ。しかし、ヒトミはユウキの手を強く包み込み、無理やりカードを握らせた。「いいの。私たちは田舎でひっそり暮らせばいい。でも、あなたには、ソシジの仲間たちとやらなきゃいけないことがあるんでしょ? ……生きて、ユウキ。生きて、この子の未来を……日本の未来を、取り戻して!」その時、瓦礫の向こうから、何台もの警察車両の激しい赤色灯の明かりが近づいてくるのが見えた。ウーウーと唸るサイレンが瓦礫を震わせ、狂暴なサーチライトが夜空を白く照らし出す。もう、バリケードの網がここまで迫っている。時間がない。『すまない……必ず、迎えに来る!』ユウキはカードを握り締め、迫り来る明かりとは逆の闇へと、弾かれたように飛び出して消えていった。残されたヒトミは、パパの背中が見えなくなるまで見届けた後、深く息を吐き、ミツキの手を引いて歩き出した。「パパは、日本を救うヒーローなんだ」ミツキがぽつりと言った。ヒトミは涙を拭い、力強く微笑んだ。「ええ、私たちの自慢のパパよ。さあ、私たちも戦いましょう」無事に夫を逃がすことができた安堵を胸に、二人は迫り来る警察の影を受け止めるべく、静かに歩みを進めるのだった。


第11話:国家反逆罪の罠、引き裂かれる家族


「身分証を紛失したので、非ワクチンカードの再発行をお願いします」窓口の職員に申し出たその瞬間、職員の瞳が冷たく細められた。脳を支配されていない「非ワクチン」の人間は、現在の自由党政権にとって最優先の監視対象である。この厳戒態勢の中での再発行申請。職員の手が、静かに通報ボタンを押した。「紛失、ですか。……申し訳ありませんが、現在の警戒態勢下では、少々手続きが必要です。奥の部屋へご案内します」まだ、役人たちも確証があったわけではない。ただの不審者としての「同行要求」であり、この時点では罪名すらついていない。しかし、ヒトミは直感していた。もう、ここから生きては出られないかもしれない、と。ヒトミは連行される直前、ミツキの耳元で小さく囁いた。「ミツキ、パパを信じて、生き抜くのよ」隔離された取調室で、ヒトミへの執拗な尋問が始まった。「カードはどこにある」「なぜこのタイミングで失くした」ヒトミは頑なに口を割らず、黙秘を貫いた。――だが、ディストピアの監視網は、人間の沈黙を許さない。数時間後、取調室のドアが乱暴に開けられ、一枚の画像が机に叩きつけられた。それは、街中に張り巡らされたAI監視カメラが捉えた、昨夜の映像だった。そこには、ヒトミの「非ワクチンカード」をかざして検問をすり抜ける、一人の男の姿が鮮明に映し出されていた。画面を見た取調官が、忌々しそうに吐き捨てる。「去年の大地震で刑務所から脱走し、生死不明のまま行方をくらましていたお前の夫、ユウキだな。……やはり生きていたか。しかも、我々すら全貌を掴めていなかった謎の地下組織『ソシジ』の連中と手を組んでおったとはな」ユウキの生存、逃亡援助の事実、臨時の役所への虚偽申請、および巨大地下組織『ソシジ』の存在の発覚。言い逃れのできない事実によって、ヒトミの容疑は一瞬にして「国家反逆罪」へと跳ね上がった。ヒトミは激しい暴行を受けながらも、夫の潜伏先について最後まで固く口を閉ざし、そのまま最厳重監獄へと連行されることが決まった。取調室から引きずり出されるヒトミと、別室に隔離されていた十二歳のミツキが、廊下で一瞬だけ交錯した。「ママ! ママーーッ!」泣き叫び、ヒトミの後を追おうとするミツキ。しかし、その華奢な身体を、治安部隊の男たちが容赦なく押さえつける。暴れるミツキの身体がヒトミとぶつかり合った、そのわずか一瞬の隙だった。ヒトミは、あらかじめ自分の上着のポケットに忍ばせていた、小さな「録音機能付きの子供用防犯アラーム」を、ミツキのコートのポケットへと滑り込ませた。それは、『さるく』を経営していた頃、パパとママがミツキの安全を願って買い与えた思い出の品だった。ヒトミは振り返り、涙で濡れた顔で、しかし毅然とした笑みを浮かべて叫んだ。「ミツキ! パパを、ママを信じて! 絶対に生き抜くのよ!」それが、母親を見た最後の姿だった。ヒトミはそのまま冷たい地下へと連行されていった。「母親は一級国事犯、父親は指名手配犯だ。……おい、全画面に緊急指名手配を流せ。テロ組織ソシジの幹部ユウキ。生捕りなら懸賞金として『一億ポイント』を付与する、とな」その日、テレビやNCLの視界に、ユウキの顔写真と「一億ポイント」の文字が大々的に躍った。ポイントに飢えた全国民が、一瞬にしてユウキを狙う「ハンター」へと変わった瞬間だった。「このガキはまだ思考ハッキングの済んでいない未成年だな。東京の『適正育成管理施設』へ移送しろ。国の役に立つ駒として、徹底的に叩き直す」冷酷な命令と共に、ミツキは黒塗りの車両へと押し込まれた。家族は三度、バラバラに引き裂かれた。一億ポイントの懸賞金をかけられ、全国民から追われる身となったパパ。夫を護り抜き、冷たい檻に囚われたママ。傷だらけのまま、窓のない車に揺られ、狂気の首都・東京へと連行されるミツキ。暗い車内。ミツキは泣きじゃくりながら、ポケットの中の防犯アラームを握りしめた。再生ボタンを静かに押すと、優しく温かいママの細い声がスピーカーから流れてきた。『ミツキ。これを聴いているということは、ママはもう側にいないかもしれないね。ごめんね。でもね、パパもママも、ミツキのことを世界で一番愛しているよ。私たちは絶対に諦めない。だからミツキも、どんなに辛いことがあっても、心を殺しちゃダメ。自分のままで生きて。パパが必ず、あなたを迎えに行くから――』何度も、何度も繰り返されるママのメッセージ。連行される車の窓の隙間から見えた東京は、崩壊した福岡とは対照的に、美しく輝いていた。道行く人々は全員がNCLをつけ、互いに「おもてなし」の偽善に満ちた笑顔を貼り付け、ポイントを稼ぐためにペコペコと頭を下げ合っている。極上の「平和で優しい社会」を演じる偽善の街。これから始まる地獄のような洗脳教育の中で、このポケットの中の小さなアラームとママの声だけが、ミツキが「人間」であり続けるための、唯一の命綱となるのだった。――それから5年後。舞台は2036年、ポイントで作られた偽りの平和が支配する街・東京へ。


【第3章:偽りの楽園、麻苗あなえの時代】


第12話:新年号「麻苗」の開幕、仮面の下に牙を研ぐ少女


ミツキが東京の『適正育成管理施設』へと連行されてからの五年間、日本の形は完全に造り替えられた。2032年1月――。長年、日本国民の精神的支柱であった天皇陛下が急死を遂げる。あまりにも突然の崩御だった。その直後、女性総理大臣が壇上に立ち、冷徹な声で新たな年号を発表した。「新年号は、『麻苗あなえ』です」これと同時に、政権が強引に成立させた新法に基づき「女系継承も視野に入れた男系女性天皇」が誕生。即位の儀で、若き新天皇はテレビカメラの向こうの全国民に向け、涙を流しながらメッセージを語りかけた。『国民の皆さん。悲しみに暮れる必要はありません。これからは、私を、我が政府を信じてください。私たち共民と国民が手を取り合い、真に平和な新しい日本を築いていきましょう』NCLを装着し、脳のハッキング電波に支配された国民たちは、その「涙」の意味を履き違えて狂喜乱舞した。彼らは疑うことを知らぬ操り人形となり、自由党政権への忠誠をより一層深めていった。だが、その「平和」の裏側は、血と涙で塗れていた。あの福岡の復興パーティの夜、ユウキたち『ソシジ』に拘束され、裏コードのパスワードの在り方を漏洩した政府高官ニカイ。彼は「麻苗」の幕開けとほぼ同時期に、都内の高級ホテルの最上階から不審な飛び降り自殺を遂げた。口封じであることは明白だった。さらに、街では陰惨な「入れ替え」が進んでいた。政府のバックアップによって特権階級となった「日本共民」の子供たちによる、純国民の子供たちへの激しい虐めが横行。ポイント社会の最底辺へと追いやられた純国民の子供たちの自殺急増は、メディアに完全に隠蔽された。正式に「義務」であったワクチンを接種していない人間は、すべて地下テロ組織の名を冠して「ソシジ」と呼ばれるようになった。「あいつはソシジだ」「国賊のソシジを見つけろ」NCLの視界に『非ワクチン』と表示される者を見つすれば、国民総出で密告し、吊るし上げる。一億ポイントの懸賞金がかけられたユウキへの捜索網は、そのまま「非ワクチン人間への合法的な人権迫害」へとすり替わっていった。国民全員が笑顔と監視のロボットと化していった。地下皇団『ソシジ』のアジトでは、人類の尊厳を取り戻すための戦いが日々続いていた。8年前2028年-「完成したぞ、カミヤ先生。これが我々の反撃の狼煙だ」白衣を纏った男が、小さなアンプルを掲げた。元大手製薬会社の社長であり、政府のワクチン開発の裏側を知る男――コバヤシだった。コバヤシが秘密裏に開発に成功したのは、政府のマイクロチップを一時破壊し、ハッキング電波を完全に遮断する『洗脳無効化ワクチン(アンチ・チップ)』。これを打てば、人工衛星からの感情コントロール電波は一切効かなくなる。システムの側には「正常に処理されている」と偽装信号を送るため、「洗脳されたフリ」をして社会に潜入することが可能になった。しかし、この奇跡のワクチンには、あまりにも致命的な「条件」があった。「毎日、午前十二時(正午)丁度に、人工衛星から強力な洗脳電波が日本全土へ照射される。このワクチンは、日に一回の接種を、**『照射日当日の午前十二時まで』**に完了させなければ完全に意味を失う。一分でも遅れれば、脳のチップが再起動し、本物の人形に成り下がる」正午という絶対的なタイムリミット。ソシジ隊員たちのために、いつでもどこでも打てる、ペン型の小型注射器をアジトで大量生産した。これにより洗脳を解かれた純日本のソシジの組織が増えていった。洗脳されてないソシジ達は裏コードのパスワードを入手し衛星をハッキングして電波を止めるか、パスワードの入力場所を探し当てるか、それとも正午までにワクチンを打ち続けるか。彼らは常に、命懸けの綱渡りを強いられていた。そして、年号が「麻苗」となってから四年が過ぎた、2036年。東京にある政府直轄の『適正育成管理施設』。そこは、国事犯の子供や思想不穏とみなされた未成年を集め、徹底的な調教を行う檻だった。十二歳で施設に連れてこられたミツキは、今年、十七歳になっていた。「はい、本日も素晴らしいおもてなしの心で、社会に貢献いたします」施設の職員や教官たちに向かって、ペコペコと機械的な笑顔を貼り付けて頭を下げるミツキ。その瞳には感情の光がいっさい無く、完全に国の異常な洗脳教育によって「心を殺された模範囚」だった。そこへ、 コツ、コツ、と革靴の硬い音を響かせ、数人の随行員を従えた一人の男が歩み寄ってきた。自由党政権内で冷徹な実力派として頭角を現していた政治家、埼玉知事のカワイであった。カワイは、感情を奪われてロボットのように挨拶を繰り返すミツキや周囲の未成年たちの姿を一瞥すると、案内役の施設職員に向かって、フッと鼻で笑って見せた。「相変わらず、気味の悪いことをやってるな、あの都知事の趣味だろ。」「は、はい……。これも麻苗の時代における、適正な国民育成管理でございますので……」自由党の有力者であるカワイの冷ややかな言葉に、職員はペコペコと揉み手をしながら冷や汗を流す。だが、カワイの冷酷な瞳は、洗脳される子供たちではなく、別の場所へと向けられていた。彼は声を低め、職員を威圧するように本題を切り出した。「そんなことより、有事用の備蓄だ。この施設に配備されている武器弾薬は、ちゃんと定期的にチェックしてるんだろうな?」「もちろんでございます、カワイ知事! 奥の地下倉庫にて、最新の弾道兵器からアサルトライフルにいたるまで、寸分の狂いもなく管理・チェックを徹底しております!」「そうか。ならいい。国賊のソシジどもがいつ襲撃してくるか分からんからな。私が直接、後で監査に入らせてもらう」「ハッ、手配いたします!」職員は疑いもせず、カワイの言葉に最敬礼を返した。自由党の冷徹な実力派政治家として、完璧な職務を遂行する見えるカワイ。しかし、一知事の彼がなぜこれほどまでに徹底した武器弾薬の管理を要求し、自ら監査を行うことにこだわるのか――その怜悧な瞳の奥に隠された本当の『目的』を知る者は、この施設内にはまだ誰もいなかった。カワイはすれ違いざま、頭を下げたままのミツキの頭頂部に一瞬だけ視線を落としたが、すぐに何事もなかったかのように廊下の奥へと去っていった。カワイの足音が完全に消えたのを見計らい、ミツキはゆっくりと顔を上げた。職員たちの前では、相変わらず感情の消えた模範囚の笑顔を貼り付けたままだ。しかし、それこそがミツキの「偽装」であった。ミツキは十五歳の時、従職なフリをして、政府の最高エリート暗殺組織である「特殊部隊」への配属を自ら希望した。すべては、施設から抜け出し、外の世界へ出るための牙を研ぐため。国の役に立つ使い捨ての駒として、ミツキはこの二年間で地獄のような教育を叩き込まれた。国際任務に対応するため、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、中国語の五ヶ国語をネイティブレベルで完璧にマスター。さらに、各国の軍隊格闘術から暗殺術に至るまで、多彩な格闘技術をその華奢な身体に染み込ませた。教官たちは、テロリストの娘が「最高に都合の良い、最強の殺人兵器」に育ったと確信し、満足げに笑っている。だが、教官たちが背を向けた瞬間、ミツキの瞳に冷徹な暗殺者の光が宿る。制服のポケットの中で、五年間片時も離さず隠し持ってきた、今はもう壊れた「子供用防犯アラーム」を指先でなぞる。(ミツキの心はまだ死んでいない)五ヶ国語の知識も、人を殺すための格闘技術も、すべてはパパとママの元へ帰るための武器。笑顔の仮面の下で、十七歳の少女は静かに、しかし圧倒的な殺意を持って、反撃のチャンスを見定めていた。パパとママとの約束を果たすため、この狂った「麻苗」の時代を終わらせるために。


第13話:巨悪への反逆、追放された天才科学者

 

――遡る事14年前2022年。コロナウイルスが未曾有のパンデミックと騒がれ、混乱していたあの年、日本中が強制接種された「新型ワクチン」の裏で、一人の男がすべてを失い、地獄の底へと突き落とされていた。日本屈指の大手製薬会社『小林薬品』の社長であったコバヤシは、政府と海外の巨大製薬資本が強引に進める「治験を完全にスキップした新型ワクチン」の国内流通計画に、強い不信感を抱いていた。自社の最先端ラボでその成分を独自に極秘分析したコバヤシは、背筋が凍るほどの戦慄を覚える。それは、感染症の予防薬などでは断じてなかった。人工衛星からの特殊電波を受信し、人間の脳の神経ネットワークを物理的にハッキングして思考と感情を縛り付ける、未知の【ナノマシン(マイクロチップ)】の集合体だったのだ。「こんな悪魔の代物を国民に打たせるわけにはいかない……!」科学者としての、そして日本人のプライドに懸けて、コバヤシは厚生労働省と海外の製薬会社へ向けて、データの告発と流通差し止めの手続きに動いた。だが、国家という巨大な怪物の牙は、一介の民間企業トップが抗えるほど甘くはなかった。告発の記者会見を開く直前、オールドメディアのテレビや新聞が一斉に、ありもしない「大スクープ」を連日爆破的に報道し始めたのだ。『小林薬品の主力製品に、発がん性物質と重篤な不純物が混入!』『政府発表:小林薬品の常備薬を服用している者が新型ワクチンを接種すると、ワクチンの効果が阻害され、命に危険が及ぶ恐れがある』もちろん、すべては政府と外資が仕組んだ、完全なデマ(捏造ニュース)だった。しかし、メディアに踊らされた国民は小林薬品への激しい不買運動とバッシングの嵐が巻き起こる。信頼は地に落ち、株価はわずか数日で大暴落。会社は民事再生に追い込まれ、外資のハゲタカファンドによってあっさりと強引に買収・切り売りされてしまった。長年かけて築き上げた会社を奪われ、自社の商品は「ワクチンに害を及ぼす猛毒」として完全に市場から干され、コバヤシ自身も退陣を余儀なくされた。「私の言葉を信じず、あの悪魔の針を自ら進んで受け入れた哀れな国民どもめ……。だが、私はまだ諦めない。お前たちが汚物と呼んだ我が社の技術こそが、その脳の寄生虫を駆逐する唯一の光だと証明してやる」コバヤシは冷たく、しかし静かに復讐の炎を瞳に宿した。彼は外資の接収が入る直前、決死の覚悟でラボから最新のナノテクノロジー機材と研究データを盗み出し、地下へと潜伏。追手から逃れ、長崎の廃墟『軍艦島』の暗い地下室へと身を隠した。四方の壁に数式と化学式がびっしりと書き殴られた暗闇の中。コバヤシは顕微鏡を覗き込み、かつて「害」と罵られた自社の成分をベースに、あの洗脳ナノマシンのハッキングを一時的に遮断し、人間本来の意識を強制的に覚醒させる洗脳無効化ワクチン――『アンチ・チップ』の初期開発に、ついに成功する。すべてを奪われ、干され、怪物となった天才科学者。今やソシジの戦士達の手元で怪しく光るペン型注射器の液こそが、後に地獄から這い上がるユウキ、そして日本を救う最大の切り札となることを、政府の独裁者たちはまだ知る由もなかった。


第14話:消された記憶、隔離精神病院への夜襲


家族が三度バラバラに引き裂かれ、あの最悪の夜から五年という歳月が流れていた。ソシジの幹部となったユウキは、この五年間、ただの一日たりとも休むことなく、死に物狂いで妻・ヒトミの行方を追い続けていた。暗殺術を身につけ、夜の闇に紛れて政府のデータベースを掠め取り、ついに突き止めた場所――そこは、政府が「思想犯の廃棄場所」として利用している、佐賀の深い山奥にそびえ立つ、隔離精神病院だった。そこは医療の場などでは断じてない。高いコンクリートの塀に囲まれ、高電圧の有刺鉄線が張り巡らされた、生ける屍の監獄だった。サクライやタモガミに叩き込まれた超一流の隠密技術を駆使し、ユウキは夜闇に乗じて厳重な警備の目を次々と潜り抜けた。冷たい監視カメラの死角を突き、音もなく窓のロックを解除して病棟の最深部へと侵入する。冷酷な消毒液の匂いが立ち込める、薄暗い廊下。ユウキは目的の病室の重い鉄扉を静かに開け、中へと滑り込んだ。月明かりだけが虚しく差し込む殺風景な部屋。そのベッドの上に、一人の女性がぽつんと座っていた。「ヒトミ……!」ユウキの胸が激しく高鳴り、震える足で彼女へと駆け寄った。しかし、近づくにつれて、ユウキの身体は凍りついた。そこにいたのは、毅然と「日本の未来を取り戻して」と微笑んでいた、あの聡明で美しい妻の姿ではなかった。衣服は薄汚れた拘束衣のようであり、過剰な投薬と精神破壊処置によって、彼女の身体は痛々しいほどに痩せ細っていた。肌の白さは死人のようであり、何より、その瞳からは一切の生気が失われ、ただ底の割れたガラス玉のように中空を虚ろに見つめているだけだった。「ヒトミ、ヒトミ! 俺だ、ユウキだ! 迎えに来たぞ!」ユウキは涙をボロ

ボロと流しながら、愛する妻の細い肩を強く抱きしめた。しかし、ヒトミの身体はピクリとも動かない。ユウキの温もりを感じても、その瞳に光が戻ることはなかった。彼女はゆっくりと、錆びついた人形のように首を傾げると、感情の消え失せた平坦な声で、ぽつりと呟いた。「……あなた、だれ……? わたし……なにか……わすれてる……」「ヒトミ……っ!?」ユウキの息が止まった。国家反逆罪という不当な罪を着せられたヒトミは、この五年間、自由党政権の残忍な薬物洗脳処置を受け続けていた。最愛の夫の顔も、命がけで守ろうとした娘のミツキの名前すらも、彼女の脳から完全に消去されていたのだ。「すまない……っ、俺のせいで! 俺がもっと早くお前を助け出していれば……! ごめん、ごめんよヒトミ……!!」ユウキは妻の胸に顔を埋め、声を殺して血の涙を流した。これほど残酷な仕打ちがあるだろうか。国のために戦い、すべてを奪われ、ようやく会えた妻は、自分たちの愛した記憶さえ奪われていた。国家への激しい狂おしいほどの怒りが、ユウキの全身の血管を焼き尽くすように駆け巡る。その時だった。チカッ、チカッ、と廊下の警告灯が不気味に明滅し、静まり返った病棟の奥から、ガチガチと硬いブーツの音が響いてきた。「おい、3号棟の監視カメラに一瞬ノイズが走ったぞ。確認しろ」冷酷な警備兵たちの足音が、確実にこの病室へと近づいてくる。ユウキは今すぐヒトミを背負って逃げ出したかった。しかし、今のヒトミは過剰な薬物で自立歩行すらできず、現在のソシジの隠れ家へ連れて行けば、彼女の衰弱した身体は持たない。何より、今の彼女の脳を破壊している政府のマイクロチップを解除する『アンチ・チップ』の最新アンプルを、コバヤシがまだ完成させ切っていなかった。「ヒトミ……必ず、必ずお前を救い出しに来る。俺とお前の、ミツキとの記憶を、あの悪魔どもから絶対に奪い返してやるからな……!」ユウキは後ろ髪を引かれる思いで、虚ろな目のヒトミの額にそっとキスをすると、近づく足音の寸前で病室の窓から夜の闇へと飛び降りた。漆黒の佐賀の山中、冷たい雨がユウキの涙を洗い流していく。狂った国家への復讐の炎、そして妻の魂を取り戻すという絶対の誓いを胸に、ユウキは鬼の形相で闇の中へと消え去るしかなかった。


第15話:最後の聖域「軍艦島」、完全洗脳大臣の強襲


ユウキが帰還したソシジの本隊アジト――それは、長崎の沖合に浮かぶ廃墟の要塞『軍艦島(端島)』だった。崩落しかけたコンクリートの建物の地下に、政府への反撃を誓う約百名の精鋭たちが潜伏し、大量生産された「洗脳無効化ワクチン」を手に、正午のタイムリミットと戦いながらハッキングの機会を窺っていた。ソシジのハッカー班キタムラは、ニカイから奪った情報を元に、衛星のコントロールを奪うための「裏コードのパスワード」のハッキングを試み続けていた。だが、政府のセキュリティはあまりにも強固で、未だに突破口を見つけられずにいた。

それと同時に自由党政権の魔の手は、ついにこの聖域にまで迫っていた。ニカイの遺した裏コードを巡る攻防の中で、アジトの場所が政府に探知されたのだ。長崎港から南西に約十九キロ。かつて海底炭鉱として日本の近代化を支え、今は廃墟と化した軍艦島の地下深く。潮風の鳴る暗闇の中に、ソシジの精鋭約百名が息を潜めていた。そこは世界文化遺産という名の「民間人立ち入り禁止の空白地帯」であり、彼らにとって最後の聖域だった。だが、自由党政権の魔の手は静かに、しかし確実にこの島を捉えていた。軍艦島を取り囲む黒い海。そこに浮かぶ最新鋭イージス艦の艦橋から、冷徹な目で廃墟の島を見下ろす男がいた。政府の防衛大臣、コイズミ。利権やポイント、自己保身のために動く他の大臣たちとは一線を画す男だった。コイズミの脳内のNCLには最高顧問アソウによって、一切の私情を排した「狂信的な国家忠誠コード」が埋め込まれていた。彼は政府の命令を『絶対の正義』と信じ込む、唯一の完全洗脳大臣だった。「国賊ソシジを一人残らず殲滅せよ」コイズミは微塵の躊躇もなく、冷たい声を通信機に吹き込む。「ただし、同島は我が国の貴重な国家遺産である。無用な砲撃は禁止。ヘリによる特殊部隊の垂直降下、および高速艇による強襲上陸による白兵戦で全頭を駆除しろ」夜空を切り裂くローター音。旋回する戦闘ヘリの機内には、漆黒の戦闘服に身を包んだ十七歳のミツキがいた。圧倒的な暗殺格闘センスを叩き込まれた彼女の初任務――それは、コイズミ直属の殺人マシーンとして、島に潜伏する『ソシジ幹部』を暗殺することだった。島に突入した防衛省特殊作戦群により、静寂だった廃墟は一瞬にして硝煙の煙る戦場へと変貌した。ソシジの精鋭

たちはカミヤ達を逃す為、次々に命を落としてゆく。コンクリートの瓦礫を潜り抜け、ミツキは地下深きアジトへと突き進む。崩れかけた坑道の奥、銃を構えたターゲットと対峙した。その男の顔を見た瞬間、ミツキの引き金をかける指が止まった。  


第16話:数秒間の奇跡、巨漢・ヒャクタの散り様


暗い坑道の奥、銃口を向け合った二人の距離が、静止したように凍りつく。「……パパ……?」漆黒の戦闘服に身を包んだ少女の口から、震える声が漏れた。ユウキはその顔を見つめ、張り裂けそうな胸を抑えて叫んだ。「ミツキ……! 生きて、いてくれたか……!」 生き別れた親子の血の絆が確かに響き合った、まさにその時、時計の針が午前十二時(正午)をピタリと指した。ゴォォォンという不気味な地鳴りのような音と共に、人工衛星から日本全土へ向けて最大出力の洗脳電波が照射される。脳を焼き尽くすような電波が島を覆おうとした、まさにその瞬間だった。 地下の作戦室にいたカミヤ、キタムラ、コバヤシらソシジの天才頭脳班が、キーボードを猛烈な速度で叩き、決死のカウンタークラッキングを発動した。バチバチッ! と凄まじい火花が散り、数秒間だけ、人工衛星の波が完全にジャックされ、この島一帯の通信が完全に遮断された。 「――っ!?」脳を支配していた強烈な霧が奇跡的に晴れ、突入していた自衛隊の隊員や特殊部隊班たちは、一斉に動きを止めて困惑の声を上げた。「な、何だこれは……俺たちは今、何を……」敵の統制が乱れた一瞬の隙を突き、ユウキがミツキの手を強く引いて叫んだ。「ミツキ!! カミヤ先生たちを連れて早く逃げるぞ!」 しかし、ジャックの効果は長くは続かない。数秒後、セキュリティが非情にも自動復旧すると、自衛隊員たちの瞳から再び生気が消え失せた。同時に、全員の通信機からイージス艦のコイズミ防衛大臣の冷酷な命令が響き渡る。『目標を追え。慈悲は不要だ』洗脳に戻った政府兵たちが再びマシーンのように銃口を向け、容赦のない銃撃で親子を執拗に追い詰めていく。ズガガガガガガッ! と崩落する坑道、背後から迫る無数の銃弾。ユウキがカミヤたち幹部を隠しドックへ走らせるその行く手に、巨大な体躯の漢・ヒャクタが、その身を晒して立ちはだかった。「ユウキ! 娘を連れて先生方を守れ! ここは俺が食い止める!」ヒャクタは不敵に笑うと、ペン型の洗脳無効化ワクチンを自らの首筋に力任せに突き刺した。カチリとアンプルが空になり、彼の脳内に本物の闘志が爆発する。「ウオオオオオオーーーッ!!」野生の獣のような咆哮を上げ、アサルトライフルを腰に構えたヒャクタは、押し寄せる特殊部隊の前にその巨体を文字通り壁にして立ちはだかった。「隠しドックにカミヤ先生たちが用意した高速船が二隻ある! お前たちは一号艇に乗れ!」 容赦なく撃ち込まれる弾雨に血塗れになりながらも、ヒャクタは鬼のような笑みを浮かべて叫び続けた。「俺が二号艇で派手に暴れてレーダーを引きつけてやる!……頼んだぞ、ユウキ!」巨漢はユウキの返事を待たず、逆方向のドックへと猛スピードで走り出した。そして、エンジンの爆音を轟かせながら、外海へと二号艇を飛び出させたのだ。カミヤ達と合

流したユウキとミツキは一号艇にすぐさま乗り込み静かに発進させた。その瞬間、黒い海原に浮かぶ最新鋭イージス艦の艦橋。完全洗脳大臣コイズミは、モニターに映し出された一筋の航跡を、冷徹な目で捉えていた。「前方にソシジの高速艇を確認。島の爆破を避けるため外海へ出たか。愚かなネズミめ。全艦、および上空の全戦闘ヘリに通達。レーダーのメインターゲットをあの高速艇にロックオンせよ。国家の秩序を乱す国賊だ、一切の容赦は不要。直ちに集中砲火を浴びせて完全に粉砕しろ」 コイズミの冷酷な声と同時に、島を慎重に包囲していたイージス艦群、および夜空を舞う戦闘ヘリのすべての照準レーダーが、囮となった二号艇のヒャクタの船へと一斉に固定された。 無数の赤いロックオンサイトに全身を焼き付けられながらも、ヒャクタは咆哮した。「ソシジを……舐めるなァーーッ!!」次の瞬間、全方位からの凄まじい集中砲火がヒャクタの船を貫いた。無数の火線に引き裂かれながらも、ヒャクタの船は敵の包囲網のど真ん中で、積載されていたすべての爆薬と共に、夜の海を真っ赤に染め上げる大爆発を起こしたのだった。 「ヒャクタァァァーーッ!!」一号艇からその光景を見たカミヤたちは、悔しさと悲しみに血の涙を噛み締めた。しかし、立ち止まるわけにはいかない。カミヤたちはヒャクタが命を賭して作り出した一瞬の「レーダーの空白」を突き、漆黒の海原を、音もなく滑るように加速していく。背後で激しく燃え盛り、紅く染まっていく軍艦島をじっと見つめながら、ユウキは心の中で強く、強く誓った。(ヒャクタさん……あなたのこの命がけの犠牲を、俺たちは絶対に、絶対に無駄にはしないと。


第17話:五年ぶりの家族再会、人類最大の標的


軍艦島の地獄から命からがら脱出した高速船は、長崎の寂れた海岸へと滑り込んだ。カミヤ、キタムラ、コバヤシの三人は、政府の追跡をかわすため、あらかじめ用意していたルートで四国を経由し、兵庫県・淡路島にある第二のアジト「洲本城跡」へと向かうことになる。「ユウキ、ミツキちゃん。我々は淡路島で次の準備を進める。お前たちは、奥さんを……ヒトミさんを救い出してくれ」カミヤの言葉に頷き、親子二人だけで行動を開始しようとした、その瞬間だった。――突如、ミツキが鋭い踏み込みでユウキの懐に潜り込んだ。「がはっ……!?」施設で叩き込まれた軍隊格闘術。ミツキの容赦のない前蹴りがユウキの腹部を捉え、電光石火のワンツー、そして鮮やかな一本背負いがユウキを地面に叩きつける。「ミツキ……!? お前、何を……」起き上がろうとするユウキの顔面に、ミツキの拳が寸止めで突きつけられた。その拳は、激しく震えていた。ミツキの目から、大粒の涙がボロボロと溢れ出す。「……なんで置いていったの。なんで、ママと私を一人にしたの……!」それは、五年間の地獄を「心を殺して」生き抜いてきた少女の、本当の叫びだった。必死に耐えてきた孤独、ママを奪われた絶望、そして、目の前にいる父親が生きていてくれたことへの、狂おしいほどの嬉しさ。そのすべてを拳に込めて、ミツキはユウキをボコボコに殴りつけた。ユウキは一切反撃せず、娘の拳をその身に受け止めた。ボロボロになりながらも、激しく泣きじゃくるミツキを、強く、強く抱きしめる。「すまない……本当にすまない、ミツキ。よく、生きていてくれた……」温かい父親の胸の中で、ミツキはようやく、十七歳の普通の女の子に戻って声を上げて泣いた。二人の心は、ここで本当の意味で一つになった。二人は仲直りを果たすと、まずは特殊部隊の戦闘服から一般人に紛れ込むための服を調達しに向かった。その際、ミツキはポケットから、五年間守り続けたあの壊れた「子供用防犯アラーム」を取り出した。ユウキは全国指名手配犯の為、ミツキの服の調達の間、アラームの修理に取り掛かった。ユウキはかつて居酒屋を営む傍ら、機械の修理も得意としていた。手際よくアラームの裏蓋を開け、断線した配線をつなぎ直す。カチッ。小さなスピーカーから、ノイズ混じりではあるが、確かにあの温かいママの声が響いた。『……パパが必ず、あなたを迎えに行くから――』「ありがとう、パパ」ミツキはそれを愛おしそうにポケットに仕舞い、二人は母ヒトミが囚われている佐賀の精神病院へと向かった。厳重な監視が敷かれた、佐賀の山奥の隔離病院。だが、いまの二人にはソシジの知識と、ミツキの超一流の隠密・格闘技術がある。夜中、静まり返った施設へ音もなく侵入した二人は、巡回する警備員を瞬時に無力化し、ヒトミの病室へと到達した。薬を盛られ、虚ろな目でベッドに横たわるヒトミ。ユウキは彼女を優しく背負い、ミツキが周囲を警戒しながら、闇夜に乗じて病院から連れ出すことに成功する。三人が身を寄せたのは、政府の監視網から外れた、八女にあるヒトミの古い実家だった。ユウキはコバヤシから託されていたペン型の「洗脳無効化ワクチン(アンチ・チップ)」を取り出すと、ヒトミの首筋に静かに注射した。数分後。ヒトミの脳内で、政府のマイクロチップによる強制的な精神抑制とハッキング電波が完全に遮断される。過剰な投薬によって濁っていた彼女の瞳に、すうっとかつての聡明な光が戻ってきた。「……う、あ……」ヒトミが頭を押さえて顔を上げる。その視線が、目の前に佇むユウキ、および十七歳に成長したミツキを捉えた。「あなた……? ミ、ツキ……?」劇的な薬効により、破壊されていた脳のネットワークが再結合し、消されていた記憶が少しずつ、しかし確かに蘇ってくる。「ママ……! ママ!!」ミツキがヒトミの胸に飛び込む。ヒトミは涙を流しながら、大きくなった娘の背中を、そして愛する夫の手を強く握りしめた。「私……あなたたちのことを忘れるなんて……ごめんなさい、ごめんなさい……!」「いいんだ、ヒトミ。辛い思いをさせてすまない。もう大丈夫だ」さるくの跡地での別れ、および施設の廊下での別れを経て、家族三人はついに、本物の再会を果たしたのだった。しかし、束の間の平穏は、テレビから流れた緊急ニュースによって無残に引き裂かれた。画面には、女性総理大臣の冷酷な顔が映し出されていた。『日本国民の皆様へ緊急告知です。我が国家の平和を脅かすテロ組織「ソシジ」の残党が、国家遺産である軍艦島を占拠し、逃亡しました。首謀者であるカミヤ、キタムラ、コバヤシ。そして――』画面が切り替わり、ユウキの顔写真の隣に、カミヤ、キタムラ、コバヤシ、および特殊部隊の制服を着たミツキの顔写真が大々的に映し出された。『新たに発覚したこれら四名のテロリストに対しても、国家反逆罪を適用。身柄の確保、または殺害に対し、それぞれに「一億ポイント」の懸賞金を付与します。国民の皆様、おおもてなしの心で、国賊の発見にご協力ください』「ミツキまで……一億ポイントの懸賞金……!」絶句するユウキとヒトミ。今や、ユウキだけでなく、カミヤたち幹部、そして娘のミツキまでもが「全国民」から命を

狙われる、人類最大の標的となってしまったのだ。ポイントの奴隷と化した一般国民の目が、日本中でギラギラと光り始める。一方、その頃。カミヤ、キタムラ、コバヤシの三人は、瀬戸内海を渡り、淡路島の洲本城跡に隠された第二アジトへと無事潜入した。そこにはサクライが東京決戦の準備を着々と進めていた。そこでサクライから衝撃の事実が聞かされる。洗脳ハッキング電波が東京ではなく福岡にあるアソウビルだと。「ユウキたちはまだ福岡か……よし、キタムラ作戦変更だ。聞いてくれ。」これから我々は二方向同時任務の賭けにでる、我々の持てるすべての技術を使い、この狂った『麻苗』のシステムそのものをハッキングする。決戦の地は、東京だ!」追う側から、完全に追われる側へ。しかし、家族の絆を取り戻したユウキとミツキの心に、もう迷いはなかった。標的となった家族の、システムを破壊するための命懸けの東上が始まろうとしていた。


【第4章:大和魂の覚醒、システム崩壊】


第18話:要塞「アソウビル」の死闘、大和魂の完全覚醒


四国を経由し、淡路島の第二アジト「洲本城跡」へと逃げ延びたソシジの一行。ユウキとミツキは、佐賀の精神病院に監禁されていた妻・ヒトミの奪還に成功していた。コバヤシの開発したワクチンにより、ヒトミの記憶は少しずつ、しかし確実に蘇りつつあった。だが、安息の時間などない。テレビ画面には、ユウキ、ミツキの二人に「国家最重要指名手配犯・一億ポイント」の懸賞金がかけられたニュースが冷酷に流れていた。その時、淡路島のカミヤから、ユウキの持つ秘匿通信機に暗号が入る。『ユウキ、人工衛星をコントロールしている地上中枢の場所が判明した。東京の本部ではない。……すべての送信源は、福岡にある。自由党政権の最高顧問であり、女性総理の相談役でもある大物政治家・アソウ。奴が地元・福岡に構える要塞、【アソウビル】の最深部だ』ユウキは、奪還した服に着替えながら、未だ病床にある妻と、引き止めようとする娘を見つめた。「ミツキにも一億ポイントがかかっている。二人で動けば一瞬で通報される。俺が一人でアソウビルを叩く。お前たちはここで待て」「ダメだよパパ! 私も行く!」ミツキの悲痛な叫びを、ユウキは静かに遮った。「もし俺に万が一のことがあっても、お前はママを守らなきゃいけない。約束だ、ミツキ」ユウキは一人、決戦の地・福岡へと向かった。しかし、パパの後ろ姿を見送ったミツキの胸には、軍艦島でのあの恐怖、そして五年前の別れの光景が激しく渦巻いていた。ポケットの中で、直してもらった古い防犯アラームをぎゅっと握りしめる。「……ママ、ごめん。やっぱりパパを一人で行かせられない」ヒトミは、強く成長した娘の瞳を見て、すべてを察したように優しく微笑んだ。「行きなさい、ミツキ。パパをよろしくね」最凶の十七歳は、夜の帳に紛れて福岡へと飛び出した。福岡県内にそびえ立つ、ガラスとコンクリートの要塞「アソウビル」。ユウキは一般国民に変装し、正午の洗脳電波のタイムリミットを気にしながら、ビル内部へと侵入した。不思議なほどに電子ロックは甘く、警備の兵たちもユウキの侵入を黙認するように道を開ける。たやすく辿り着いた最深部。重厚なハイドアが開くと、そこは巨大な円形劇場のようになっていた。部屋の中央、人工衛星をコントロールするメインパソコンの前に、一人の老人がポツンと座っていた。自由党政権の最高顧問であり、女性総理の相談役でもある大物政治家・アソウ。すでに高齢の彼は、贅を尽くした椅子に深く腰掛け、高級な葉巻の煙を燻らせていた。その姿は、国を支配する黒幕というよりは、退屈な余生を狂ったゲームで遊んでいる老人のようだった。「ようこそ、国家反逆者。待ちかねたぞ、ユウキ」アソウは振り返りもしない。部屋の影から、銃を構えた数十人の私兵たちが音もなく現れ、ユウキを完全に包囲した。だが、アソウの手がそれを制する。「安心しろ。コイツらに、お前をすぐに殺す指示を出す気はない。そんなものは退屈極まりないからな」アソウは立ち上がり、目の前にある人工衛星の制御パソコンを指差した。「これが世界を書き換える電波の心臓部だ。パスワードを入力してシステムを叩き壊せば、お前たちの勝ち。……さあ、この兵隊たちを突破して、ここまで辿り着いてみろ。お前の命を賭けた、最後の遊びだ」圧倒的な余裕と狂気。アソウにとっては、この国家の命運をかけた決戦すらも、ただの「暇つぶしの遊戯」に過ぎなかったのだ。「舐めるな……!」ユウキが身構えた、その瞬間――!ドカン!!天井のダクトが爆音と共に弾け飛び、漆黒の戦闘服を纏ったミツキが舞い降りた! 着地と同時に、ミツキは完璧な軍隊格闘術でユウキの前にいた兵士の顎を蹴り砕き、そのアサルトライフルを奪って周囲に猛射する。「ミツキ……!? なぜここに!」「約束を破ってごめん、パパ! でも、絶対に一人にはさせない!」ミツキの奇襲によって数人の兵士が倒れたが、アソウの私兵たちは一流のプロだった。すぐに隊列を立て直し、圧倒的な火力で親子を壁際に追い詰めていく。容赦のない銃撃の嵐。数に押され、二人は完全に包囲された。アソウは葉巻を咥えたまま、楽しそうに目を細めてそれを見物している。万事休すかと思われたその時、部屋の巨大なメインモニターが激しく明滅し、ソシジのロゴマークが鮮烈に浮かび上がった。『――私の存在を忘れてもらっちゃ困るな』

スピーカーから響いたのは、数日前からカミヤの指示で清掃員に変装してビル内部に深く潜入していた天才ハッカー・キタムラの声だった。『私がアソウビルの防壁を完全にクラッキングした! 今からビルの電力を一部遮断ブレーカーダウンする。』バチンッ!!制御室全体の電源が完全に遮断され、一瞬にして真っ暗闇に包まれる。「今だ、ミツキ!」暗視に慣れているユウキとミツキはパソコンのモニターに一直線に走りだす。ミツキが後方に小さな物体にスイッチを入れ投げた瞬間、物体はチリリリリリッッとけたたましい音を立てる!ミツキが大切にしてた子供用防犯アラームだ。アソウの兵隊たちは一瞬、音の方へと気が入ってしまう。弾雨を潜り抜け、アソウの目の前にある制御パソコンへと猛突進した。兵士たちをなぎ倒し、ついにデスクへ辿り着く。キタムラのハッキングによって、画面にはパスワードの入力要求コードが浮かび上がっていた。「よし、俺が止める……って、おい! 全部英語じゃねえか! どれが何だかさっぱり分からん!」画面に並ぶ複雑な英語の暗号を前に、ユウキはアタフタと頭を抱えた。「何やってるのよパパ、この緊急時に!」バチンッ! とミツキがユウキの頭を激しく殴りつける。「痛っ!」「退いて、私がやる!」ミツキはユウキを突き飛ばすと、五ヶ国語の才覚をフル回転させ、猛烈な速度でキーボードを叩き始めた。軍艦島で一瞬だけ見た、あの政府の裏コード。彼女の指先が、正確にパスワードを打ち込んでいく。【ACCESS GRANTED(アクセス承認)】エンターキーが強く押された瞬間、人工衛星へ電波を送り続けていた巨大な地上システムが、激しい火花を散らしながら完全にクラッシュした。――その瞬間、日本全土の空を支配していた洗脳電波が、永遠に停止した。全国民、および政府側として狂信的に動いていた「国民」たちの脳内から、すべてのハッキングが洗い流される。ポイントのために他者を密告し合い、偽りの笑顔を浮かべていた狂気が消え去り、人々の瞳に濁りのない本物の光が灯る。消されていた【大和魂(人間の尊厳)】が一瞬にして日本国民の心に蘇ったのだ。ビルの外からは、洗脳から目覚めた数千万の国民、および覚醒した軍隊が、現政府に向けて上げる地鳴りのような怒号が響き始めていた。すべてが壊れ、独裁の崩壊が決定したその瞬間。拘束されるはずのアソウが、突然、天を仰いで大声で笑いだした。「ハハハハハ! ワハハハハハ!! 面白い!実に素晴らしい! 完璧に崩壊したな、我が政府が!」涙を流さんばかりに爆笑するアソウの姿に、ユウキとミツキは息を呑んだ。アソウは狂気を孕んだ目でユウキを睨みつける。「もうお前ら……いや、あの『黒幕ども』の好きにはさせねぇぞ……なぁシンゾウよ!」アソウが呟いた「黒幕」という言葉。自由党政権の、さらに上に君臨する真の闇の存在を示唆した、その瞬間だった。ピピッ――。アソウの胸の奥 から、不気味な電子音が響いた。「……んぐっ……!?」老人の顔が、一瞬にして苦悶に歪む。アソウが口にした「黒幕への反逆の意志」を検知したのか、あるいはシステム崩壊のペナルティか、彼の心臓に埋め込まれていた緊急停止用の「遠隔チップ」が非情にも作動したのだ。アソウは胸を強く掻きむしり、そのまま崩れるように床へと倒れ込んだ。心臓停止。日本の政界を裏から支配し、最後の最後までゲームを楽しんでいた老人は、自らが仕えていた真の黒幕の手によって、あっけなく肉体の活動を停止させた。「アソウ……死んだのか……?」静まり返る制御室。しかし、ビルの外から響く国民たちの「反撃の鬨の声」は、ますます大きくなっていく。「パパ……終わったんだね」ミツキがユウキの顔を見上げる。ユウキはアソウの亡骸を見つめ、それから力強く娘の肩を抱いた。「ああ。だが、アソウが死に際に言った言葉が気になる。……本当に狂った世界を終わらせるための戦いは、ここからだ」洗脳を解かれた国民、および大和魂を取り戻した自衛隊が、狂ったディストピアを完全に終わらせるため、一斉に現政府の打倒へと動き出す。新時代への反撃が、今、ここに始まった。


【第6章:大阪冬の陣・怒涛のツッコミ大革命】


第19話:関西人の絆と誇り


第一章 君が代を忘れない 〜大和魂の目覚る時〜アソウビルの崩壊、および最高顧問アソウの怪死によって、日本全土を覆っていた洗脳電波は完全に消失した。しかし、自由党の独裁体制がこれで瓦解したわけではない。自由党と連立政権を組む『一心の党』――その党首ヨムラが支配する都市、大坂(大阪)は、まだ独自の狂気に包まれていた。ヨシムラは「大阪首都計画」という妄執を掲げ、東京の人口を追い抜いて首都の座を奪うため、十年前から超大国からの移民を無制限に受け入れ、強引な人口過密政策を進めていた。街はポイントを稼ぐために親族をも密告する二世帯住宅の「共民」たちと、言語の通ない移民たちで溢れ返り、かつての情緒は完全に失われていた。だが、電波が途絶えた瞬間。御堂筋を、道頓堀を、梅田の地下街を歩いていた何百万という関西人たちの脳裏から、強制的な笑顔の「おもてなしハッキング」が、完全に剥ぎ取られた。「……って、ちょっと待て。ワシら、今まで何をポイント、ポイント言うてヘラヘラしとったんや?」一人の男が立ち止まり、自分の手のスマートフォンを見て顔をしかめた。脳裏に蘇る大和魂。否、関西の地で数百年培われてきた、お上への反骨精神と笑いのプライドが、人々の血管を激しく駆け巡る。「……おい自由党、そっから一心の党のヨシムラ。お前ら……」次の瞬間、大坂の街全体から、天を突くような地鳴りの怒号が裂した。「――なにしてくれとんねーーーーん!!!」洗脳が解けた関西人たちの怒りは、止まらなかった。彼らは目に見えるもの、手に取れるもの全てを即座に「ツッコミの武器」へと変えた。折りたたみ傘、スーパーの買い物袋、たこ焼きのピック、ひっくり返した看板、およびプラスチック製のパイプ椅子。「一億ポイントの手配犯や! 密告や!」と未だに洗脳の余韻で動こうとする国民たちに対し、目覚めた府民たちが怒涛の勢いで襲いかかる。「まだポイント言うとんかボケェッ! 目ぇ覚ませ!」バァァァン!!とハリセン代わりの看板で頭をツッコミ倒す。「移民増やしすぎて、難波の駅の看板が読めへんようになっとるやないかい!」「隣の二世帯住宅、壁薄すぎてオカンの説教筒抜けじゃ、どないなっとんねん!」理不尽なディストピア政策に対する、あまりにも正論で強烈な「体のツッコミ」の嵐。ヨシムラが配備していた一心の党の私兵たちも、市民たちのこの凄まじい熱量と、あらゆる日用品を武器に変える臨機応変な戦闘スタイルの前に、まともな防衛線を築くことすらできず、次々とドブ川へと突き落とされていった。その頃、混沌の極みに達した道頓堀の戎橋周辺では、大坂の裏と表を牛耳る二大巨頭が、洗脳の鎖を引きちぎって集結していた。お笑い界のドンが率いる【吉本タケシ軍団】。そして、大坂を本拠地とする日本最大の任侠組織【人道山上組】。「ポイントで人間が管理されるやと? 舐めくさった真似しやがって。極道のプライド、叩き込んでやるわ」山上組の組長がドスの利いた声で吐き捨て、背中の刺青を露わにする。「映画のようにはいかんで。ここからは本物の『アウトレイジ』や」吉本タケシ軍団の芸人たちも、普段のひょうきんな顔を捨て、本物の「漢の目」をして金属バットや鉄パイプを握りしめていた。芸人と極道。普段は交わることのないはずの「大坂の顔」たちが完全共闘し、ヨシムラが放った海外の冷酷な武装共民兵たちと激突する。銃弾が飛び交う中、山上組の若頭がドスで敵の銃を弾き飛ばし、タケシ軍団の芸人たちが息の合ったコンビネーションで敵をボコボコに沈めていく。全員が悪人ではない。全員が「大和魂」を取り戻した、誇り高き大坂の志士たちだった。道頓堀川は、投げ飛ばされたヨシムラと一心の党のバッジ、共民兵で埋め尽くされ、ヨシムラの計画した「偽りの首都」は、関西人の圧倒的なパワーによって完全に奪還された。自由党の連立壊滅。大坂奪還。その勝利の熱気が冷めやらぬ中、新世界の中心にそびえ立つ【通天閣】の最上階展望台に、男が姿を現した。ソシジの最高指導者、カミヤである。カミヤは背後にコバヤシと第二アジトで合流したサクライを従え、通天閣の鉄骨に特大の「軍用巨大拡声器ギガホン」を設置させた。コバヤシのハッキングにより、その拡声器の音声は、大阪中のすべての街頭ビジョン、ラジオ、および市民のスマートフォンのスピーカーへと強制同調される。カミヤがゆっくりとマイクを握り、深く息を吸い込んだ。その声は、重低音の地響きとなって、道頓堀で戦うタケシ軍団や山上組、梅田で暴れる府民たちの耳へと届く。『大坂の熱き志士たちよ、よくぞ目覚めてくれた! ヨシムラの浅薄な首都計画は、諸君らの『大和魂』、その本物のツッコミによって粉砕された!』カミヤの声に、新世界を埋め尽くす何万という群衆が「応!!」と地鳴りのような歓声を上げる。カミヤは不敵に笑い、通天閣の上から、遥か東の空を指差した。『だが、まだ終わってはいない! 我々を騙し、ポイントで縛り、この美しい日本を切り売りしようとした元凶の首魁――女性総理大臣と、その背後に潜む本当の黒幕は、未だ東京の奥深くで震えている!』群衆が静まり返り、カミヤの次の言葉を待つ。巨大拡声器から、魂を揺さぶるような大咆哮が轟いた。『これより、ソシジおよび大坂全軍、全ての日本国民に告ぐ! ――敵は、東京にあり!!! いざ、東上せよ!!!』「おおおおおおおーーーーーーッ!!!」その瞬間、関西一円の数百万の人間が、一斉に東の空に向けて拳を突き上げた。山上組の車両群、タケシ軍団のロケバス、自衛隊の装甲車、および一般市民の車が、東京を目指して高速道路へと雪崩れ込んでいく。福岡でアソウを破ったユウキとミツキとキタムラもまた、この放送を特殊回線で聞き、ユウキはヒトミの手を握りしめていた。

「パパ、カミヤ先生が呼んでる。……行こう、最後の戦いへ」「ああ。全ての決着をつけにいくぞ、東京へ!」日本の歴史上、最も熱く、最も激しい「東海道

大進撃」の幕が、大坂から切って落された。


外伝:東海道に吹く神風


【遮断された鉄路と、全国から集いし志士たち】「大坂奪還」の熱狂が冷めやらぬまま、歴史上最も過酷で、最も美しい**『東海道大進撃』**が始まった。自由党政権の女性総理は、大坂から押し寄せるソシジおよび覚醒した数百万の府民を阻止すべく、即座に「東海道新幹線の一斉停止」および「主要高速道路の全面封鎖」を警視庁に命じた。物流を止め、交通を麻痺させることで、反乱軍を孤立させて自滅させる。それが政府の冷酷な計算だった。しかし、独裁者が放ったその悪手が、かえって眠っていた大和の民の魂を完全に覚醒させることになる。「新幹線が止まったなら、車で行くまでだ!」「車が検問で止められたなら、この足で歩いて永田町へ向かう!」鉄路を奪われたことで、国民の進軍ルートは必然的に『東海道(国道一号線・東名高速)』という一本の巨大な大動脈へと集約されていった。大坂から始まったそのうねりは、京都、名古屋、静岡へと進むにつれ、地方で洗脳から目覚めたばかりの純国民たちが「俺たちも連れて行ってくれ!」と次々に合流し、雪だるま式に膨れ上がっていく。夜が訪れた時、その光景は「神話」へと昇華した。上空を飛行する政府の監視ヘリの赤外線カメラが捉えたのは、暗黒の日本列島を貫く、気が遠くなるほどに長く、眩い**『光の龍』**だった。数百万台のヘッドライト、志士たちが掲げる松明、そしてスマートフォンのライト。東海道の形状に沿って、地を這う巨大な「光の昇竜」が、凄まじい熱量を放ちながら東京へと向かって脈動していたのだ。【崩れ去る偽善、ひれ伏すポイントの覇者たち】つい数日前まで、NCLナンバーズコンタクトレンズのポイントを盾に、純国民を見下し、奴隷のように扱っていた特権階級の「日本共民(移民)」たちは、その圧倒的な光景を前に、ただただ恐怖に震えていた。彼らの武器は、政府が与えてくれた「電子データ上のポイント」という、ハリボテの権力に過ぎなかった。だが、今、目の前を地鳴りのような足音とともに進んでいく純国民たちの瞳に宿っているのは、ポイントなどという概念を遥かに超越した、命を賭して国を護らんとする**『本物の大和魂』**の熱気だった。東海道沿いの二世帯住宅から、怯えた目で進軍を見つめる共民たち。誰一人として、彼らに石を投げる者はいなかった。ただ、数百万の人間が発する「国を取り戻す」という執念のオーラと、大地を揺らす足音が、街全体の空気を爆発せんばかりに爆熱させていく。「これが……洗脳を解かれた、本物の日本人なのか…!」ポイントの奴隷と化していた共民たちは、その精神的な圧倒的熱量に圧し潰され、ただ道路の脇に這いつくばり、ひれ伏して『光の龍』の通過を祈るように見送るしかなかった。

【霊峰富士の奇跡、幾万の旭日と日の丸】進軍の軍勢が、静岡県・富士山の麓へと差し掛かったのは、暁の迫る頃だった。自由党政権は、静岡の裾野に最後の防衛線を張り、武装警察の装甲車を並べて待ち受けていた。一触即発の緊迫感が東海道を包み込む。その時だった。突如として、日本の霊峰・富士山の山頂から、夜闇を完全に切り裂くような**【眩いばかりの神々しい後光】**が、幾条もの矢となって地上へと降り注いだ。まるで、目覚めた国民の魂に呼応するかのように、富士の山稜が黄金色に輝き始めたのだ。「見ろ! 富士山が、国が俺たちを祝福しているぞ!」カミヤが先頭車両のルーフから叫ぶと、幾万、いや、数十万の志士たちの手から、一斉に**『日本国旗(日の丸)』と『旭日旗』**が翻った。朝焼けの黄金の光に照らされ、富士山を包み込むように波打つ、幾万もの赤と白の旗の海。その神がかった美しさと、地鳴りのような歓声に、政府側の武装警察たちは完全に戦意を喪失した。警察官たちは涙を流し、自ら装甲車を退けて、進軍の道をひらいた。東海道に、本物の『神風』が吹き荒れた瞬間だった。【二十三区の手前、英霊たちへの誓い】怒涛の進撃を続け、ついに東京23区の手前、多摩川の境界へと差し掛かった時、最高指導者カミヤは右手を高く掲げ、全軍に進軍停止を命じた。「大坂からついてきてくれた何百万の義援軍の諸君、ここで一度進軍を止めて待機してくれ。首都・東京は狂気に包まれている。これ以上の民間人の流血と犠牲は、絶対に出させない。ここからは、訓練を受けたソシジ戦闘部隊、そして人道山上組の精鋭のみで突入する!」カミヤの冷静かつ非情なまでの優しさに、民間人たちは涙を呑んでその指示に従い、境界線で待機陣を敷いた。緊迫する静寂の中、カミヤ率いるソシジ戦闘員、そして山上組の漢たちは、武装を隠し、日本の護国の象徴である**『靖国神社』**の境内へと静かに足を踏み入れた。決戦の前に、この国を護るために礎となった先人たちに挨拶を直々にするためだ。キタムラが極秘裏に構築していた地下ネット回線により、この靖国参拝の様子は、SNSを通じて瞬く間に【日本全土のすべての国民のスマートフォンやテレビ】へ、リアルタイムで強制同時配信された。満天の星空の下、大鳥居をくぐり、毅然とした足取りで拝殿の前へと進むカミヤ。カミヤが深く、深く一礼を捧げた。それを合図に、SNSの画面を見つめる一億人の国民、そ して東海道の境界線で待機する数百万の群衆が、一斉に深く頭を下げ、**『一分間の黙祷』**を捧げた。東京を覆う不穏な咆哮すら消し去るように、全日本が、痛いほどの完全な静けさに包まれていく。静寂の中、国民一人一人の脳裏に、かつてこの美しい国を命懸けで護り、自分たちに未来を繋いでくれたご先祖様や、英霊たちの尊い姿が、確かな温かさとともに去来していた。ハッキング電波ではなく、血の繋がりによる本当の記憶が、国民の胸を激しく締め付ける。黙祷の終わりを告げる、静かな冬の風が境内に吹いた。カミヤはゆっくりと顔を上げ、気高く佇む拝殿を真っ直ぐに見つめると、全日本の一億人に向けて、そして天の英霊たちに向けて、魂の底からの咆哮を放った。「ご先祖様! そして、英霊達よ!! 我々がだらしなかったばかりに、この美しき日本を切り売りされ、汚れ果てた日本に貶めてしまった……! 本当に、本当にすまなかった!!! だが、それも今日までだ! 我々は命に代えても、今日、この時を以て、清き日本を必ず取り戻します!!!」その血を吐くような誓いの一言が、配信を通じて日本全土のスピーカーから炸裂した、まさにその瞬間――。東海道で待機していた数百万の義援軍、そして画面の向こうで涙を流していた一億人の全国民から、天の雲をも吹き飛ばすような、凄まじい地鳴りのような雄叫びが轟き渡った。「おおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーッ!!!!!」

英霊の護る魂の地から、現政府の立てこもる首相官邸へ向けて、神の矢の如き最終進軍の火蓋が、今、切って落とされた。(外伝『東海道に吹く神風』―― 完)


【最終章:大和決戦・暁のイージス】


 第20話:首相官邸の最凶の罠


洗脳の電波が止まり、日本国民の「大和魂」は蘇った。しかし、自由党政権が仕掛けた罠はそれだけではなかった。純血の日本国民の洗脳は解けたものの、政権が「大阪首都計画」などで無制限に受け入れてきた数百万の移民――「共民」たちの脳内ハッキングは、別の暗号コードによって未だ解けていなかった。政府はまだ彼らを自由に変形・コントロールできる手駒として残していたのだ。八女の実家。ユウキ、キタムラ、ミツキの三人は、東上するカミヤたちの軍勢に合流すべく、密かに移動の準備を進めていた。その時、静まり返った田舎道に、黒塗りの軍用車両が凄まじいブレーキ音を立てて突っ込んできた。ドアが開き、屈強な兵士たちを引き連れて現れたのは、かつて軍島でソシジを壊滅寸前まで追い詰めた防衛大臣・コイズミだった。「見つけたぞ、ミツキ」コイズミの鋭い眼光が子を射抜く。政府がミツキの体内に埋め込んでいた最高機密のGPS。その信号は、彼女の直属の上司であったコイズミの専用端末にだけ、今もなお現在地を送り続けていたのだ。「――俺の後ろへ下がれ!」ユウキは即座に銃を抜き、ミツキを背中に庇ってコイズミの前に立ちはだかった。ミツキもまた、全身の筋肉を緊張させ、いつでもコイズミの頸椎を砕けるよう殺気のステップを踏む。一触即発の冷たい静寂。しかし、コイズミは銃を抜かなかった。それどころか、背後の兵士たちに「銃を下げろ」と手で合図を送った。コイズミは深く息を吐き、ユウキの目を真っ直ぐに見つめた。「ユウキ、誠にすまなかった。……だが、今は私の指示に従え。我がイージス艦に乗れ!」「……何だって?」ユウキが眉をひそめる。コイズミは胸の防衛大臣のバッジを乱暴に引きちぎると、地面へ投げ捨て、不敵に笑った。「私は……腐っても日本人だ。これより、全自衛隊を挙げて政府の反逆者を討つ。陸路は狂った共民どもで封鎖されている。東京へ行くなら、海から行くのが一番早い」かつて洗脳され冷徹なマシーンだった男の瞳に、本物の大和魂の炎がギラギラと燃え盛っていた。ミツキはパパの顔を見て、小さく頷いた。「パパ、信じよう。この人は嘘をついてない」「……分かった。乗らせてもらう!」自衛隊のイージス艦へと乗り込んだユウキたち。甲板から海を見下ろすコイズミが、割れんばかりの声で全乗組員に怒号を放った。「これより本艦は、真の日本を取り戻すべく出航する! ――旭日旗を掲げろ!!! 出航!!!」朝焼けの海に、誇り高き旭日旗が翻る。最新鋭イージス艦は、白い波飛沫を上げて、決戦の地・東京へと全速力で舵を切った。場面は変わり、東京・首相官邸の最深部。厚さ一メートルの防爆隔壁に守られたシークレットルームには、日本の最高権力者たちが集まっていた。部屋の隅では、歴代総理の一人であるスガが、完全に脳内をコントロールされた状態のまま、人形のように一言も発さず椅子に深く腰掛けている。その中央で、同じく歴代総理のキシダとイシバの二人が、青筋を立てて女性総理大臣を激しく責め立てていた。「おい、どういうことだ! アソウが死、システムがクラッシュしたぞ!」キシダがデスクを叩いて怒鳴る。「俺らが今まで国民にどれだけ嫌われ、泥を被ってポイント社会の土台を作ってやったと思っているんだ! それを、お前という女は一瞬で失敗しやがって!」イシバもまた、冷酷な目で女性総理を睨みつける。「カミヤ率いるソシジ、および大坂の暴徒ども、さらには地方の自衛隊までもがコイズミに煽動されて東京へ押し寄せてきている。暴動をどう収めるつもりだ、えぇ!?」歴代の男たちが醜く騒ぎ立てる中、デスクのトップに座る女性総理は、冷たい目で彼らを見下ろし、鼻で笑った。「うるさい男たちね。アソウが死んだところで、この国をコントロールする権利はまだ私の手にあるわ」女性総理は振り返り、隣に控えていた冷徹な女性参謀・経済大臣カタヤマに視線を送った。「カタヤマ。今すぐ宮内庁を動かし、天皇陛下に発言させなさい。内容は何でもいい、偽の声明でも構わない。『国民よ、ただちに暴動を収め、現政府に従え』とね。大和魂とやらを取り戻した愚民どもよ、陛下の言葉なら一発で平伏すわ」「御意に。すぐに手配を」カタヤマは微塵も表情を変えず、冷酷な声で一礼した。さらに女性総理は、デスクの端で硬直しているもう一人の女性閣僚に、冷たい言葉を投げかけた。移民たちの管理を一手に担う共民大臣――オノダである。「オノダ大臣。何を突っ立っているの? まだ洗脳が解けていない『共民』どもを全員叩き起こしなさい。スマホのアプリで一斉に狂暴化コードを送信するのよ。奴らを肉の壁、兵隊として利用し、東京へ進撃してくるソシジと自衛隊を相撃ちにするの」「っ……!」オノダの端正な顔が、屈辱と激しい葛藤で歪んだ。実は彼女も、コイズミと同じく本来は熱き大和魂の持ち主だった。しかし、最愛の家族を政府に人質に取られ、逆らえば家族の命はないと脅され続けた結果、日本を壊す「共民大臣」という最も嫌悪すべき泥を被らされていたのだ。震える手で端末を見つめるオノダ。その脳裏に、かつて女性総理が自分に語った「今は耐えて。すべては、この国を一度壊して真に強く再生させるためよ」という言葉が過る。家族のため、および「この総理なら、いつかきっと日本を救ってくれる」という、狂気の中の細い蜘蛛の糸のような盲信だけが、今の彼女を支えていた。「……総理。本当に、これで日本は救われるのですね……?」「ええ、もちろんよ。早くしなさい」女性総理の冷淡な声を信じ込もうと己に言い聞かせ、オノダは涙を呑んで執行ボタンを押した。その瞬間、東京全域の数百万の移民たちのスマートフォンから、脳を狂わせる高周波の裏電波が放たれ、共民たちが狂暴な兵士へと変貌していく。そして最後に、女性総理は部屋の最も暗い奥に佇む、巨大な影に声をかけた。「タモガミ。あなた直属の特殊部隊SWATを、全隊出動させなさい。東京に近づく者は、たとえ自衛隊であろうと一人残らず駆逐するのよ」 「……了解」暗闇から姿を現したのは、かつてソシジやユウキたちの仲間であり、人望の厚かった漢――タモガミだった。しかし、今の彼の姿に、かつての面影はない。彼の肉体の半分以上は、冷徹なチタン合金と電子基板で埋め尽くされ、感情を奪われた『サイボーグ』へと無惨に改造されていたのだ。赤く発光する機械の眼が、暗闇の中で妖しく明滅する。「ターゲット確認。……全員、排除する」数百万の共民の防壁、利用される玉座、苦悩のオノダ、およびサイボーグと化したかつての友。東京を目前にして、ユウキたちを待ち受けるのは、自由党政権が用意した過去最大の、および最凶の防衛網だった。


第21話:『二つの裏切り――覚醒の切りジョーカーと保身の嘘狸』


東京を包囲する共民の軍勢。絶望が首都を覆い尽くそうとしたその時、すべての日本国民のスマートフォン、あるいは地下ネット回線に、ある動画が一斉に強制配信された。画面に映ったのは、埼玉の政治家、カワイだった。彼はカメラを真っ直ぐに見つめ、魂を揺さぶるような声で叫んだ。『――我が同胞、ソシジの志士たちよ。今こそ、立ち上がる時だ!』自由党政権の監視を掻い潜り、関東を中心に密かに地下武器庫を建設し、弾薬を集め続けていた男。カワイの自由党内での裏の顔、それこそがソシジ最高幹部にして、現体制をひっくり返す切り札――コードネーム【ジョーカー】だった。政府のワクチン強制接種を拒み、ポイント制度の最底辺で「非国民」と虐げられ、日陰暮らしを強いられてきた関東のソシジ会員たち、その数なんと二十万人。カワイの発信と同調し、関東全域に隠された地下倉庫のハッチが次々と開け放たれる。「待ちかねたぞ、この時を……!」志士たちが一斉に武器を手に取り、地上へと駆け上がった。突如として背後から現れた二十万の伏兵の軍勢に、オノダの電波で理性を失い暴れていた共民たちは瞬く間に無力化されていく。カワイ率いるソシジの精鋭一隊が、永田町への進軍に先駆けて急襲・制圧を狙う場所――それは、新宿にそびえ立つ首都の行政中枢『東京都庁』だった。その頃、都庁の最上階にある知事執務室では、階下から響く不穏な 銃声と怒号、そして手元の端末に映し出された「関東ソシジ蜂起」の緊急報に、東京都知事が激しく狼狽していた。「なんなのよ、この暴は……! 治安維持部隊は何をやっているの!?」トレードマークである鮮やかなグリーンのジャケットを激しく震わせ、デスクを叩く。画面に映し出されたソシジ関東最高幹部の顔写真――長年、自由党の内部で大人しく無害な政治家を装っていたカワイの姿を見た瞬間、都知事の瞳が屈辱と後悔で血走った。「カワイ……! あの男が、政府を内側から破壊するソシジの『ジョーカー』だったというの!? ……ああ、忌々しい! 以前受けた違和感の段階で、やはり私の勘を信じて、どんな手段を使ってでもカワイは潰しておくべきだったんだわ……!」自由党の懐深くへ完全に潜り込み、自分たちを騙し切ってみせた潜入スパイの知略に、今更ながら気づいてももう遅かった。ドガァァァン!!激しい爆音とともに、知事執務室の重厚な防犯ドアが粉々に蹴り破られた。「動くな!」自動小銃を構えた志士たちが次々と乱入し、一瞬で部屋を制圧する。その銃口の列の中心から、長年被り続けていた潜入スパイの仮面を完全に脱ぎ捨てた漢――カワイが、冷徹な目を光らせて静かに姿を現した。完全に退路を断たれ、都庁の防衛線が崩壊したと悟った瞬間、コイケの顔からそれまでの狼狽が嘘のように消え失せた。彼女はグリーンのジャケットの襟をスッと正すと、さも最初から味方であったかのような厚顔無恥な顔をして、両手を上げてカワイの前に進み出た。「待ちなさい、ソシジの皆さん! 誤解しないで。私がこれまで自由党の独裁に従ってきたのは、すべて都民の命と生活を最優先に守るため……そう、真の意味での『都民ファースト』を貫くための偽装だったのです! 私は今この瞬間を以て、現自由党政府との決別を宣言します! さあ、私を保護して、一緒にあの狂った総理たちを倒しましょう!」悪びれもせず、ペラペラと都合の良い言い訳を並べて現政府をあっさりと裏切る嘘狸。だが、監獄のユウキと同じく地獄をくぐり抜けてきたカワイには、その使い古されたパフォーマンスなど一切通用しなかった。「……相変わらず勝ち馬に乗るのだけは早いな、緑狸。おい、連れて行け」「な、何をするの! 私は知事よ! 無礼者、離しなさい!」都知事は必死に金切り声を上げたが、志士たちによって無慈悲にワイヤーで両腕を縛り上げ上げられ、そのまま引きずり出されて拘束された。首都の最高権力の一角が、実にあっけなく陥落した瞬間だった。その頃、首相官邸の最深部、シークレットルームの巨大モニターには、都庁がソシジによって制圧され、コイケ知事が無残に連行されていくリアルタイムの映像が映し出されていた。それを見ていた歴代総理のキシダとイシバが、青筋を立ててモニターを指差しながら、忌々しそうに罵声を浴びせた。「おい、あの緑の嘘狸め! 防衛線をあっさりと破られおって!」キシダがデスクを激しく叩いて怒鳴れば、イシバもまた、冷酷な目で画面を睨みつけ、ねちねちとした声で吐き捨てる。「ふん、さすがは利権の泥船から真っ先に逃げ出す狸だな……。常に自分が生き残ることしか考えていない。我々を裏切ってソシジに命乞いをするとは、どこまでプライドの無い女だ」歴代の男たちが醜く騒ぎ立て、女性総理がそれを冷たい目で見下ろす中、独裁政権の防衛網は確実に、そして内側から崩壊を始めていた。


 第22話:永田町の死闘、友よ鋼鉄の呪縛を撃て


しかし、独裁政権の残された刃はなおも甘くなかった。ドン!!!凄まじい大砲の轟音が響き渡り、官邸前へ進軍した民衆の列が炎とともに吹き飛んだ。各地から上がる黒煙と爆音。現れたのは、自由党直属の特殊部隊SWATの戦車群だった。さらに、周囲のビルの屋上や窓から、容赦のない銃撃の嵐が降り注ぐ。パァン! パァン! と乾いた発砲音が響くたび、的確にソシジのリーダー格の頭部が撃ち抜かれ、血飛沫が舞う。寸分の狂いもない、機械的な狙撃。「ひ、悲鳴を上げるな! 戻れ! 逃げろ!」先ほどまでの歓喜は一瞬で恐怖へと塗り替えられ、国民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。その硝煙が立ち込める大通りの中心に、巨大な影が立っていた。チタンの肉体を持つサイボーグ、タモガミ。彼の赤い機械の眼が、冷酷にターゲットを補正していく。「タモガミ……やっと会えたな」瓦礫の陰から、カワイ――ジョーカーが一人、姿を現した。ジョーカーが危険を冒して自由党政権のスパイを続けていた本当の理由。それは、組織を裏切ったとされるタモガミが、実は脳をハッキングされ、サイボーグに改造されていることを突き止め、彼を救い出すためだった。ジョーカーは懐から特殊なジャミング装置を取り出し、スイッチを押した。ピピッ――!タモガミの脳に直結していた人工知能の制御コードが、一瞬だけ緩和される。チタンの顔面が激しく痙攣し、赤い眼の光が微かに揺らいだ。「……カ、カワイ……か……?」タモガミの人工声帯から、掠れた、しかし紛れもない「かつての友」の本物の声が漏れ出た。「頼む……カワイ。俺を……殺してれ……。もう、自分の手で、同胞を殺したくないんだ……っ!」タモガミの魂の叫び。しかし、ジョーカーは悲痛な面持ちで首を振った。「俺には無理だ、タモガミ……。お前を救うためのハッキングはできても、俺には、お前を殺すだけの武力がない……!」「――システム、強制復旧。排除モードへ移行」非情にも人工知能のセキュリティが再起動する。タモガミの意志とは無関係に彼の巨大な機械の腕がガチガチと音を立てて持ち上がり、ジョーカーの胸元へ狙いを定めた。タモガミの瞳から光が消え、再び冷徹な殺戮マシーンへと戻っていく。ジョーカーは銃を構えることもせず、静かに目を閉じた。友の手で殺されるなら、それも運命だと諦めた、その瞬間だった。ズガガガガガガガガガギギギギギギィィィン!!!!東京湾の最奥、築地・汐留の湾岸線を、あり得ない巨大な影が引き裂いた。コイズミの操る最新鋭イージス艦が、限界を超えた超高速で浅瀬へと突入し、防波堤を、コンクリートの岸壁を、高架道路を文字通り「ブチ破って」、陸地へと大激突したのだ!凄まじい地響きと、鉄の擦れ合う爆音。数万トンの巨体がビル群をなぎ倒しながら、永田町の手前、タモガミとジョーカーのすぐ目の前へと、白煙を上げて完全着艦した。バハァァァン! とイージス艦の重厚なハッチが爆風と共に吹き飛ぶ。煙の中から飛び出してきたのは、アサルトライフルを構えたユウキ、漆黒の戦闘服を纏ったミツキ、および元上司のコイズミだった。「間に合ったか……!」ユウキが叫ぶ。立ち上る煙の向こう、赤く光る機械の眼を持った巨大なサイボーグが、ゆっくりとこちらを振り返った。「ターゲット捕捉。……ユウキ、ミツキ」かつてソシジの拠点で共に鍋を囲み、日本の未来を語り合った、優しく頼もしかった漢。その変わり果てた姿を前に、ユウキの胸に激しい衝撃と怒りが突き刺さる。「タモガミさん……! その体……一体何をされたんだ!!」悲しき再会、および宿命の対峙。大和魂を取り戻した志士たちと、自由党政権が誇る最凶の「サイボーグの友」による、最後の死闘の火蓋が切って落された。「排除、開始」サイボーグと化したタモガミの右腕が、不気味な駆動音を立てて変形した。銃口から放たれたのは、現代の物理兵器の常識を覆す、眩い光の奔流――【ビームライフル】だった。凄まじい熱線が空気を焼き、イージス艦の強固な装甲を一瞬でドロドロに融解させる。誰も見たことのない最新兵器の威力を前に、ユウキたちは一歩も近づくことができない。圧倒的な、絶対的な絶望。「これでも喰らいやがれッ!!」陸に乗り上げたイージス艦の艦橋から、コイズミ防衛大臣が叫んだ。照準はゼロ距離。タモガミの巨体に向け、イージス艦が誇る最強の艦載砲【五十四口径百二十七ミリ単装速射砲】が火を噴いた!ズガァァァァァン!!!凄まじい爆音と共に放たれた超大型砲弾が、タモガミの胸へダイレクトに激突する。大爆発が巻き起こり、永田町の一角が強烈な爆炎と黒煙に包み込まれた。誰もが「やったか!」と息を呑む。しかし、煙の向こうから、一歩も退かずに立ち尽くすタモガミの影が現れた。主砲の直撃をもってしても、彼のチタン合金の鎧が剥がれ落ち、内部の機械心臓部が剥き出しになっただけだったのだ。「今だ、ユウキ!!」コイズミの激が飛ぶ。爆炎の幕を切り裂き、ユウキが剥き出しになったタモガミの心臓部めがけて、魂を乗せた刃を突き出し猛突進した。だが、タモガミの戦闘AIは生きていた。左腕から超高熱の【ビームサーベル】が文字通り“すかさず”起動し、突進するユウキの首を容赦なくハサミ込もうと、光の刃が不気味に輝く。「させるかァァァッ!!」瓦礫の陰から、ジョーカーが絶叫した。ハッキング端末のスイッチを、渾身の力で叩きつける。ピピッ! と警告音が鳴り、タモガミのサーベルの軌道が一瞬だけ、ほんのコンマ数秒だけブレた。人工知能の緩和。ジョーカーが命を賭けて作った、唯一無二の隙!「ハァァァァァッ!!」その瞬間、上空から超高速で舞い降りたミツキの刃が閃いた。完璧な太刀筋。ガキィィィン!!! と凄まじい金属音と共に、ビームサーベルを握るタモガミの左腕が、肘の関節から綺麗に切断されて宙を舞った。「――おおおおおおおッ!!」遮るもののなくなったタモガミの胸へ、ユウキが自らの体重、および散っていった仲間たちの全ての想いを乗せて、サバイバルナイフを突き刺した。チタンの隙間をすり抜け、ブレードが最深部にある、激しく明滅する機械心臓部へと深く、深く突き刺さる。バチバチバチバチッ!!!タモガミの全身から激しい電撃のような火花が散り、赤い機械の眼の光が、静かに、および完全に消灯した。どさりと、タモガミの巨大な体が膝をついた。サイボーグのシステムが完全にシャットダウンしたことで、皮肉にも、彼の脳のハッキングが完全に解けた。タモガミは、胸に刃を突き立てたままのユウキ、および隣に立つミツキを、生身の、人間の優しい目で見つめ返した。その顔には、苦しみではなく、やっと呪縛から解放されたという穏やかな笑みが浮かんでいた。「……ユウキ……と、その子は娘さんか……」タモガミは、動かなくなった右腕の代わりに、残された胸のスピーカーから、かつての温かく頼もしかった声で、ゆっくりと言葉を紡いだ。「強く……なったな。……見事だ。…褒めてや…る。』 かつてソシジの兄貴分として、誰よりもユウキたちの安全を願い、誰よりも日本の未来を憂いていた漢。最期に遺したのは、冷徹な兵器としての言葉ではなく、友と娘の成長を心から誇る、温かい賞賛の言葉だった。「タモガミさん……! タモガミさぁぁぁん!!」ユウキの叫びが空に響く。タモガミは満足そうに微笑んだまま、二度と動かない鉄の英雄となり、その誇り高き大和魂を天へと還した。「パパ……タモガミさんの想いも連れていこう。……残るは、あの官邸の中だけだよ」ミツキが涙を拭い、官邸の重厚なドアを睨み据える。「ああ。決着をつけよう。この国の、本当の夜明けのために!」友の死を乗り越え、ユウキ、ミツキ、コイズミ、およびジョーカー率いるソシジの軍勢は、女性総理が立てこもる首相官邸の最深部へと、一斉に突入を開始した。


第23話:阿鼻叫喚の首都、縛られた傀儡大臣の最期


タモガミの壮絶な最期を見届けたユウキの無線機に、激しいノイズを突き破ってカミヤの力強い声が飛び込んできた。『ユウキ、ミツキちゃん、キタムラ! すまない、遅くなった!』最高指導者カミヤの冷静かつ非情なまでの優しさがスピーカーから響く。『我々ソシジ本隊は今、靖国神社に到着した。……大坂からついてきてくれた義援軍は、二十三区の手前で進軍を止めさせてある。これ以上の民間人の犠牲は絶対に出さない。ここからは、訓練を受けたソシジ戦闘部員のみで官邸を包囲する! 同時に、二十三区内の民間人の避難誘導を急がせろ。これより、自由党独裁政権の息の根を止めにいく。――全軍、進軍開始!!』 その頃、首相官邸のシークレットルームは、文字通りの地獄と化していた。外から響き渡るソシジの進軍音と、陸に乗り上げた自衛隊イージス艦の圧倒的な威容を前に、女性総理は完全に理性を失い、般若の如き顔でオノダの胸ぐらを乱暴に掴みあげた。「オノダ大臣!! 何をしているの!? 共民どもの脳内電波コントロールを『最大(リミット解除)』にしなさい! ソシジも自衛隊も、近づく奴らは全員噛み殺させなさい!!」「そ、そんなことをすれば……彼らの脳は完全に破壊され、二度と人間に戻れなくなります……!」オノダは涙を流して拒絶した。しかし、女性総理は冷酷な笑みを浮かべ、彼女の耳元で邪悪に囁いた。「お前の家族の命がどうなってもいいの? やりなさい!!」 家族の命、そしてこの総理がいつか日本を救うという最後の盲信。オノダは絶望のどん底で、割れるような痛みに耐えながら、執行の承認コードを震える指で叩き込んだ。 その瞬間、東京全域の数百万の移民「日本共民」たちのスマートフォンから、脳を狂わせる高周波の裏電波が一斉に放たれた。 「ウガ、ァァアアア!!」東京のあらゆる街頭、ビル、住宅から、人間のものではない悍ましい咆哮が炸裂した。共民たちの瞳のNCIレンズが真っ赤に血走り、思考ハッキングシステムが限界を超えて暴走を始める。彼らの理性は一瞬で消滅し、生身の肉を貪り食うためだけに動く「食欲だけのゾンビ」へと変貌した。 凄惨なパニックは、まず道路の上から始まった。暴走の電波を脳に受けた瞬間、車を運転していた共民たちは一斉に白目を剥き、全身を激しく痙攣させて硬直した。制御を失った凄まじい数の乗用車や大型トラックが、アクセルを踏み込んだまま猛スピードで交差点へ突っ込み、ガードレールをなぎ倒して周囲のビルや対向車へと大激突していく。ズガガガガーン! ドガァァン! と、あちこちで凄まじい爆発音が響き渡り、炎上した車から黒煙が天を突くように立ち上った。ひっくり返った車内のダッシュボードやフロントガラスを突き破り、頭から血を流した共民たちが、奇怪な動きで這い出てくる。彼らはもはや日本語の単語すら忘却し、自らの生まれ故郷の母国の言葉を、狂ったように叫び散らした。「〼〼〼〼〼〼!」「アアア! 〼〼! 〼〼〼〼!」「ウガァァァッ!」理解不能な言語の怒号と絶叫が夜の街に木霊する。彼らは骨のきしむような異常な前傾姿勢で、生きている日本を見つけるや否や、獣のような恐るべき脚力で猛烈に突進してきた。「いやだ! 来るな! 助け――ギャァァァァァッ!!」逃げ遅れた一般国民の悲鳴が響く。ゾンビ化した共民たちは民間人に容赦なく掴みかかると、生身の首筋や腕に鋭い牙を突き立て、肉をブチブチと引きちぎり、生々しく貪り食った。飛び散る鮮血と、引き裂かれる肉体の音。かつて「平和で優しい社会」を演じていた首都・東京は、一瞬にして阿鼻叫喚の肉の屠殺場へと変貌を遂げたのである。 ………すべてが終わった。自分の手で、愛するこの国を地獄に変えてしまった。 オノダはふらふらとした足取りで総理執務室へと移動した。その瞳の奥には、最後まで売国奴の泥を被りながらも、決して絶やされることのなかった「大和魂」の最後の残り火が、静かに、しかし激しく燃え盛っていた。 「私は国を壊す片棒を担いだ……何も貢献できていない。だけど、せめて……本当の黒幕の姿だけは、国民の目に焼き付けて逝く……!」 彼女は血の涙を流しながら、大臣専用の端末を猛烈な速度で叩いた。総理がトップシークレットルームにある赤い専用電話ホットラインを上げた瞬間、その会話のすべてが自動的に【全国民のスマートフォンやテレビ】へ強制生放送されるという、命をかけたハッキングプログラムの起動。それが、彼女が日本の未来に遺せる、最後の牙だった。 仕掛けを終えた彼女は、机の上のカメラを起動し、全国へ向けた最後の電波を発信した。画面に映し出されたオノダの顔は、かつての迷いが消え去り、気高い日本人の誇りに満ちあふれていた。 「国民の皆様……本当に、申し訳ありませんでした。私は……大和魂を、捨ててはいなかった……。ですが、家族を……。どうか、日本を、取り戻して……」 最愛の家族への想いと、犯した大罪への壮絶な懺悔。オノダは静かに愛用の拳銃を自らの頭へと突きつけると、涙を流しながら、一切の躊躇なく引き金を引いた。 バァン――。

乾いた銃声が響き、彼女の身体がデスクへと倒れ込む。真の大和魂をその胸に抱きながら、最後の最期に国家を救う特大の切り札を遺し、邪悪な傀儡の糸を断ち切った大臣の、あまりにも壮絶で哀しい最期だった。


第24話:『響け君が代の祈り、大御心はみたからを護る救いの門をひらく』


東京23区内は、完全にこの世の終わりを告げる地獄絵図と化していた。オノダ大臣が遺した最悪の電波によって理性を失い、怪物となった数百万の共民ゾンビの数が多すぎたのだ。街を埋め尽くす黒い波のような群勢は、狂ったように吠え猛りながら、逃げ惑う一般国民へ容赦なく襲いかかっていた。いたる所で肉を引きちぎられる悲鳴が響き、アスファルトは血の海に染まる。逃げ場を失った国民たちが完全に絶望の淵に立たされた、その時だった。 官邸のモニター室では、冷徹な女性参謀・カタヤマがキーボードを叩き、全国の電波をジャックしてAIのフェイク動画を流していた。『国民に告ぐ。これは天皇陛下のお言葉である。――国民よ、ただちにデモをやめ、現政府に従いなさい』卑劣な偽の声明で国民をさらに罠に嵌めようとする現政府。しかし次の瞬間、その音声は激しいノイズと共に遮断された。画面に映し出されたのは、偽物の動画などではない。皇居の奥深く、武闘隠密に長けた幹部サクライが命がけで皇室へ侵入し、電波を直に繋げたことで放送された、政権の傀儡から解き放たれた女性天皇の気高く、美しい姿だった。カタヤマのハッキングをキタムラがイージス艦から逆探知し、真実の電波を流し込んだのだ。女性天皇は、溢れる涙を隠そうともせず、我が子である国民へ向けて悲痛ながらも凛とした声で語りかけた。『国民の皆様。政府の偽りの言葉に惑わされてはなりません。今、東京は狂気に包まれています。……皆様、どうか生きてください。これより、皇居の正門をすべて開放します。二十三区内の逃げ切れない国民の皆様、今すぐに皇居へ避難してください。ここは、皆様――我が国の『みたから』を命にかえても守るための場所です』「陛下……っ! 陛下が、私たちを呼んでくださっている!」そのお言葉に、何十万の国民の瞳に希望の光が灯った。国民たちは一斉に、開かれた皇居の正門を目指して走り出した。 しかし、その避難する国民の背後から、血に飢えた数百万のゾンビの群れが、猛烈な勢いで迫ってくる。「一般国民を先に中へ入れろ! 門の手前は俺たちが死守する!」皇居の門前、防波堤となって立ちはだかったのは、カミヤ、ユウキ、ミツキ達率いるソシジの精鋭戦闘部隊、そして大坂から駆けつけた【人道山上組】の漢たちだった。彼らは自らの命を完全に捨て、肉の壁となって押し寄せる怪物の群れを食い止めた。「オラァッ! 日本人を一人だって殺させんぞ!」山上組の組員たちがドスや鉄パイプを振るい、ユウキとミツキが極限の格闘術でゾンビをなぎ倒していく。凄まじい肉弾戦の中、仲間たちが次々と傷つき、血を流しながらも、彼らは最後の一人が皇居へ逃げ込むまで、決してその防衛線を退かなかった。 決死の誘導により、何十万もの国民が皇居の広大な敷地内へと雪崩れ込み、重厚な正門が固く閉ざされた。 張り詰めた恐怖と、奇跡的に助かった安堵が広場を支配する中、誰からともなく、小さく震える歌声が上がった。それは、日本の国歌――「君が代」だった。その一人の歌声は、またたく間に隣の者へ、さらにその隣の者へと伝染していった。皇居に逃げ延びた数十万の国民による、「君が代」の特大の輪唱が始まった。カエルの合唱のように、時間差で幾重にも折り重なっていく静かな祈りの歌声。それは瞬く間に巨大な津波のような音圧となり、皇居のもりを、東京の空を、そして大地を激しく揺るがす大咆哮へと変わっていった。「君が代は 千代に八千代に――」その、純血の日本人が魂の底から響かせる聖なる歌声と、大地を揺るがす圧倒的な地響きが轟いた瞬間、皇居の門外に押し寄せていた共民ゾンビたちの動きがピタリと止まった。「ウ、ウアアアア……ッ!」理性を失っていたはずの怪物たちは、日本人の魂の共鳴が放つ凄まじい波動に脳を圧迫され、鼓膜をかきむむしって苦しみ出した。その神聖な歌の力の前に、ゾンビたちは恐怖をなして後退し、皇居へ一歩も近づくことすらできなくなったのだ。歌声が響き渡る皇居の広場に、静かに、一人の女性が姿を現した。男系女性天皇その人であった。お供の制止を振り切り、陛下は傷だらけで床に座り込む国民たちの元へと、自らの足で歩み寄られた。そして、高貴な衣が泥や血で汚れることも厭わず、その場に膝をついたのである。 陛下は、ゾンビに噛まれ、血を流して泣いている一人の幼い子供の手を優しく取り、包帯を優しく巻きながら、涙を流して深く頭を下げられた。「本当に、本当に申し訳ありませんでした……。我が国の象徴でありながら、政府の暴走を止められず、大切な我が子たちを、これほどまでに苦しめてしまった……。本当に、よく生き抜いてくれました……」一国の天皇が、一人の傷ついた国民のために涙を流し、謝罪しながら自らの手で直接手当てを施していく。そのあまりにも慈悲深い大御心おおみこころに触れた瞬間、周囲の国民たちの胸に、堪えていた感情が爆発した。「陛下……! 陛下ぁっ……!」「ありがたや……ありがたや……っ!」広場は、国民の激しい感動の涙で溢れかえった。ハッキングされた偽りの笑顔ではなく、誰もが本物の涙を流し、お互いを抱きしめ合っていた。失われていた「大和魂」と、国を愛する本物の絆が、天皇と国民の間に再び結ばれた瞬間だった。その後、官邸のモニターの前では、全ての計画が完全に瓦解したことを悟ったカタヤマが、絶望の中で静かに毒を飲み、孤独な自決を遂げているのが見つかった。 皇居を包み込む「君が代」の歌声は、狂った世界の終わりと、本物の日本の夜明けを告げるように、どこまでも高く響き渡り続けていた。


第25話:深淵のホットライン、操り人形たちの終焉


首相官邸のトップシークレットルームの片隅で、歴代総理の一人であるスガは、ずっと微動だにせず椅子に深く腰掛けていた。脳内を完全にコントロールされ、この数年間、人形のように一言も話さなかった男。しかし、オノダ大臣の壮絶な自決、そして皇居に響き渡った「君が代」の地響きが、彼の脳の奥底に眠る大和魂の回路を、最期の最期で力ずくで覚醒させていた。 スガは音もなく立ち上がると、自らの身体に大量の軍用爆薬を巻き付け、信管のスイッチを握りしめて官邸の正面装甲扉の内側へと歩み寄った。自由党の独裁を内側から爆破する――それが、泥を被り続けた彼の最後の仕事だった。 完全にハッキングされていたはずの彼の瞳に、一瞬だけ、かつて国を憂いた本物の政治家としての気高い光が宿る。爆発する、まさにその一瞬前。スガは押し寄せる洗脳の呪縛を力ずくでねじ伏せ、誰にも聞こえないほどの小さな小声で、しかし魂のすべてを込めて呟いた。「……天皇陛下、万歳……」

カチリ。信管が押された。ドンッ!!!!!次の瞬間、首相官邸の強固な正面装甲扉が、内側からの凄まじい大爆破によって木端微塵に吹き飛んだ。爆風と黒煙の中、全身が黒炭のように焼き尽くされたスガの遺体が転がり出る。彼は自爆することで、官邸の絶対防壁を「内側から破った」のだ。 「入り口が開いたぞーーーッ!!!」爆煙を突き抜け、ソシジのフラッグを掲げたカミヤが、ユウキ、ミツキ、そしてコイズミと共に、崩壊する官邸へと怒涛の勢いで突入していく。「決着をつけよう、自由党ォォォッ!!!」 硝煙が立ち込める国会議事堂の奥深く、赤絨毯が敷かれた重厚な大広間。そこに、三人の最高権力者たちが立ち尽くしていた。現・女性総理大臣、そして元総理のキシダとイシバである。 「そこまでだ、自由党」カミヤが冷徹な声で告げ、ユウキとミツキの銃口が的確に彼らの眉間を捉えた。コイズミが手際よくキシダとイシバの二人の両腕を掴み、背後で頑丈なワイヤーで縛り上げる。だが、完全に退路を断たれ、追い詰められたこの元首相たちは、反省するどころか、醜い顔を歪めて国民への「最悪の本音」を次々と大声でぶちまけ始めた。「ハハッ! 何がソシジだ、何が大和魂だ! バカバカしい!」キシダが顔に青筋を立て、唾を飛ばしながら嘲笑する。「あんな愚民ども、ポイントというエサを与えておけば、喜んで互いを密告し合って奴隷化していく従順な家畜なんだよ! 搾り取れるだけ搾り取って、ポイントで一喜一憂するアホな羊どもが、今更正気になって何ができるというんだ!」 イシバもまた、冷酷でねちねちとした声を議場に響かせた。「その通りだ。救いようのない日本のバカどもが。俺たちが今までどれだけ泥を被って、あの素晴らしいポイント管理社会の土台を作ってやったと思っている。この国の血も、肉も、土地も、海外の巨大な利権に切り売りして、俺たちは永遠の富と権力を得る契約なんだよ! 家畜が主人に逆らうな!」「そうよ!」女性総理も髪を振り乱し、ユウキたちを睨みつけて叫ぶ。「私は選ばれた正当な権力者、お前たちはただのテロリストよ! 国際社会が、海外の首脳陣が、あなたたちのような排外主義者を絶対に許さないわ!」 あまりのクズっぷり、あまりの救いようのなさに、ユウキは引き金を引く指が怒りで震えた。「……どこまで腐ってやがる、お前らは……!」彼らの最悪の本音が響き渡った、まさにその時だった。バリィィィン!!! と議事堂のステンドグラスがド派手に叩き割られ、凄まじい地鳴りのような咆哮が空間を震わせた。 「ウガァァァァァッ!!」オノダ大臣の電波によって完全に「食欲だけのゾンビ」と化した、数千、数万の共民の群勢が、ついに議事堂内へと津波のように雪崩れ込んできたのだ。 「ひっ、ひぃぃぃ! 来るな! 来るなァァッ!」身動きの取れないキシダとイシバが絶叫した。自らが日本の人口を追い抜くために無制限に受け入れ、最後はソシジを圧殺するための兵隊として狂暴化させた「共民」たち。しかし、理性無き怪物たちは、かつての主の命令など完全に忘却し、飢えた獣の目でキシダとイシバに一斉に群がった。 「ああ(ギャァ)あああッ! 俺が、俺が受け入れてやったのにぃぃぃッ!!」「助け……ギャァァァァァッ!!」バリバリ、ブチブチと肉を引きちぎる音が響く。自らが仕掛けた罠に自らが喰われるという、あまりにも凄絶で救いようのない因果応報の断末魔が議事堂に木霊した。 「カミヤ先生、あいつッ!」ユウキが叫んだ。キシダたちがゾンビに貪り食われる一瞬の混乱の隙を突き、女性総理が壁の隠し扉へと滑り込み、絶対不可侵の『トップシークレットルーム』へと閉じこもって完全ロックをかけたのだ。 「逃げ場はない。彼女が最後に誰に縋るのか、見極めさせてもらう」コイズミが静かに告げたその瞬間、議事堂のモニター、そして日本中のすべてのテレビやスマートフォンの画面が、突如として一斉に切り替わった。 画面の隅には、自決したオノダ大臣の署名コードが刻まれていた。彼女が命と引き換えに仕込んでいたプログラムが自動発動し、トップシークレットルームの音声が【全国民への生中継】として完全ジャックされたのだ。 日本中が息を呑んで見つめる中、画面の向こうの暗闇の部屋で、女性総理はガタガタと震えながら、デスクの上の赤い専用電話ホットラインにしがみつき、涙を流して叫んでいた。「助けて……助けてください! 失敗しました、大和魂が目覚めてしまいました! 今すぐ人工衛星から洗脳上書きをして、この国の暴徒どもを一人残らず消し去ってください!!」 売国の女王がプライドを捨てて命を乞うた、その受話器の向こうから返ってきたのは、歴史の裏に隠された絶対的な支配者が使う、冷徹な【ヘブライ語】の音声だった。 『――סיום (終わりだ)』自動翻訳機の冷酷な音声がスピーカーから響く。『一億人の大和魂が目覚めた以上、君たち自由党政権の利用価値は消滅した。失敗の対価を支払う時間だ』 「え……? 待って、お待ちください! 私はあなた方の計画通りに――」カチリ。ヘブライ語の男が冷酷にスイッチを押した。 その瞬間、女性総理の胸の奥から、不気味な電子音が響いた。それだけではない。ゾンビたちに引きずり回されていたキシダ、イシバの胸からも、一斉に同じ音が鳴り響いた。 世界を裏から牛耳る存在によって、歴代総理全員の心臓に埋め込まれていた緊急停止用の「遠隔チップ」。それが、一斉に作動したのだ。 「あ……あ、あァァァッ!!」女性総理は胸を強く掻きむしり、血を吐きながら床へと崩れ落ちた。キシダもイシバも、心臓を完全に破壊され、白目を剥いてその場で絶命した。日本の支配者として傲慢に振る舞っていた自由党の面々は、自らが仕えていた真の黒幕の手によって、一瞬にしてゴミのように処分された。哀れな操り人形たちの、凄惨な終焉だった。 静まり返る議事堂。システムダウンによってトップシークレットルームの扉が静かに開く。床に転がる女性総理たちの亡骸を、ユウキ、ミツキ、カミヤ、コイズミが冷たい目で見つめていた。 「……アソウの言っていた黒幕は、現政府のさらに上にいたか」カミヤが低く呟いた。自由党独裁政権は、ここに完全に崩壊したのである。


第26話:星条旗の鉄槌、天から降り注ぐ救済の光


自由党の操り人形たちが悲惨な終焉を迎えたその直後、東京の空を、割れんばかりの重低音の爆音が完全に支配した。それはソシジの軍勢のものでも、退路を断たれた自衛隊のものでもない。 「何だと……!? 米軍が、これほどの規模で動いたのか!?」議事堂の窓から上空を見上げたコイズミが、その圧倒的な物量に目を見開いた。横田、横須賀、座間――日本国内のあらゆる米軍基地から、最新鋭のステルス戦闘ヘリ、超大型装甲車、そして完全武装の米兵たちが、怒濤の勢いで一斉に出撃を開始したのだ。 しかし、その軍勢はこれまでの戦争の常識を完全に覆すものだった。彼らが手にしていたのは、火薬を使った硝煙の匂いがする殺傷兵器では断じてなかった。銃身から青く神聖な光を放つ、未知の【洗脳無効化・電磁パルス銃】。アメリカは、人類の脳と思考を支配する「次世代の戦争(認知戦)」の到来をすでに予期し、そのすべてを無力化する超ハイテク兵器を極秘裏に完全配備していたのである。「Go, Go, Go! ターゲットの脳内チップを中和しろ!」一糸乱れぬ戦闘システムの下、街へと展開した米兵たちが、凄まじい速度で電磁銃の引き金を引いていく。シュイン! シュイン! という未来的な高周波音と共に、青い閃光が夜の街を縦横無尽に駆け巡る。その光を浴びた瞬間、理性を失って襲いかかってこようとしていた数百万の共民ゾンビたちは、肉体を一切傷つけられることなく、脳内の狂暴化コードだけを物理的に一瞬で焼き切られていった。世界最強の軍隊が魅せた武力は、あまりにも圧倒的、かつシステマチックだった。統制の取れた戦闘ヘリ群が上空から街のブロックごとに特殊な防壁電波を張り巡らせ、地上の装甲車がゾンビの群れを瞬く間に包囲・無力化していく。銃弾一発すら無駄にせず、血を流させることもない。阿鼻叫喚の地獄と化していた東京23区の暴動は、米軍の到着から「ものの1時間」という、神業のような驚異的な速度で、何一つ傷跡を残さず完全に鎮圧されてしまったのだ。 それと同時に、日本中のすべての通信回線、テレビ、スマートフォンの画面が再び強制的にジャックされた。画面には巨大な星条旗が翻り、ついに【アメリカ大統領】の本物の姿が鮮烈に映し出された。 大統領は、世界を裏から牛耳る真の黒幕たちを一蹴するように、力強い英語で真っ直ぐに語りかけた。『――Congratulations. (おめでとう、日本の友人たちよ)』重厚な翻訳音声が、正気を取り戻した一億人の胸に響き渡る。 『我が国は、現時刻をもって、歴史の裏で世界を操ってきた利権団体との完全なる決別を宣言する。……日本人は、自らの力で目を覚ました! 命を賭して、気高き『大和魂』を取り戻した諸君らを、我が国はこれより、対等かつ『正式な最高の同盟国』として全面支援することを誓う』 大統領の宣言と同時に、宇宙空間の衛星軌道上に展開していたアメリカ軍最新鋭の軍事衛星が一斉に駆動した。キュゥゥゥン……という超高周波の駆動音と共に、目に見えない特殊な救済の電磁波が、東京23区全域に向けて天からピンポイント照射されたのである。 その光の洗礼を浴びた瞬間、オノダ大臣が起動させていた狂暴化の脳内電波は、宇宙からの照射によって完全に相殺され、一瞬にして無効化された。 「……ウ、ウア……。俺は、一体何を……」ゾンビのようになって床に這いつくばっていた数百万の共民たちが、次々と頭を押さえて立ち上がり、本来の優しい正気を取り戻していく。売国奴たちが仕掛けた最悪の罠は、アメリカの圧倒的な次世代武力によって、跡形もなく消し去られた。 そして、大統領の演説は、国会議事堂の大広間でモニターを見つめるカミヤの姿を捉えるように、さらに熱を帯びて続いた。大統領の視線が、画面越しにカミヤを真っ直ぐに射抜く。『最後に、この戦いを最前線で率いた偉大なる志士、ミスター・カミヤに告ぐ。我がアメリカは、これからの新しい日本を導く最高の後継者リーダーとして、あなたの存在に大いなる期待を寄せている。あなたが次なる『日本の総理大臣』となり、その気高き大和魂をもって国を再建するならば、我々は対等なパートナーとして、共に素晴らしい世界を築いていけるだろう。新しき総理、カミヤと共に、日米の未来に栄光あれ』

大統領からの、直々の政権交代への公式な期待と祝福の発言。自由党独裁政権は名実ともに完全に崩壊し、ついに、一億人の大和魂が導く真の日本の夜明けが、確固たる現実としてその姿を現したのだった。


第27話:『響け誠の産声、大政奉還の夜明け』


自由党の独裁体制が完全に崩壊した永田町。カミヤ率いる戦士たちは、手にした絶対的な権力を自分たちのものにはしななかった。彼らが向かったのは皇居であり、数百万のゾンビの脅威から国民の盾となって立ち塞がった、高潔なる天皇陛下の御前であった。それは、利権に塗れた政治を正し、日本という国家を本来のあるべき形へと戻すための、令和の**「大政奉還」であった。皇居の気高き拝殿の前、カミヤは静かに跪き、国の命運を陛下へと厳かに返還した。それを受け止められた女性天皇**は、集まった数万の国民、そして画面の向こうの一億人の『みたから』に向けて、静かに、しかし大地を震わせるほどの重みをもって語りかけられた。『国民の皆様。私たちは長い間、数字という目に見えぬ鎖に縛られ、互いを疑い、心を失いかけていました。しかし、皆様は自らの力で大和魂を呼び覚まし、この国の真の主権者として戻ってきてくれた。主権とは、誰かを虐げる力ではなく、この美しい国を、伝統を、そして隣人を愛し護り抜く覚意(覚悟)のことです。これからは、誰か一人の独裁者に国を委ねてはなりません。皆様一人ひとりが誠の心をもって国に参画し、共に歩んでまいりましょう』陛下の慈悲深くも力強いお言葉が響き渡った瞬間、集まった国民の間から、堰を切ったような歓声と、涙ながらの地鳴りのような声が湧き上がった。「俺たちが、この手で国を創るんだ……!」「二度と騙されない、二度とポイントなんかに心を売らないぞ!」洗脳から目覚めた一億人の覚醒の声。その圧倒的な熱気を受け、陛下よりカミヤたちへと、直々に新党の名が下賜された。「誠の心をもって国に参画し、民の声を紡ぐべし」その大御心おおみこころを体現する新党の名こそ、**【参誠党さんせいとう】**であった。壇上に立ったカミヤは、一億人の国民を真っ直ぐに見据え、新生日本の進むべき決意を大咆哮した。『我が同胞たちよ! 参誠党が掲げる国造りは、かつての分断社会とは真逆の、地を這うような3つの大改革である!1つ、【土地の返却と再生】! 外資や売国奴に切り売りされた日本の国土、農地、水源地をすべて国民の手に買い戻す! 利権のために汚された大地を、再び豊かな実りをもたらす生きた土へと再生させ、国の根幹たる農業を極限まで強化する!2つ、【国民の教育】! 他人を値踏みし密告し合っていた狂気の価値観を捨て、本来の日本人が持っていた徳性、歴史への誇り、そして『自分の頭で深く考える知性』を育てる教育を始める!3つ、【現移民との共存】! 正気を取り戻した彼らを、怒りに任せて排除はしない。それでは悪魔と同じだ! 我が国の文化と法を尊重することを厳格に求めた上で、同じ泥にまみれ、共に汗を流して明日の食糧を育てる仲間として、真の共生への道を拓く!』カミヤの決意の演説に、日本全土から天の雲をも吹き飛ばすような、凄まじい地鳴りのような雄叫びが轟き渡った。「おおおおおおおーーーーーーッ!!!」お上(誰か)に人生の舵取りを丸投げする時代は終わった。国民一人ひとりが当事者として立ち上がる。深く、重く、誰もが日本の未来を考えざるを得ない、本物の「大和の夜明け」がここに始まったのだ。


第28話(最終話):『大和の夜明け、新しき未来へ弥栄いやさか


それから、一年後――。大震災の傷跡を乗り越え、力強く復興へと歩みを進める福岡の街に、あの香ばしい匂いが帰ってきた。下町の路地裏に静かに灯る赤提灯。居酒屋『さるく』の再オープンである。「Welcome! Today's recommendation is Yame-chicken! インバウンドの皆様も、日本の美味しいお米と焼き鳥を心ゆくまで楽しんでいってくださいね!」

ホールの中心で、あの地獄の施設で身につけた英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、中国語の五ヶ国語を完璧に使いこなし、弾けるような満面の笑みで接客をこなす、十八歳になったミツキ。カウンターの椅子には、そんな愛娘の姿を優しく見つめるヒトミ。都会の狂気から離れ、八女の豊かな自然と自給自足の生活を経たことで、彼女の心臓の病気は完全に安定し、その瞳にはかつての聡明な光が満ちあふれていた。そして厨房で汗を拭いながら、忙しく、しかしこの上なく幸せそうに調理する店主・ユウキ。奪われていた家族の幸せな時間が、そこには本物の形で流れていた。カウンターの端では、首にタオルを巻いた作業着姿の男が、ジョッキのハイボールを美味そうに一気に干した。常連のナベさんだ。「ぷはぁーーっ! カァーッ、相変わらずユウキのところのハイボールは日本一美味いな! 身体の芯まで染み渡るわ!」「お疲れさん、ナベさん。顔が真っ黒に日焼けしてますね。相変わらず忙しそうっすね」ユウキが新しく焼き上がった焼き鳥を皿に盛り、目の前に差し出しながらニカッと笑いかける。ナベさんはガハハと豪快に笑った。「忙しいなんてもんじゃねえよ! 国外の変な利権が消えて国内の復興が一気に始まったろ? 全国どこの現場からも『クレーンが足りねえ! ナベさんのところの重機をすぐ回してくれ!』って、朝から晩まで電話が鳴り止まないんだ。おかげで嬉しい大パニックさ。でもよ、自分の操縦するクレーンで、日本の街が一日ごとにどんどん力強く建ち上がっていくのを見んのは……最高に気持ちがよかね!」「さすがっすね! これからの日本の復興は、ナベさんたちの腕にかかってますからお願いしますよ!」そんな男たちの活気溢れる会話を、ヒトミとミツキがカウンターの向こうで微笑ましそうに見つめていた。その時、店内の壁に掛けられた液晶テレビから、新生日本の今を伝える特別報道番組が流れ始めた。画面に映し出されたのは、かつて共に地獄を駆け抜けた**「あの4人の男たち」**の姿だった。

【液晶テレビから流れる特別ニュース番組】

 カミヤ(参誠党 党首)

「『土地の返却と再生』『真の国づくり』を掲げる参誠党・党首のカミヤ氏。本日も、外資に売却されていた農地の買い戻しと、大和の伝統を取り戻す教育改革の視察のため、自ら現場の農地へと赴き、国民と汗を流しています」 

カワイ(日本共民大臣)

「新たに新設された**『日本共民大臣』に就任したカワイ氏**。国内に残る『共民』による一部犯罪や暴走に対し、断固たる『取締代表』として治安維持の指揮を執り、法秩序の徹底的な回復と、厳格な共生ルールの確立を進めています」

キタムラ(国際弁護士)

「旧政権が海外の巨大利権団体やハゲタカ資本と結んでいた、日本の不当な売国条約。これらを国際弁護士キタムラ氏がジュネーブの国際法廷で次々と法的に無効化。日本の金融・土地・医療主権を完全に取り戻す歴史的勝訴を勝ち取りました」

コバヤシ(日本国直属の日本製薬会社 設立)

「かつてすべてを奪われた元小林薬品社長のコバヤシ氏。このたび国直属の日本製薬会社を新たに設立し、その代表に就任。旧政府のナノマシンによる後遺症を完全に根絶する無害な新薬の開発に成功し、真の医療主権を確立させました」

「おいおい、テレビに映ってるの、あの時ユウキと一緒に戦った仲間たちじゃねえか!」ナベさんがテレビを指さして興奮気味に叫ぶ。「ああ。みんなそれぞれの場所で、死に物グルいでこの国を護ってくれてるんだ」ユウキは誇らしげに目を細めた。その時、ガラガラと居酒屋『さるく』の扉が開いた。「夜分にすまないね、ユウキ」入ってきたのは、作業着の袖をまくり、少し泥のついた靴を履いたカミヤ、カワイ、キタムラ、コバヤシの4人だった。

政治のトップに立ってもなお、お上としての特権を嫌い、自ら地方の農地へ赴いて汗を流し、お忍びで福岡の地を訪れた参誠党の同志たち。「いらっしゃい! 待ってましたよ、皆さん!」ユウキがキンキンに冷えたジョッキビールをカウンターへ並べていく。カミヤは穏やかに微笑みながらグラスを手に取り、カワイは一仕事終えた安堵の表情でネクタイを緩めた。キタムラはスマートなスーツ姿のまま焼き鳥の香りに目を細め、コバヤシは白衣の下の情熱をみなぎらせてユウキに語りかける。「カワイさん、日本共民大臣として犯罪の取り締まりに追われて、毎日寝る暇もないんじゃないですか?」ユウキが尋ねると、カワイは不敵に笑った。「悪さを企む奴らは徹底的に取り締まるのが私の役目だからね。だが、力ずくの排除ではなく、ルールを守る者とは共に汗を流す。それが参誠党の共生ルールだ」「キタムラ先生、国際裁判での大勝利、ニュースで見ましたよ」ヒトミが温かいお茶を差し出すと、キタムラは深く頭を下げた。「ありがとうございます、ヒトミさん。旧政権が結んだ不平等な売国契約の書類の山を崩すのは骨が折れましたが……さるくの焼き鳥を食べるためだと思えば、国際法廷での戦いなど造作もありませんよ」「コバヤシ代表、国直属の製薬会社の設立、本当におめでとうございます」ミツキがビールを注ぐと、コバヤシは優しく微笑んだ。「あの軍艦島の暗闇でアンチ・チップを創っていた時は、本当に孤独だった。だが今、国の全面バックアップの元で、すべての国民に安心を届けられる新薬を開発できている。科学者として、これ以上の誉れはないよ」最後に、カミヤはカウンターの片隅にそっと置かれたタモガミの形見のドッグタグ、そして散っていったヒャクタたちの遺品へと、静かに、そして誇り高く目を向けた。彼らの気高い犠牲が、この居酒屋の灯りを、そしてこの国の夜明けを連れてきてくれたのだ。ミツキがそっと遺品に手を合わせ、全員のグラスに酒が行き渡る。党首カミヤがグラスを高く掲げ、店内に響き渡る声で音頭を取った。「散っていった仲間たちの想いと共に、この国を、俺たちの愛する日本を、どこまでも美しく栄えさせていこう。――新しき日本の未来に、弥栄いやさか!!!」


「「「「弥栄いやさか!!!!」」」」


小気味いい乾杯の音が、店の外の、どこまでも澄み切った福岡の夜空へと、高らかに響き渡っていった。


(『大和魂の目覚める時』―― 第一部・堂々完結)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ