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異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


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第6話 凍てつく温泉街と九尾の狐




 グランヴェル財閥・総帥アルベルトの過剰な資金投下(白金貨二千万枚)と、エルフの宮廷建築家たちの徹夜の作業により、荒野のど真ん中に爆誕した『ワケアリ不動産・本社ビル』。


 それはビルというより、もはや『絶対防衛要塞ぜったいぼうえいようさい』と呼ぶべき代物だった。


 外壁は城塞都市すら凌駕する神聖魔石で覆われ、上空には百門の魔導防衛砲が睨みを利かせている。しかし、その厳めしい外観とは裏腹に、内部は魔獣たちのための『究極の癒やし空間リゾート』となっていた。



「キュピィィ!」

『ふかふかー! お兄ちゃん、この草すっごい気持ちいい!』


 中庭に敷き詰められた最高級の【星銀(せいぎん)絹糸草(シルク・グラス)】の上で、小グリフォンと神獣フェンリルが腹を出して無邪気に転げ回っている。


「ええ、存分にモフりなさい(寛ぎなさい)。君たちのための楽園ですからね」


 ロイド・グランヴェルは、淹れたての紅茶を傾けながら、優雅な微笑みでその光景を見守っていた。


 彼が立ち上げた新規事業『ワケアリ不動産』は、第一号案件であるゼイロン男爵家の旧邸宅跡地を「特級の農業地帯」として転売し、すでに莫大な利益を叩き出している。


「――ロイド様。新たなお客様が、応接室でお待ちです」


 秘書官のクラウスが、一切の足音を立てずに歩み寄ってきた。


 彼の背後には、要塞の物々しさと豪華すぎる内装に完全に腰を抜かし、ガタガタと震えている初老の男性が立っていた。


「よ、よくぞお越しくださいました。私が社長のロイドです。どうぞ、お掛けになって」


 ロイドは洗練された所作で男性をソファへ促した。


 男性は、隣国にある湖畔の温泉街で『温泉組合長』を務めているという。


「し、信じられん……。ただの噂だと思っていたが、本当にこれほどの財力を持つ不動産屋が存在したとは……!」


「お褒めに預かり光栄です。それで、本日はどのような『曰くつき物件』をお持ちで?」


 ロイドの問いに、組合長は深く項垂れ、涙ながらに語り始めた。


「……私の故郷である『シラヌイ温泉街』を、丸ごと引き取っていただきたいのです。もちろん、タダで構いません」


 シラヌイ温泉街といえば、かつては万病に効く名湯として知られ、多くの観光客で賑わった風光明媚な土地である。


「なぜ、そのような一等地を手放すのですか?」


「……数年前からです。上流の土地を治める悪徳領主が、魔導工場から出る『冷却の魔導廃棄物』を、不法に川へ流し始めたのです。そのせいで源泉は完全に凍りつき、温泉街は一年中、極寒の猛吹雪が吹き荒れる【氷のゴーストタウン】と化してしまいました……」


 組合長は、悔しそうに拳を握りしめた。


「旅館はすべて倒産。組合が抱えた借金は膨れ上がり、住人たちは夜逃げ同然で街を去りました。……さらに最悪なことに、その凍りついた街の最奥に、恐ろしい『氷の魔獣』まで住み着いてしまったのです」


 猛烈な吹雪と、近づく者を一瞬で氷像に変えてしまう未知の魔獣。


 討伐ギルドすら匙を投げたその土地は、もはや持っているだけで固定資産税と莫大な借金だけが膨れ上がる、最悪の『負動産(ふどうさん)』に成り果てていた。


「もう限界なのです。あんな呪われた土地を持っているだけで、我々組合の人間は破産して首を吊るしかありません……! どうか、引き取ってはいただけないでしょうか……!」


 土下座せんばかりの勢いで懇願する組合長。


 しかし、その悲惨な話を聞いていたロイドの瞳は、同情ではなく、極限まで高まった『歓喜』に打ち震えていた。


(極寒の猛吹雪の中で生きる、氷の魔獣……! それはつまり、極寒から身を守るために進化した『極上の冬毛モフモフ』を持っているということでは!?)


 冷徹なビジネスマンの仮面の下で、ロイドのモフモフセンサーが激しく反応していた。


「……事情はよく分かりました。組合長、顔を上げてください」


 ロイドは優雅に脚を組み替え、契約書を取り出した。


「我がワケアリ不動産が、その温泉街の土地権利を『丸ごと』引き受けましょう。組合が抱える借金も、魔獣の処理も、すべて我が社が責任を持ちます。……手切れ金として、白金貨十枚をお支払いしましょう」


「は、白金貨十枚!? 借金も魔獣もすべて被ってくれる上に、お金までいただけるのですか!?」

「ええ。我々は、お客様の絶望を買い取るのが仕事ですから」


 涼しい顔で微笑むロイドに、組合長は「あ、ありがとうございます……!!」と号泣しながら契約書にサインをした。


 こうして、ワケアリ不動産は広大な『氷のゴーストタウン』の全権利を、合法かつ完全に手に入れたのである。



***



「……ロイド様。あのような氷漬けの土地、転売の価値があるのですか?」


 組合長が去った後、クラウスが無表情のまま尋ねた。


「当然です、クラウス。魔導廃棄物という不浄な魔力が満ちた極限環境に、強力な魔獣が住み着いている。……彼らは、自然界のフィルターです」


 ロイドは、超高級な『幻蜘蛛(げんぐも)の糸』で仕立てられた冬用のスリーピース・スーツを羽織りながら、自信に満ちた笑みを浮かべた。


「あの温泉街に充満する冷気と毒素を、その魔獣が何年もかけて吸い上げ、浄化し、極上の『冬毛』へと変換してくれているはずです。……魔獣を退去させ、お家芸で氷と廃屋を『更地(さらち)』にすれば、大地の底からは浄化された極上の魔素を帯びた『神の温泉』が湧き出すことでしょう」


 ゴミ同然に捨てられた土地を、最強のリゾート特区へと錬成する。


 それが、ワケアリ不動産の黄金サイクルである。


「なるほど、完璧なビジネスですね。……ところでロイド様、先ほどから口角が上がりっぱなしですが」


「ええ。いったいどれほど素晴らしい毛並みの冬毛に仕上がっているのか……想像しただけで胸が高鳴ります。さあ、視察に向かいましょうか。新たなるモフモフのお迎えです!」


 氷の魔獣が待つ、死の猛吹雪が吹き荒れるゴーストタウンへ。


 エレガントな御曹司と冷徹な秘書官は、ピクニックへ向かうかのような軽やかな足取りで、本社要塞を後にした。





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