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異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


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第4話



「キュ、キュピ……?」


 泥に膝をつき、一切の害意なく両手を広げるロイドに対し、小グリフォンは戸惑ったように首を傾げた。


 威嚇の雷撃を完全に無効化された驚きもあるが、何より目の前の人間から放たれる「底知れぬ安心感(異常な愛情)」に、野生の本能が毒気を抜かれてしまったのだ。


「さあ、まずはこれを。お腹が空いているのでしょう」


 ロイドは懐から、小袋を取り出した。


 財閥の最高頭脳である『研究開発部(R&D)』の天才たちが、徹夜に次ぐ徹夜で開発させられた『究極の魔肉配合・特製ジャーキー』である。


 それをそっと鼻先に差し出された瞬間、小グリフォンの瞳から完全に警戒心が消え去った。


 抗いがたい極上の香りに誘われ、おそるおそるジャーキーを(くわ)え込む。


「キュピィィ!」


「美味しいですか? 良かったです。では、少し失礼して……」


 咀嚼に夢中になっている隙を突き、ロイドは神がかったマッサージ技術で、雷を帯びた羽の付け根や首回りを優しく、かつ的確に揉みほぐした。


「キュルルルル……」


 開始五秒。


 伝説の幻獣はあっさりと陥落し、ロイドの高級スーツの胸元で幸せそうに喉を鳴らし始めた。


「な、なんて手際だ……俺たちが何年もかけて、ようやく少し撫でさせてもらえるようになったというのに……」


「さあ、私と契約しましょう。三食昼寝・極上の魔肉付き。完全防衛の広大なリゾートで、のんびり暮らすのです」


 呆然とする冒険者たちをよそに、ロイドは涼しい顔で一枚の羊皮紙――宛先を『ワケアリ不動産・指定役員』に限定した【修正版・魔法契約書】を取り出した。


「インクは不要です。グリフォンちゃんには肉球がありませんから、ここに、その愛らしく尊い『おみ足』をポンと乗せるだけで結構ですよ」


「キュル! ポンッ!」


 自ら進んで小さな鉤爪(かぎづめ)(おみ足)を契約書に押し当てた瞬間、羊皮紙が淡く光り、契約が成立した。


『……お肉、おいちい。お兄ちゃん、だぁいすき!』


「ロイド様。今回は無事に、我々のみの脳内に念話が届いております。社内放送事故は免れました」


 胸元で丸くなる黄金の毛玉を抱きしめながら、ロイドは至福の笑みを浮かべた。


「……ロイド様。またあなたのスーツが泥と毛だらけです。ロイド様の身に何か起きたのかと、問われる私の身にもなってください」


「ふふ、これぞ名誉の勲章ですよ、クラウス」


 無表情のまま『特殊粘着ローラー』を取り出し、主人の背中をコロコロと転がし始める秘書官。そのシュールな光景に、冒険者たちは開いた口が塞がらない。


「さて、心優しき冒険者の皆さん。あなた方も命拾いしましたね」


 ロイドはローラーをかけられながら、居住まいを正して冒険者たちに向き直った。


「討伐対象を庇い、何年もこの閉鎖空間で守り抜いたその優しさと忍耐力。高く評価いたします。……今日から、我が『ワケアリ不動産』の保護施設リゾートの専属スタッフとして雇ってあげましょう。初任給は金貨十枚です」


「き、金貨十枚!? ギルドのSランク依頼並みの報酬じゃないか!」


「一生ついていきます!!」


 こうして、魔獣の保護と優秀な管理人の確保は完了した。

 ロイドは腕の中で眠る小グリフォンを抱き抱え、冒険者たちを引き連れて、死の気配が漂う旧邸宅の外へと歩み出る。


「クラウス。中の荷物と人員は、すべて運び出しましたね?」


「はい、ロイド様。すでに退避完了しております」


「では――我が一族のお家芸を披露しましょうか。上空の魔導艦に合図を。この無価値な建物を『更地(さらち)』にします」


 ロイドが優雅に指を鳴らした、その直後。


 遥か上空の雲海から放たれた極大の閃光が、ゼイロン男爵家の旧邸宅を音もなく、文字通り「跡形もなく」消し飛ばした。


 数分後。


 そこには建物の残骸すら一切ない、美しい平坦な大地だけが残されていた。


 小グリフォンという極上のフィルターが長年魔素を浄化し続けてくれたおかげで、大地の底からはキラキラと光の粒が舞い上がっている。猛毒の瘴気はとうに消え去り、澄み切った空気が森を包んでいた。


「素晴らしい。これでこの土地は、最高級の魔法作物が育つ『曰くつき(価値あり)物件』へと生まれ変わりました。……さあ、高値で売り出しますよ」


 冷徹で完璧なエリート御曹司と、その胸の中で丸くなる黄金の毛玉。


 ワケアリ不動産の記念すべき初仕事は、莫大な利益と新たな家族を生み出し、完璧な形で幕を閉じたのであった。




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