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属性過多なモフモフ博覧会




 グランヴェル財閥・ワケアリ不動産本社要塞。


 そこは今や、世界の気候と常識を完全に無視した「神々の箱庭」と化していた。


 中庭には【極寒雪原エリア】や【高地微風エリア】があり、そのすぐ隣には白金貨九千万枚を投じた【天空浮遊温水プール】が輝き、さらにその奥には白金貨一億七千万枚の【純金と翡翠の竹林】が広がり、上空は二億五千万枚の【ステンドグラス防風ドーム】で覆われている。


 総額五億枚以上の白金貨(数カ国分の国家予算)が、ただ「モフモフたちの快適な暮らし」のためだけに注ぎ込まれた、人類史上最も贅沢な狂気の空間である。


「……これです。これこそが、私が夢にまで見た理想の不動産経営の終着点ですよ、クラウス」


 プールサイドのデッキチェアで、ロイド・グランヴェルは感涙に咽び泣いていた。


 彼の目の前では、種族も生息地も全く違う伝説の幻獣たちが、信じられない光景を繰り広げていたのだ。


『キュィ~(ウニ食べるー?)』


『クルゥ~(タケノコおいしいのー)』


 温水プールでぷかぷかと浮かぶ巨大な神獣ラッコ(エンペラー・シーオッター)が、プールサイドにどっしりと座り込む巨大パンダ(陰陽熊猫)に向けて、お腹の上で割った極上黄金ウニを差し出している。


 パンダは純金の魔鋼竹をバキバキと齧りながら、片方の分厚い肉球でラッコの小さな「おてて」をぎゅっと握りしめ、仲良く異文化交流(おやつ交換)をしていた。


 さらにその奥の芝生エリアでは。


『メァァァ~(ボフッ、ボフッ)』


『ミャァァ……(とぷん、しゅわぁ)』


 究極の弾力を持つ神獣アルパコーンが、そのトランポリンのような反発力のある背中で「何か」をバウンドさせて遊んでいた。


 それは、液状化した雲のネフェル・フェリスである。アルパカの背中で跳ねるたびに、スライムのように形を崩し、また空中で猫の形に戻るという、物理法則を無視した遊びに興じていた。


「ああ……! 水陸空、そして気体と液体が入り混じる、まさにモフモフのフルコース! ビュッフェ! 視神経が幸せで焼き切れそうです!」


 ロイドはたまらずデッキチェアから立ち上がり、優雅なステップで幻獣たちの中心へと飛び込んだ。


「さあ、皆さんまとめてブラッシングして差し上げましょう! ラッコちゃんのぽってりお腹に顔を埋めながら、パンダちゃんの白黒の毛並みを撫で、同時に上から降ってくる雲の猫ちゃんの冷気を浴びる……! なんという贅沢! なんというカオス!!」


 海水の磯の香り、竹林の爽やかな香り、そして雲の清涼感が混ざり合い、ロイドの高級スーツは開始十秒で「濡れた白黒の毛と、蒸気と、金箔がへばりついた大惨事」となった。


「……やれやれ」


 それを見守る秘書官のクラウスは、無表情のまま、特注のアタッシュケースを開いた。


 そこには、これまでR&Dが開発してきた狂気の産物――『超吸水コロコロ』『白黒自動分別コロコロ』『気体・雲散ミクロコロコロ』がズラリと並んでいる。


「ロイド様。水属性、植物(竹)属性、そして気体属性の汚れが完全に混ざり合って、特殊なキメラ汚れを形成しております。……デュアル(二刀流)でいきます」


 クラウスは両手に別々のコロコロを構えると、ロイドの背後に音もなく忍び寄り、まるで達人の剣舞のような速度でローラーを走らせ始めた。


 「ズギュッ! ガシャッ! シュワァァ! ウィーン!!」


 吸水音と、機械の分別音と、気圧調整の音が複雑に絡み合い、もはや掃除機というよりはオーケストラのようなシュールな重低音が中庭に響き渡る。


「……ふぅ。一拭きでこれほどの成分(毛と水と雲)が回収できるとは。これをR&Dに送れば、また新しい魔導素材が開発できそうですね」


 その時、要塞の全モニターに緊急アラートが鳴り響いた。


 画面には、いつものように鼻息を荒くした財閥総帥、アルベルトの顔が映し出される。


『ロイドォォォ!! 私をのけ者にしてモフモフの大博覧会を開くとはどういうことだ! 画面越しでも分かる、そのラッコとパンダの尊い手繋ぎ……! 私にも、私にもその間に挟まらせろ!! 今すぐ大型輸送機でそちらに向かう! ついでに全ての幻獣の鳴き声を立体音響で楽しめる【超大型・白金プラチナ製サラウンドスピーカー】を要塞中に設置する予算を今振り込んだ!!』


「……兄さん。要塞にそんな巨大スピーカーをつけたら、皆のいびきで近隣の国が地震だと勘違いしますよ」


 ロイドは溜息をつきながらも、頭の上に乗ってきたスライム状の雲の猫を優しく撫でた。


 最強の兄からの過剰な愛情と、規格外の魔獣たち。そして、二刀流のコロコロで完璧に主のスーツを綺麗にし続ける有能すぎる秘書官。


 世界一ワケアリな不動産屋の休日は、今日も騒がしく、そしてこの上なく温かい。




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