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異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


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第30話




 かつて呪いの霧が立ち込めていた不気味な古城の跡地は、たった一晩で、太陽の光を乱反射する『絶対防衛・黄金翡翠要塞』へと変貌を遂げていた。


 総帥アルベルトが投じた白金貨一億七千万枚により、広大な竹林に生える何万本もの魔鋼竹は、その一本一本に至るまで純金と最高級の翡翠で緻密にコーティングされている。眩いほどの輝きの中、神獣パンダ(陰陽熊猫)がぽってりとしたお腹を見せて座り込み、黄金の若竹を強靭な顎で「バキィッ、シャリシャリッ」と心地よい音を立てて頬張っていた。


「素晴らしい……。純金の反射光が、純白の被毛をより神々しく、漆黒の被毛をより深みのある艶へと引き立てています。これぞ自然界と財閥の技術が融合した、究極の白黒黄金比……!」


『クルゥ~。お兄ちゃん、このキラキラのタケノコ、すっごくおいしいのー』


 黄金の竹の絨毯の上で、ロイド・グランヴェルは恍惚とした表情でパンダのずんぐりとした背中に抱きついていた。


 その横では、秘書官のクラウスが無表情のまま、ロイドのスーツに付着した白と黒の抜け毛を『自動分別コロコロ』で「ガシャッ、ウィーン、シュルルッ」と精密機械の音を立てて掃除している。


 そこに、けたたましい馬蹄の音と怒声が踏み込んできた。


「おい、詐欺師の不動産屋!! 勝手にわしの城を消し飛ばして、何を優雅に黄金の竹林でピクニックをしている!!」


 数百人の完全武装の私兵を引き連れ、黄金の竹林に土足で踏み込んできたのは、あの恰幅の良い悪徳領主だった。


 彼は、呪いが消え去り、領地の一部が『純金と翡翠でできた莫大な価値の竹林』にすり替わっていると聞きつけ、強欲に目を血走らせて奪い返しに来たのである。


「あの城を吹き飛ばす魔法は契約外だ! つまり契約は無効! この土地の権利も、その純金でできた竹も、すべて領主であるわしのものだ! 今すぐその魔獣を置いて、この場から立ち去れ!」


 領主が剣を振り下ろすと、私兵たちが一斉に武器を構え、ロイドを取り囲んだ。


「……なるほど。呪いと教会の負債を押し付けた挙句、土地が黄金に変わったと知るや否や、武力で再請求ですか」


 ロイドは溜息(ためいき)を一つ吐くと、パンダのふかふかのお腹からゆっくりと顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの温もりなど微塵もない。世界を裏から支配する、冷徹な特命代理としての(かお)だった。


「クラウス」


「はい、ロイド様。――不法侵入者を、剪定せんていしろ」


 クラウスが短く命じた瞬間。


 黄金の竹の影から、純金のハサミや熊手を構えた庭師姿の『戦闘特科』の部下たちが音もなく姿を現した。彼らは私兵たちの只中に降り立つや否や、瞬きする間に全員の武装を解除し、一滴の血も流させないまま全員を地面に縫い留めた。


 完璧でエレガントな、一流の庭師(暗殺者)による制圧劇である。


「ひぃっ!? な、なんだこいつらは……!」


「領主様。契約の不備を指摘するなら、然るべき機関を通して解決いたしましょう。……おや、ちょうど繋がっていますね」


 ロイドが空中にホログラムを展開すると、そこには威厳あふれる法衣を纏った男と、聖職者の最高位である大司教が映し出された。


「法務大臣、ならびに教会大司教。お疲れ様です」

『はっ! ロイド様! 例の領主の屋敷の家宅捜索、および教会の裏帳簿の照合、すべて完了いたしました!』


 領主はその顔ぶれを見て、黄金の土の上にへたり込んだ。この国の法律と信仰を司るトップ二人が、なぜ一介の不動産屋に最敬礼しているのか、彼の理解を超えていた。


「領主様。あなたが数年間、呪いを放置して農民を不法に追い出し、さらに教会から支給されていた『危険地帯の浄化資金』を全額懐に入れていた証拠……すべて確保しましたよ。これは立派な領民への背任行為、および神への冒涜(横領)に当たります」


「な、ななな……そんな馬鹿な! わしの完璧な隠し金庫が――」


「我が社の『更地にする(隠し財産を暴く)技術』を甘く見ないでいただきたい。……大臣。この男の不正の全容を、直ちに国王陛下と教皇猊下へ報告してください」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべて、国家の理すらも操る完璧なビジネスの提案プレゼンを始めた。


「没収した領主の全資産と領地は、まず法に則り、彼が不当に追い出した元・竹林農家たちへの『完全な賠償金と生活支援』に充てるよう国王陛下へ進言してください。そして残りの莫大な資産は、国の『伝統工芸(魔鋼竹細工)復興助成金』として国庫から還元し、領民の新たな産業を育てるのです。……ばら撒きではなく、あくまで『領民の自立と伝統を守る国家事業』としてね」


 法務大臣と大司教が、感銘を受けたように深く頷く。


『素晴らしいご提案です! これにより長年苦しんできた領民が救われ、新たな名産品が国の経済を潤すでしょう! 悪徳領主を排した国王陛下の支持率は、まさに盤石のものとなります! 直ちに実行に移します!』


「ま、待ってくれ! わしの、わしの築き上げた領地と財産を、あんな土いじりの農民どもに与えるというのか!? せめて貴族の身分だけでも――」


「我が社は、今回の事件解決に対する正当な『迷惑料』を、後日国からほんの少しいただくのみで結構です。……領民が豊かな竹細工を作れば、巡り巡って我が財閥の流通網も潤いますからね。まさに完全なウィン・ウィンです」


 涼しい顔で「国を救う英雄」の座と面倒な領地経営を国家に譲り、自分たちは莫大な流通の実利と『極上の白黒モフモフ』だけを独占する。これこそがロイド・グランヴェルの完璧な流儀。


「お引き取りを。あなたの下品な声では、パンダちゃんが奏でる極上の咀嚼音(ASMR)が台無しになってしまいますので」


 ロイドが優雅に指を鳴らした直後。


 領主の醜い命乞いは、財閥法務部(回収班)によって物理的に塞がれ、そのまま暗い馬車の中へと引きずり込まれていった。


 ほんの数分。


 一滴の血も流さず、一人の強欲な領主が社会から消去され、同時に多くの農民たちが地獄のような貧困から救い出されたのである。


「……ふぅ。まったく、せっかくの竹林浴の時間を邪魔されるとは」


 ロイドが視線を落とすと、巨大パンダが「クルゥ!」と嬉しそうに鳴きながら、真っ黒で分厚い前足でロイドの膝をぽふぽふと叩いてきた。


「ああ、ごめんなさいね。待たせてしまいました。さあ、特大の黄金タケノコを食べましょうか」


 先ほどまでの冷徹なビジネスマンの顔は幻であったかのように、ロイドは目を細め、愛しい白黒の魔獣のぽってりとしたお腹に顔を埋めた。


「……ロイド様。悪徳領主の解任、およびこの竹林の『特級魔導素材・独占採掘権』の取得が完了しました。我が社が呪いを浄化したことで、純金コーティングされた魔鋼竹の価値は天文学的な数字に跳ね上がっております」


 クラウスが手元のタブレットを確認しながら、無表情で『白黒自動分別コロコロ』をロイドの背中に転がす。


「素晴らしい。これで、この子たちのためにさらに極上の環境を整えられますね」


 強欲な者を経済と権力で轢き潰し、領民を救いながら、浄化された土地から莫大な富を生み出す。


 世界一理不尽で、世界一優雅なワケアリ不動産の快進撃は、とどまることを知らない。




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