表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/38

第29話




 ロイド・グランヴェルが優雅に指を鳴らした直後。


 遥か上空の雲海に待機していた巨大魔導艦から、建造物の石組みや人工物だけを精密に塵へと変える極大の『精密・建造物爆砕』が放たれた。


 ――ピカァァァッ……サァァァ……。


 爆音すらない、まばゆい光の奔流。


 一瞬、景色が白く染まったかと思うと、先ほどまで空を覆い隠していた不気味な古城の城壁も、呪われた塔も、まるで最初から存在しなかったかのように風に吹かれて砂となり消え去った。


 後に残されたのは、ただの更地ではない。


 城という巨大な日傘が消えたことで、分厚い呪いの霧は太陽の光によって完全に浄化され、そこには空に向かって真っ直ぐに伸びる、最高級の魔導素材『魔鋼竹』の美しい群生地が地平の彼方まで広がっていた。


「お見事。今回は対象の固有振動数を突いた精密粉砕でしたが、我が一族のお家芸はいつ見ても芸術的ですね」


 特注スーツの結界で石の粉塵を完全に弾きながら、ロイドは満足げに微笑んだ。


 足元の土は、神獣パンダ(陰陽熊猫)が数年間にわたり呪いの霧を浄化しつつ、極上の肥料フンを落としていたことで、通常の数百倍もの魔力栄養素を蓄えた「奇跡の竹林」へと進化していた。


「な、なんてことだ……。あんなに不気味だった呪いの城が、一瞬で消え去って、最高の竹林だけが残るなんて……!」


 安全圏で見守っていた元の竹林農家たちが、日の光を浴びて青々と輝く魔鋼竹を見上げ、感涙にむせんでいる。


「素晴らしい。これでここは、白金貨数万枚の価値を持つ『特級・魔導竹林リゾート』へと生まれ変わりました。……さて、本省に報告を入れましょうか」


 ロイドが空中にホログラムを展開すると、今回も呼び出し音を待たずして、画面いっぱいに兄の顔が映し出された。


『ロイドォォォ! 私の愛する弟よ! 呪われた古城へ向かったと聞いたが、美しい精神は無事か!? 今すぐ最高級のメンタルケア特化型・聖女部隊を送らせるぞ!』


 画面の向こうのアルベルト・グランヴェルは、何やら巨大な十字架に縛り付けられた悪徳司祭たちを背景に、満面の笑みを浮かべていた。


「お疲れ様です、総帥閣下(アルベルト兄さん)。ええ、R&Dのスーツのおかげで、白と黒の完璧な黄金比を堪能する余裕すらありました。……ところで、後ろの聖職者の方々は?」


『ああ、こいつら我が財閥の管轄に不当な寄付金を要求しようとしたマヌケどもだ。今ちょうど、彼らの隠し資産をすべて物理的に『懺悔(ざんげ)』させているところだ。気にするな』


 氷点下の声で背後の惨状を一瞥した後、アルベルトは秒で蕩けるような笑顔に戻る。


『それよりロイドよ! 見事な建造物爆砕だった! ……だが、待て。その後ろに広がる薄暗い草むらは何だ?』


「草むらと言われましても、日の光を浴びて輝く最高級の魔鋼竹の林ですが」


『何ということだ……! 日陰だ! 日陰ができているではないか!』


 アルベルトが、悲劇のヒロインのような仕草で額を押さえた。


『愛する弟と、白黒の完璧なフォルムを持つ神獣パンダちゃんが、そんな薄暗く貧乏くさい竹林の中を歩いているだと!? お前の純白の肌が竹の影でくすんで見えるなど、宇宙の法則が許してもこのアルベルトが許さん!!』


「兄さん、竹林ですから影ができるのは当然なのですが。それにパンダちゃんも日陰が好きですし」


『黙れ! おい経理! ロイドの口座に【ワケアリ竹林・超絶成金コーティング工事費】として白金貨一億二千万枚を叩き込んでおけ!』


「……一億二千万!? 兄さん、ついに一億を超えましたよ!? 一国の国家予算を軽く凌駕しています!」


『貧乏くさい緑色の竹などすべて塗り替えろ! 竹の一本一本、葉の一枚一枚に至るまで、すべてを【純金と最高級の翡翠ヒスイ】でコーティングするんだ! 太陽の光を乱反射させて、パンダちゃんの白黒の毛並みが最も美しく際立つライティングシステムを組め! 害虫の一匹でも侵入したら、上空から衛星レーザーで焼き払うシステムも完備するんだ!』


 涼しい顔で、自然の植物すべてを純金と宝石でコーティングするという、前代未聞の環境破壊(?)を命じる総帥。


『クルゥ。お兄ちゃん、お日様ぽかぽかして、きもちいいのー』


 その時、パンダののんびりとした幼児ボイスが脳内に響く。


「ええ、もうすぐお日様どころか、竹林全体が黄金に輝き始めますからね、パンダちゃん」


 ロイドがずんぐりとした毛玉に向かって優しく微笑むと、通信の向こうでアルベルトが机をへし折って立ち上がった。


『ロイド!! また私に聞こえない声で誰かと話したな!? その「クルゥ」は私にこそ向けられるべきだ! 今すぐ私を役員に加えろ! パンダちゃんに笹を食べさせたい! 追加で白金貨五千万枚だ!!』


「……はぁ。クラウス、また記録更新ですね」


「ロイド様。白金貨一億七千万枚の入金、確認いたしました」


 クラウスが無表情のまま、特製コロコロを「ガシャッ、ウィーン!」とロイドの背中に走らせながら、淡々と処理を進める。


総帥閣下(そうすいかっか)の仰る通り、これはもはや竹林ではなく『絶対防衛・黄金翡翠要塞』となります。純金コーティングの警備のために、私直属の戦闘特科から『部下』を百名ほど庭師として派遣しておきます。あ、パンダちゃん用の『極上魔力タケノコ(特大サイズ)』も追加発注済みです」


 数分後。


 呪いが晴れた広大な竹林に、財閥本省から緊急転送された数千人の魔導彫金部隊が飛来し、夜通しで凄まじい「純金と翡翠のコーティング作業」を始めた。


 最強の権力と、狂気すら感じる過保護な資金力を武器に、ワケアリ不動産屋はついに自然の景観すらも札束でひっぱたき、黄金の楽園へと作り変えたのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ