モフモフたちの静かなる領土紛争
グランヴェル財閥が誇る最高技術の結晶、そしてロイド・グランヴェルの「愛」の終着点――『ワケアリ不動産・本社要塞』。
今やそこは、世界中の冒険者が震え上がる伝説の幻獣たちが、日向ぼっこをしながら昼寝を貪るという、世界で最も平和で最も危険な聖域となっていた。
「キュピィ!」「ガゥ」
「のじゃ、そこは妾の特等席なのじゃ!」「ピュイッ!」「メァァ~」
中庭に広がる、最高級の【星銀の絹糸草】の絨毯の上。
そこには、小グリフォン、神獣フェンリル、九尾の狐、宝石ウサギ、そして神獣アルパコーンが、一つの巨大な「毛玉」となって固まっていた。
「……これです。これこそが、私が夢にまで見た理想の不動産経営の姿ですよ、クラウス」
テラスでその光景を眺めるロイド・グランヴェルは、あまりの尊さに目頭を熱くしていた。
彼の手には、R&D(研究開発部)が総力を挙げて開発した『幻獣専用・多目的マッサージブラシ(振動機能付き)』が握られている。
「……ロイド様。感極まっておられるところ恐縮ですが、あの中央部を見てください。アルパコーンの驚異的な弾力により、上に乗った宝石ウサギが定期的にバウンドして、九尾の狐の尻尾に激突しています。これは国際問題(多種族間紛争)に発展する恐れがあります」
「ふふ、大丈夫ですよ。あれは彼らなりの親愛の情です」
ロイドは優雅な足取りでモフモフの山へと歩み寄り、その中心へと身を投じた。
「さあ、順番にブラッシングをしましょうね。まずは一番新入りのアルパカちゃんから……おお、この跳ね返るような弾力! 素晴らしい!」
『メァァ。お兄ちゃん、そこ~、ボフボフして~』
アルパコーンがのんびりとした声を上げると、それに対抗するように九尾の狐が九本の尻尾でロイドを包み込んだ。
『お兄ちゃん! 妾の尻尾の方が九倍も柔らかいのじゃ! こっちを先に梳かすのじゃ!』
「おやおや、皆さん甘えん坊ですね。宝石ウサギちゃん、そんなにキラキラ輝いて私を誘惑しないでください。……ああ、視神経が幸せで焼き切れそうです!」
伝説の幻獣たちに揉みくちゃにされ、服がボロボロになり、宝石の粉と純白の毛だらけになりながら、ロイドは人生最高の笑顔を浮かべていた。
「……やれやれ」
それを見守るクラウスは、無表情のまま、腰のホルダーから『最強の得物』を抜いた。
それは、今日この日のためにR&Dが極秘裏に開発した『特殊粘着ローラー・プロフェッショナル(全幻獣対応・超高粘着型)』である。
「ロイド様。アルパコーンの反発毛、九尾の冬毛、宝石ウサギのラメ欠片、そしてグリフォンの産毛……。これら全てを一度に除去するには、並大抵の粘着力では足りません」
クラウスは、ロイドの背後に音もなく忍び寄ると、猛烈な速度でローラーを走らせ始めた。
「ボフンッ!」「メキメキッ!」「シュルルルッ!」
高級スーツの上で、異種格闘技戦のようなシュールな音が響き渡る。
「……ふぅ。一拭きでこれほどの収穫(毛)があるとは。この抜け毛を紡げば、また一つ新しい国宝級の布地が作れそうですね」
その時、要塞の全モニターに緊急アラートが鳴り響いた。
画面には、いつものように鼻息を荒くした財閥総帥、アルベルトの顔が映し出される。
『ロイドォォォ!! 私をのけ者にしてモフモフ大会を開くとはどういうことだ! 画面越しでも分かる、そのアルパカの弾力……! 私にも、私にも「お兄ちゃん」と呼ばせろ!! 今すぐ大型輸送機でそちらに向かう! ついでにアルパカの足が汚れないよう、要塞の全床面をプラチナ加工にする予算を今振り込んだ!!』
「……兄さん。要塞をプラチナ張りにしたら、眩しくて皆がお昼寝できませんよ」
ロイドは溜息をつきながらも、足元で丸まっている宝石ウサギを優しく抱き上げた。
最強の兄からの過剰な愛情と、規格外の魔獣たち。そして、そんなカオスを完璧にコロコロで掃除し続ける有能すぎる従者。
世界一ワケアリな不動産屋の休日は、今日も騒がしく、そしてこの上なく温かい。




