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異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


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第15話




 かつて猛毒ガスが充満していた閉鎖鉱山は、たった一晩で『世界一ゴージャスな露天掘り採掘場(ウサギ小屋)』へと変貌を遂げていた。


 総帥アルベルトの過剰な資金投下により、敷地の全施設は最高級の【特級水晶スワロフスキー・クリスタル】で建造され、魔石の採掘現場とは思えないほどの眩い光を放っている。太陽光を完璧に計算したライティングシステムが、中央の広場で無邪気に跳ね回る宝石ウサギ(カーバンクル)の純白の長毛と、ラメのように輝く宝石の結晶を最も美しく照らし出していた。


「素晴らしい……。この太陽の下でブラッシングをすると、宝石のシャラシャラという音色がいっそう涼やかに響きますね。ここは天国でしょうか」


『ピュイィ……! お兄ちゃん、そこ、もっと撫でてほしいの!』


 クリスタルのテラス席。


 超高級スーツ姿のロイド・グランヴェルが、宝石ウサギの信じられないほど長い毛並みを、専用の獣毛ブラシで恍惚とした表情で梳かしていた。その横では、秘書官のクラウスが無表情のまま、ロイドの袖についた抜け毛を『特製コロコロ』で静かに剥ぎ取っている。魔法契約書のバグは修正済みのため、この愛らしい妹ボイス(念話)は役員である彼らの脳内にしか響いていない。



 そこに、けたたましい足音と怒声が踏み込んできた。


「おい、詐欺師の不動産屋!! 勝手にわしの鉱山を平地に変えおって!」


 百人近い完全武装の私兵を引き連れ、クリスタルのテラスに土足で踏み込んできたのは、ガルドス商会の悪徳会長だった。


 彼は、かつて『猛毒の廃鉱山』を罰金ごとロイドに押し付けて逃げた張本人である。


「な、なんだこのあり得ない量の極上魔石は!? あの忌々しい毒ガス山が、これほど採掘しやすい露天掘りの宝庫に化けていたとは……!」


 会長は、足元に砂利のように転がる純度百パーセントの魔石群を見て、貪欲に目を血走らせた。


「おい若造! あの契約書には『山を吹き飛ばして平地にする』などと一言も書かれていなかった! 契約違反だ! 今すぐこの鉱山の権利書と、その魔獣を置いて立ち去れ! さもなくば――」


 会長が合図をすると、私兵たち一斉に武器を構え、ロイドを取り囲んだ。


「……なるほど。負動産を押し付けた挙句、価値が上がった途端に言いがかりをつけて武力で強奪ですか」


 ロイドは溜息(ためいき)を一つ吐くと、最高級の獣毛ブラシをそっと置き、立ち上がった。


 その顔には、先ほどまで宝石ウサギに向けられていた温もりなど微塵もない。世界を裏から支配する、冷徹な特命代理としての(かお)だった。


「クラウス」


「はい、ロイド様。――制圧しろ」


 控えていたクラウスが短く命じた。


 その直後。クリスタル要塞の影から、黒ずくめのスーツを着た数十人の男たちが音もなく姿を現した。彼らは、グランヴェル財閥の軍事機関『戦闘特科』の精鋭(部下)たちである。


「なっ!? ひ、ひぃぃっ!!」


 圧倒的な武力と覇気を持つプロ集団を前に、歴戦の傭兵であるはずの私兵たちは悲鳴を上げ、一瞬にして全員が床に組み伏せられてしまった。一滴の血も流させない、完璧でエレガントな制圧劇である。


「会長。あなたはご自身で『すべての責任と負債を我が社に押し付ける』という契約にサインし、手数料をお支払いになった。……ですが、どうしてもご不満だというなら、然るべき機関を通して解決いたしましょう」


 ロイドは空中にホログラムの通信ウィンドウを展開した。


「国家商業省、および労働基準局の大臣。繋がっていますね?」


『はっ! ロイド様、スタンバイ完了しております!』


 ウィンドウに映し出されたのは、この国のすべての商業と労働監査を管理するトップ、二人の大臣であった。会長にとっても、絶対に逆らえない国家の中枢である。


「だ、大臣閣下!? な、なぜ一介の不動産屋の通信にあなたが……!」


「彼らだけではありませんよ。この国の主要な大臣も、中央銀行の頭取も、すべて我が財閥からの『出向社員(しゅっこうしゃいん)』ですから」


 ロイドの言葉に、会長の顔から一瞬で血の気が引いた。


「……大臣。この男は、我が財閥の新規事業に対し、明確な業務妨害と武力行使を行いました。彼が過去に行った『鉱夫たちへの不当な扱い』の調査結果は?」

『はい! 猛毒ガスが発生した際の隠蔽工作、ならびに鉱夫たちへの違法な搾取と給与未払いの裏帳簿を完全に確保いたしました! 直ちに彼の商会会長の権限を剥奪し、一族の全資産を没収いたします!』


「手際が良いですね。さて、その没収した全資産ですが……我が社は、今回の事件解決に対する正当な『迷惑料』をほんの少しいただくのみで結構です。残りの莫大な資産の使い道について、私から国王陛下へ『ご提案』があります」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべて、完璧なビジネスの提案プレゼンを始めた。


「没収した商会の資産は、まず法に則り、元・鉱夫たちへの『未払い給与の返還』に充てるべきです。そして残りの資金は、国庫に死蔵させるのではなく、猛毒ガスによって被害を受けた近隣の街への『国家主導の復興・インフラ投資』として回すよう、国王陛下へ進言してください。……ばら撒きではなく、あくまで『正当な労働対価の支払い』と『環境汚染の原状回復工事』という名目で、です」


 ロイドの言葉に、二人の大臣は深く頷いた。


「これなら他の地域から不満が出ることもありません。失業していた領民に仕事が生まれ、経済が回り、そして何より『悪徳商人を裁き、民を救った国王陛下』の支持率は盤石のものとなるでしょう。……我が社としても、周辺の治安とインフラが安定した方が、新しい採掘事業をスムーズに進められますからね。まさに全方位にとって完璧な取引ウィン・ウィンです」


『素晴らしいご提案です、ロイド様! ただちに国王陛下へ上奏し、国家主導での復興プロジェクトを立ち上げます!』


「なっ……ま、待ってくれ! わしの全財産を、国王の点数稼ぎと平民どものために使うというのか!? せめて商会の権利だけでも――」


「お引き取りを。ウサギちゃんの美しい毛並みが、あなたの下品な声で逆立ってしまいますので」


 ロイドが優雅に指を鳴らした直後。


 会長の醜い命乞いは、財閥法務部(回収班)によって物理的に塞がれ、そのまま闇の中へと引きずり込まれていった。


 ほんの数分。


 一滴の血も流さず、一つの強欲な商会が社会から消去され、同時に国家の体面を守りながら多くの労働者たちが地獄から救い出されたのである。



「……ふぅ。まったく、せっかくのブラッシングタイムを邪魔されるとは」


 ロイドが視線を落とすと、宝石ウサギが「ピュイィ!」と元気よく鳴きながら、純白の毛玉をロイドに擦り付けていた。


「ああ、ごめんなさいね。待たせてしまいました。さあ、特大の黄金ニンジンを食べましょうか」


 先ほどまでの冷徹なビジネスマンの顔は幻であったかのように、ロイドは目を細め、愛しい魔獣のフワフワに顔を埋めた。


「……ロイド様。悪徳商会の解体、およびこの露天掘り鉱床の一般採掘枠の販売準備が完了しました。我が社が『更地』にしたことで得られる採掘の利益率は、軽く数万パーセントを超えます」


 クラウスが手元のタブレットを確認しながら、無表情で『コロコロ』をロイドの背中に転がす。


「素晴らしい。これで、この子たちのためにさらに極上の環境を整えられますね」



 強欲な者を経済と権力で轢き潰し、労働者を救いながら、浄化された土地から莫大な富を生み出す。


 世界一理不尽で、世界一優雅なワケアリ不動産の快進撃は、とどまることを知らない。




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