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異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


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第12話




 かつては国を支えるほどの魔石を産出し、多くの鉱夫たちで賑わった『アビス魔石鉱山』。


 しかし現在、その入り口には厳重な封鎖のバリケードが築かれ、立ち入り禁止のドクロの看板がいくつも立てられていた。坑道の奥からは、緑色に濁った『猛毒ガス(地下魔素)』が不気味な音を立てて漏れ出している。


「……ひどい有様ですね。大気中の成分が、完全に致死レベルの毒に置き換わっています」


「ええ。皮膚から直接吸収されるタイプの、極めて悪質な猛毒ガスのようです。一般の冒険者であれば、入り口に立っただけで全身の粘膜が焼け爛れ、数秒で絶命してしまうでしょう」


 緑色の毒霧が立ち込める薄暗い坑道の中。


 そんな歩くことすら困難な極限環境の中を、ロイド・グランヴェルと秘書官のクラウスは、王宮の回廊でも歩くかのような優雅な足取りで進んでいた。


 二人が着ているのは、グランヴェル財閥『研究開発部(R&D)』が最新技術と国家予算レベルの素材で仕立て上げた、特注の【|完全防毒・対光学兵器用かんぜんぼうどく・たいこうがくへいきようスリーピーススーツ】である。


 いかに高濃度の猛毒ガスが吹き荒れようと、スーツの表面に展開された不可視の浄化結界により、内部は常に「森林浴のような」澄み切った空気に保たれていた。


「ですがロイド様。これほどの猛毒の中では、視界が悪すぎますね」


「問題ありませんよ、クラウス。魔獣が絡む事故物件は、すなわち『最も魔素が濃い場所』に原因があるのです。……あそこです」


 ロイドが指差した先。


 それは炭鉱のトロッコ用レールを辿った最深部、かつて『大採掘場』と呼ばれていた巨大な地下空洞だった。


 そこは猛毒ガスの発生源であり、壁面には禍々しい緑色に発光する巨大な魔石の結晶が、無数に突き出していた。


「……ロイド様。あの中央のクリスタルの山に、巨大な生体反応があります」


「ええ。出迎えてくれたようですね」


 クラウスがタブレットを操作した直後。


 ガキンッ、と巨大な魔石を踏み砕きながら、緑色の毒霧の中から『それ』は姿を現した。


『ピュイィィィィッ……!!』


 地下空洞を震わせる、高く澄んだ鳴き声。


 現れたのは、見上げるほど巨大な――アンゴラウサギのような姿をした幻獣だった。


 額には巨大なルビーの角を戴き、足元まで垂れ下がる信じられないほど長い純白の毛並み。そして何より目を引くのは、その密集した長い毛の奥底で、数え切れないほどの『宝石の結晶』がキラキラと乱反射して輝いていることである。


「伝説の宝石獣……『カーバンクル』の変異種ですか。これほど巨大で、長毛の個体が存在していたとは」


「おお……おおおお……!!」


 冷静に分析するクラウスの横で、ロイドは目をカッと見開き、感嘆の声を漏らしていた。


 その瞳に宿っているのは、恐怖などではない。極限まで高まった、純粋な『モフモフ(&キラキラ)への愛』である。


「見なさい、クラウス! 数年間、この鉱山に満ちた猛毒ガスをたった一匹で吸い上げ、浄化し、己の体内で『宝石』として結晶化させたあの姿を!!」


 ロイドは、うっとりとした表情で巨大ウサギを見上げた。


「大自然のフィルター機能が生み出した奇跡……圧倒的な長さを誇る純白のフワフワ毛玉! そして毛の奥で輝く天然のジュエリー! なんとゴージャスな『ラメ入りモフモフ』ですか!!」


「ロイド様。感極まっているところ申し訳ありませんが、魔獣が威嚇態勢に入りました。額のルビーから、極太のレーザーが来ます」


 見知らぬ侵入者ロイドの熱すぎる視線に対し、巨大ウサギが恐怖で毛を逆立て、額のルビーに凄まじい光の魔力を圧縮し始めた。


 直撃すれば、分厚い岩盤すら一瞬で蒸発させる、幻獣のレーザー攻撃。


『ピュィィィッ!!』


 放たれた致死の宝石レーザーが、ロイドを真っ向から飲み込む。


 ――しかし。


「素晴らしい……! 歩くたびにシャラシャラと鳴る宝石の音色が、さらにエレガントさを引き立てていますね!」


 極太のレーザーを、特注スーツの『対光学兵器コーティング』でふわりと霧散させながら、ロイドは無傷のまま、歓喜に震える声で叫んだ。


「あの信じられないほど絡まり合った長毛! 毛玉を解きほぐすブラッシングのやりがいが、これまでの比ではありません! ああ、なんて贅沢な魔獣なのでしょうか!」


「……ええ。おっしゃる通り、私のカバンに用意した『強力粘着ローラー(ラメ・抜け毛対応版)』の出番ですね。後で私のスーツに宝石の破片が刺さった場合の修理費も、経理に請求しておきます」


 猛毒のガスと致死のレーザーが飛び交う中で一人熱狂するロイドと、無表情でコロコロの準備をするクラウス。


 そんな規格外の人間たちを前に、巨大な宝石ウサギは「……えっ?」という顔でレーザーを止め、長い耳をパタパタと揺らして戸惑った。


「怖がらなくて大丈夫ですよ。……さあ、私が極上のブラッシングと、甘いおやつを与えて差し上げましょう」


 ロイドは一切の警戒もなく、世界で最も優雅な足取りで、巨大な宝石ウサギへと歩み寄り始めた。


 猛毒に閉ざされた地下鉱山で、冷徹な御曹司による『最高にゴージャスな買収劇』が、今、幕を開ける。





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