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異世界ワケアリ不動産〜曰く付き物件を買い叩いたたき、魔獣は趣味の保護リゾートへお引っ越しさせます〜  作者: 薄氷薄明


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第9話





 ロイド・グランヴェルが優雅に指を鳴らした直後。


 遥か上空の雲海に待機していた巨大魔導艦から、すべてを融解させる極大の『熱線』が、猛吹雪のゴーストタウンへと放たれた。


 音すら発生しない、圧倒的なエネルギーの奔流。


 一瞬の白光が視界を染め上げた直後、先ほどまで街を覆い尽くしていた絶対零度の氷河も、呪われたようにそびえ立っていた廃旅館の残骸も、塵一つ残さず『物理消去(蒸発)』されていた。


 後に残されたのは、不自然なほど美しく平坦で、ほんのりと地熱を帯びた『更地(さらち)』のみである。


「お見事。今回は熱線仕様でしたが、我が一族のお家芸はいつ見ても美しいですね」


 特注スーツで熱波を優雅に弾きながら、ロイドは満足げに微笑んだ。


 数年間、誰も近寄れなかった極寒の死地。その()まわしい呪いの吹雪は完全に消え去り、澄み切った青空が広がっている。


 ――ゴゴゴゴゴッ!!


 その時、更地の中央から凄まじい地鳴りが響き、大地の底から天を突くほどの巨大な水柱が噴き上がった。


「なっ……お、温泉だ!? 完全に凍りつき、枯れ果てていた大源泉が……!」


 呆然と見守っていた温泉組合長が、腰を抜かして叫んだ。


 噴き上がったのは、ただのお湯ではない。九尾の狐という極上のフィルターが長年かけて不浄な魔力を浄化した結果、キラキラと黄金色に輝く純度百パーセントの魔素を帯びた、まさに『神の温泉』であった。


「素晴らしい。九尾ちゃんが不法投棄された冷気と毒素を浄化し続けてくれたおかげで、大地の魔力脈が最高純度の温泉へと昇華したのですね」


 ロイドは、足元で自慢げに九本の尻尾を揺らす九尾の狐を優しく撫でた。


「これほどの効能を持つ温泉が湧き出る更地……。間違いなく、白金貨数千枚以上の価値を持つ『超優良な曰くつき物件』として転売できます。……さあ、本省に事業の進捗を報告しましょうか」


 ロイドが空中にホログラムの通信ウィンドウを展開すると、やはりコール音は一回すら鳴らなかった。


『おおおおお! ロイド! 私の愛する弟よ! 極寒の地へ出向いたと聞いたが、風邪など引いていないか!?』


 ウィンドウの向こう側に現れたのは、満面の笑みを浮かべた財閥総帥――アルベルト・グランヴェルだった。


「お疲れ様です、総帥閣下(アルベルト兄さん)。……あの、通信の後ろで、どこかの巨大商業ギルドのビルが爆破解体されているのが見えますが」


『あ? ああ、こいつら我が財閥からの出向社員に逆らって、市場の価格操作を企ててね。今ちょうど、ギルド支部ごと物理的に市場から退場させたところだ。気にしなくていい』


 氷点下の声で背後の爆発を一瞥した後、アルベルトは秒で極上の笑顔に戻る。


『それよりロイドよ! 見事な熱線の更地化だった! その後ろで噴き上がっているのは、もしや温泉か?』


「ええ。今回のターゲットである九尾ちゃんを保護し、邪魔な氷を消し飛ばした結果、極上の魔素を帯びた『神の温泉』が湧き出しました。……これを足がかりに、この土地一帯を最強の温泉リゾート特区として再開発します」


『温泉リゾートだと!?』


 アルベルトが、優雅に傾けていたワイングラスの手をピタリと止めた。


『愛する弟が、可愛い魔獣たちと共に極上の湯を浴びる……。素晴らしい!! 天才だ!! だがロイドよ、お前は一つ大きな間違いを犯している』


「……またですか。嫌な予感しかしませんが」


 アルベルトの目が、ギラリと危険な光を放った。


『そうだ。私の愛する弟が浸かる温泉が、その辺の岩を積んだだけの野天風呂であってたまるか。……経理へ伝えろ! ロイドの口座に、至急【ワケアリ温泉・特別建設費】として白金貨三千万枚を振り込んでおけと!』


「……兄さん、多すぎます。魔獣たちがのんびり浸かれる広いお風呂があれば十分なのですが」


『全施設を最高級の【月光大理石(げっこうだいりせき)】で統一しろ! 肉球……いや、九尾ちゃんの足が冷えないよう、全域に魔導床暖房を完備するんだ! 当然、防衛用の結界発生装置も十重に張り巡らせろ!』


 涼しい顔で国家予算レベルの無駄遣いを指示する総帥に、ロイドは優雅にこめかみを揉んだ。


『キュピ! お兄ちゃん、早くお風呂入りたいのじゃ!』


 その時、ロイドとクラウスの脳内に、古風で愛らしい九尾の念話が響いた。


 魔法契約書のバグは修正済みのため、役員である彼らにしか聞こえない「社内限定放送」である。


「ええ、もうすぐ最高のお風呂ができますからね、九尾ちゃん」


 ロイドが何もない空間に向かって優しく微笑みかけた瞬間、通信の向こうのアルベルトがピタリと動きを止めた。


『……ロイド。お前、今、誰と会話した? なぜ私には何も聞こえないのだ』


「ああ、申し訳ありません、総帥閣下」


 クラウスが無表情のまま、手元のタブレットを操作しながら答えた。


「先日、社長(ロイド様)が魔法契約書を修正し、宛名を『ワケアリ不動産の指定役員』に限定しましたので。現在、九尾ちゃんの【のじゃロリ甘えボイス】は、私とロイド様の脳内にのみ響いております」


『……なんだと? ふざけるな!! 愛する弟の事業の最大スポンサーである私が、九尾ちゃんの「のじゃ」を聞けないなどあってたまるか!! 今すぐ私を役員名簿に入れろ! 追加で白金貨一千万枚振り込むから!!』


「兄さん、少し落ち着――」


 プチッ。


『愛する弟の温泉施設のためなら国の一つや二つ!』と涼しげに言い残し、一方的に通信は切られてしまった。


「……はぁ。また兄さんの悪い癖が出ました。あれでは温泉街が立派になりすぎて、逆に魔獣たちが落ち着かないんですが」


「ロイド様。白金貨四千万枚の入金、確認いたしました」


 クラウスが一切の表情を変えることなく、手元のタブレットに入力を始める。


総帥閣下(そうすいかっか)の仰る通り、これはもはや温泉街ではなく『絶対防衛・大理石要塞』です。防衛結界の設計図に、私の部下を湯守り(警備)として組み込んでおきます。あ、湯上がりのブラッシング用に、最高級の獣毛ブラシも九本、追加発注しておきました」


「クラウス、君まで兄さんに毒されないでくれ……」


 数分後。


 純度百パーセントの神の温泉が湧き出す大地の更地に、財閥本省から転送されてきた数千人規模の「超一流・魔導エルフ建築部隊」が飛来し、夜通しで凄まじい温泉リゾートの建設を始めた。


 最強の権力と莫大な資金をバックに持つ、世界一理不尽なワケアリ不動産屋による「氷のゴーストタウン」の再開発が、圧倒的なスケールで幕を開けたのであった。




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