エピローグ
「ぶっ殺してやる」
山本は、心臓が激しく打つのを感じながら怒鳴った。
公園のベンチをひとつ丸ごと占領して寝ている酔っ払いが、のろのろと顔を上げる。
焦点の合わない目でこちらを見たかと思うと、また夢の底に沈みそうになる。
「ふざけんな。ぶっ殺すぞ」
山本は拳を振り上げ、もう一度怒鳴った。
そのとき、どこからともなく老人が現れた。
「人を殺しちゃいけない」
老人はいつの間にか2人の間に割って入っている。
「は? 何言ってんだ、ジジイ。誰でもいいから殺したいんだよ」
「人を殺したら、長〜いムショ暮らしだ。それより、そのイライラを全部吐き出せる場所に行きたくないか?」
老人はにやりと笑った。
「あんたの願いが叶う場所だ」
「あんたはない、あんたは。」
「変な事気にするな。じゃあ、そこのあなた…」
「……そんな所、あるのか?」
「あるんだよ」
老人はカバンから、リストバンドのようなものを取り出した。
「明日これをつけて羽田空港へ行けば、テーマパーク行きの迎えが来る」
「遠いのか。で、テーマパークって、ディズニーランドとか、USJみたいな?」
「それよりもっと大人向きだ。」
「そうか…。」
山本はちょっと考えたフリをして
「じゃあ行きたい」
山反射的に腕を差し出しかける。
「待て」
老人の低く強い声に、思わず動きを止めた。
「約束ごとがある。」
「もったいをつけてるな」
「特別ご招待だ」
「わかった。それで約束とは?」
「至って簡単だ。出かけることを、家族や友達に言っちゃいけない」
「秘密主義ってわけか」
「そうだ。もちろん書くのもダメだし、snsなんてもってのほかだ。もし誰かに言ったら――」
老人は一拍置いて続ける。
「テーマパーク行きは中止。今夜の記憶も、きれいに消える」
「記憶まで?」
「そうだ。」
山本は鼻で笑った。
「まあ……消したい記憶もあるけどな」
老人は満足そうに頷いた。
「準備は?」
「いらない。その辺に出かけるくらいの気軽な格好でいい」
「了解」
次の瞬間、老人の姿は消えていた。




