57話 聖域の包囲網
古びた紙と微かな蜜ろうの匂いが漂う大聖堂の事務局内では、ハルは椅子に浅く腰掛けながら窓の外をじっと見つめていた。その瞳からはいつもの穏やかさが消え、代わりに底知れぬ憔悴が滲んでいる。
「あぁ……やっぱり……神父様が言った通り……この子は外に出しては……もっと強く止めてなきゃいけなかったのかもしれないねぇ……」
力なく震える声で呟くハルの視界は、恐怖によって極端に狭まっていた。すぐ隣で椅子に座って足をぷらぷらとさせながら、この緊迫した空気など感じていないような幼子の姿すら、今の彼女には満足に捉えられていない。
そのような異常に気が付いたのか、クズノハはハルの膝を軽く叩くと、飲みかけの果実水を差し出した。しかし、ハルは自身の思考の海に沈み込んだまま、差し出されたコップにすら反応を示さない。クズノハは小さな腕を伸ばしたまま数秒静止し、それから不思議そうにわずかに首を傾げていた。
その時、重厚な扉がゆっくりと開き、深紅の法衣を纏った老人……この大聖堂の主である司教が姿を現した。
老司教は憔悴しているハルに一礼をしてから、シスターの方へと視線を向けた。
「テレーズ、状況は?」
「はい、司教様。……先ほど周囲を確認しましたが、やはり一人の男が事務局の方を注視しているようです。他のシスターからの聞き取りによれば、その男は北東の遺跡についての情報を集めている冒険者で、大聖堂へも何度か足を運んでいる者のようです」
「そうか……その者とは、私が直接話をすることとしよう」
老司教は厳しい顔でシスターに告げ、それからハルの方へと顔を向けた。その表情は、慈父のような穏やかさへと瞬時に切り替わり、憔悴しきった老婆を包み込むような温かさを帯びていた。
「……心を安んじなさい、善良なる信徒よ。ハルさん……でしたね。テレーズから話は聞いております。主の家は、理不尽に怯える者の味方です。まだこの街に滞在されるというのであれば、静かな部屋を用意いたしましょう。ここならば、何者も貴女方を煩わせることはできません。いかがでしょうか?」
「ありがとうございます、司教様……。ですが、昼には連れがこちらまで馬車で迎えに来てくれるはずとなっておりますので、その時に私はこの子と一緒に村へと帰ろうと思っております」
「さようですか。では、迎えが来るまでは、こちらでごゆるりと休まれていただきたい。私はその間、貴女の平穏を乱す不届き者を、主の門前から遠ざけてまいりましょう」
ハルはその言葉に深く安堵し、肺の奥の空気を吐いた後にクズノハの方へと目線を移す。そこには改めてコップを差し出す幼子の姿があった。
「あぁ……クズノハちゃん……ありがとうねぇ。おばあちゃん、のどがカラカラになっちゃってたみたいですよ」
ハルは震える手で果実水を受け取り、少しずつ喉を潤す。ひんやりした感触が喉を通り過ぎる度に、ハルは凍り付いていた思考がゆっくりと解けていくのを感じた。
そして、司教へと向き直し、一礼する。
「……申し訳ありません、司教様。お見苦しいところを」
「いえ、構いません。では、私は行ってまいります」
そして老司教は深紅の法衣を翻し、重厚な扉の向こうへと消えていった。不埒な輩へと引導を渡すために……。
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459:名も無き冒険者 ID:Wp1O4z0X
だから! 何をやっておりますのって! 言っておりますのーっ!!
御老人が怯えて隠れているところを監視するだなんて、火に油を注ぐようなものなのですわーっ!
早く気付かれないうちに戻って来てくださいの!!
460:名も無き冒険者 ID:k9M1m2n3
とはいえ、現状は手詰まりで何らかの情報は欲しいところだから、仕方ないところもあるんじゃないかな?
461:名も無き冒険者 ID:Wp1O4z0X
ですから! その方法を考えて欲しいと言っておりますのーっ!!
462:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
ごめん。見つかった。
463:名も無き冒険者 ID:Wp1O4z0X
だから言わんこっちゃありませんのーっ!?
464:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
目茶苦茶怖かった。死ぬかと思った。
465:名も無き冒険者 ID:u8K9z2xM
待て待て! 何が起きたんだ?
詳細よろしく。
466:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
威厳溢れる赤い服きた目茶苦茶偉い感じの人が出てきて、目茶苦茶怒られた。
凄い威厳たっぷりに怒られた。泣きそう。泣いた。
467:名も無き冒険者 ID:xR2t5N9m
少々良くない状況になってまいりましたね……。リカバリーは可能なのか判断しなければなりません。
具体的には、どのように怒られたのでしょうか?
468:名も無き冒険者 ID:m3K8v9nQ
あらー、お疲れ様でした。
だから、私もやめたほうが良いって言ったじゃないですか。
469:名も無き冒険者 ID:Wp1O4z0X
≫466
いやーっ!?
司教様ではありませんのーっ!?
この街の大聖堂で一番偉いお方ですわーっ!?
470:名も無き冒険者 ID:kP7j3W8q
かなり不味いことになってるな。
一体、何しでかしたんだよ。
471:名も無き冒険者 ID:r9X2p4Qn
すみません、私にはどれほどの事態なのかが、いまいちまだわからないのですけど、どれほどの事になったのですか?
472:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
ちくしょう……俺が何をしたっていうんだ……。
473:名も無き冒険者 ID:m3K8v9nQ
≫472
可愛い女の子への付き纏い行為ですねー。
474:名も無き冒険者 ID:Nth01Wp9
≫472
幼女へのストーカーかな。
475:名も無き冒険者 ID:k9M1m2n3
≫472
ストーカー規制法違反じゃないかな?
476:名も無き冒険者 ID:Wp1O4z0X
≫471
ベロゼリスクに皆さんまで立ち入り禁止になるかもしれないレベルですわーっ!?
≫472
高貴な血筋の幼子へのストーカー行為ですわね。
477:名も無き冒険者 ID:r9X2p4Qn
≫472
先輩、申し訳ございませんが、私には擁護が出来ないみたいです……。
478:名も無き冒険者 ID:xR2t5N9m
≫472
面会時には美味しいものを届けますので、安心していただければと思います。
479:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
みんな酷いな!?
≫478
まだ捕まってねーよ!?
これじゃ、俺……情報共有したくなくなっちまうよ……
480:名も無き冒険者 ID:xR2t5N9m
≫479
おや? 何か情報も得られたのでしょうか。
481:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
≫480
そうだよ! 遺跡についてと銀髪ちゃんについて、有力な情報が少し手に入ったぞ!
人間的にどうなのか、ガチの説教されたけどね! 美人で若いシスターに呆れられながら見られつつ、長時間の説法されたけどね!!
おかげで神聖魔法と精神耐性アンロックされたレベルのな!!
俺……何でゲームで、ここまでダメージ受けてんだろうな……。
482:名も無き冒険者 ID:u8K9z2xM
説教が辛かったのはわかった……。でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
説教のダメージについては後で聞くから。な?
それで、一体何がわかったんだ?
483:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
ちくしょう……! 何も言い返せねぇ……!
じゃあ、纏めるからちょっと待ってくれ……。
484:名も無き冒険者 ID:j3R4k6tQ
遺跡についての情報
1.北東の遺跡の狐のレリーフは、狐獣人が関係するみたいだけど、どうやら一番奥まで行っても狐獣人がいなければ意味が無さそうだ。
2.この遺跡について調べたいなら、べロゼリスクで調べるよりも、王都の大図書館を調べた方が良いらしい。
銀髪ちゃんについて
1.王家の血は引いてそうだけど、どうも話しぶりだと公式な王家の一員では無さそうな感じ。
2.何やら王家関連の過去の事件が関係してそうな話をしていて、今回は見逃してくれるけど、これ以上むやみに接触したら捕まると警告されちゃった☆
485:名も無き冒険者 ID:Wp1O4z0X
≫484
されちゃった☆
じゃありませんのよーっ!?
それ、間違いなく十何年か前の王女誘拐関連じゃありませんのーっ!?




