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幕間:雪原の守護者(親うさぎ視点)

 白一色の世界を、親うさぎは一定のリズムで跳ねていた。

 このエリアの生態系管理を担う彼女のAIには、明確な優先順位が刻まれている。第一に「生存」、第二に「次世代の育成」、そして第三に「世界の調和(中立ユニットへの対応)」だ。


 索敵範囲内に、二つの反応を感知。

 一つは、自身の仔。

 もう一つは――【人型幼体/クラス:狐】。


 親うさぎの演算が瞬時に行われる。


「相手は捕食者か?」


 判定:NO。

 理由は明白だった。その個体からは脅威が全く検出されない。むしろ、重い布を纏い、雪に足を取られて転ぶ姿は、生態系において最も脆弱な保護対象のカテゴリーに分類された。


(……うちの仔が、あの子と遊んでいる)


 親うさぎは、物陰からその光景を静かに眺めた。

 クズノハには死闘に感じたであろう泥仕合も、親うさぎの目には教育的交流として映る。仔うさぎが繰り出すキックは、甘噛みに近い手加減がなされていた。相手があまりにも弱く、反応が鈍いため、仔うさぎはまるで新しい玩具を見つけたかのように跳ね回っている。


 銀髪の幼い個体は、必死に手を伸ばし、うちの仔を触ろうとしていた。

 その必死さは、親うさぎのAIに「生命の輝き」と「愛らしさ」として処理される。

 やがて、二匹(?)は疲れ果てて雪に倒れ込んだ。

 微笑ましい光景だ。親うさぎは茂みから姿を現し、ゆっくりと歩み寄る。


(もう帰りましょう。十分遊んだわね)


 親うさぎは、満足げな仔うさぎの首元を優しく咥え上げた。

 そして、雪に顔を埋めて震えている銀髪の個体を見下ろす。


 その瞳には、深い慈愛と感謝が宿っていた。

 本来、狐とうさぎは敵対関係にある。だが、この奇妙な幼体は、自分の仔に「追いかけっこ」の練習をさせてくれた。それも、自分から転んで隙を見せるという、この上なく安全な方法で。


(ありがとう。優しい子。あなたのおかげで、この子は少し強くなれたわ)


 親うさぎは親愛のサインとして、一瞬だけ視線を固定した。

 野生動物にとっての最大級の敬意。それは、相手を「恐怖の対象」ではなく、「共にこの地を生きる隣人」として認めること。


(さようなら。次は、あなたのお母さんに見つけてもらえるといいわね)


 親うさぎは、自分の仔を連れて軽やかに雪原を去っていった。

 後ろに取り残された幼い狐が、その現実に打ちのめされ、孤独という名の絶望に震えていることなど、微塵も気づかぬままに。

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