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週末ロック!  作者: 大日小月
PR動画編

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第五話 伝統と革新 その一

 五月の大型連休も終わり絶望溢れる月曜日、瑚乃海(このみ)蛍子(けいこ)のギターを加えた新曲を提出していた。定時後の会議室を瑚乃海と野田の二人は慣れたように陣取っている。この一ヶ月でおなじみとなった組み合わせだった。


「……いいじゃん! 前より随分ポップス? ロック? になったよね。会社の動画に使うのが勿体ないくらい」

「ありがとうございます」


 犬歯を覗かせて野田が褒める。音楽の分類に明るくなくとも感覚的にわかるものがあったようだ。


「でも、瑚乃海さん明るい曲にするって言ってなかったっけ? もっとパーっとした曲になると思ってた」


 野田は手を開いてパーっとを表現する。


「充分明るい曲だと思いますが」


 野田がさり気なく下の名前で呼んできたことを気にしつつも、瑚乃海は説得力のある理由を探す。


「……会社が歩んできた成功を明るさで、その裏にある苦労を暗さで表現したので苦楽が混じる曲になりました。苦あってこその楽だと思うので」


 スラスラと台詞を喋るように淀みなく言葉が紡がれた。


「それ、今考えた? 瑚乃海さんって結構面白いことも言うんだね」


 即興の理由は看破されたが、野田には好評だった。瑚乃海はいつの間にか距離を縮めにきていることに困惑する。


「言い訳は得意なので。ところで、動画の方はどうしますか」


 誤魔化すように話題を変える。野田はそんな態度を気に留めず、ノートパソコンから写真や動画が多数入ったフォルダを開いて瑚乃海に見せる。


「一応使えるかもしれないかなって思って休みの間に素材を追加で撮ったんだけど」


 会社の外観、工場の各現場や機械、部品から組み立て途中の仕掛品、そして完成品。様々な角度で撮られた写真や動画が並んでいた。


「これ全部休日に撮ったんですか……」

「そうだよ。素材は多すぎても問題になることあるけど、基本はあった方がいいから。あ、ちゃんと工場長には許可もらってるからね!」

「そういう問題ではないですけど……。お疲れ様です」


 自らも連休中に曲作りをしていた瑚乃海だが、休日出勤をしてまで素材集めをする野田に驚きを禁じ得なかった。


「どの素材を使うか決める前に、まずは構成から考えないとなんだけどね」


 やれやれといった様子で両手の掌を上に向ける野田。動画に使う素材だけ決まっているという稀な状態に翻弄されていた。

 瑚乃海は野田の言葉に耳を傾けつつ、フォルダ内の写真を確認する。

 

「……これ、全部使ったらいいんじゃないですか?」


 一通り写真を見て呟く。身も蓋もない案だった。


「もったいない気持ちはわかるけど、流石に全部使うのは無理だよ」

「いえ、そうではなくて」


 頭に浮かんだ案を伝えようとするが、上手く言語化することができず口が止まる瑚乃海。動画編集に関しては簡単なものを作れる程度の知識しか持ち合わせていなかった。それでも、なんとか絞り出して言葉にする。


「こう、映画の告知みたいな感じで使えませんかね。連続でカットしたり画面を分割して」


 手を開いては閉じてを繰り返しながらの説明。あまり自信はなさそうだ。


「あー、わかる、わかるよー! 確かにその方法ならたくさん使えるね」


 無事、瑚乃海のニュアンスは伝わり、野田は何度も深く頷いて共感する。なにかを閃いたように手を叩いて立ち上がる。


「瑚乃海さんの言う通りだね、会社のPR動画じゃなくて告知動画を作ればいいんだわ! そう思わない!?」

「……そうですね、思います」


 見開いた目を向ける野田に瑚乃海は笑顔を取り繕って対応する。急激なテンションの変化についていけていなかった。


「よーし、そうと決まったら早速やるぞー!」


 野田は拳を天に突き上げる。


「え、今からやるんですか。もう五時半過ぎてますよ」


 瑚乃海は壁に掛けられたシンプルな時計を指差す。いつもなら自宅に着いている時間だ。


「三十時間まではみなしだからなにも言われないし大丈夫。あ、瑚乃海さんは帰ってていいよ。今日は構想練るだけだし」

「そういう問題では……。すみません、じゃあ後は任せます」


 やる気をノートパソコンに叩きつける野田を尻目に瑚乃海は会議室を出る。

 動画制作は一歩進んだが、瑚乃海と野田の距離は一歩近づいて一歩遠のいていた。

 

 その後、野田が打ち出した構想と絵コンテを元に動画作成が始まり、瑚乃海は編集の中でも単純ながら時間のかかる作業を手伝うことになった。自宅で作曲していた時とは違い、定時後に会社に残って少しずつ作業をする。

 瑚乃海はどうせならと残業代で自分にご褒美を買おうと考えるが、計算してみると大した額にならず落胆する。邪念を捨て、ただひたすら動画編集に向き合う瑚乃海がそこにはいた。

 そうして動画ができあがったのは二週間後だった。お馴染みの会議室で二人並んでパソコンの画面を見る。


「じゃあ再生するね」


 野田が神妙に再生ボタンをクリックする。


 映し出されたのは、まさに映画の告知かと思うような動画だった。

 冒頭に会社名とロゴがドンと現れ、そこからシーンを抜粋し散りばめて凝縮したように製品群が矢継ぎ早に映っては消えを繰り返す。

 一般的な水平のベルトコンベアからカーブのついたものや傾斜のついたもの、倉庫用の巨大なものなどベルトコンベアだけでも多数の製品がある。それに加えてローラータイプやスクリュータイプといったベルト以外のコンベア、更にそれらを組み合わせた自動の仕分けシステムまで会社の様々な製品を、数秒で全て映し出した。

 そして、曲が始まる。設計・製造・検査・出荷、営業と各部署が順番に早口のナレーションと共に紹介される。早口なのはほとんど聞かせる気はなく雰囲気づくりのためだろうか。そこからドローンで撮影した会社の全景が映し出され、会社の沿革を説明したナレーションをバックに冒頭でチラ見せをした製品群が実際に使用されている様子が流れる。

 最後は企業理念である『伝統・革新』が現れて動画は終わる。

 

「ほんとに素材全部使っちゃいましたね。でも、よくできてるんじゃないですか」


 自らの提案とはいえ、本当に実現したことに瑚乃海は他人事のように感心する。


「我ながら傑作だよ。瑚乃海さんの曲ともバッチリ合ってるし」


 野田は大きく伸びをする。一仕事を終え、清々しい表情を浮かべている。


「これでダメだったら会長室に殴り込みにでも行きますか?」

「お、瑚乃海さんも言うねぇ」


 野田の仕事人間振りに引くことがありつつも、ともに苦労したことで、また協力してもいいと思えるくらいには瑚乃海は心を開いていた。プライベートではプライベートの、会社では会社の仲の良さがあるものだと実感したのだった。

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