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週末ロック!  作者: 大日小月
商店街編

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第十七話 その二

本日二本目の投稿です。

 壁一面に吸音材が張られた閉塞感のある部屋は、音だけなく空気の流れも遮断して特有の湿っぽさがある。

 煌々カルテットの再結成ライブをしたライブハウスに四人はいた。


「セッションで作曲しようってことか」


 瑚乃海がライブハウスにきた理由を見出す。


「そういうこと。曲が思いつかなければみんなでやればいいのよ」


 寧璃はキーボードを調整しながら答える。


「一度セッションで曲作るのやってみたかったんだよねー!」


 即興で演奏するセッション。気軽に楽しむ遊びの延長やバンドでの音合わせ、そして作曲にも用いられる手法だが、煌々カルテットは珍しいことに一度もしていなかった。


「店長に聞いたらすんなり貸してくれたのよ。リーダーの日頃の行いがよかったのかしら」

 

 口元と手で覆い、寧璃は挑発的な表情を見せる。


「まあ、なんでも試さないとダメか」


 そう独り言ち、瑚乃海は大人しくドラムのセッティングをする。


「ねえねえ、こういうメロディーはどう? サビのところなんだけど」


 すでにギターの準備を終えた蛍子がアルペジオで旋律を奏でる。


「悪くないんじゃないか」

「いいってことだね!」


 瑚乃海の評価に気をよくした蛍子は引き続きメロディーを探す。


「それならAメロはこういうのでどうかしら」


 寧璃が軽やかにキーボードを演奏する。蛍子のメロディーから着想を得たフレーズだった。


「なるほど、そういう風になるのか」


 瑚乃海にとって意外なフレーズだったのか、口元に手を添えて小さく頷く。


「じゃ、じゃあベースはこんな感じで……」


 蛍子と寧璃に置いていかれまいと千晶もセッションに混じる。


「そのベースラインいい感じだね!」

「イントロはもっと落ち着かせた方がいいのかしら」

「徐々に盛り上げる感じが合うと思う……」


 誰かが演奏すればそこからアイデアが生まれ、そのアイデアを基に演奏してまた新たな音が生まれる。作曲の好循環が起こっていた。

 瑚乃海は一人その光景を微笑ましくもどこか遠い場所の出来事のように見ていた。

 やったことのない作曲方法に、着々と曲の骨格を作り上げていくメンバーたち。自分がいなくてもこのバンドは活動できるのだという親心にも似た寂寥感だった。


「いつまでもサボってないで参加したらどう?」


 疎外感を覚えていたのは瑚乃海だけのようで、寧璃が参戦を要求する。


「そうだよ! コノミンがいないと始まらないじゃん!」

「ど、ドラムがいないとベースは防御力ダウン……」


 いつの間にか、三人は手を止めて瑚乃海をじっと見つめていた。


「あ、ああ」


 返事はそっけなかったが、瑚乃海は静かに笑った。


「それじゃあ、一回通しでやってみるか」


 スティックを四回打ち合わせてから瑚乃海はシンプルなリズムを刻む。ドラムに呼応するようにベースがビートを刻む。キーボードがイントロを奏で、ギターがまろやかに伴奏を弾く。

 ゆったりとしたままAメロに入りキーボードがメロディーを弾く。

 Bメロに入ると示し合わせたようにドラムとベースが刻むリズムが躍動感を増す。瑚乃海と千晶の目線が合う。互いの考えが一致していた。

 サビを煽るように瑚乃海の演奏が激しくなる。それにつられてギターの音も解き放たれる。

 断片的だったフレーズが即興で弾きながらできあがっていく。楽譜にもソフトにもない、この場限りの夢のような演奏。

 楽曲に手応えがあるのか、四人の顔には笑みがこぼれる。即興だからこそ生まれる音と連帯感、それこそがセッションの醍醐味だ。

 演奏が終わると、室内には静寂と余韻が残った。

 

「今の曲よかったんじゃない!?」

「……そうだな。いい曲ができたな」


 余韻に浸った後、遅れて曲の良さに言及する蛍子。瑚乃海は興奮に酔いしれながら肯定する。


「これで悩みは解決かしら?」


 澄ました顔の寧璃が聞く。僅かに頬が紅潮している。


「ああ、今弾いたのを調整したら曲ができるわ」

「それならよかったわ」


 瑚乃海の顔にはすでに憂いはなかった。

 興奮が徐々に冷めて撤収の空気が流れる。その空気の中で千晶がぼそっと呟く。


「……瑚乃海ちゃん、ろ、録音した?」

「……あ、忘れてた」


 その場限りの演奏で作曲する場合は録音が必須だが、瑚乃海はそこまで気が回っていなかった。


「ふう、もう一回やろうか」


 初めてのセッションで成功と失敗の両方を経験することができた瑚乃海だった。

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