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週末ロック!  作者: 大日小月
商店街編

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第十五話 その二

本日二本目の投稿です。

『そういうわけで、商店街のイメージソングを作ることになった』


 その日の夜、瑚乃海はバンドのグループチャットでことの経緯を説明したメッセージを打ち上げた。


『いいね! MVはある?』


 数分で蛍子が反応する。グッジョブのスタンプ付きだ。


『動画は商店街の人の中に担当の人がいるらしいから今回はなしで』

『歌だから歌詞はいるから千晶の出番だな』


 初期搭載のスタンプとともに瑚乃海がラリーを返す。

 

『そうなんだ! 曲の依頼って初めてだから緊張するねー』


 チャット上の蛍子は普段の喋りと変わらない明るくて親しみやすい雰囲気を醸し出している。


『今まで自分たちがやりたい曲を作ってただけだからな。千晶はいけそうか?』


 既読が二人分ついていることから、蛍子の他に千晶が見ている人がいるとわかった上で送ったメッセージ。寧璃(寧璃)はすぐに見ないだろうと選択肢から外れていた。


『イメージソングの件わかったよ! 歌詞でなにか注文とか聞いてる?』


 蛍子から遅れて千晶からもメッセージがくる。いつもは人と話すのが苦手で、よく吃るがチャット上ではそれを微塵も感じせない文である。

 ただ、蛍子から反応があった時には既読がついていたため、時間をかけて作成した文なのだろうと瑚乃海は推測する。


『多少は明るめの方がいいけど、それ以外はなし』

『今ある曲から雰囲気を変えたいってことだから商店街の名前をいれたりとかはしない方がいいと思う』


 現行のイメージソングは歌詞のあちこちに商店街に関連する言葉が散りばめられている。イメージソングとしてはありがちな手法ではあるが、そのために曲のクオリティや馴染みやすさを損ねてしまっている。

 それが組合長である若松が気に入っておらず、曲を変えようとしているのだと瑚乃海は受け取っていた。


『それはそれで難しいね。瑚乃海ちゃんはどういう感じのにするか決まってる?』

『全然だな。思いつかなかったら若松さんにまた聞こうと思ってる』

 

 制約がないというのは作り手にとっては喜ばしいことではあるが、イメージソングを作る際には却って難易度を上げることにもなるのだった。


『アッキーが商店街を利用していて思ったことを書けばいいんじゃない?』


 蛍子が岡目八目のように助言をする。


『そういや、若松さんが千晶によく会うって言ってたな』

『お惣菜とか中古CDとか古本を買いに行ってるよ。でも入ったことないお店の方が多いね』

『それなら取材がてらに買い物してみるか?』


 千晶が商店街をよく利用している理由がわかり得心が行く瑚乃海。それならと素直に提案をする。


『取材いいね! 私も行ったことないお店多いし』

『僕もいいよ。いつ行こうか』

『いいわね。私も行くわ』


 蛍子と千晶に混じり、中々反応がなかった寧璃も肯定する。

 こうして、新曲作成のために四人は商店街を巡ることになった。


 ◇


 ”一番商店街”が今回瑚乃海たちがイメージソングを任された商店街だった。タイルの道路が真っ直ぐ続き、頭上にはアーチ状のガラスの屋根が道を覆うアーケード街。タイル道の両脇には商店や理容室に呉服屋といった昔ながらの店が並び、喫茶店やラーメン店、寿司店など飲食店も充実している。シャッター街と呼ばれる廃れた商店街が全国各地にある中において、活気が溢れていた。


「ここにもスタジオができたのか。知らなかったな」

「ハニーレモントーストだって! 新メニューだ」


 四人にとっては地元であり勝手知ったる場所ではあるが、それでも新たな発見があるようだった。


「八百屋の真横にレコード店があるのは面白い光景ね。この雑多な感じが商店街の面白さだと思うわ」

「あ、それ歌詞に使えそう」


 飲食や服飾、雑貨などの店舗が分野ごとに固まっているわけではなく、ごちゃまぜになって並んでいるようすを寧璃は興味深い目で観察していた。


 歩くこと十分、一行は商店街の端に到達する。


「これでメインの通りは終わりか。後は横に繋がっている商店街だな」

「え、これで終わりじゃないの?」

「なんだ蛍子、知らなかったのか。全長で一キロ以上あるんだぞ」

「そんなにあったんだ⋯⋯」


 南北に続くアーケード街をメイン通りとして、そこから東西にいくつも枝分かれして商店街が続いている。メイン通りに用事が集中していた千晶は商店街の詳細までは知らなかったのであった。

 瑚乃海たちは一番近くに見えていた角を曲がり、東西に連なる脇道に入る。


「さっきのところより個性が強いお店が多いね」

「私も詳しくは知らなかったけど、アングラ感が強いな」


 メイン通りにも老舗の店舗はあったが、脇道の店舗は輪をかけたように古い店構えが並んでいた。罅があちらこちらに入った外壁、文字が霞んで見えなくなっている店舗名。道路を覆う屋根は汚れが蓄積しており、メイン通りよりも暗い通りになっている。

 並んでいるのも雀荘や喫煙可能な喫茶店など、一般受けはし辛い店舗だ。


「こんな場所もあったんだね。知らなかったよ」

「私もよ。無意識に避けていたのかしら」


 四人はなんとなく居づらさを感じ、そそくさと通りを抜ける。

 そして、他の通りも全て見て歩き、商店街の入口近くの喫茶店で一息つくことにしたのだった。


「結構歩いたねー。ちょっと疲れちゃった」

「端まで行っては戻ってを繰り返したからな。千晶、なんか掴めそうか?」


 コーヒーにミルクを入れて混ぜながら瑚乃海が問う。


「う、うん。色々テーマは浮かんできた⋯⋯」


 そう返すと、千晶はストローでオレンジジュースを啜る。


「新旧とか明暗とか縦横とか、対比が多いかな⋯⋯」

「確かにそうだな。よく見てるじゃん」


 千晶の言葉に、今日通った道を思い返しながら瑚乃海が同意する。


「こ、瑚乃海ちゃんは、曲のイメージは掴めた?」

「さっきまでは全然だっだけど、千晶が言った新旧と明暗ってところからなら作れそうだ」

「それならよかった……」


 新旧と明暗を曲調でどう表現するか、頭の引き出しから瑚乃海は探す。

 作詞と作曲、ともになんとなくではあるが方向性が見えてきて、イメージソング作りは順調に動き出した。

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