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週末ロック!  作者: 大日小月
MV編

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第十四話 その二

本日四本目の投稿です。

 ライブ当日、控室から覗いた観客席はすでに満席となっていた。雑居ビルの地下にある収容人数が二百人に満たない小さな箱とはいえ、過去の記憶を遡っても見たことのない光景だった。


「なんかお客さん多いね。今日って有名なバンド出てたっけ?」


 今日行われるのはライブハウス主催のブッキングライブ――複数のバンドが出演するライブ――であり、煌々カルテット目当て以外の人も入場している。それを蛍子は確認した。


「ぼ、僕の知る限りみんな同じくらいの知名度だと……」


 インディーズバンドに明るい千晶が答える。出演者の中に集客力のある著名なバンドは煌々カルテットを含めていなかった。


「日本の音楽シーンは益々ライブに傾倒していってるのかしら」


 冷静な口調の寧璃は口ぶりに反してしきりに観客席を覗きに行っては戻ってを繰り返す。

 ライブ前の緊張とは別種の浮ついた雰囲気の控室、不意にドアがノックされる。


「今日のお客さんほとんどお前たち目当てだから! しっかりやれよ!」


 それだけ言って店長は慌ただしくドア閉めた。控室に一瞬の静寂が訪れる。


「店長が言ってたことは本当だったんだな」


 静寂の中、瑚乃海は誰に言うでもなく呟く。


「店長さんがなにか言ってたの?」

「ああ、私らのライブはまだかって何度も聞かれたとか」

「そういやSNSのアカウントでもライブの日程聞かれること多くなったかも」


 蛍子の言葉で瑚乃海は思い出したようにスマートフォンを取り出し、手早く操作する。


「もしかしたらMV効果かもしれん。今確認したら五万回再生になってる」

「え、それって今まで一番多いんじゃ……」

「ああ、ぶっちぎりだな」


 ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。あるいは自分の音か。瑚乃海は一瞬現実ではないような感覚に陥る。


「これってバズってる……?」


 蛍子にしては珍しいはっきりしない口調。


「多少は時流に乗ってるといっても差し支えないと思うわ」


 寧璃は瞬きの回数が増えている。長い睫毛が揺れる。


「す、すごい。これで僕らも一流の仲間入り……」


 千晶はすでに実感を通り越していた。


「流石に一流には程遠いけど、地元で人気のバンドくらいは自称できるかもな」


 言葉にするごとに実感が湧いてくる。


「こんなことだったらワークウェア用意してきたらよかったねー」


 蛍子が残念そうに言う。誰しもが予想していなかった事態だった。

 瑚乃海は現実を確認するために観客席を見る。薄暗く圧迫感のある空間を開演前の期待と昂奮が埋め尽くしている。


「これが寧璃の見たかった光景か」


 寧璃がバンドでの目標に掲げた動画の収益化だが、その目的はバンドの認知度を上げて曲の良さを知ってもらうことだった。目に映るのは煌々カルテットを待つ人たち、正に寧璃が望んだものだった。

 正しく現実を見た瑚乃海は控室に戻り三人に言い放つ。


「今日は私らが主役だ、気合いれていくぞ!!」


 いつになく熱い口調。一同は呆気にとられるが、すぐに立ち直り頷く。


「コノミンに負けないように張り切るよー!」

「熱気に飲まれないように私たちも熱くなりましょう」

「み、みんなに置いてかれないように頑張る……!」


 そして、熱狂の渦へと飛び込む。


 瑚乃海のハイハットカウント四回から曲は始まる。瑚乃海の力強く鼓動を打つようなドラムが躍動感を与え、それを支えるのが千晶の派手さはないが堅実な重いベースがリズムを刻んで曲に安定感をもたらす。リズムに乗って観客の盛り上がりが増していく。そこに寧璃の高音が綺麗に響くキーボードと蛍子の正確でメリハリのあるギターが花を添える。伴奏が作った花道を颯爽と歩くのは寧璃の清く美しい歌声。熱気高まるライブハウス内に清涼をもたらし、観客はただ音に乗るだけではなく曲に魅了されながら興奮を味わう。


「みんなありがとー!! またライブやるから絶対来なさいよ!」


 寧璃の意外に熱の籠ったMCでこの日のライブは惜しまれつつ閉幕した。


 ◇


「ライブの成功と動画の収益化を祝って、かんぱーい!」


 ライブハウスからほど近い居酒屋で打ち上げは行われていた。がやがやとした喧騒中にグラス同士が軽くぶつかる音が交じる。


「収益化は条件を達成しただけで、まだ申請すらしてないけどな」

「細かいことはいーの!」


 すっかりライブの熱が冷めた瑚乃海の言葉を蛍子は笑顔でいなす。


「そうね、条件を達成できただけでいいじゃない。このバンドの魅力を広く示すこと、それが叶えられて私は充分だから」


 ジンジャーエールをくるくるとくゆらせる寧璃は微笑を浮かべている。


「そうかい。じゃあ、寧璃様はこれで満足しちゃったのか?」

「満足はしたけれどそれで辞めるというわけではないから。継続してバンドの魅力を伝えていきたいわ」

「ま、そうだな」


 焼き鳥をかじりながら瑚乃海は軽く返す。


「コノミン、次の予定は動画? ライブ?」

「とりあえずはライブかな。関係があったところは一通り回っておきたいんだが、寧璃、就活ってそろそろ始まるんだっけ」

「インターンシップの申し込みが始まる頃ね。本格的に始まるのは夏頃になるかしら。今の頻度での活動なら支障はないから安心して」

「了解。一応その辺を考慮してライブスケジュールを組むか」


 ライブ関係者を頭に浮かべながら瑚乃海は予定を思案する。無理のない範囲で、それでいて間隔を空けすぎないちょうど良いところを探る。

 

「蛍子と千晶はやりたいことはないの? 私だけ目標を達成してしまうのも申し訳ないわ。以前言っていた通りでいいのかしら」

「そうだねー、正月とお盆は長崎の実家に行くからその時におじいちゃんおばあちゃんに演奏見せてあげられたらとは思うけど」

「とりあえず仮で予定に入れておくか」


 瑚乃海はスマートフォンでカレンダーに予定を入力する。バンドの予定が先の方まで入力されている。


「アッキーはどうなの?」

「ぼ、僕は特にないかな。今でも楽しいから⋯⋯」

「いいこと言うじゃーん!」


 ふと、瑚乃海は思い出す。バンドメンバーで打ち上げと称してファミレスで集まっていた学生時代の頃を。あれから二年経ち社会人となった今、場所は居酒屋に変わったが話している内容はあまり変わらない。次の練習をどうするか、次の曲をどうするか、次のライブをどうするか、それの繰り返しだった。

 ただ、前のめりに行動していたあの時とは違い、今はゆっくりと先を見据えて行動をしている。それが大人になったということなのだろうか。


「コノミン、どうしたの?」

「いいや、なんでもない」


 この空気をこれからも味わいたい、瑚乃海はそう心に誓ったのであった。

これにて第三章完結です。

次回は土曜日更新予定です。

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