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週末ロック!  作者: 大日小月
再結成編

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第十話 バンドをやる理由

 歳月を重ねた黒目の木製テーブルを挟み、瑚乃海(このみ)たち四人は二人ずつに分かれてソファに座る。バンドの全員が揃っていた。

 バンドリーダーである瑚乃海が場を仕切る。


「というわけで寧璃(ねいり)も賛成したことで無事再結成となりました。拍手」


 音が鳴らないように小さく手を叩く。他の三人もそれを見習う。


「ほんとに!? ありがとうネリ!」


 蛍子(けいこ)が寧璃の手を取り満開の笑顔で祝福する。


「や、やったね。お、おめでとう」


 千晶(ちあき)はほとんど合掌にしか見えない小さな拍手で祝う。


「私はなにもしてないわ。礼ならリーダーさんに言ってあげて」


 それを合図に三人が一斉に瑚乃海を見る。


「……なにも出ないからな?」


 頬杖を付いた瑚乃海が気怠そうな声を出す。


「せっかくだし円陣でもしようよ!」


 いいことを思いついたと蛍子が提案する。


「いや、店内だしな……」


 瑚乃海は軽く周囲の席を見渡す。話し声は聞こえるが声量を落とした控えめな声だ。


「小さくやるから!」

「掛け声なしでいいなら。じゃあ手を出して」


 瑚乃海が出した手に蛍子が我先にと手を重ねる。寧璃がその上にそっと手を重ね、千晶が最後にちょこんと手を置く。テーブルの中心に四人の手が重ね合わさる。


「煌々カルテットの復活を祝して……」


 ”おー!”と口の形だけをして内心で掛け声を放った。

 ”煌々(こうこう)カルテット”それが彼女たちのバンド名だった。


「それで、二人にも聞くんだろ?」


 瑚乃海は寧璃を一瞥して投げかける。

 言いたいことを察した寧璃が口を開く。


「そうね。二人にも聞いておきたいのだけれど」

「なになにー?」


 蛍子がすかさず反応する。


「バンドをやる理由を教えてほしいの。目的でも夢でもなんでもいいわ。バンドを続けるために必要なの」


 寧璃は対面の蛍子と千晶を順番に見る。二人が考え込む様子が見える。

 先に蛍子が手を挙げて発言する。


「はーい! 私はみんなでバンドを楽しめたい、それが目的!」

「えらく単純だな」


 直球な目的に瑚乃海がポツリとこぼす。

 蛍子は気にせず続ける。


「後は田舎のおじいちゃんおばあちゃんにもライブ見せてあげたいかな」


 優しい笑顔で言う。大事に想っているのがわかる表情だ。


「確か長崎だったか」

「うん、高校の時は見せてあげられなかったからね」


 蛍子の目的を聞いて、瑚乃海は自身の祖父母にもバンド活動を見せていないことに思い至る。そういったことなら自分にもバンドをやる目的がありそうだと気づかされる。


「ありがとう蛍子、それは大切な目的ね。千晶はどうかしら」


 納得した顔つきでゆっくりと頷いた寧璃が話題を振る。


「ぼ、僕はまた新曲を作れたらそれでいいかな。こ、今度はもっと大人な歌詞も書いてみたい。あ、ベースももっと上手くなりたい。後、新しいベースが欲しいかも⋯⋯」


 席に着いてからほとんど無言だった千晶の口からは、溜め込んでいたように言葉が吐き出された。


「いや多いな」


 瑚乃海がすかさずツッコミをいれる。


「いいじゃない。バンドを続けるためには必要なことよ」


 寧璃は当然といった感じで肯定する。

 瑚乃海と寧璃のやり取りの合間に千晶が申し訳なさそうに入り込む。

 

「商店街でのライブもやりたい……」


 後半は消え入りそうな声だった。


「商店街か、そういえばやったよな」


 瑚乃海にあるのは商店街で開催されるイベント行事、そのステージで演奏した記憶だ。ライブハウスや学校での文化祭に並んで貴重な活動場所だった。


「懐かしいねー。コノミンとネリはライブしたい場所ないの?」


 蛍子と千晶がそれぞれライブの目的を語ったため、蛍子が質問する。


「そうね、私は大学祭かしら。通ってる間しかできないから」


 寧璃は少し思考してから答えを出した。


「お、いいじゃん! じゃあそれも予定にいれないとね」


 蛍子がすぐに賛同する。千晶も首肯で意思を示している。


「コノミンはどうなの?」

「そうだな……」


 空のカップを見つめながら瑚乃海は考え込む。バンドを続ける理由に比べれば、ライブをしたい場所については答えを出すのが容易く思われる。しかし、すぐに思い浮かぶ場所はなかった。バンドをすること自体が夢だった瑚乃海にとって、場所は関係なかった。


「今のところ特にはないな」

「そうなんだ。またあったら言ってね!」


 逃げた回答を蛍子は気にせずに流すが、寧璃の目がいくらか鋭くなったように瑚乃海は感じた。

 気まずさを振り払うように瑚乃海は仕切りなおす。


「これで四人分の理由が揃ったことだし今後の予定を立てたいんだが……」

「四人? コノミンとネリのは聞いてないよ?」


 蛍子は不思議そうに目をパチクリとさせる。


「本当に聞いてなかったのかよ」


 ガックシと肩を竦める瑚乃海。


「まあ、私は保留中だけど」

「やりながら見つけるって感じかな。 ネリはどうなの?」


 言葉を濁した瑚乃海を優しくフォローしながら蛍子は話を振る。


「私は動画の収益化よ」


 一度瑚乃海に胡乱な目をされた目的なので、寧璃は話の流れにのるように言った。


「収益化ってできてなかったんだっけ⋯⋯?」


 千晶が疑問符を浮かべながら呟いた。


「確か登録者数は基準を満たしてたけど、再生数が足りてなかったな」


 瑚乃海はスマートフォンを取り出し、バンドの動画チャンネルを確認する。


「収益化ってやっぱり難しいの?」

「なりふり構わなければそうでもない。バンドの場合なら人気曲のカバーをしまくればできるとは思う。でも、そういうことじゃないだろ?」


 蛍子の問いに答えた瑚乃海は、寧璃に会話のパスを渡す。


「ええ、私たちの曲で勝負したいわ」


 寧璃は凛とした表情できっぱりと決意を口にした。


「予め断っておくけれど、是が非でも収益化したいというわけではないわ。真の目的は私たちバンドの魅力をもっと認めてもらうことだから」


 誤解されないように続けさまに言う。


「うん、いいと思う。もっと色んな人に私たちの曲聴いてもらいたいよね」

「せ、せっかく作った曲だもんね……」


 蛍子と千晶はその理想に賛成する。口にしなくても二人も少なからず抱いていたことだった。


「一つの目安ってことね。今までやったことのない大きな箱でライブをするとか、他のことでもいいわ」

「それもいい! まだやってないこと結構あるもんだね」

「や、野外フェスとか憧れる……」


 それぞれが思い思いにバンドの展望を膨らませる。


「今ざっくりと計算してみたんだが、一曲四分で計算すると年間六万再生は最低限必要になる。実際は再生数じゃなくて再生時間が収益化の審査対象だから再生数はもっと必要になるだろうな」


 スマートフォンで計算していた瑚乃海が手元を見ながら解説する。


「それって多いの?」

「今までの動画の再生数だと毎月動画を上げて届くかどうかってところだな」


 画面に映るバンドの動画チャンネル、そこにある動画の再生数は一万に満たないものが大半だった。


「練習やレコーディングの時間を考えると厳しいと言わざるをえないわね」


 自ら言い出したこともあり率先して寧璃が率直に意見を述べる。


「根本的に登録者数を増やす必要があるな。だから今回の新曲の動画を投稿する前に、一つ動画を投稿したい」

「なんの動画ー?」


 蛍子がテンポよく相槌を打つ。


「私たちが一番最初に作った曲の動画を撮り直して、バンドの復活をアピールする動画にしたいんだ」


 寧璃の”できるだけオリジナル曲で勝負したい”という要望を叶えつつ、集客をするための方法を瑚乃海なりに考えた案だった。

 

「おーっいいじゃん! 四年間の成長を見せるわけだ」

「それならバンド活動から逸脱しないわね。いいんじゃないかしら」

「最初の動画は音質とかイマイチだったもんね⋯⋯」


 三人それぞれが別々の視点から同意する。


「じゃあ今後の予定を決めようか。動画の収益化を意識するのを前提として、まずは錆落としも込めてリメイクのレコーディングと動画撮影をしたい」

「新曲はその後ってことね」

「ああ。平日は個人練で休日に音合わせになるだろうから、練習とリハも合わせて一か月は見込んでる。今が六月だから七月中旬までには終わる予定だ」


 今までの経験と勤め人の時間感覚を勘案して瑚乃海はおおよその予定を弾き出していた。


「七月末になったら寧璃は試験があるだろ? だから中旬までに一つ動画を作っておきたい」

「相変わらず予定を立てるのが早いわね。それも私に配慮までしてくれて」


 大学生の試験の日程まで瑚乃海が考慮していたことを寧璃は素直に褒める。

 瑚乃海はバンドのリーダーとしてスケジュール調整や関係者との折衝をしていたことが身についていた。


「新曲のレコーディングと動画作成は八月になってからだな。盆休みもあるし」


 瑚乃海は九連休だった昨年のお盆休みを暇で塗りつぶしたことを思い出す。今年は連休にバンドの予定をいれる算段でいた。


「ライブもまたやるの?」


 蛍子が尋ねる。バンドマンとして当然の質問だった。


「そうだな。予定は未定だがやるつもりだ。新曲のことが終わってから十月くらいになると思う」


 瑚乃海はスマートフォンでカレンダーに書き込みながら答える。カレンダーには予定が小まめに記入されている。


「その辺は働いている貴方たちに合わせるわ。私は休みが長いから」


 大学生である寧璃は、特別講習や短期留学ができるようにおよそ二か月の夏休みを与えられていた。


「後は付き合いのあった人たちへ報告とSNSでの宣伝だな」


 瑚乃海の脳裏に解散を報告した関係者の顔が浮かぶ。解散を惜しまれたが再結成にはどういう反応をするのか、不安と期待が混じる。


「宣伝は任せといて!」


 蛍子が元気よく宣言する。蛍子は動画編集兼SNS担当だった。

 とんとん拍子に予定が決まっていく中、それを見守っていた千晶がふとこぼす。


「ね、寧璃ちゃんは最近キーボード弾いてるの? 僕はブランクあるんだけど……」

「あ、そういや聞いてなかった」


 千晶の疑問に瑚乃海がしまったと頭に手をあてる。


「キーボードならほとんど毎日弾いてるわよ。いつでも再結成できるように」

「……マジ?」


 寧璃は当然のことのようにさらりと言った。


「私もPR動画の演奏に呼んでくれたらよかったのに。蛍子だけなのはズルくないかしら。ねぇ千晶?」


 続けて目を妖しく光らせた寧璃は瑚乃海と蛍子を見てから千晶に同意を求める。


「そ、そうだね。どうせなら四人でやった方がよかったと思う……」


 寧璃に背を押される形で千晶が掩護射撃をする。


「あははー、なんだか急に寒くなってきたねー」


 突然矛先を向けられた蛍子は我関せずと毛先を弄ぶ。


「冗談よ。息抜きで毎日弾いてるのはほんとだけれど」

「なんだよそれ」


 寧璃の本当のような冗談に瑚乃海は大きく息を吐く。


「じゃあブランクあるのは私と千晶だな」

「そ、そうだね。練習頑張る……」


 気を取り直して瑚乃海が状況を整理する。

 千晶はブランクがあるのが一人だけではなく安堵した表情だ。


「あまり根詰めないようにね」


 寧璃が柔らかく微笑みかけた。

 窓の外、雨はすっかり上がっていた。


 ◇


「そう」


 解散を告げた時、寧璃からの返答はそれだけだった。


「なんとなくわかっていたわ。貴方、最近どこか気もそぞろだったもの」


 聡い彼女には気づかれていた。他の二人はどうだったのだろうか。


「正直に言えば私は残念よ。このバンドが気に入ってたから」


 そう告げる彼女の表情はとても穏やかなものだった。


「でも、貴方は今までよく頑張ったわ。お疲れ様」


 労いの言葉をかける彼女は、バンドに悔いを残したままだったのだろうか。

 ならば、できるだけ悔いを取り除いてやらなければ。


 

これにて第二章完結です。

次は土曜日更新予定です。

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