機械生命体【隠】対策部
パトカーのサイレンが聞こえる裏路地で青年達はホテルから出てきた男女を詰めていた。
アサヒ「二度とするなよ。」
タケル「タバコも置いてさっさとあっちいけ!」
売買春している人からカツアゲして退屈な日々を過ごしていた。
アサヒ「これで2週間は贅沢できるな。」
タケル「それにしてもすごいよなーアサヒはさ。」
アサヒ「なにが?」
タバコに火をつけてコンビニで買った缶コーヒーを、腰を下ろしたタケルに渡して聞き返した。
タケル「2回見かけたらついて行って家と会社を特定して脅しの道具に使うなんて丁寧すぎるよ。」
アサヒ「そっちのほうがビビッてすんなり渡してくれるからな、それに懲りたら二度としなくなる俺らも遊べて世直しできる一石二鳥だ。」
犯罪を正当化しているのは理解しているが、犯罪が放置されているのだからそれを咎める為のヒツヨウアクに存在意義を見出していた。
タケル「これからどうする?」
アサヒ「明日親が帰ってくるから今日はもう解散しよう。」
タケル「そっかもう一週間経ったのか。」
父親が事故で死んでからは、母親が働きに出ている。留守をしている間に好き勝手やっているのだ。
タケル「帰って来るのは明日の夕方だろ?」
アサヒ「かあさんの感は鋭いからな、タバコも置いていくよ。」
タケル「そっか」
アサヒ「タケは?」
タケル「俺は最近話題の都会に出た熊の現場行こうかな。」
アサヒ「心霊スポット巡りとか好きだもんな。」
タケル「今度また行こうぜ!前に行ったのは確か....」
アサヒ「首塚の!あ~れは怖かったな!」
タケル「あ~そこはヒリついたな!」
それから少しの間喋ってお互い帰路についた。
一週間前に母親がめくってからそのままのカレンダーを横切り、遺影についた埃を息で吹き飛ばす。
アサヒ「父さんと比べると大分カスだけど俺も悪い奴をしめてるよ。」
今している事がばれたら警察官だった父親に殴られそうだと思いながら軽口をたたき、生きていたらこんな事してないなと考え、横になった。
アオキ「起きて、博士が呼んでる」
無骨で小さな部屋に急ごしらえで作ったであろうベッドで寝ていた男性を女性が起こしに来た。
ダン「出動?」
アオキ「違う、『調整』終わったってさ」
二人は片側しか付いていない蛍光灯の下を歩きながら博士のもとへ向かった。
ダン「いつまで熊で押し通すんだろうな?」
アオキ「AIで事故現場の映像を生成して、現場にいた人を管理下に置いて、全部後手になってるから今後もこいつら相手にするのが二人だけってなると」
二人の足音が消え巨大な換気扇の低い音だけが響く。
ダン「明日にでも広まりそうだな」
肉と金属で出来た塊を見上げて呟いた。
アオキ「連れて来ました~」
整理されていない書類や機械の陰から博士と呼ばれている人物が顔を出す。
博士「ありがとう、こっちだ!来てくれ!」
たどり着くとそこにはケーブルと肉塊につながれて『調整』された刀があった
ダン「前のよりサイズ大きいですね。」
博士「見かけよりは軽い。持ってみてくれ。」
手に取ると微かに光っていた部位が青白く灯った。
ダン「良さそうです、前の刀は?」
博士「血液適合させた部品を抜き取って新しいのに組み込んだから電気信号でしか動かんよ、何ならわしでも使える」
警察本部は「械生命体【隠】」を調査、活用するために組織の全員を対照にした健健康診断を行い、血液を多く採取して研究に取り組んだ。それにより、アオキとダン二名の血液で「機械生命体【隠】」の力を利用できる武器の作成に成功したのだ。
アオキ「この調子で沢山作れるようになるといいですね!」
博士「バカ言えーこれ以上被害が出ないようになる方がいいわ」
アオキ「たしかに」
ダン「他にも研究している部署あるんですよね?」
博士「【言えない】とは聞かされているからな、いくつかあるんだろう」
アオキ「いつか協力できたらいいね」
無線「ジーッ警視庁から【隠】対策部へ、端末に指定された場所に急行されたし」
無線が入り緊張が走る。
無線「目撃者からの通報。現在通信は確保済み。こちらはこれより目撃者の保護に向かう」
博士「わしも行こう、なぁに遠くから覗いて戦闘のデータを取りたいだけだ」
アオキ「撮影禁止されてるからね」
ダン「念の為前の武器持っといて下さい」
警察が封鎖していた道に入り、曲り角にあるカーブミラーに映る複数の影を見て二人は武器を持つ。
博士「悪趣味な側だなどこの国の兵器かね、動いてるのを見ると本当に気味が悪い。」
人工的な皮膚と肉の下から隠し切れない機械の動き、それに加えて目に付いているまつ毛が悪寒を誘う。
ダン「手前からでいい?」
アオキ「…試し斬りしていいよ。」
立ち止まって獲物に指をさす。
ダン「そうじゃん新しいやつだった。」
アオキ(…勘弁してくれ、私が怪我したらどうすんだよ)
しっかりとした足取りで近づくと気が付かれる前に青い光が胴と頭を分けた。
その時、まるで指示を待っていた様なそいつらは脅威に気づき動き出した。
機械生命体は生き物を殺すためだけに付けられた様な腕を振り上げようとしたが、
その動きを読んでいたダンは腕を切り落した。
ダン「ホントだ軽い」
そう呟きながら首も切り落とす。
アオキ「こっちからも行くよ~。」
機械生命体越しに裏に回ったアオキが声を掛ける。
二人に挟まれた機械生命体は程なくしてガラクタに変わった。
ダン「なんだって!?通報者の確保が出来ていない!?」
無線に驚いた一同は次の作戦を立て始めた。
博士「わしはガラクタ(機械生命体だったもの)と帰るとして護衛にどちらかついてくれ」
アオキ「私が護衛します、その後加勢に向かいます」
博士「見つけた時に丸腰よりはマシだろう、これを渡してくれ」
抱えていて使わなかった武器をダンに渡して、最低限の会話で切り上げた。
ダン「食われてんのか逃げてんのか…無事だといいけど…」
アサヒ「おい!タケルに何してんだよ!」
殴られたであろう友を見て叫ぶアサヒ。
タケル「悪い、こんな所に来させちまって。」
ヤクザA「君をなかなか呼んでくれないからね、少し乱暴したよ。スマホにパスワードついてなかったからそんなことしなくてよかったんだけどね。」
ヤクザB「よく来てくれたよ、ほんとに。正直来ないと思ってたよ。」
ヤクザA「こいつらみたいな半グレは友達預かってるって言ったら犬みたいに飛んでくるんだよ。」
静かに怒りながら聞く。
アサヒ「何があったか一から説明しろ。」
タケル「こんな事してる場合じゃないって!外にバケモンいたんだよ!」
ヤクザA「何言ってんだバカかお前は」
通報者はタケルだった。ヤクザのシマで稼いでいたのをチクられて、保護される前に近くの事務所に連行されて椅子に繋げられていた。
タケル「外にバケモン居たんだよ!あんたらもここから逃げろって!」
ヤクザB「ここにもう一人も呼べ、その後に話は聞いてやる。」
タケル「もう一人って誰だよ!」
昨日の女「写真撮ってんだからとぼけんな!」
タケル「ふざけんな!知らねえって!後お前誰だよ!」
昨日の女「写真撮ったつってんだろ!ふざけてんのはお前だろ!」
ヤクザの代表「会話もできねぇのかこいつは」
ヤクザAB「「すみません!」」
ヤクザの後ろから頭が出て来て詰め寄る。
ヤクザの代表「この姉ちゃんな、学生なんに家族の生活費稼いでるんだよ?立派で偉いよな?なのに…おい話聞いとんのか!」
蹴り飛ばされたタケルは悶絶して体を丸くする。弾みで携帯がこぼれ落ちた。
ヤクザの代表「おい!これ調べて呼びつけろ!」
ヤクザA「はい。」
タケル「って感じ。」
アサヒ「タケが説明するのかい。」
タケル「外にバケモンがいるんだ。気を付けて。」
ヤクザの代表「まだ言ってんのか。仲良さそうでええなぁ。わしらシマで勝手してたんだから二人一緒ならけじめつけれるよな?」
アサヒ「何をすればいい?」
ヤクザA「これからも稼げばいいよ。」
ヤクザB「勿論全額持って来い。」
ヤクザの代表「俺がいいというまで一生続けろよ。」
二人は後悔した。いつものカツアゲは悪人を懲らしめる為の正義の鉄鎚で、巻き上げた金品は報酬あるいは正当性の具現化だと思っていた。しかし、実際は反社と同じで真人間とは遠いものであると。
ヤクザB「あの女もうちの事務所に入ったんだ。今後送迎とか頼むことになると思うから免許早めにとってくれよ。」
ヤクザA「後輩が出来てやるき満々だな。」
覚悟をする前に次から次へと最悪な人生が積み上げられていくような気がした。計り知れない後悔が押し寄せた。
ヤクザの代表「後は君の住所と電話番号を教えてね。」
この場を早く離れたい為、言われるがまま紙に書き事務所を後にした。
タケル「ここにバケモンがいるんだ。」
アサヒ「まだ言ってんのか?」
タケル「ごめん混乱してんのかも。」
アサヒ「今日はもう帰って休もう。」
タケルを見送りアサヒは考えた。
殺すしかないと。
落ちていた鉄パイプを拾い、事務所に戻った。
ヤクザを探しに事務所の奥に進むと部屋には女とその家族であろう妹がいた。
昨日の女「あんた戻ってきたの?」
不審者を見る目で見てきた。
アサヒ「妹?」
昨日の女「追いかけてきたみたい、友達とはぐれたちゃったんだって。」
アサヒ「探すの手伝おうか?」
首を横に振った。
昨日の女「外怖いって言って泣きつかれたから。それに厳しいことを言うようだけど家族でもないのに…」
アサヒは黙って外に出た。家族の為に売春してた女と、遊ぶ為にカツアゲしていて都合が悪くなると殺人までしようとしていた自分を比べて涙が出そうになった。
アサヒ「バカすぎる。」
ため息をついて歩き始めた、家に帰りたくない気持ちと迷子の友達を探したい気持ちが合わさり、家とは逆の方向に。
繫華街を抜けた先で嫌な声が聞こえた。
ヤクザの知人「順調に進んでいるんだね、新しいシノギの準備。」
ヤクザの代表「バカ二人のお陰で薬漬けにしなくて済みましたよ。」
ヤクザの知人「そいつらは使えんのか?」
ヤクザの代表「少し頭が回る奴がいるみたいなんでそいつだけ残しておこうかと。」
ヤクザの知人「悪いね急に色々お願いしちゃって、こっちだけじゃ回らなくて。」
ヤクザの代表「とんでもないです。」
ヤクザの知人「後ろのガキ!何見てんだ!」
アサヒは隠れて聞いていたが、我慢できず殴り殺そうと体を出していた。単純な青年は家族愛を見て鎮めた怒りを、悪人の狡猾さで再び呼び起こした。
ヤクザの代表「頭が回るのは俺がのしたほうだったか?」
素手では体重差を覆すことはできず、取っ組み合い殴り合いの末馬乗りにされてしまう。
ヤクザの知人「元気いいね~」
ヤクザの代表「お恥ずかしい姿見せてしまい申し訳ございません。」
ヤクザの知人「次はないぞ。」
そう言い残し夜の街に姿を消した。
ヤクザの代表「てめえふざけんな!折角可愛がってやろうとしたのに!やっぱ殴んなきゃガキはダメだな!」
殴りながら説教をする。
ヤクザの代表「昔はなぁこれが普通だったんだよ!でもよぉ今はこれが虐待だってさ!じゃぁ殴られて育った俺らは殴られ損だよなぁ!」
父さんの事を考えた。正直言ってあんまり覚えてないけど好きだった。怒られても廊下で正座させられたくらいで「ごめんなさい」と言えばいつも通りに愛してくれた。
ヤクザの代表「ぎゃぁぁ!」
ひるんだ隙に立ち上がり、言葉と指を吐き出した。
アサヒ「文句は豚箱で言ってろ!」
アサヒ「え?」
ひるんで後ろに倒れたはずの場所に動く肉の塊が有った。友人が言っていた言葉を思い出して走り出す。
アサヒ「バケモン?!」
背後から女性が走ってきて叫んだ。
アオキ「伏せろ!」
暖色の拳を振り切り体の10倍はあるであろうバケモノを一撃で仕留めた。
アオキ「怪我しちゃったね、よく耐えた」
アサヒ「えっと、、、」
ダン「同じのに囲まれてるから近くにいてね」
目の前で起きた事の情報量が多く言葉に詰まる。
ダン「直ぐに病院に連れていってやっからな」
アサヒ「俺、人殺しちゃったかもしれません。」
二人の視線を感じながら目線を合わせず話を続ける。
アサヒ「ヤクザとケンカして、殴り合って、そんでそいつの指かみちぎって、後ろにバケモノ来てるの知らなくて、そんで、」
横から両肩に手を添えられて諭される。
ダン「君のせいじゃない。大丈夫。」
顔を上げて初めて二人の顔を見る。
アサヒ「ごめんなさい。」
アオキ「詳しい話は後でゆっくり聞かせてもらうけど今は…」
女性の目線を辿ると先ほどのバケモノが辺りに現れていた。
ダン「これ持っといて」
刀を渡さてとりあえず受け取った。
ダン「俺たちが君を守るけど自衛手段は有った方がいい。」
安全であろう場所に移動していると、脇道の奥にうずくまっている少女を見つけた。
二人は残ったバケモノと戦っているというより一方的に始末していた。ここはもう安全だと思い、少女を迎えに行った。
アサヒ「こんばんは。迎えに来たよ。」
するとアサヒの動きに気が付いたバケモノが二人の死角から襲い掛かってきた。
アサヒ「マズイ!」
都会の空では見られない月光のように優しく光る刀を抜きバケモノを両断した。
二人はその様子を見て安堵した。
その後病院についてから事業聴取を受けた。人を殺したと思っていたが「機械生命体【隠】」がやったのだと説明を受けて混乱が解けた。事情聴取の場所にはタケルもいたらしいがあの日以降連絡がつかなくなり疎遠になった。母親にも連絡がいき行きこっぴどく怒られた。今までの犯罪と、その言い訳を亡くなった父親のせいにしていた事を謝罪して今は働いている。
アサヒ「えっと次の現場はこっちか」
バイクにまたがり向かう先は戦場。「機械生命体【隠】」の発生するであろう場所を事前に感知するシステムを、別の部署と博士が合同で作り出したのだ。
退屈な日々を過ごしていた青年は今、人々の退屈な日々を守るために働く大人になったのであった。




