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神託の夜、運命を分けた夜
焚き木の火が、ぱちぱちと音を立てている。
儀式場に灯された篝火が、黒衣の神官たちの顔を赤く照らしていた。
神殿の前に、十五歳になった少年少女がひざまずく。
レインはその列の、一番後ろに座っていた。
村の長が神託の巻物を掲げると、場の空気が一変した。
風が止み、虫の声さえ遠ざかる。
聖なる光が、空から降り注ぐ。
神官の口から、神の声が紡がれ始める。
「……エルド・シュタイン。汝を、光の勇者と定める」
歓声と、どよめきと、涙。
エルドの名が呼ばれた瞬間、村は大きく沸き立った。
だが──そのあとの沈黙は、冷たかった。
次の名が呼ばれるのを待つ間、レインは手を組んで祈っていた。
胸の奥がきりきりと痛んでいた。
そして、いつしか、祈るのをやめていた。
何度目かの沈黙の後、神官が言った。
「以上である」
レインの名は、最後まで呼ばれなかった。