平凡な村の日常と、小さな願い
朝の光が木々の間から差し込む。
小さな村は今日も変わらぬ静けさに包まれていた。
レインは小さな家で、祖母のために朝食の準備をしていた。
いつものようにパンを焼き、スープを煮る。
薪の火のぱちぱちという音が、ひときわ大きく響くほどに、この家は静かだった。
村の広場では、子供たちが笑いながら走り回っている。
木の枝を剣に見立てて、魔王ごっこをする声が聞こえる。
そんな日常の中、レインは時々ふと、遠くを見つめていた。
「いつか、ここを出て、あいつと旅に出る」
あいつ──エルド。
自分よりも一歩先を行き、剣の稽古に真面目で、誰からも期待されている幼馴染。
何をしても様になるあの少年の隣に、いつか肩を並べて歩きたい。
それが、レインの密かな願いだった。
村の人々は、穏やかな日々に満足していた。
でも、レインは違った。
この世界の広さも、まだ知らぬ強さも、未知の場所にある何かも──自分には届かないとわかっていても、心のどこかで求めていた。
村人のまま、一生を終える未来に、微かな焦りを抱えながら。
そして、その日がやってくる。
十五歳になった少年少女たちが、神の名を仰ぐ日。
神託の儀式が、今夜、村で執り行われる。
運命の名を授かる者と、そうでない者が分かれる、決定的な夜。