↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/264

76話 エルフの森を救え(3)

 数日経って、レインたちはウェルテクス城の前でエルフが来るのを待っていた。エルフ。それは幾つもの人種の中でもっとも長命で魔法に長けた者たちのことだ。人間の10倍の時間を生き、都会よりも自然を愛し、人里離れた村でひっそり暮らしていることが多い。身体的特徴としては尖った長い耳の者が多いとされている。


 レインは城門の壁にもたれかかってアンブロワーズからもらった資料を読み返していた。かなり専門的な文章であり、魔法を齧った程度のレインでは理解し切れない部分もある。が、おおむねこういうことだ。エルフの住まうイディルシル大森林を守るには魔族を倒すしかない。それだけ分かっていれば十分だろう。物事はシンプルな方がいい。


「カイル、なんだかそわそわしているけど……何かあったのかな?」

「ああ。エルフの女性は人間離れした美貌の持ち主と言うからね。今から口説き文句が通用するかどうかドキドキしてる」


 冗談なのか本気なのか分からない。そもそも女性が来る保証などないのに、何が彼をそこまで駆り立てるのか。いや、むしろそのブレのなさこそがカイルの強味なのだ。今回は相手が魔族とはっきり決まっている。強敵だ。大いに頼りにさせてもらおう。


 そうこうしているうちにそれらしき人たちが王城の前に現れた。人数は三人。フードを目深に被っている。身体のラインから察するに二人は男性、一人は女性らしかった。そのうち女性がフードを脱いでレインたちに問いかける。やや釣り目で、目鼻立ちははっきりとしている。髪は白に近く、毛先だけ緑がかって見える。それに尖った耳。女性に疎いレインでも美人だと思った。


「お前たちが三賢者の言っていた冒険者たちか? 私はエルミア。イディルシルのエルフだ」


 レインが挨拶を返そうとした瞬間、すごい速度で前に出たカイルが片膝をついてしゃがみ、エルミアの手を掴んでその甲にキスをした。


「はじめまして。僕の名はカイル。人は大魔法使いアルケインとも呼びます。同じ国に住む者として、エルフの森の窮状には心を痛めております……ですがご安心ください。どのような敵が現れようとも、この僕が必ずや打ちのめし、森に平和を取り戻してみせましょう」


 正直カイルが他人を口説くところをはじめて見た気がするのだが、ちょっと、というか大分、古くさいというか、芝居がかっていると思った。やっぱり年齢が出ているのだろうか。カイルが若い頃はそれで通用していたのかもしれないが。


「お前があの大魔法使いアルケインか。話は三賢者から聞いている。年の割に顔は若いが、70そこらのガキに口説かれても反応に困る。私は今年で200歳だぞ」

「失礼を承知で言いますが、恋愛に年齢は関係ないでしょう?」

「まだ言うか。もういい、さっさと出発するぞ。今こうしている間にも我らの仲間は魔族の襲撃に怯えているのだからな」

「もちろんです。レイン、リザ、急ぐぞ!」


 なぜかカイルの仕切りで話が進んでいく。イディルシル大森林はオーデルヴァンからは遠く離れた辺境に位置している。険しい道を通る必要があるため、移動には一週間程度かかるらしい。慣れない者なら道に迷うこともしばしばあるそうだが、そこはエルフたちが案内してくれるので問題ない。


 問題があるとするなら、エルフたちの態度がどこか冷たいことだ。道を歩くときは必ずレインたちとは少し離れて前にいる。案内役なのだからそれでいいのかもしれないが、休憩中や睡眠中もエルフたちは必ずレインたちと離れて過ごすのだ。


「ねぇカイル、エルフの人たち、すごいよそよそしくないかな……何か心当たりない?」

「……そうだな。僕が口説いたのがまずかったか?」

「俺、真面目に話してるんだけど……」

「冗談だよ。アンブロワーズが言っていただろう。理由は知らないが、少し話が拗れてるとね。たぶんそれだな」

「そうかぁ……でも、その話はまったく説明されてないから、俺たちじゃあどうしようも……」

「どうかする必要はないだろう。だから僕たちに説明しなかったんだ。向こうが何か言ってこない限りは気にしなくていいさ」


 イディルシル大森林への移動は順調だった。特に強い魔物と出くわしたりといったこともない。道はたしかに険しいと思うこともあったが、冒険者をしていれば経験する範疇だ。カイルは性懲りもなく何度かエルミアにアタックしていたが、全部無視されていた。いよいよ森へ着く、となった頃、レインたちは魔物と遭遇した。ワイバーンだ。三体いる。


「あちゃー。兄貴、あれは完全においらたちの存在がバレてるっすね。さっきから空を旋回して待機してるっす。岩陰を抜けたら即、襲われるっすよ」

「どうする気だ。もうすぐ私たちの森に着くが、森までは姿を隠せるような場所はないぞ」


 リザの言葉にすかさずエルミアが反応した。釣り目のきつい視線がレインを射抜く。まるで試されているかのようだ。これから魔族と戦うのだから、これぐらいはなんとかできるだろうとでも言いたげだ。


 ワイバーンは竜の中では弱い部類に入るが、集団戦法を多用するのでやはり注意の必要な魔物だ。最初は二、三体で襲って油断させておいて、そいつらを倒したと思ったらさらに多くのワイバーンに袋叩きにされるなんて事態がよくある。


「あの三体は特に怖くないですが、増援で他のワイバーンが来たら面倒ですね。ちゃちゃっと倒して、森まで逃げましょう。それがいい」

「ちゃちゃっとか。一体どうやって? まさか我々の力を借りるとでも言うんじゃなかろうな。私たちの役目は森までの案内だ。手伝う気はないぞ」

「エルミアさんたちはワイバーンを倒せるんですか」

「当たり前だ。イディルシルには多くの魔物が生息している。ワイバーンくらい倒せねば生きていくことはできん」

「……なるほど。よく分かりました」


 レインは召喚魔法を発動し、右手に凍結剣グラキエスを呼び出した。元の使い手が死んだ今となっては実質的に形見となっている。今回はこの武器の力を借りよう。ワイバーンが口から吐く炎を防ぎ、空を飛ぶ奴らを地面に叩き落すのに使う。


「……一人で戦うのか? いくら実力に自信があるとしてもそれは……」

「まあまあ。エルミアさん、見ててくださいっす。兄貴なら楽勝っすよ!」


 岩陰から一人で飛び出したレインを三体のワイバーンは待っていたとばかりに攻撃した。口から炎を吐き、激しい熱がレインに襲いかかる。グラキエスに魔力を込めて頭上に持ち上げると、聖水晶の刀身が光を放ち、吹雪が吹き荒れる。その吹雪によって炎が掻き消されていくのを見て、レインはグラキエスをワイバーンの翼に向ける。


 ワイバーンは吹雪を避けようと空中で藻掻くものの、片翼の付け根に吹雪が命中して途端に凍りついた。上手く飛べなくなったワイバーンが一体、地に落ちる。レインは即座に駆け出して、落下するワイバーンの首に剣を一閃する。


 その首は綺麗に斬り落とされていた。剣を振る瞬間に、グラキエスから竜殺しの剣へと召喚魔法で切り替えたため、上手くいった。もちろん聖水晶の刀身を持つグラキエスでも致命傷を与えることはできただろうが、竜の鱗はワイバーンのものでもかなり硬い。余計な刃毀れは嫌だった。聖水晶は加工はもちろん研ぐのも難しい素材なのだ。


 戦いはそれで終わりではない。一体の首を斬り落とした直後を狙って、二体のワイバーンが鋭い爪と牙を用いて直接襲いかかってくる。炎が効かなかったがゆえの判断なのだろう。だがレインとしては空中から一方的に攻められるよりよほどやりやすい。


 牙を用いて自らに飛びこんでくるワイバーンには、竜殺しの剣を投擲した。頭に剣が深々と突き刺さり、標的を見失って地面に不時着する。竜殺しの剣は両手持ちの大剣だ。そんなものが頭に刺されば当然即死である。そうして一体を仕留めつつ、もう一体の爪の攻撃を難なく避けて、レインは最後の一体と相対した。


 竜殺しの剣の召喚を一度解除し、再度召喚して手元に竜殺しの剣を戻す。その幅広の剣を構えながら、じりじりとワイバーンとの距離を詰めていく。ワイバーンは空へ飛んだり炎を吐いたりする気配がない。正面から挑むつもりなのだ。潔い魔物である。レインはそれに応じることにした。


 弾かれたように両者が突っ込む。翼と一体となったワイバーンの片腕が頭上高くに持ち上がり、鋭利な爪が振り下ろされる。レインはそれを剣で外側に受け流し、受け流した勢いのまま剣を後ろに引く。放たれるは、下から上へと斬り上げる逆袈裟の斬撃。ワイバーンの胸のあたりを深く切り裂くと、やがて低い唸り声を漏らしながら動かなくなった。


「なんか俺一人で戦う流れになってたけど……別に援護してくれても良かったのに……」


 戦いが終わると、レインは苦笑いしながらそう言った。何を思ったのかカイルが大仰に拍手する。


「見たかい、エルミア。これが僕たちのリーダー、レインの実力さ。並みの銀級冒険者なら複数人がかりで挑む魔物だけれども、レインはたった一人で倒してしまうんだ。凄いだろう?」

「そんなにわざとらしく褒められても。全然嬉しくないよ」

「いやいや。エルミアたちはどうも僕たちに不信感があるようだったからね。実力くらいは理解してもらえたかなと思ってね」


 召喚魔法を解除しながら、エルミアの顔を見たが、確かに驚いたような、同時に怒っているような顔をしていた。


「……ふん。確かに多少はやるようだ。さっさと森に行くぞ。他のワイバーンが集まってこないうちにな」


 そう言ってエルミアたちエルフ組は早足で森のある方角へと進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。