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銀河鉄道の食堂車  作者: Elena
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終着駅

夜も更ける。

また、短いトンネルを抜ける。

夜空の星には薄く、星座絵が描かれている。

DD51が汽笛を鳴らすと、野原から馬が駆け出し、背中から羽を出して夜空に描かれたペガススに向かって飛び立つ。

まもなく夜明け。水がめを持つ少年が、水瓶の水を魚に与えている様子が、列車の車内からも見えた。

減灯された列車の車内。

食堂車の給仕役用の寝台の彼女も、A寝台個室の人の姿の旅客も深い眠りの中。

ただひたすらに、DD51のヘッドライトの灯りが前方を照らす。

ようやっと、夜空が白み始めた。

「ピーッ」と、暗く寂し気な汽笛が夜明けの空の下に響く。

鈴の音を鳴らす踏切を通過。

食堂車では、影法師の姿の給仕長や給仕役が、朝の営業開始に向けて用意を始める。

彼女も目を覚まし、食堂車の給仕役用の寝台から身体を起こし、顔を洗って身なりを整えて、彼女が朝の仕事に向かう。

影法師の姿の給仕長も給仕役の皆も、彼女が昨夜、人の姿の旅客とどうだったか聞く事もない。影法師の姿の給仕役達は、何も物を言わない。

彼女もそうだった。

昨夜の人の姿の旅客と話すまでは。

食堂車の厨房では、ちょうど仕込みが終わったところだ。

食堂車は朝の営業開始。

影法師のような客が疎にやって来て、彼女は注文を取りに行く。

いつもの朝の仕事だ。

窓の外は、片田舎の景色。

疎な影法師の姿の旅客の中に、彼女は昨夜の人の姿の旅客を探す。

もうまもなく、食堂車の朝の営業が終わる頃。

「おはよう御座います。」

彼女の背後。

A寝台個室の方から、震える声で挨拶される。

昨夜の人の姿の旅客だった。

「おはよう。」

と、彼女は微笑む。

人の姿の旅客は、真っ青な顔をしていたが、それでも彼女を見て微笑んだ。

もう、影法師の姿の旅客は居ない。

居るのは人の姿の旅客だけ。

影法師の姿の給仕長が、物も言わず、顔にも出さず、ただ、彼女にティーポットとティーカップを2つ、そして、2人分のパンケーキとチョコレートソースとバターを渡した。

「改めておはよう。朝食は食べられる?」

彼女が言うのに、人の姿の旅客は頷いた。そして、人の姿の旅客は口を開いた。

「物騒な話しになりますがー」

「貴方は死んでいる。私は、昨日の夜から分かっていた。でも言わなかった。」

「この列車は何なのかを夢で知りました。夢で、一度、元の世界を見たのです。でも、そこには、死んだって言う両親が帰って来ていて、両親は、「死んだと言うのは単なる誤認で、確かに列車の事故に遭ったが、予定より遅い列車に乗っていて、その列車で一晩明かしたのだ。」と。この時点で変だと思いました。だって、両親は「サンライズ出雲」に乗っていて、「サンライズ出雲」の後発の列車は無いはずでした。」

また、彼女は相槌を打つ。

「それから、どうした事か、学校に行くと、妙な噂話は消えていました。その後、変だと確信したのは、自分の住んでいた洋館の街の駅が、自分が作った鉄道模型のジオラマの駅になっていて、更に言うと、この列車が止まって居たのです。帰宅すると、両親が夕食を用意していましたが、夕食はこの列車で食べたものと同じもの。そしてー。」

人の姿の旅客は息が詰まる。

「テレビのニュースが流れて、自分の家が放火され、自分は死に、ジオラマで自ら死後の世界を作り出し、そこに転移したと知りました。」

「そう。この世界は、貴方が作ったジオラマの世界。だから、時は進まない。ずっと同じ。」

「ー。」

人の姿の旅客は震える。

「私は、貴方がオシ24食堂車に乗せた、食堂車の給仕役の人形。オシ24に乗せた後、列車に他の人も乗せ始めた最中、貴方は死んだ。だから、他の人は皆、影法師。曖昧な存在。」

彼女は自分の正体を話す。

「自分はこの後、どうなるのでしょう。」

「私のように、列車でずっと旅をすることになるか、或いは、影法師になってしまうか。貴方が影法師になったなら、私も影法師になるでしょう。」

人の姿の旅客は頷いた。

そして、人の姿の旅客はパンケーキを食べようとした。

「あっ、待って。」

と、彼女は言うと、チョコレートソースで何か書き始めた。

書き終えると、人の姿の旅客に見せる。

「禍福は糾える縄の如し」

「私は、この世界でどうなるかわからない。貴方もどうなるか分からない。だけど、災禍と幸福とは糾った縄のように表裏一体であり、一時のそれに一喜一憂しても仕方がない。」

人の姿の旅客はパンケーキを口に運び、紅茶を飲む。

2人が食事を終えた頃、列車の外は町になったと思えば、駅に着く。

片田舎の町の駅。

待避線や留置線、貨物ホームに加えて小さな機関区がある。

あの駅だ。

DD51が汽笛を鳴らし、列車はホームに滑り込んで行く。

そして、列車は駅に停車した。

人の姿の旅客は、食堂車の隣のA寝台車のドアから、ホームに降りた。

彼女もまた、ホームに降りて橋上駅舎への階段を登って行くと、それまで乗っていた列車は待避線に入って行き、入れ替わりでEF15に牽引される普通列車が入線して来たと思うと、夕方の駅をまた、列車は発車していくのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議なお話でした。 けれど寝台車やブルートレインの食堂、牽引する機関車……線路を進む旅の心地よさが表現されていると思います。 理想の世界を旅していく死者、とても静かな終わりで始まり。 給…
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