表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河鉄道の食堂車  作者: Elena
2/5

ブルートレインの食堂車

「今回はブルートレインかぁ。」

と、彼女は言う。

誰もいないホーム。

時の進まない空間。

ここは作られた世界。

そんな世界で、彼女は1人、影法師のような姿の旅客を相手に、食堂車の給仕役をしている。

「あら?」っと彼女はつぶやく。

影法師の旅客の一人が、はっきりとした人間の姿に見えたのだ。

(珍しいね)と彼女は思いながら、食堂車に今回使用する食材を積み込む。

全ての影法師が列車に乗ると、彼女も食堂車に乗り込む。

ガラスの笛のような笛音が響く。

DD51ディーゼル機関車が汽笛を鳴らし、「ガタン」と列車は一揺れして、夕方の駅を出発した。

町の駅を出発して少しだけ田園を走ると、列車は短いトンネルに入り、トンネルを抜けたら辺りは暗くなり、川を渡る鉄橋に差し掛かる。星空の下、月明かりが水面を照らし、風も無いないだ水面が、鏡の様に、夜空の星を反射させている。と言うより、水面の方からも僅かに小さな光が発せられている。

その水面に、DD51のヘッドライトの灯りや寝台車や食堂車の灯りを映しながら、列車は鉄橋を渡る。

まもなく、食堂車の営業時間が始まる。

彼女はそんな景色に見惚れること無く、業務に付く。

今日もまた、影法師のような姿の旅客が疎にやって来た。

チラリと旅客を見回すが、人の姿の旅客は居ない。

影法師は皆、それぞれの食事を済ませると、出て行ってしまう。何も話さずに。

光を発する木々や川の車窓に、流れ星が見えた。

その時、A寝台車の方から旅客がやって来た。

「いらっしゃいませ」と彼女は挨拶。

それは、人の姿の旅客だった。

どこに座ろうかウロウロして、B寝台車側のラウンジの方に座った。

「この内装、「出雲」かな?」

と、人の姿の旅客がつぶやいたのを彼女は聞いた。この列車、というか彼女の勤務する食堂車付きの列車には名前は無い。なのに、人の姿の旅客は、「「出雲」かな」と列車の名前を言った。

「オシ24。「出雲」か「あさかぜ」か、DD51が牽引しているところからみると、「出雲」って考えられる。」

と、人の姿の旅客は言った。

「あっメニューです。」

と、彼女は食堂車のメニューを人の姿の旅客の座った卓に置く。

「あっ」と、人の姿の旅客は初めて彼女に気付いた。

「どうもー。えっとー」

どこかぎこちない人の姿の旅客。

人の姿の旅客はメニューに目を落としつつも、彼女にも視線を飛ばす。

他に誰も居ない食堂車。居るのは給仕役の彼女と、人の姿の旅客だけ。

コップに水を注ぎながら、彼女は「お決まりの頃、お伺いします。」と言う。

人の姿の旅客は少し慌てながらメニューに目を通し、「えっと、じゃ、ハンバーグセットで、パンで、飲み物は紅茶をー」と注文。

「はい。ハンバーグセットですね。紅茶は、いつ頃お持ちしましょうか?」

「食後にー」

「かしこまりました。」

それから厨房に向かう彼女。

列車の外を、自ら光を放つ水面を持つ川が流れている。

夜空は宝石箱をひっくり返したような星が輝いていた。

星々の光で出来た空間を、DD51が牽引するブルートレインは進む。

食堂車に来た人の姿の旅客は、そんな景色に見惚れているのか、或いはこの列車が何か考えているのだろうか?

厨房から、ハンバーグセットのリヨン風サラダをトレーに乗せて、彼女は人の姿の旅客のところへ持っていく。

「セットのリヨン風サラダでございます。」

「ありがとうございます。」

と、短い会話。

影法師の旅客は物も言わない。

注文する時も、指で指す仕草で注文するのだが、この人の姿の旅客は自分の言葉で注文を伝えている。

「メニューは「北斗星」の?何なんだろうこの列車。」

と、人の姿の旅客が首を傾げながら、サラダを口に運んでいるのを横目に、彼女は厨房から、ハンバーグセットのパンとハンバーグをトレーに載せて、人の姿の旅客のところへ持って行く。

「カンカンカン」と、踏切の音が通過して行く。窓の外には、光を照らして丹頂鶴が舞っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ