第六話 気遣い
はあ、結局今年の夏休みも終わってしまった。そう思いながら僕は学校に向かう。昨日は始業式でもう二学期であることをいやというほど自覚させられた。ちなみに時雨は寝ていた。あんな状況下で寝れるなんて、どんだけ精神が太いんだ。
まあ、前に僕は彼女にデリカシーのない質問をしてしまった。その時、彼女はひどく寂しそうだった。だから、僕は彼女と一緒にいたいと思う。
「おはよう。村雨くん」
今日も後ろから声を掛けられる。もちろん時雨だ、この声は。
「おはよう、時雨さん」
最近、彼女と一緒に学校に行くことが増えた気がする。今までの僕はいつも一人で学校に行っていたから、少し不思議な気がする。やっぱり僕は彼女に感謝しなければいけない。
「そういえばさ、小テストの勉強した?」
彼女はそう僕に問いかける。
「え?」
そんなのあったっけ。記憶にございません。
「む、その顔は覚えていなかったんだねぇ」
「うぅ」
彼女に見透かされた。なんか悔しい。僕は思わず彼女から顔をそむける。
「でも、なんのテストだっけ?」
僕はめげずに彼女に問いかける。
「今日は数学の小テストがあるよ。いやぁ、なんで先生は休み明けにテストをやりたがるんだろうね」
「同感だな」
本当にテストを受けたくない。
「まずい、勉強してない」
僕は下を向きながら言う。
「待つんだ村雨くん。あきらめるのはまだ早い」
彼女はそう言い、こう続ける。
「今回のテスト範囲は七十六ページから八十ページだよ」
「なっ?」
僕は思い出す。これは、結構前に彼女に教えてもらったところだ。いける、いけるかもしれない。そんなことを思いつつ、僕は学校へと向かった。
一時間目。さっそく数学のテストだ。一時間目は一番頭が働いているから、この時間に小テストを受けられるのは大きい。
お気にのシャーペンと消しゴム、あと定規があればいいか。さっさと終わらせたい。そんなことを思っているとテストが始まる。隣の時雨は…なんだろう、困った顔をしている気がする。分からないのか? いや、彼女の学力的にそれはないだろう。じゃあなんで…
その時、彼女は答案用紙を手でこすっていた。消しゴム使えばいいのに。いや、消しゴムがないのか?
そうだ、そうに違いない。それ以外考えられない。どうすれば、いや、やるしかない。
僕はひじで机の上にある消しゴムを彼女の方に落とした。そうして彼女が消しゴムを見つける。僕は「使っていいよ」と控えめに目配せをした。
「先生ー、消しゴムを落としちゃいました」
そう言って彼女は先生に消しゴムを取ってもらっていた。よかった、とりあえず何とかなったみたいで。よし、自分もテストを解くか。
その瞬間、僕のシャー芯は折れてしまった。もうこれ以上使えないな。く、ついてない。まあ取り換えればいいか。
そして僕はシャー芯ケースを手に取り…シャー芯ケースがない? あ、後ろのロッカーの中だ。どうしよう、シャー芯がないとテストができない。困った…
その時、僕の方に向かってシャー芯が落ちてきた。そう、隣の時雨から。彼女の方を見ると、控えめに親指を立てていた。ありがたい。
「先生、シャー芯を落としてしまったので取ってもらってもいいですか」
僕はそう言い、先生からシャー芯を受けとる。助かった。あとはこれをシャーペンに入れて。
カチカチ。
ん? いつまでたってもシャー芯が出てこない。もしかしてこれ…
僕はそう思い、時雨から送られたシャー芯ケースを見ると、〇・五ミリと書いてあった。そうだ、僕が今使っているのが〇・三ミリだから…
終わった。これじゃテストの解きようがない。隣を見ると、そこには意気揚々とテストを解き続ける時雨がいた。
君は優しいけど優しくない。