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君は優しいけど優しくない  作者: ソラトドライ
第一章
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第五話 夏祭り

テストが終わって一息つける時期になった。そして、今年も夏がやってくる。テストの結果は三十位。結局、中間テストと変わらなかった。今度からは勉強する時に、しっかりと範囲を確認してからやろう。今回のテストではそんな教訓も得られた。そう考えると、得られたものはいつもよりも多かったのではないかと思う。

 「お前ら、夏休み羽を伸ばしすぎるなよー。体調管理もしっかりとな。じゃあ、一学期もお疲れ様。さようなら」

 そんな先生の言葉を軽く受け流しつつ、僕は席を立ち教室から出る。さっさと帰りたいな。競馬の馬を擬人化した人気ゲームを早くやりたい。ちなみに僕はダイワスカーレットが好きだ。まあ、そんなことはどうでもいい。

 「あ、村雨くん。一緒に帰ろう」

 そう後ろから声を掛けられた。時雨から直接誘ってくるなんて、もしかしたら初めてかもしれない。今までに偶然、途中で会って一緒に帰ることはあったけど。何か用事があるのかな。まあ、せっかくだから一緒に帰るか。

 「いいよ、行こうぜ」

 僕はそう言って、時雨の横に並んだ。そして、昇降口を出て校門に差し掛かる。

 「そういえばさ、私が教えたところ。テスト範囲外だったんだね。ごめんね、知らなくて」

 彼女はそう言って、僕に軽く頭を下げる。とんでもない、僕のせいでもあるし。しかも、教えてもらった身だし。

 「いや、あの時は勉強に集中できたし。本当にありがたかったよ」

 僕は彼女に感謝の意を伝える。やっぱり彼女は、褒めるとすぐ照れる傾向がある気がする。あと、下ろしている髪をくるくるする癖もあると思った。

 「あ、それでさ。村雨くん、提案なんだけどさ」

 「何?」

 来たか、本題。提案とか言ってたな。何だろう、見当がつかないな。

 「あの、私と一緒に夏祭り、行かない?」

 彼女は僕から目を逸らしてそう言った。彼女の顔が少し赤くなっているのが分かる。まあ、普通そうなるよな。

 「夏祭り、か」

 僕の口からは自然とそう漏れていた。

 「何か、不安なことがあるの? それとも、私と行くの嫌?」

 彼女は少し困った声で、今度は僕の目を見てそう言った。

 「いや、違う。そうじゃないんだ。というかすごく嬉しい」

 これは本当だ。時雨から誘ってもらったのは嬉しかった。そこは信じてほしい。

 「じゃあ、何か他に理由でも…」

 これは分かってもらえるのだろうか。

 「人混みが、苦手なんだ。たまに息苦しくなっちゃうし」

 「そうなんだ。まあ、それなら仕方ないか…」

 彼女は見るからに残念そうな顔をする。うう、そんな顔をしないでくれよ。少し、というか大分傷つく。

 「友達は?」

 「村雨くんしかいない」

 そりゃそうか、そうじゃないと今、こうして一緒に帰ってないよな。

 「じゃあ、親は?」

 何言ってんだ、僕。こんないい年して、親と一緒に夏祭りに行くやつなんていないだろ。

 「いない」

 「え?」

 僕は思わず聞き返してしまった。彼女は今、なんて言った? 気のせいか。まさか、そんな。

 「私が小さいときにどっちも死んじゃったの」

 「…!」

 僕は黙り込んでしまった。死んだ? 死んだって、時雨の両親が? 本当なのか、それは。しかし、彼女の表情を見るに、嘘とは思えなかった。

 「ごめん、嫌なこと、思い出させて…」

 僕は下を向く。これ以上、何を言ったらいいか、今の僕じゃ分からなかった。

 「いいよ、今はおばあちゃんと住んでるし」

 「そっか…」

 いや、そういう問題じゃないと思う。というか、生活費はどうしているのか。もしかして、あの日、バイトをしていたのも。僕は彼女のことをまだ、全然理解してあげられてないんだ。そう、自覚させられた。

 「まあ、そういうことなら仕方ないか。村雨くん、じゃあまた今度…」

 「いや、行こう」

 僕は彼女が言い終わる前にそう言った。

 「え、でも村雨くん、人混み苦手なんじゃ…」

 そんなの関係ない。少しでも彼女のためになることがしたい。そう心から思った。

 「いや、行こう。夏祭り好きだし」

 まあ、半分本当で半分嘘だ。人混みは嫌いだけど、夏祭りの雰囲気は嫌いじゃない。

 「いいの? やった!」

 そこには遠くから見ても分かるくらい嬉しそうな時雨がいた。それを見ると僕の方も元気が出てきた。

 「じゃあ、電話番号とメアド教えて。私が予定とか組んでメール送るよ」

 それはありがたい。僕、そんなことできないし。これは任せた方がよさそうだ。

 「よろしく」

 「じゃあ、私、こっちだから。じゃあね、また夏祭りで!」

 彼女は手を振って、足早に去っていった。なんやかんや、楽しみだな。夏祭り。


 夏祭り当日。僕の方が彼女よりも早く着いていた。というか、緊張して少し早く来すぎてしまった。三十分前くらいかな。まあ、すぐだろ。三十分くらい。

 十五分が経過した。そうすると、僕のスマホが鳴りだした。何だろう、遅刻しそうなのかな。

 「どうした?」

 「ゲホッ、あ、村雨グン」

 あ、オチ見えたわ。

 「…お大事に」

 僕はそう一言だけ言った。

 「ありがどう」

 そして電話が切れる。うん、もう少し早く連絡が欲しかったけど、まあ気にしない気にしない。息苦しい、早く帰ろう。

 君は優しいけど優しくない。

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