価値観
「なんでそんなに頑張れるの、、、
金持ち捕まえられないの?」
大学時代の元カレ、タケルからの予想もしなかったLINEの返信に、サチはなんと答えたらいいのか考えあぐねていた。
自分がそんなに頑張っているつもりもなかったし、何よりどうしてそれが金持ちを捕まえる話になるのかがわからなかった。
相次ぐ物価上昇や増税の影響で、現在のサチの給与では暮らしていけないため、休日にできる仕事があれば紹介してほしいとLINEをしただけなのに…
もしかしたら、周りからはそう見られているのだろうか?
確かに、40代で独身、大学卒業後は派遣の仕事を転々としている。そして介護が必要な父親と二人暮らし。生活に余裕があるあるわけではない。
だが、金持ちを捕まえたら解決する問題ではないとサチは思っていた。
タケルは結婚して三児のパパとなり、奥さんは専業主婦だと聞いている。
元々実家が裕福だったので、金銭面での苦労を知らない人だった。困れば都度、母親からお小遣いをもらっていた。サチも、つきあっている間は、よくデート代を出していた。要するに、簡単に他人に頼ることができる人間なのだ。
反対に、サチは物心ついた頃から、自ら親や姉にも頼ることはできなかった。
理由は、家族がそれぞれ自分のことで精一杯なんだと感じとっていたからだ。
母はふたりの姉を産んだ後、長男の嫁として、なんとしても跡取り息子を産もうとした。
しかし、三度目も結果は同じだった。
母はよくサチに言った「あなたは犠牲の子だから、父の役に立つのよ」
幼いながらに自分が望まれない子だということは理解できた。
しばらくして、母は家を出ていった。