これは孔明さんの罠だ!
勉強、運動、容姿、性格、全てに於いてパーフェクトな
天然系天才ヒロインの孔明さんと
彼女をライバル視しつつも、彼女の無自覚な罠によって後塵を拝してきた
努力系秀才主人公の志波井くんによるショートラブコメ
2位の男
と、人は俺の事をそう呼ぶ
とある日の午前中
春休みも終わり、新学期が始まったある日の体育の授業
体操服に着替えた男子達が行っているのは体力測定
握力や柔軟性等を測る、年度初めの恒例イベントだ
ピッ!
そんな中、一人の男子生徒が笛の音と共に駆け出した
種目は走り幅跳び、走っていってジャンプした飛距離を測る競技だ
「おお・・・! はええ・・・!」
彼の走り出しを見ていた他の男子達からどよめきが起こる
その男子生徒はまるで「これが正しいフォーム」、と本で図解されている様な姿勢そのままで加速していくと
砂場の前で踏み切り、思いっきりジャンプ! そして・・・!
ズシャッ!
「・・・。7メートル43!!!」
その体育教師の声と同時に、男子達から歓声が上がった
「すげえ! 7メートルとか! 陸上部でもないのに飛びすぎだろ!?」
「クラストップじゃん! 志波井!!!」
だが彼を囃し立てる様なそんな声に対し、当の本人は涼し気な顔で・・・
「フンッ、当然だな・・・!」
と言ってのけた
唐突だが、ここで自己紹介をしておこう
俺の名は志波井達彦
年齢は16歳、都内の進学校に通う高校二年生
自分で言う事でもないが、ハッキリ言って俺は優秀だ
勉強は毎回ほぼ満点、スポーツは見ての通り
身長も高いし、ルックスもまあ・・・イケてる方と言っていいだろう
そう、文武両道、眉目秀麗の天才高校生、それが俺。だがしかし・・・
その時、ワアアッ! と
さっきの俺の時よりも遥かに大きな歓声が上がった
「は・・・8メートル10・・・!!!!!」
そのありえない数字に、教師の声も思わず上ずる
とんでもない記録を出してみせたその「女」は、いつもの様に・・・
「えーっと・・・。や、やったー♪」
と、間の抜けた声で喜んでみせた
その女の名前は孔本明
クラスの男子や女子からは、名前の漢字から「孔明さん」と呼ばれている
その間の抜けた性格とは裏腹に、スポーツも勉強も常に学年トップ
俺は天才だが、この女はそれを上回る超天才だ
その時、孔明が俺の姿を見つけ駆け寄ってきた
そして屈託のない笑みを浮かべたまま話しかけてくる
「志波井くん! 見てた!?」
「ああ、まあな・・・」
「そうなんだ! 志波井くんが見ててくれて嬉しい・・・!」
「そうか・・・。とにかく、今日もお前の勝ちだ孔明」
「えへへ・・・、ありがとう! じゃあまた勝負しようね、志波井くん!」
そう言うと、孔明は終始笑顔のまま走り去って行った。そして孔明が去った次の瞬間・・・
「おのれ!!! 孔明!!!」
と、俺は敗北の屈辱に崩れ落ちギリリと歯を鳴らしたのだった
その時、クラスの男子の一人が俺に話しかけてくる
「いやー、すげえな孔明さん。勉強もスポーツもトップ、その上性格もよくて顔も良い、ちょっと天然入ってるけど。正に完璧超人!」
「・・・」
「そんで、そんな孔明さんに負けたお前はいつも通り「2位」ってわけか。いや、2位も十分凄いと思うぜ? 俺は」
そう言いながら、慰める様に俺の肩をぽんぽんと叩くクラスメート
そしてそのクラスメートは、遠くで女子達に囲まれ笑顔を浮かべる孔明を見つめながら言った
「確か志波井って小学生の頃から一緒だったんだろ? 昔っから孔明さんに勝負挑んでたわけ?」
「ああ・・・」
「で、一度も勝ててないと。もう百回ぐらい負けてるんじゃないの?」
茶化す様に笑うクラスメートに、俺は・・・
「0勝967敗だ」
と、正しい戦績を答えた
その俺の答えに、クラスメートは・・・
「数えてんのかよ! つか・・・思ってた以上の黒星でちょっと引いたわ・・・」
と、気の毒そうに言って他の競技へと戻っていった
そう、俺は常に「2位」の男だった
小学1年生の頃、孔明と出会い敗北
以後、顔を合わせる度に様々な勝負を挑んできた
しかし、俺が勝てた事は10年の間一度もない
「くっそーーー!!! 孔明め!!!!!」
放課後、机に座ったまま俺は頭を抱えて叫んだ
ホームルームが終わった放課後の教室でいきなり奇声を上げる、そんな俺に対してクラスメート達は・・・
「ん? ああ志波井か」
「いい加減諦めればいいのに」
いつもの事、と言った感じでスルーした
俺が孔明に勝負を挑み敗北するのは、もはやこのクラスの風物詩と化していたのだった
だがその時、俺は頭を抱えたまま気持ちを切り替えるとニヤリと笑みを浮かべ呟く
「フッ・・・。だがそれも今日まで・・・!」
そして顔を上げると思いきり叫んだ
「明日からの4月実力テスト! これで俺は孔明に勝つ!!!」
そう、俺はこの日の為に入念な準備をしてきたのだ!
全てはあの女、孔明に勝つ為に!
「全教科、想定される問題は全てチェック済み! どんな問題が来ようとも完璧に対応可能!!! 2位の男・・・! そんな不名誉な呼び名もこのテストで返上だ! 俺は必ず孔明に勝ってみせる!!! クックックッ・・・! ハーハッハッハッハッハッ!!!!!」
堪えきれず笑い声を上げる俺。そしてそんな俺に対し・・・
「志波井くんって顔は良いのに・・・」
「残念だよね・・・」
周りのクラスメート達は生暖かい視線を向け去って行くのだった
「ハッハッハッ・・・! おっとそうだこんな事をしている場合じゃない、とっとと家に帰ってテスト範囲の最終チェックをしないと・・・」
そして正気に戻った俺が帰り支度をしていた、その時・・・!
「志波井くん♪」
突然俺を呼ぶゆるい声、目の前に現れたのは・・・!
「げっ・・・! 孔明・・・!」
憎きライバル、孔明だった
露骨に嫌そうな顔を浮かべる俺に対し、孔明はいつもの様に笑みを浮かべたまま質問をしてきた
「ねえ志波井くん。今日これから予定ある?」
「は・・・?」
あるわ! お前を倒す為に今から帰ってテスト勉強だよ!
と心の中で思いつつ、俺は返事を返す
「まあ・・・一応あると言えばあるが・・・」
「そうなんだ・・・」
そんな俺の煮え切らない返事に対し、孔明は・・・
「あのね。実は今日、駅の近くに新しいスイーツのお店がオープンするんだ」
「へえ・・・」
「それでね・・・。もしよかったら・・・志波井くん一緒にどうかな・・・って」
言葉を詰まらせながらそう言った
その孔明の言葉に対し、俺は・・・
(はあーーー!!!??? 明日からテストだろ!? 分かってんのか!!! こんな大事な時にスイーツ!? 頭沸いてんのかこの女!!!)
と心の中で叫ぶ俺
だがとりあえず表面上は冷静を保ち、やんわりと断る事にする
「いや・・・やっぱり今日は・・・」
だがしかし、俺の冷静な拒絶に対し孔明は・・・!
「一緒に来て欲しいな・・・、志波井くん・・・」
と、上目づかいでこちらにおねだりしてきたのだった!!!
(このアマーーー!!! 俺に断られると思ったらこんなあざとい方法で誘ってきやがって!!! かわいいと思ってんのか!? かわいいわ!!! だが落ち着け!!! これは奴の・・・! 「孔明の罠」だ!!!」)
苦悶する俺に対し、孔明は追撃を放つ・・・!
「お願い・・・!」
うるうると涙目で告げる孔明の表情
俺が覚えていたのはそこまでだった
そして数十分後・・・
「ハッ!!!」
正気に戻った俺が座っていたのは、孔明の言っていた駅前のスイーツ店の椅子だった
「どんなのが出てくるのかな? 楽しみだね、志波井くん♪」
そして向かいの席にはワクワクと言った様子で笑みを浮かべる孔明・・・
俺はテーブルに肘を乗せると頭を抱える
(どうして俺はこんな場所に・・・! またまんまと孔明の罠に乗せられてしまったのか・・・!?)
そう、これは今日に限った話ではない
何故か勝負事の前日や直前、孔明は俺を誘い、俺の行動を妨害するのだ
これを俺は孔明の罠と呼んでいた
その時、俺と孔明の前に大きな器に盛られたパフェが現れる
「わあ・・・! 美味しそうだね志波井くん!」
無邪気に笑い声を上げ、パフェに口を付ける孔明
それに釣られる様に、俺もスプーンを手にパフェを食べ始める
「甘---い・・・! 美味しい・・・!」
感激する様に言う孔明の声を聞きながら
俺はパフェとはまったく別の事を考えていた
(いや、待て落ち着け。確かにこれで俺の勉強時間が少なくなったのは事実、だがしかしそれは孔明も同じ事)
そう、条件は五分
俺の勉強時間を減らす代わりに、孔明自身の勉強時間も減ってしまったのだ
孔明以外の相手に負ける事はありえない、俺にとってのライバルは孔明一人
つまり今のこの状況は、俺の不利になる状況にはなり得ないと言う事だ
(それに考えようによってはスイーツも悪くない、脳の栄養であるブドウ糖が多く含まれているからな。このパフェで栄養を補給したら、孔明を置いて俺はとっとと帰り勉強をする! これで明日のテストでの勝利は間違いない! フハハ!!! 策を誤ったな!!! 孔明!!!)
そう心の中でほくそ笑む俺。その時・・・
「ん?」
何気なく孔明に視線を向けた俺は彼女に向かって言う
「おい孔明、頬にクリームが付いてるぞ」
「え!? どこどこ!?」
そう言いながらあたふたと慌てふためく孔明、クリームはその間も孔明の頬についたままだ
「ったく・・・、こっちに顔寄せろ」
「えっ?」
そう呟くと、俺は孔明の頬に手を寄せ
紙ナプキンで付いていたクリームを拭った
「よし、取れたぞ」
「あ、ありがとう・・・」
やや顔を赤らめながらそう呟く孔明。だがその時・・・
「あ、志波井くんも頬にクリーム付いてるよ」
「え?」
その言葉に俺は頬を指でなぞりながら言う
「ん? 何処だ? クリームなんてついてないぞ?」
「ついてるってば、そっちそっち」
「そっちじゃ分かんねーよ・・・クソ、何処だ?」
このままでは埒が明かない
鏡でもないかと席を立ち上がろうとした、その瞬間・・・!
「ほら、ここ・・・」
俺の頬に顔を寄せた孔明は、あろう事かそのまま・・・
ペロリ
と、俺の頬をなめとった・・・!
「なっ!?」
激しく動揺する俺に対し、孔明は・・・
「はい、取れたよ♪」
と、普段通りの笑みを浮かべたまま言った
そして、その瞬間・・・!
「う・・・うおあああああ!!!!!」
「えっ!? 志波井くん!? 志波井くーーーん!!!!!」
色々と限界に達した俺は、パフェの代金をテーブルに乗せると同時に、その場から逃げ出したのだった・・・!
その夜・・・
「ここの公式は・・・」
机に向かいテスト勉強をする俺、しかし・・・
ペロリと唐突に頬を襲う感触を思い出し、顔を赤らめ頭をぶんぶんと振る
「それは今は思い出すな・・・!!! 勉強・・・! 勉強・・・!!!」
その日、テスト勉強が全く捗らなかった事は言うまでもないだろう
そしてテスト本番が過ぎ、一週間後
廊下にテスト上位50名の名前が張り出された
「志波井達彦・・・498点・・・2位・・・」
右から「2番目」に書かれた名前を読み上げながら茫然とする俺。そして・・・
「すごい孔明さん! また学年トップ!」
「500点中500点満点なんて凄すぎだよ!」
一位は当然のごとく孔明だった・・・
「えへへ・・・、ありがとうみんな♪」
そう笑い合いながら去って行く一団の声を聞きながら、俺は・・・!
「くっそぉーーーーー!!!!! おのれ孔明ーーーーー!!!!!」
と叫び声を上げるのだった・・・
その時・・・
「フフッ・・・」
そんな彼の様子を後ろ目で見ながら、ほくそ笑む人物が一人・・・
「やっぱり・・・志波井くんをからかうのが一番面白いなぁ・・・フフフッ・・・♪」
誰にも気づかれない様に、ひっそりと邪悪な笑みを浮かべる女子・・・!
そう、それは孔明さんだった・・・!
ピーンポーンパーンポーン
※ お話の途中ですが、お詫びのお知らせです
前書きで孔明さんの人物紹介を「天然系天才ヒロイン」と表記しておりましたが
正しくは、「天然系を装った腹黒系超天才ヒロイン」の誤りでした
表記に間違いがあった事を、深くお詫び申し上げます
ピンポンパンポーン
「ん? 今何か言った? 孔明さん」
「えっ? なんでもないよ~」
友人たちにそう答えると・・・
(また遊ぼうね、志波井くん♪)
孔明さんは上機嫌のまま、その場から去って行くのだった
という訳で、ドSの孔明さんと
その罠に振り回される志波井くんのショートラブコメでした
面白かったら評価等お願いします