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6話

少しだけ長くなりました(汗)

すみません。


目の前に転がる⦅死樹木(デットツリー)⦆の死体。と言ってもただの木だけど…。


「どうしよう…」


この⦅死樹木(デットツリー)⦆の死体、アイテムボックスに入れても大丈夫かな…?

そのままアイテムボックスに入れて、丸々入ってアイテム名が⦅死樹木(デットツリー)の死体⦆ってなったりしない…?

分解してアイテムボックスに入れた方がいいのかな…?


どうするかを唸りながら考えていると、私にしがみついていた光る何かが私の周りをグルグルと回り始めた。


それに驚きながら、私の周りをグルグルと回る光る何かを見ていると今度はチカチカと光り出した。かと思えば、私の目の前で上下に飛び始めた。


「え、えっと…」


それに困惑していると、光る何かは⦅死樹木(デットツリー)⦆の死体の上に乗って、ピョンピョンと跳ねたり、走り回ったりし始めた。可愛いけど、何がしたいのかがよく分からない。

死樹木(デットツリー)⦆がどうかしたのかな…?


「⦅死樹木(デットツリー)⦆がどうかしたの…?」


光る何かは、⦅死樹木(デットツリー)⦆に何か用があるのかな、と思って聞いたら、まるで「そう!」とでも言うように⦅死樹木(デットツリー)⦆の上から退けて、ブンブンと私の周りを凄い勢いで飛び始めたので、光る何かは⦅死樹木(デットツリー)⦆に用があったみたいだ。


私の周りを飛んでしばらくしてから、まるで「これにも用があるの!」っていう風に、ゆっくりと近くの木の周りをグルグルと飛んでいる。しかも何かを待つみたいにずっと。


「今度は木…?」


頭の上にはてなマークを浮かべながら、「木」と言うと、またもや嬉しそうに私の周りをグルグルと飛んだ。

もしかして、名前が知りたいのかな…?


次は地面に転がる石の上に乗って、チカチカと光りながら、ふよふよと降上したり降下したりして何かを待つ姿勢を見せた。多分だけど私を見ている。

やっぱり物の名前が知りたいんだ。


「それは、石、だよ…」


「石」と言うと光る何かは嬉しそうに私の周りを飛んだ。そしてゆっくりと私の膝に乗って、チカチカと光りながら、動かなくなった。


「私の名前が聞きたいの…?」


光る何かにそう聞くと、まるで「そうだよ!」とでも言うようにチカ、と1回光った。合ってた。光る何かは私の名前が聞きたかったのか。


「私の名前は、メルル。“メルル・ハニーライト”だよ…」


『メルル! 私のご主人様!』


私の名前を光る何かに教えると、光る何かの纏う銀色の光りが虹色の光りに変わり、光りの塊だと思っていた何かは、透けた羽がついた手のひらサイズの小さい人の姿に変わった。

それでようやく光る何かが「妖精」だって事が分かった。


そういえば《勇乙(ゆうおと)》の39話辺りで、リンナちゃんが火の妖精と契約していたはずだ。確か……、上位妖精の“エルゼル”。


妖精には呼び方が4つあって、下から順に、妖精、上位妖精、精霊、精霊王で、一般的に人が契約するのが普通の妖精。

普通の妖精は呼び掛ければ相性が合えば、ある程度の妖精は答えてくれる。

だけど上位妖精になると、相性があったとしても、その子の気分じゃなかったり、その子が契約したい相手じゃないから、契約出来ない場合が多い。要するに上位妖精の気分による。

上位妖精の上、精霊になると呼び掛けに応える事は絶対に無いし、逆に契約する方が選ばれる側になって、精霊は選ぶ側になる。

そして妖精や精霊を束ねる精霊王は、姿を見る事はおろか、存在を認識知る事すら出来ない。人間達が、妖精や上位妖精から聞いた「私達を束ねる存在がいる」と言う言葉だけで、そういう存在を人間達は《精霊王》と呼んでいるが、実際は誰もその姿を見た事が無い。

まぁ、《勇乙(ゆうおと)》の105話で、精霊王にリンナちゃんは会ってたけど。


そして、妖精の羽の数によって、妖精か上位妖精か、それとも精霊かが分かる。妖精は透き通る羽が2枚しかない。上位妖精は4枚。精霊は自分を包めるぐらい大きい、自分の属性にあった羽の色と装飾がされた羽が6枚。そして精霊王は自分の倍はあるであろう、蝶々のような華やかで美しい自分の属性にあった色の羽。


それにしてもこの子は、羽は2枚なので妖精だとは思うけど…。

羽の色が何か不思議。妖精の属性は羽や妖精の纏う光に現れるので直ぐに分かる。だけどこの妖精()の羽や纏う光は、何か緑になったり、青になったり、かと思えば金色に光ったりと、光の受け具合によって色んな色に変わっていくから、属性の判断がつかない。


妖精には、火、水、風、土、光、闇。という6種類のタイプがいる。


火なら赤、水なら青、風なら緑、土なら茶色、光なら黄色や金色、闇なら黒や黒に近い濃い色、が羽や纏う光の色になる。


だけど目の前にいる妖精()は、真っ透明。それか虹色。


この子、もしかして突然変異の妖精()なのかな…?


目の前にいる妖精()は『お名前をちょうだい?』とワクワクした目で私を見てくる。もしかしたらこの妖精()は特別な妖精()かもしれないし、流石に私が名前をつけていいのかと戸惑っていると、目の前にいるこの妖精()は、しょぼん…と、落ち込んで、今にも泣きそうな感じで俯いた。


『やっぱり、出来損ないのわたしじゃ、駄目、ですわよね…。』


手を握り締め、プルプルと震えながら諦めたように笑うこの妖精()に、前世の記憶を思い出す前の私に被った。前世の記憶を思い出す前の私は、泣き虫だったし、弱くて怖がり。今もそれは残念な事にあまり変わってないけど、前世の記憶を思い出してからは、常にあった焦燥感がなくなり、どんな事をやっても弱いままの自分に怒っていたけど、前世の記憶を思い出した今は、ちょっとずつ進んでいこう、と少し余裕が出来た。あとただ単純に精神年齢が高くなったからでもあると思う。


もうこうなったらやる事は1つしか無い。


「“アンジュ“」


『…?』


「貴方の名前は、“アンジュ”だよ…!」


“アンジュ”って確か天使、っていう意味があったはず。だから私を守ってくれる天使、だから、“アンジュ”。


『お名前くれるんですの!?』


嬉しそうに笑うアンジュの頭を、人差し指で優しく撫でてから、アンジュを両手に優しく乗せて目を合わせられる高さに持ち上げる。


「アンジュ。貴方は、私が初めての契約した子…。私の《1番(アイン)》の子。私を守る絶対の盾…。」


『……! いいんですの!?』


信じられないような顔をして、興奮しながら私に乞うように聞いてきた。その顔は頬が赤く染まり、嬉しそうに、でもどこかわたしでいいのかな…、と不安そうにしている。


「私は、アンジュ()いいの…!」


サラサラな銀色の髪に、猫目で金色の瞳。光の受ける具合によって変わる、銀色の2枚の羽。少し自分に自信が無い様子が私と似てる。


アンジュに「貴方は…?」と聞くように微笑むと、アンジュは決意した顔で、両手を祈るように握り締め、宣言するかのように凛々しく大きな声を上げて言った。


『わたし、“アンジュ”は、契約者であり、主人あるメルルを守護し、主人であるメルルの願いを叶える為の、絶対の盾と矛になりましょう。』


アンジュがそう言いきった瞬間、私とアンジュの魔力が結ばれ、絡まりあった。アンジュの存在が身の近くに感じて少し違和感はあるけど、でもその中にある、温かいこの感じが少し落ち着く。それはアンジュもなのか、ほぅ…、と恍惚とした顔で空を見上げている。


しばらくその心地よい感覚に身を預けていたら、どこからか「キュルルっキュー」という可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。あの鳴き声は⦅ブラックバード⦆と言うモンスターのものだろう。


⦅ブラックバード⦆は、夜の間にしか活動しない真っ黒な、鳥だ。前世で言うカラスみたいな感じの鳥で、初級魔法ではあるけど、魔法を使ってくる賢い鳥。


って言う事は…。

ばっ、と、空を見上げれば、橙色と紫色が混ざったような色をしていた。もう夕方を通り過ぎようとしている。あと1時間もすれば完璧な夜になるぐらい、空は暗くなっていた。さっきまではまだ水色と言えるぐらい明るかったのに。


ぼー、として空を眺めていると、はっ、急に我に返った。このままではリンナちゃんやイアンくん、お母さん達に私を心配して探しに来るだろう。そんな迷惑をかけたくない。


慌てて傍に倒れている⦅死樹木(デットツリー)⦆の死体と、それに刺さってる石剣や大槌をアイテムボックスに入れ、急いで家に帰ろうと立ち上がった瞬間、⦅死樹木(デットツリー)⦆の根っこに絡まれた転んだ際に、右足を捻ったらしく、右足に力を入れると来る鋭い痛みに、反射的に右足の力が抜け、その場にへたり込んだ。


『ご主人様!? どうしたんですの!?』


アンジュが私の周りを心配そうに飛んでいるけど、あまりの痛さに、声をかけるどころか、声を出すことすら出来ない。

アンジュに「大丈夫」だと言いたいのに、右足から来る激しい痛みに、どんどんと涙が溢れていく。


『ご、ご主人様ぁ…っ!』


そんな私を見たアンジュは泣きそうになりながらも決して泣かず、私の右足にちょっとずつ麻痺をかけてくれている。少しでも痛みを軽くしようと思ってくれたのだろう。


それに私は、早く家に帰らないと行けないのに、アンジュに「アンジュのせいじゃないよ」って励ましたいのに、激しい痛みのせいでただじっ、と動かないよう、振動を出さないように歯を食いしばる事しか出来ず、アンジュを励ます事も、痛みに耐える事も出来ず、自分が凄く情けなく思え、余計にポロポロと涙が溢れる。

泣いてる場合じゃないと分かっているのに、どうしても右足が痛くて、歯を食いしばって耐えても、どんどん涙が溢れていく。

本当よくこんな自分で、あの二人と一緒に旅がしたいとか言えたなぁ…。


『ご主人様ぁ…、泣かないで…っ! ご主人様は何も悪くないですわぁ……っ!』


必死に私を慰めようとしてくれるアンジュに、痛みの涙とは違う別の涙が出た。


なんてやっていたら空は黒くなり、森は真っ暗になった。かろうじて、アンジュの纏う光が辺りを円形に照らしていてくれるが、それ以外は光りすら届かない程の真っ暗闇。

少しでも動けば暗闇から出てきた何かに喰われるんじゃないかって言う程の周りの暗さに怯えていると、近くから物音がした。しかも前の方から。


その音は徐々に近付いて来て、目の前で止まった。

向こうからは私達の姿が分かるかもしれないけど、私達からしたら向こうの姿は暗闇に溶けて分からない。だから、怖い。もしかしたら目の前にいるのは、知能の高いモンスターかもしれないし、人間の盗賊かもしれない。


目の前にいるであろう何かを警戒するアンジュを、服の胸元に入れて、アンジュを守るように丸くなる。私の首と背中は無防備になるけど、アンジュを守れるならそれでいい。それに私は防御力だけは少し高いから、ある程度なら持ち堪えられる。


いつか来るであろう痛みに体を固くしていれば、急に「おい」と声をかけられ、思わず叫びそうになった口を慌てて閉じる。

声を出したせいで、目の前の何かの気分を害して殺されるかもしれない。そうならない為にも、必死に声を、息を押し殺す。


その状態のまま10分程経過した時、目の前にいる誰かが「ハァ」と溜め息を吐いて、私の方へ歩いて来た。震える体を抑えながら、その人が来るのを待っていると、すぐ目の前で「妖精の光を消せ」と声がした。


アンジュは目の前の人を警戒して拒んでいたけど、何故か私は聞いた事も無い声なのに、その人の声に安心感を覚え、アンジュに「大丈夫だから、消して…」と言った。アンジュは不安そうにしながらも目の前の人を睨みながら渋々、羽の光と纏っている光を消してくれて、私の胸元の服にしがみついた。


アンジュが全ての光を消した事によって辺りは真っ暗になり、それを合図に目の前にいた人は私を姫抱きにし、どこかへと歩き出した。


それが少しだけ怖かったけど、安心する、この人を信じて見ようと、私を姫抱きにするこの人に身を委ねた。



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