5話
「っぁ……」
錬成しようとアイテムボックスを開き、その中を見て思わず声を上げる。
リンナちゃんとイアンくんが修行した時に狩ったモンスターの素材を二人から貰い、アイテムボックスに入れていたのがかなりの数になっていた。⦅バードの羽⦆はもう24個になっているけど、かなり使い道があるし、装飾とか色んなものに使えるからまだいい。
でもその他。
⦅ウルフの肉⦆などのウルフの素材。⦅スネイクの肉⦆などのスネイクの素材。⦅ビックボアの肉⦆などのビックボアの素材。モンスター達の素材は嬉しい。ウルフやスネイク、ビックボアの素材は何に使うかはまだ分からないけど、あって困る物じゃない。ここまではいい。でも一つ言いたい事がある。
モンスター達の肉を異様なまでに持ってくるのは何故…?
いや、お肉をくれるのは嬉しい。⦅ビックボアの肉⦆は豚肉に似ていて、色んな料理に使えるし。⦅スネイクの肉⦆は味は淡白だけど、食感もいいし、お腹に溜まりやすいので、夜中に少し小腹が空いた時に食べる料理に丁度いい。⦅ウルフの肉⦆だって、味が濃厚で使える料理は限られてくるけど、蕩けるように柔らかくて美味しい。
肉をくれるのは嬉しい。だけど、持ってくる日が多い…!
修行に行って帰って来ると必ず、狩ったモンスターの肉をくれる。それも二人共。肉よりも、モンスターの素材の方が多いし、肉は一日で食べ切れる量だけど、それでも二日に一回は多いと思う。
お母さんは他の人より結構食べるし、お父さんはお肉大好きだから、二人は喜んでいたけど。
二人共、どうしたんだろう…?
何かあったのかな…?
う〜ん、う〜ん、と悩んでいたけど、分かるはずも無く、二人に直接聞くことにした。
「お母さん、リンナちゃんとイアンくんの所に行ってくるね…!」
「は〜い。行ってらっしゃい、メルちゃん。」
「行って来ます…!」
家を出て、森にある二人の修行しているであろう場所に向かう。
森を数十分歩き、森の奥にある開けた場所に出れば、二人が戦っていた。
リンナちゃんは次々と来る魔法を斬り裂いたり避けたりしながら、素早く動き剣でイアンくんに斬りかかっていた。イアンくんは素早い動きで斬りかかってくるリンナちゃんの剣を避けたり、魔法で防いだりしながら魔法でリンナちゃんを攻撃していた。
二人のその凄まじい戦いに思わず息を飲んだ。
リンナちゃんは、素早さと手数の多さ。何より的確な急所への容赦ない攻撃。
イアンくんは、魔法の火力の高さと範囲の広さ。そして次にどういう動きをするのか分からない変幻自在の魔法で、相手を翻弄する。
レベルが違う。
私と二人の間には決定的な違う何かがある。
それは才能とも言う、持って生まれたもの。
二人は天才で、私は凡人。
だからと言って、二人が努力してない訳じゃない。それは私が一番知っている。
天才、と言う才能に甘えず、二人は誰よりも努力している。自分を極限まで追い詰め、限界を越えようとしている。それこそ、死ぬ気で。才能があるから一足早く強くなっているのかもしれない。だけど、ただそれだけ。強くなるのが他の人より少し早いだけ。
中には少しやっただけで直ぐに強くなる人とか規格外な天才の人がいるかもしれない。
だけど、二人は違う。
人より強くなるのが少し早いだけの、天才。人より少し物覚えがいいだけの才能。
二人が修行に行くたびにモンスターの素材やお肉を持ってくる理由が何となく分かった。私に、二人が危険な戦いをしているっていう事を隠す為だ。
酷い怪我をしたとしても、私が錬成した⦅傷薬⦆を使えば傷も早く治るから大人達にも怪我の事を隠せるし、私がその酷い怪我を気にしたとしても「強いモンスターがいてそれにやられた」とか、「戦う時、少しモンスターを舐めてて、やられた。」とか言えば、私も「そっか、気を付けてね…」って終わりになって、あまり気にしないからだと思う。
そういえば昔、と言っても前世の記憶を思い出す少し前の頃、血塗れの二人が大人に連れられて帰って来た事があって、その時血塗れの二人を見て、二人を困らす勢いで泣き喚いた覚えがある。
二人が怪我とか血とか危険な事を隠そうとするようになったの、多分これの後からだったと思う。私が二人に、隠そうとする癖を身に付けさせちゃったんだ。なのに私、二人に怒ったり、勝手に一人で落ち込んだりしたんだ……。
「っぐ、ぁ!!」
「次っ!」
「分かってるっつーのっ!! この知識オタクっ! ばぁーかっ!!」
「ッチ! じゃあこっちも言ってやるよっ! この脳筋馬鹿っ!」
「んだとっ! このヒョロヒョロ陰湿知識馬鹿っ!」
「うるさいっ! 脳内お花畑筋肉馬鹿っ!」
私って自分勝手だな、って落ち込んでいれば、リンナちゃんがイアンくんの魔法で吹き飛ばされて、木を3、4本折っていきながら遠くまで吹っ飛んでいった。かと思ったらリンナちゃんは直ぐに戻ってきて、イアンくんと喧嘩しながら再び戦い始めた。
多分、この戦いしばらく終わらないと思う。終わったとしても多分夕方辺りだろう。夕方まであと4時間ぐらいはある。
二人の戦いを見ていたい気持ちにはなったが、今のうちに出来るだけ強くなっていたかったので、渋々その場所を離れ、素材を集めるべく二人に気付かれないように森を歩くことにした。
それから20分後、ある程度素材を集めたのでそろそろ森を出ようかな、と思っていると、遠くから何かの音が聞こえた。
鈴…のような、ガラスのコップを叩くような、響く何かの音。
その音は本当に不思議で、どこまでも続く透き通るような音で無意識にその音の方へ足を進めていた。
いつもなら危ないと、危機センサーが働くだろう。でも、この時はその危機センサーが働かなかった。むしろ「今すぐそこに行かないとっ!」と謎の正義感らしきものが働いた。
ビクビクしながらその音のなる方へゆっくりと歩いて行くと、急に、ぱちん、という音がして、その音を合図に周りの木々が消え失せた。木々が消えた代わりに、精霊とかが住んでいそうな大きな泉が姿を表した。
それに驚いて、帰り道を探す為慌てて辺りを見渡すと、ふとあるものが目についた。光る何かが泉の中にいる。
その光る何かは、時折チカチカと点滅を繰り返しながら、上がったり下がったりをしている。
少し様子が可笑しい気がする光る何かを、チラ、と一瞬見れば、その光る何かと目があった気がした。
━━助けてっ!━━
目があったような感じがした後、その光る何かが「助けて」と言った気がした。多分だけど。
その助けを乞うような音…、声…? を聞いた瞬間、私は泉にいる光る何かの元へ駆け出し、その光る何かを両手で優しく包み、思いっきり引き上げた。
その光る何かには木の根っこらしきものが絡まっていて、光る何かを傷付けないように丁寧に根っこを外し、泉を出る。すると、光る何かに絡まっていた根っこが急に動き始め、私達に伸びて来たので慌ててそこから走って離れる。
光る何かは怯えているのか、私の服にしがみついていて、震えている。たまにチカチカ光ったりしているが、良く分からないので、逃げることを優先する。
それにしても、この根っこのような、生き物…? は、一体いつまで追って来るんだろう…?
追いかけて来ないと思ったら、地面から根っこが急に出てきたりと…。その前にこのモンスターってどんな生き物なんだろう…?
「っひ…っ!」
考え事してる場合じゃなかった…!
この根っこの本体、かなり知能があると思う。
何かどこかに誘導されてるみたいな感じがする。
…いや、違う。実際に誘導されてるんだ。獲物を喰らう事の出来る本体に。
すぐさま急ブレーキをかけて右に曲がって走った瞬間、すぐ後ろにあった木が動いた。あれは⦅死樹木⦆だ。
普段は木の振りをして、日光浴や地面にある栄養を吸っているが、その木に実をなる時期になると栄養のあるものを喰らい、なりふり構わず栄養を蓄えようとする。ようするに雑食です。
⦅死樹木⦆は根っこを、ビッタンビッタン、と地面に叩きつけながら追いかけてくる。凄い怖い。こんな怖いモンスター達と、毎日のように戦ってるリンナちゃんとイアンくんは凄いと思う。
「っぃ、…!」
ふいに足に何かが絡まって、それに引っ張られて転んだ。転んだ訳は何となく予想は出来てる。
恐る恐る後ろを、足に絡まったものを見ると、足に絡みついていたのは⦅死樹木⦆の根っこ。
「っぴゃぁぁぁぁっ!」
あまりの恐怖に力の限り叫んだ。私の叫び声で一瞬⦅死樹木⦆は怯んだけど、直ぐに根っこが本体に戻っていき、私を本体へと運んでいく。一応私の叫びは威嚇になったみたいだ。
とりあえず光る何かを離し、逃げるようにと促すが、逃げようとしない。それどころか私の服を掴んで離さない。
…え、あ、な、何で…っ? 何で逃げないの…っ!?
な、何か…。何か逃げる事の出来る何か…っ!
あまりの恐怖にパニックになっていると、無意識に錬金術を使う時に出す銀色の釜が出た。しかもいつもより少しでかい銀色の釜が。
とりあえずアイテムボックスに入ってた素材などで、色んな関係の無いものまで錬成しまくった。⦅木の棒⦆と⦅木の棒⦆を大きく想像して⦅大きな木の棒⦆とか、長く想像して⦅長い木の棒⦆とか、⦅頑丈な石⦆と⦅大きな石⦆を、大きく頑丈になるように想像して⦅頑丈な大きい石⦆とか。⦅頑丈な石⦆と⦅大きな木の棒⦆を押し潰さる武器になるよう想像して、錬成すると⦅大きく頑丈な大槌⦆が出来た。
それにしてもいつもなら1つのものを錬成するのに、10秒〜30秒かかるのに今は、3秒〜6秒くらいで錬成出来てる。かなり早い。
人って極限まで追い詰められるといつもは出来ない事が出来るようになるんだなぁ…。
⦅石剣⦆やら⦅大槌⦆などを次々と錬成していくけど、意味無いのはよく分かっている。だって私、攻撃力が低いから石剣や大槌で⦅死樹木⦆を攻撃したって大したダメージを与えられず、死樹木を怒らせ、喰われるだろう。
そんなの嫌…!
リンナちゃんとイアンくんと、好きな人の役に立てるようになって一緒に旅がしたいの…っ!
それに好きな人に会えるまで死なない。死にきれない。
と言ってもモンスターが待ってくれる訳が無く⦅死樹木⦆の開いている木の口はすぐそこまで来ていた。
その光景に、恐怖によってほとんどなくなっていたほんの少しの理性が吹っ飛び、錬成によって作った⦅石剣⦆や⦅大槌⦆を⦅死樹木⦆の元へ飛んでいき攻撃するような事を想像した。
「飛んでけぇーーっっ!」
すると想像していたように、⦅死樹木⦆に⦅石剣⦆が所々に刺さり、⦅大槌⦆が⦅死樹木⦆を所々押し潰していた。
それにより、⦅死樹木⦆悲鳴のようなものを上げ息絶えた。
その出来事に自分でやろうと想像したくせに、本当に出来るとは思ってもいなかったので呆気に取られた。