14、裏路地の子供
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こんな未熟者の書いた小説にブックマークをつけて下さって本当にありがとうございます!!
これから頑張ります!
「申し訳ございません、満室でして⋯⋯」
「あぁ⋯そうですか。分かりました。」
本日何度目かの宿屋の部屋を取りに行っていたイアンくんが、疲れた顔をして宿屋から出てきた。
「どうだった?」
「無理だった」
「あー⋯、やっぱりかぁ⋯」
イアンくんのその言葉に、リンナちゃんは、はぁー、と溜め息を吐き、私とメルのとこも駄目だった、と頭を振った。
あの宿屋が満室になっていて三人して頭を抱えたあの後、私たちは宿屋探しのためにそれぞれで街を散策して宿屋を探していた。
宿屋を見つけたら部屋が取れるか聞き、否と答えられてを何回も繰り返し、街にある最後の宿屋にもたった今断られたところだった。
「これは街の外で野宿決定かな?」
「ぬぅ⋯っ」
「そうなるかな⋯。でも私、野宿好きだから嬉しい!」
「確かに気持ちいいよね、野宿。」
「ぐぬぬ⋯っ!」
「それでもって、さっきからリンナはなに百面相してるの?」
「ぐぬぬぅぅ⋯っ!!」
「⋯はぁ」
それにどうしようかと三人で悩んでいる中、イアンくんと私は街の外で野宿になるかな、と半分決めていたが、リンナは、百面相をしながら唸り、何かを考えていた。
顔をしわくちゃになるほどに歪めて唸るリンナちゃんの姿に、イアンくんは何か思うことがあるのか、はぁ、と溜め息を吐き、顔面を鷲掴んだ。
「⋯えっ!?」
流石にこれには驚いてしまったが、これは二人のコミュニケーションの一つなのだろう。
現にリンナちゃんは、イアンくんに顔を鷲掴まれて我に返った筈なのに、何事もなかったように顔を鷲掴まれながらイアンくんと普通に話している。
少しだけ二人だけのコミュニケーションが羨ましくなり、胸が少しだけモヤモヤする。
多分だが私は、二人に嫉妬しているのだろう。二人だけのコミュニケーションをしている二人に。
その自分の気持ちに気付いた私は、イアンくんの空いている片方の手を持ち上げ、私の顔へと押し付ける。
そうすることで二人だけのコミュニケーションである、疑似アイアンクローを味わえた。
思ったよりも私は、昔からあまり変わらなかったようだ。今も変わらず嫉妬深いなんて、初めて知った。
仲間外れが嫌だなんて、子供みたいだ。年齢的には今も子供だけど。
とりあえず、二人だけのコミュニケーションをやれただけで私は満足出来たので、イアンくんの手を自分の顔から離して顔を上げた。
するとそこには、頭の上に疑問マークを浮かべて固まった二人がいた。
恐らく私が何故疑似アイアンクローをやったのかが分からないのだろう。
だけど私も、自分が昔から変わってない事を知ったのだ。
だから今からワガママを言うが、少しばかりのワガママは許して欲しい。
「二人だけのコミュニケーションなんて、狡い⋯! 私にもやって!」
「「ミ゜」」
少しばかりのワガママに返ってきた返事は、よく分からない甲高い音だった。
それが私のワガママに対する是なのか否なのか分からず、頭に疑問マークを浮かべながらこの後なんて言えばいいのかと答えに困っていると、二人はハッと直ぐに我に返った。
「えっ、えっ、メル? 今のは? 今のは何⋯!? 今の、今の⋯っ!? えっ!? 今、今の何っ!?」
「? ⋯⋯⋯? ⋯⋯っ!?」
リンナちゃんは私のワガママが受け入れられていないのか、驚きながら同じ言葉を繰り返し言いながら混乱しているし、イアンくんに関しては、言葉すら出さずに混乱していた。
そんな混乱してしまう程、今の私がワガママを言うのは変なことなのかな。
確かに昔ならこのぐらいのワガママは言っていた。でも、大きくなるに連れて大人になるんだからと、ワガママをあまり言わないように気をつけていたから驚くのは無理はないと思うけど⋯。
少し落ち込んでしまいそうになり、慌ててその感情を出さないように、笑って取り繕った。
きっと私が少しでも落ち込めば、二人は罪悪感を感じてしまう。
そんなのは駄目だ。私の身勝手な感情のせいで二人を困らせたくない。
はぁ、と一呼吸吐いて気分を切り替え、いつものように笑って話題を変える。
だが私が話題を変えるよりも先に、リンナちゃんが上擦った声で告げた。
「とっ、とりあえず、街を出よっか!!」
「そっ、そうだね!! そうしよう!!」
二人は何故か早口で街から出ようと言い始めた。そして顔を片手で顔を隠し、もう片手で私の片手ずつを掴んで引っ張りながら人混みを避けるという、器用なことをやってのけた。
そして頑なにこちらを見ようとしなかった。
最初は私のワガママに呆れたのかなと思ったが、何となく違う気がして、少し考えてながら二人を見つめていれば、その理由が分かった。二人の耳が真っ赤だ。
もしかして照れてる?
そう気付いた時、何故か私はワクワクとした楽しい気持ちになった。なんというか、プレゼントを貰う時のような、知らないものを知れる時の高揚感。
二人の新たな顔が見れるかもしれないという、期待。
ほんの少し。ほんの少しだけ二人の照れた顔が見たくなって、私の手を引く二人の手を軽く、だけど二人が振り向くのには十分な力で引っ張る。
すると意外なことにすんなりと、二人の体は私の方へと振り向いた。振り向いた二人の顔は私の想像通りで、リンゴのように真っ赤に染まり、驚いたような、でもどこか嬉しそうな顔で、私を見ていた。
そんな二人は一瞬だけ目を見開いたまま私を見ていたけど、直ぐに私と手を繋いでいない方の手で顔を隠した。
あまりにも顔を隠すスピードが早くて、思わず私の顔に笑みが浮かんだ。
二人が顔を隠すのを見て、私は二人が急に街を出ようとした理由が分かった。
街の中にいると明かりで顔が真っ赤になっていることがバレてしまうから、暗い街の外に出て赤い顔を隠そうとしたのだろう。
一度その理由に気付いてしまえば、二人の反応が微笑ましくなって、さっきまでのモヤモヤした気持ちが嘘みたいに綺麗に吹っ飛んだ。
あまり自意識過剰な考えはしたくないが、さっきの反応は間違いなく、私がワガママを言ってくれて嬉しい、という顔をしていた。
どうやら二人にとって、私のワガママは大したことじゃなかったらしい。
「えへへ⋯⋯」
私は最近、少しばかり敏感になりすぎていたようだ。
二人の性格を、私はすっかり頭から抜けていた。
思わず零れ落ちた私の声に、一歩先にいた二人がつられるようにふふ、と声を揃えて笑った。
その際視界の端で何かがキラリと光り、何となく横を向いた。
「⋯⋯え」
そこで見たのは、横からきた小さな子供が私の横を通った瞬間、私の肩掛け鞄に入っていた一円も入っていないフェイク財布を一瞬で盗んでいくところだった。
七歳ぐらいの、だけど体は本当に小さい男の子が、一瞬にして私のフェイク財布を取ったことに驚きを隠せず私は固まってしまい、男の子がフェイク財布を持ったまま路地裏にいなくなるのを見ていることしか出来なかった。
急に固まってしまった私のせいで、私の手を繋いでいた二人も自動的に立ち止まることになってしまった。
私は大事なものとかを全てアイテムボックスに入れているからフェイク財布を盗まれただけで痛手はないけど、これが他の人だったらかなり大変なことになる。
私のあのフェイク財布は、何となく錬金術で木と布作ったものだから実質無料だから別にいいのだが⋯。
急に立ち止まった私に二人は怒らず、固まる私の様子にリンナちゃんがさっきの男の子が入っていった路地裏を見て、「気になるの?」と首を傾げた。
イアンくんもイアンくんで、何かの魔法を発動させているようで、指を一本立てて、何かを探るように目を閉じていた。
おそらくイアンくんの発動してる魔法は探知魔法だ。
探知するには、自分の魔力を探知したい対象に付けておくか、探知したい対象の魔力を探し出すために、自分の魔力を広げて探知する方法がある。
だが前者のやり方は、魔法を使う人や魔力を扱う人にはバレやすくなる。手練であればあるほど気付かれにくくなるが、半端な実力だとすぐバレるというデメリットがある。
後者も後者でデメリットがあり、自分の魔力を大きく広げて探知したい対象を探すため、広げる範囲に必要な魔力を消費するし、何より探知したい対象の魔力を覚えてないと探知ができない。
まぁでもその二つはイアンくんには関係ないと思うけど。
なんたってイアンくんの魔力量はエグい位にあるし、リンナちゃんもリンナちゃんで体力量がエグい。
多分二人共、一人でも世界征服出来るんじゃないかって言うぐらい。
二人合わさったら多分世界中の誰もが、それに魔王や神だって二人に勝てないかもしれない。
それぐらい総量が多いのだ。
「⋯⋯見つけたよ、路地裏に入っていったあの子供。」
静かに目を閉じていたイアンくんが、すっ、と静かに目を開けて、立てていた指を下げる。
「どうする?」と問うイアンくんに、リンナちゃんが、シュバッ、と誰よりも素早く手を挙げた。
「行く!」
何故かキラキラと目を輝かせ凄く乗り気なリンナちゃんに、呆れたようにイアンくんは、はいはい、と溜め息を吐き、「メルは?」と私の方を向いた。
何故かその顔はイアンくんにしては、なんというか⋯珍しく怒りというか、面倒臭いというか⋯そんな感情達がごちゃまぜになったかのような不思議な感情が、顔のみならず雰囲気にも出ていた。
珍しいイアンくんに驚きながらも私も行くと頷けば、イアンくんはふぅー、と一呼吸してから、私たちを案内するかのように一歩先を歩き出した。
それに私とリンナちゃんも続き、あの子供を追って私達も路地裏に入ったのだった。
「さてと。おい、お前ら。準備はいいか?」
ランタンに灯した火の明かりしか照明が無い暗い部屋の中に、一人の野太い男の声が響く。
その次の瞬間、その男の声に答えるようにして沢山の声が上がる。
やろうぜ、楽しみだな、どんな風に殺す、女はいると思うか、などと、その言葉にそれぞれの感情を嫌という程に乗せていた。
彼らは盗賊だ。
彼らが潜む森の前を通った奴を襲って金品や人を奪い、それぞれが楽しんでから売ったり殺す。
そんな極悪非道なことをやる盗賊たちが今宵もまた、良からぬことを始めようとしていた。
「いいか。ターゲットはあと少しでギルルの街へと着く。そしてそのギルルの街に着いて五日たった頃、ダーゲットはギルルの街を出てこの森の前を通る。」
その野太い声に、どこからかゴクリ、と息を呑み込む音が聞こえた。
そしてぽつり。
その野太い声の男が声を潜ませて呟いた。
「これが上手くいけば俺たちはしばらく働かなくていい。それに上手くヤッた奴には褒美もたんまりくれてやる。だから⋯⋯。」
その声を、盗賊たちは息を詰めながら聞く。
「しっかりヤレよテメェら!!」
野太い声の男の声援に、盗賊たちはヤる気に満ち溢れた声で答え、そんな様子の盗賊たちを見ながら野太い声の男がニヤリとあくどい顔で笑った。
野太い声の男はこの仕事が上手くいくことを確信していた。
なんたって今から始める仕事は、簡単な一方的な略奪。それも命の危機なんてものに遭遇することすらないのだと思って、いや⋯知っていたから。
ターゲットには、まともな護衛なんてものを付けれないということを。
「つーわけで。ターゲットは木のような家紋が付いてる馬車に乗る、ガキだ。」
その声に返事を返す盗賊たちを見ながら、野太い声の男はヒヒ、と気味の悪い笑い声を一つ零したのだった。




