13、ヤバいことになった!
「はぁ〜。いっぱい買ったわ〜。」
「いや、リンナは普通に買いすぎだよ。」
「いや、可笑しい。イアンの方が買ってたじゃん。それ私が言う台詞だよ。」
「でも二人とも、良いのが買えて良かったね!」
「ね〜!」
「ふふ。うん、そうだね」
リンナちゃんの満足そうな声とイアンくんの呆れた声を聞きながら、三人で冒険者ギルドの近くの宿屋へと足を進める。
(空き室あるかな?)
移動中、そんなことを考えながら歩いていた。
何でそんなことを気にするかと言うと、冒険者のほとんどは宿屋に泊まるからだ。
というのも冒険者は特定の場所に住処を持とうとする人はあまりいないらしい。
だから冒険者のほとんどは、滞在しているその街にある宿屋に泊まり、クエストを受注しているという。
その方が違う街に行きたくなった時、すぐ別の街に行けるためだ。
冒険者になる人達は皆自由奔放でマイペースな人が多いため、自然とそうなるらしい。
あとは、冒険者は色んなところを旅するため、あまり帰らない特定の住処にお金を払うのが無駄だから、というまともな理由もあるらしい。
それについては私も少しそう思う。お金は大事だ。考えて使わなければすぐに無くなる。
だから客室がある程度大きい宿屋や人気の宿屋は、すぐに空き室が無くなるぐらい冒険者が殺到する。
しかも私達が向かっている宿屋は、冒険者ギルドの受け付け嬢さんに教えてもらった冒険者ギルドから一番近い、定番の宿屋らしい。
定番ということは、冒険者になってから初めて教えられる宿屋ということだ。
冒険者は面倒くさがりの人も多く、いちいち宿屋を探しのも面倒と感じる人も多いらしい。そのため宿屋を変えず、その場所で初めて泊まった時の宿屋に泊まり続ける人が多いらしい。
そのための私は、私達が今行こうとしている宿屋も空き室がないかもと不安がっていたのだ。
二人用の一室でも空いていれば私とリンナちゃんが一緒のベットで寝るので三人で泊まることも出来るのだが、ない場合は仕方ない。
なかったらなかったらで街の外で野宿でもすればいい。私は思ったより野宿が好きなので、喜んで野宿する。
「あと他になんか面白そうな所ある〜? う〜ん⋯⋯⋯ないっぽいね。」
「うん、そうだろうね。リンナの好きそうな奇天烈なものがそうポンポンとあったら困るよ。」
キョロキョロと何かないかと辺りを見回すリンナちゃんに、イアンが呆れた顔をして溜め息を吐いた。
リンナちゃんはそんなイアンくんの言葉に、珍しく真顔になって「いや私、奇天烈なものが好きなわけじゃないし」と首を振って否定する。それにイアンくんは、珍しく目を見開かせながら心底驚いたように「えっ?」と返した。
流石のリンナちゃんも、イアンくんに自分が奇天烈なものを好きだと思われていたのに驚いたのか、気が抜けたような表情で「いや、「えっ?」じゃないが?」とイアンくんを見て呟いていた。
だがリンナちゃんは色々と精神的に疲れたのか、途中まで言って溜め息を吐くだけしてイアンくんを見つめるだけになった。
しかもイアンくんは心底驚いた表情のままなのだから、文句などを言うことが面倒臭くなったのだろう。
あの表情はリンナちゃんをからかうためのイアンくんの演技じゃなくて、本当に驚いている顔だから余計に。
ああ見えてイアンくんは頑固な一面もある。そのため、今すぐ覚え直させるようなことをしたら、ますますイアンくんは頑固になってその間違った知識のままで覚えてしまう。
リンナちゃんはそうなるぐらいなら今すぐに覚え直させるのを諦めて、徐々に覚え直させていけばいいと思ったのだろう。
私もその方が確実にイアンくんの間違った知識を覚え直せると思う。
リンナちゃんはイアンくんに覚え直させることを、今は諦めたんだろう。
さっきのことを一旦忘れ、リンナちゃんと私は何とも言えない顔でイアンくんを見たあと、どこかいいとこはないかと周りを見始めた。
イアンくんはそんな顔で見てきた私達にキョトン、とした顔をして私達を見るイアンくんを一旦見ないふりをして、辺りを見回していると、ふと視界にあるお店が目に止まった。
「リンナちゃん、イアンくん! あのお店は?」
私の声に振り向く二人を見ながら、気になった一件のお店を指差した。
二人は私が指差すお店を見て一瞬目を見開いて固まったが、すぐに二人は楽しそう声を揃えて「いいよ!」と笑い、二人は私の手を引き、そのお店へと進んだのだった。
「リンナちゃん、イアンくん、楽しかったね!」
「うん、そうだね。男の僕でも楽しかったよ。」
「メルもすっごい楽しそうだったもんね!」
「うん。あんな可愛いメルが見られて嬉しかったよ。」
二人の楽しそうな声を聞きながら、手に抱いている紙袋の中身に思いを馳せた。
私が抱く紙袋に入っているのは、服だ。
それもただの平民、というより、商人が雇った平民が経営している、平民向けのお手頃価格の服屋さんの服。
ショーウィンドウに飾られている服が地球の服屋さんと同じぐらいの種類があり、それを見た私達は少し気になってその服屋さんに入った。そして服屋さんに入った私は、ある服に一目惚れをした。
それが今、私が抱いている紙袋に入っている。それも、つい衝動買いしてしまうほどに一目惚れした服が。
その服が今私の腕の中にあるのが嬉しくて、大事なものはアイテムボックスにしまって大切にしておきたい私にしては珍しく、服をアイテムボックスに入れずに腕に抱いていた。
まぁ、それだけこの服が気に入ったと言うことだ。
あとは小物を二つ買っているが。
紙袋の中身を考えているとスキップしそうになったため、慌てて気持ちを落ち着け、一歩一歩確実に地面に足をつけて歩く。
こんなに開けるのが楽しみなんて、小さい頃の誕生日以来だ。
大人になったからなのか、今は誕生日プレゼントを貰う時はただただ嬉しいだけだから、何が入っているのかな、なんていうワクワク感は久しぶりだ。
そんな浮ついた私に気付いたのか、二人はクスクス、と微笑ましそうな笑顔で私を見つめてきていた。
頬をほんのりと赤く染めてその瞳にハートを浮かべ、心做しか恍惚とした顔をしている二人。
何だか見てはいけないものを見ているかのような背徳感を感じる二人の顔を直視してしまい、私は自分の顔が熱くなったのが分かった。
そんな真っ赤な私の顔を見た二人は満足そうに笑みを深めて、その大人びた笑みを止めて、いつもの笑顔に戻った。
二人はたまに、この蕩けたような顔をする。
その時の二人は年上だと見間違えてしまうほどに大人びた顔をして、不思議な雰囲気を纏わせる。
リンナちゃん達がそういう雰囲気を纏わせるようになったのは、リンナちゃんに痣が出た頃からだ。
もしかしたら痣が出たことで私が知らない何かを、リンナちゃん達は知ったのかもしれない。
気にはなるけど私はやっぱり二人の口から隠し事を聞きたい。
だから頑張って、二人の隠し事が気になる気持ちに気付かない振りをした。
何か毎度、この不安な気持ちと戦っている気がする。でも私がやっていることは間違ってはいないと思う。
だって、その秘密は二人の口から聞いてからが、二人の秘密を知ったと。二人に信用して貰えたということになるんだから。
「いやー。にしてもあの服屋、売っている服が凄すぎ。あそこまで立派だとは思わなかったわ。」
「あぁ、《蜘蛛糸の新》の。僕もあそこまで、新品同様の服だとは思わなかったよ。」
私達三人は村を出る時、数着の服を持って、いつもと変わらない服で村を出てしまったのだ。
別にいつもの服が駄目ということではないのだが、動きやすくはあるが、戦闘しやすい服ではない。
なんたって私もリンナちゃんも、村人がよく来ているような丈の長いワンピースだし、イアンくんの服も、丈夫で長持ちしやすい、ぴっちりとした固い素材の服だ。
一応リンナちゃんも私も、ワンピースの下にドロワーズを穿いているけど、だからといって中を見られて恥ずかしくないわけではないため、できる限り戦闘はしないようにしていた。
いや、違う。正しくはスカートの中が見えないように戦っていた、だ。
そんな中、武器屋を出て次どこ行こうか悩んでいる時に、《蜘蛛糸の新》という服屋さんに目がいった。
貴族は自分に合わせて一から作った服を着るけど、平民とかはだいたい最初からできている既製品の服を買う。
だからデザインはいいのにサイズが微妙に合わないだとか、サイズは合っているのに、デザインがあまり好きじゃないとかの悩みがあったりする。
故に戦いに適した服があればいいなぁ、ぐらいの気持ちで《蜘蛛糸の新》の中に入った私達は、店の中に置いてある綺麗で万人受けしそうな服に、思わず固まってしまった。
万人受けしそうだけどちゃんと、テーマに沿って作られているのか、シンプルだけど色んな種類の服が置いてあった。
それに、組み合わせ次第で自分だけのコーデを作れる程には、服の種類やデザインが豊富だった。
お店にもかなりのお客さんが入っていた。
皆、楽しそうに服を見ていて、友達と来たのか女の子同士で、あれはどう、これはどう、なんて服を見せ合いっこしていた。
そしてその服屋さんで、気に入った服を見つけた為、それを即座に購入した、というのが詳しい経緯である。
そして今現在。冒険者ギルドの近くにある、定番のその宿屋、《角兎亭》で部屋を取るために、三人で話しながら向かっていた。
その途中リンナちゃんが突如、「んふふ」と含み笑いをしながら、私とイアンくんを楽しそうに見つめてきた。
これからおこる何かに対して期待しているかのような、不安そうな笑みを私達に向けて。
イアンくんはリンナちゃんのその顔に少しイラッときたのか、「⋯何?」と怪訝そうな声色で、わざとどん引いたような表情でリンナちゃんを見つめていた。
今日は珍しくイアンくんが感情的になっていて、嬉しい。イアンくんは色んなことをよく我慢してしまうから。
イアンくんは感情を表面にあまり出したがらない人で、逆にリンナちゃんは気分屋のように思われそうな軽い感情をよく外に出していた。
反対のように見えて実は二人ともよく似ている。
リンナちゃんもイアンくんも、自分の中の大きな感情、それも本人にとってとても大切な本音をあまり出したがらない。
元より二人はそういう性質なのだろう。
それか、本音を言うことで拒絶されるのが怖いのか。もしくは本音を言って拒絶されたことがあるか。
実は私、五歳以前の二人を知らない。
というのも、私が四歳の頃に五歳になったリンナちゃんとイアンくんがハーブル村へと帰って来たらしいのだ。
リンナちゃんとイアンくんは生まれこそハーブル村だが、生まれて直ぐに二人の両親は、二人を連れてハーブル村を出ていってしまったらしい。
だけど二人が五歳になった時、ロードル家とリリース家は戻ってきたという。
それで気が付いたら二人と私は仲良くなっていたらしい。
そうお母さんが言っていた。
まぁ残念なことに、私は四歳の頃の事は覚えていないけれど。
だから私は二人の五歳以前のことを知らない。
気が付いた頃には私も二人と仲良くなっていて、二人はとっくに強かった。
だけど小さい頃。一度、五歳以前のことを聞いたことがあった。だが私は直ぐに聞いたことを後悔した。
リンナちゃんとイアンくんが、絶望したような、言いたくなさそうだけど願うかのようで、恐怖で引き攣り泣きそうになっている顔で私を見つめていたから。
まるでそれを言って起こる何かを怖がっているかのようで、私はそれ以上二人に何かを聞くことは出来なかった。
五歳以前の事は聞けなかったが、今まで二人と過ごした時間は紛れもない事実だ。それに、二人が私を大事にしてくれているのは確かなので、まぁそのことはいいかなと思っている。
二人が話したくなった時に聞ければいいかな、って。
「⋯⋯⋯ねぇ、イアン。メル。」
「何?」
「どうしたの?」
なんて考え事をしてれば、リンナちゃんが突如どこかを見て、そのまま視線を外さず強ばった声で私達に話しかけてきた。
リンナちゃんのその声に不思議に思いながらも、私とイアンくんが声を揃えてその声に答えた。そうすると、リンナちゃんはガン見している場所を指を差した。
それにイアンくんと顔を見合わせたが、リンナちゃんの指差す方向を私とイアンくんはゆっくりと見て、絶句して固まった。
それこそ絶句。何も言えず見ていることしか出来ないくらいの衝撃だった。
「おい! 部屋二室取れるか!?」
「一部屋でいいから空いてる!?」
「も、申し訳ございませんお客様!! 本日は全部屋埋まりまして、空き部屋はございません!! 大変申し訳ございません!!」
「はぁぁーーっ!!?? おいヤベーぞ、満室だってよ。」
「はぁ⋯、どうしようかねぇ?」
「新しい宿屋を探すしかねぇか⋯⋯。」
「まぁそうなるわね。無いものはしょうがないもの。」
《角兎》亭が沢山の人で埋まっていた。
それでもって角兎亭の従業がほぼ叫ぶようにして言う、満室という言葉。
私達はそれを見て三人で顔を見合わせて。
「ど、どうしよう⋯っ?」
「⋯どうしようか?」
「⋯どうしようね?」
三人で頭を抱え悩むのであった。




