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9、⦅赤色の牙⦆の冒険者達

「本当に申し訳ございませんでした⋯⋯」


「あ、あの…っ、あ、頭を上げてください⋯っ!」


「そうだよリーダー。メルちゃん達も許してくれたみたいだしな!」


「お前はもっと謝罪をしろよ! お前もマーシャと同罪だからな!」


「なんでよ!!」


「なんでもクソもあるか!! そんだけの事しでかしたんだよ、お前とマーシャは!! さてはお前反省してねぇな!?」


職業が盗賊(シーフ)なのか、盗賊(シーフ)のような服を着た女性“ベイル”さんを、スキンヘッドの男の人“リーベル”さんがマーシャさんにやったのと同じ様に頭を鷲掴み、イアンくんの前で下げさせた。


六人組は⦅赤色の牙⦆という名のパーティーを組んでいる冒険者達みたいで、あるレアモンスターの素材を探す依頼を受けてそのレアモンスターを探している時、イアンの持つお目当てのモンスターを見つけてしまい、思わず飛びかかってしまったという。


ちなみに、依頼とクエストは意味が違うらしい。

依頼者から指名されて受けた仕事の事を依頼と言い、冒険者が自由に依頼書に書かれている仕事を探し受注するのがクエストと言うらしい。


冒険者達は、一般人などに特に理由がなく一方的に手を出すことは禁止されているらしい。それは全ての冒険者の絶対のルールであるらしく、そのルールを破れば結果によっては冒険者を辞めさせられるらしい。


ベイルさんとマーシャさん、レイルさんはよく勘違いしたりして暴走するらしく、その三人のせいで冒険者を辞めさせられそうになった事も結構あったのだとか。

結構な回数を暴走されて冒険者を辞めさせられそうになったのだったら、こんな切羽詰まった感じにもなる。


「ほんっとーっに、申し訳ございません⋯っ!」


「あの⋯、大変なんですね⋯」


今も尚、ベイルさんとマーシャさん、神父のような格好した少年“レイル”さんの分の謝罪をしている⦅赤色の牙⦆のリーダーをしているという“ベータ”さんと、そして私に頭を下げ続けるベータさんと同じように、イアンくんに頭を下げ続ける“ライベル”さん。


それに苦笑しか出来ないままベータさんの頭を何とか上げさせる。イアンくんもライベルさんの頭を鷲掴んで無理やり上げさせていた。

そして相も変わらず私達の二歩後ろでこの光景を見ながら大爆笑しているリンナちゃんを、イアンくんと二人して睨んだ。


しばらくしてようやく対話が出来るような状態になってから、⦅赤色の牙⦆の人達と向き合い、色々と話し合った。


どうやら⦅赤色の牙⦆の人達は、ベータさんとライベルさんの二人だけがBランクで、他の人達はみんなCランクであるらしく、パーティーメンバーの残り四人がCランクなためパーティランクもCランクから上がらなくてどうすればランクを上げられるか悩んでいる所を、ギルルという街にある冒険者ギルドの長にパーティーランクをBランクに上げるための試験が依頼されたらしい。


要するにギルド長から⦅赤色の牙⦆へ、試練という名の依頼をされたと言うわけだ。


そしてその依頼というのが、イアンくんが倒したフォレットピークの変異種の素材を手に入れる事だったらしく、期限は一年。

今日で依頼を受けて十一月目だったみたいで、残りの期限があと一ヶ月しかなくて、凄く焦っていた所に、変異種のフォレットピークを持っている人がいたから興奮してしまったらしい。


確かに期限があと一ヶ月なら焦るだろう。しかも自分達の昇級のチャンスなら尚更だ。


「ところで君達は一体何者? さっきの事でよく分かったけど君達ただの一般人じゃないよね⋯? ぼくには一般人には見えないけど⋯⋯」


面倒くさそうにライベルさんの頭を上げ続けるイアンくんをリンナちゃんの横で眺めていれば、ベータさんが私たちの元へと歩いて来て、よく分からないことを聞いてきた。


「「⋯⋯?」」


意味が分からなくてリンナちゃんと二人して首を傾げると、ベータさんは少し悩むように顔を俯かせ何かをブツブツと呟き、うん、と頷いた。


「言い方を変えるね。君達相当強いよね? それも短期間でつけた強さじゃなくて、小さい頃から徐々に身に付けてきた強さ。何で強いのに、その力を隠そうとしてるの?」


どこか私達を探るような気配を漂わせながらこちらを質問してくるベータさん。


確かに小さい頃から鍛練して得たものが今の私を形作ってる。

今の私の強さは二人のおかげと私の頑張りによって得たものだ。

別に私達は自分の力を隠そうとはしていないが、この短時間で長年培ってきた強さを見抜くなんてベータさんはやっぱり凄い観察力を持っていると思う。


だけど色んな事を隠そうとしているのは私達じゃなくてベータさんの方だ。


「そっちこそ何でBランク以上のモンスターを倒せる実力があんのにBランクのままでいるの? 君、Aランク、頑張ればギリギリSランクにいける実力があるでしょ? 何で隠してんの?」


「っそれは⋯。⋯いや、それは君たちもだろう?」


「いや別に、ただ面倒臭かったり使う時がないから使ってないだけで隠してないけど。」


「⋯⋯え?」


リンナちゃんがどこか鬱陶しそうにそう言うと、ベータさんは驚いたのか驚愕した顔で固まった。


多分、イアンくんの気配やらなんやらが一般人と同じなのに、魔法を発動させた時のイアンくんの気配の強さが一般人とは思えないほど強いのに気付いたんだと思う。

だからもしかしたら私達もそうなのだろうかと探れば、私達も一般人が持たない気配の強さを持っているのを感じたが、それを見せる様子を見せなかったから、強さを隠していると思ったのだろう。


だから、強い気配を持ちながら一般人の気配を漂わせている私達が、強さを隠そうとしていないことに驚きを隠せなかったのだろう。

普通にしながら強さを隠せていると言うことになるから。


「え、あ⋯、⋯え?」


案の定混乱してしまったベータさんをリンナちゃんは一瞥(いちべつ)して、ライベルさんの頭を上げることを諦めて頭を下げ続けるライベルさんを引き連れながら、ベイルさんにアイアンクローをかけるリーベルさんを見ているイアンくんの元へと歩いて行った。


「あ⋯⋯。」


それを見たベータさんはどこか慌てた気配を漂わせ、リンナちゃんを凝視した。

おそらくベータさんは、リンナちゃんが探られたのが不快でイアンくんの元へと行ったのだと思っているみたいだが、それは違う。

探られる程度でリンナちゃんは気分を害する事はない。

ただただ説明するのが面倒臭くなっただけだ。


なんたって、事故で数時間自分が作っていた秘密基地をイアンくんに壊されても、イアンくんを注意するだけで怒らなかったくらいなのだ。

探られる程度ではリンナちゃんを怒らせるのは勿論、心を動かすのだって無理だろう。

それぐらいリンナちゃんは心が広い。


現にリンナちゃんは怒ったのではなく、説明するのが面倒臭くなってイアンくんの元に行っただけだ。

もしまた質問されたとしても、イアンくんの所にいれば質問の受け答えや説明はイアンくんがしてくれて楽出来るから。


「ベータさん、大丈夫です。リンナちゃんは色々と説明するのが面倒臭くなっただけなので。」


謝らなければとオロオロ慌てるベータさんにそう言えば、ベータさんはホッと安心したように息を吐いた。


「あぁ良かった。つい彼女の気分を害するようなことをしてしまったが⋯、彼女がなんともないなら良かったよ。後で彼女にも謝らなければ⋯⋯。君もそれを教えてくれてありがとう。」


「いいえ。ベータさんのお役に立てたのなら良かったです」


どこか安堵した表情で笑ってお礼を言うベータさんに、私も笑って返す。

きっとベータさんは、怒ったリンナちゃんが⦅赤色の牙⦆の人達に、ベータさんが強さを隠している事を言うと思ったんだろう。

だけどリンナちゃんは、よっぽどの事が無い限りは、人の秘密を誰かに言ったり利用したりしない。


「メルー! ちょっと来てー!」


安堵した表情を笑ってはいるが、頭の中では私達の事を色々と考えているであろうベータさんを何となく見ていれば、イアンくんの(そば)にいるリンナちゃんが大きく手を振りながら、大声で私を呼んだ。


「あ、はーい! えっと⋯それじゃあ、リンナちゃんの所に行きますね。」


「あっ、うん、分かったよ。」


ベータさんに一言(ひとこと)()ってから、大きく手を振っているリンナちゃんの元へと走った。

リンナちゃんの元へと走っている途中背中に探るような僅かな視線を感じたが、その視線と彼が隠そうとする実力以外のものも気付かない振りをした。












それから数十分。

本当の意味で皆が喋り合えるようになった頃、リンナちゃんが⦅赤色の牙⦆の皆に、フォレットピークの変異種を譲る代わりに、この近くにある冒険者ギルドに連れてって欲しいと交渉を持ち掛けた。


フォレットピークは、兎の額に一本角が生えていて蛇のような尻尾がついているモンスターだ。

蛇のように尻尾から毒を吐き、鋭い角で体当たりしてくる事に気を付ければ普通の冒険者なら準備運動にすらならないぐらいに弱い。

なので一般人もやろうと思えば倒せる。


それぐらい弱くて本来なら一般人にもあまり見向きされない弱いモンスターだけど、変異種になるモンスターが滅多に出ない中でフォレットピークは、他のモンスターよりも変異種になりやすい個体が多くいた。

勿論変異種になりやすいだけでそんなにいる訳では無い。

むしろとても少ないが全くいないわけではないので、よく試験やらなんやらに使われる事が多い、会えたら運が良い、なんて思われるモンスターだ。


だからそんなモンスターを譲る発言をしたリンナちゃんに⦅赤色の牙⦆の人達は驚き、何度も「本当にいいのか!?」「後から返してと言っても返さないよ!?」と言って、混乱したように騒いだ。

ベータさんもどこか警戒しながら何かを考えていたし、早とちりしやすいという三人組は騒ぐ事はしても勝手に了承する事は無く、ベータさんをチラチラと見ながらベータさん言葉を待っていた。


⦅赤色の牙⦆の人達にとってはかなり珍しいモンスターかもしれないが、私達はフォレットピークの変異種を見つけようと思えば普通に見つける事が出来る。

なんたって二人の探知能力の広さと範囲は大きく、とても精密で正確だ。

私も二人程ではないけど探知能力はあるため、フォレットピークの変異種がこちらに気付く前にどこに何がいるのかが分かるから、直ぐに見つけられる。


ベータさんが考え出してから十分くらいたった頃、よくやくベータさんの考えが纏まったのか、リンナちゃんに「お願いします」と頭を下げたのを皮切りに⦅赤色の牙⦆のメンバー達が嬉しそうに騒ぎ出した。


意外な事にフォレットピークの変異種を得たことを喜んで一番騒いでいたのがリーベルさんで、手をブンブンと上下に振って喜んでいた。


そしてそれに同調するかのように神父のような格好をしたレイルさんが、首にかけている小さな剣のようなペンダンドをブンブン振り回し、たまにマーシャさんやベイルさんに当たりそうになって二人に怒られそうになる所を、あまり近付き過ぎない位置で⦅赤色の牙⦆のメンバー達を微笑ましそうにベータさんは見ていた。


「⋯本当に宜しいのですか?」


ワイワイと騒ぐ⦅赤色の牙⦆の人達を少し離れた位置で二人と共に話しながら見ていれば、出会ってからあまり喋らなかったライベルさんが無表情のまま私達の元へと歩いて来ていた。


「何がです?」


イアンくんとリンナちゃんは言ってる意味が本当に分からないらしく、リンナちゃんと共に不思議そうに首を傾げた。


きっと生まれた時から強い人って普通の人が出来ない事が出来たり、普通の人じゃ出来ないことを会得したり出来るから、欲しい素材がいる、あのモンスターを倒せない、会いたいモンスターに会えない、なんて思う事が滅多にないんだと思う。


小さい頃平凡で弱かった昔の私なら、とても珍しいモンスターをしょうがないことで譲るなんて正気か、と思うライベルさんや⦅赤色の牙⦆の人達が言う考えに賛同していたと思う。

だけど今は、ライベルさん達の考える事も分かるけど、欲しいならまた倒せばいいでしょ、なんて考えるリンナちゃん達の考えも凄く分かる。

長年一緒にいると色々と似てくるって言うのは本当みたいだ。


首を傾げる二人に、ライベルさんは余計に何でしょうもない事でフォレットピークの変異種を交換しようとした思ったのかが分からなくなったようで、見てわかるぐらいに頭の上に疑問符を飛ばし始め混乱し始めた。それを見て慌ててリンナちゃん達の考えを分かりやすくライベルさんに説明する。


「えっと⋯、ライベルさん、あのですね。リンナちゃん達は戦うのが好きなので、モンスターの種類が珍しかろうが強かろうが欲しければまた倒しに行けばいい話だし、欲しい素材があっても戦っているうちに気が付いたら手に入れているでしょ、と言う考えなんです⋯。」


「⋯⋯あぁ、それは⋯⋯。あ〜、えっと、そうですか⋯。⋯大変なんですね、君も⋯。」


「う〜ん⋯、でも、それがリンナちゃん達の魅力の一つなので⋯⋯。それに、思ったよりそれを大変だと思った事ないですよ?」


「⋯⋯頑張ってください。」


とりあえず聞きたいことは聞けたからなのか、私をチラリと見てから一礼して⦅赤色の牙⦆の人達の元へと帰って行った。


「メールぅ〜!」


ライベルさんが完全に⦅赤色の牙⦆の団体に混ざった頃に、リンナちゃんが嬉しそうな声と共に背後から抱き着いてきた。

驚いて思わず顔をリンナちゃんの方に向けると、かなり近い距離にリンナちゃんの顔があり、その顔は歓喜で溢れていた。


「メルがあんな風に思っていてくれたなんてとっても嬉しいよぉ。私もメルのことだぁい好き♡」


「メル、僕もメルがとても大好きだよ♡」


頬を赤く染めたリンナちゃんはキャー、と興奮した様子で私に抱き付いて来て、イアンくんは愛しいものを見るような目で、私を見ていた。


リンナちゃんは色っぽい顔で抱きつきながら私をことをじー、と見ているし、イアンくんはイアンくんで、イアンくんのその黒っぽい茶色の瞳の中にハートが浮かんでいるように見えるぐらいその瞳に、チョコがドロドロと溶けているような甘さが浮かんでいた。

だが二人のこの顔は思っている事が無意識で顔に出てしまっているだけで、やろうとしてやった顔じゃないことも分かっている。


「え、あ、う⋯⋯、無理ですっ!!」


だがそれはそうとして、無意識だと分かっていたとしても二人のあの顔は普段二人からの愛情表現を受けていた私でも耐えられないぐらいの甘さがあった。


まるで甘い食べ物と匂いの甘さ全てを煮詰め体に纏いました、って言うぐらいに、恥ずかしい程の甘さが私の周りに(ただよ)い私を覆い尽くそうとしていた。


恥ずかし過ぎて思わずリンナちゃんを跳ね除け過ぎないように気を付けながらしゃがみ、顔を隠した状態のまま動けなかった。

それを見た二人は慌てたように私の周りをグルグルと周り始めて心配そうに声をかけてくるが、大丈夫だと一言返すので精一杯だった。


その私の姿を、⦅赤色の牙⦆の人達が哀れな目で見ていたことは知る由もないのだった。






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