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1話

ーー???「メルル可哀想。幼馴染みに置いて行かれるなんて…。」


ーー???「でもしょうがないよ。メルル、リンナと一緒に旅に行けるほど、強くなかったんだもん。」


ーー???「分かってるけどさぁー。幼馴染みの二人に置いてかれてやっと帰って来たと思って喜んでたら、知らない間に二人は結婚して子供がいたんだよ? しかも一度帰って来たきり二度と村に帰って来なかったわけだしさぁ…。」


ーー???「メルルの絶望感、半端なかったろーな…。」


ーー???「ホントだよ!! 作者さんメルルに何か恨みでもあるの!? メルルに親殺されたりでもした!?!?」


ーー???「ホントそれ! 作者さんほんとにお願いだからメルルを幸せにしてあげてよぉ…」


ーー???「ホントそれ…番外編とかで村に戻って来るとかさぁ…。」


ーー???「もぅ見てらんないヨ…。最終的にメルル、一人になるじゃン!? リンナ達が旅をしている間、メルルが村を守ってきたり、リンナ達に物資を送ったりして、リンナ達を助けていたのにサ…!」


ーー???「ホントだよー!! リンナ達も何で気づかないの!? 私達も最後の最後で知ったけどさぁーー!!」


ーー???「ねぇ誰か、メルルが幸せになる裏コマンド知ってる人いない?(´;ω;`)」


ーー???「私も知りたいよー!! だれかーー!!」



「やっぱり皆も、メルルの最後に納得いってないんだ…。」

スマホに映る《日が昇る頃〜勇者に見初められた乙女〜》の感想を一つずつ見ていく。


私も、メルルの最後に、あのエンドに納得いってない。だって幼馴染みと一緒に旅は出来ないから、せめて役に立てるようにとリンナ達に物資を送ったりして頑張ってたのに、リンナ達はそれに気づかないのどころが、メルルを置いていって一人にした。


あの時のメルルは一体どんな気持ちだったか…。


きっと苦しくて悲しくて、でも二人が幸せになってくれたなら私も嬉しい、って思っていたと思う。メルルは自分よりもあの二人の事を優先するだろうから。だからきっと自分の気持ちを抑えて、王都に行くあの二人を笑顔で見送ったんだろうな…。


「そういえば、《日の昇る頃〜勇者に見初められた乙女〜》の小説、ゲームになるんだっけ…?」


ゲームの方は確か乙女ゲームだよね。恋の相手がイアンくんじゃない人を選べるんだっけ…? それ以外は小説の内容と一緒だって書いてあったし…。それぞれのキャラのエンドが見られるって書いてあったけど……。もしかしてメルルエンドとか、あるかな…?

もしあるなら、買おうかな……。そのゲーム。







「…っ!」

懐かしい夢を見て、跳ね起きる。

昨日見た沢山の記憶と今見た夢は、夢じゃない。本当にあった事だ。さっきの夢は私の前世。そして今の私は《日の昇る頃に〜勇者に見初められた乙女〜》略して《勇乙(ゆうおと)》の世界の住人、“メルル・ハニーライト”。

あの《勇乙(ゆうおと)》の、メルル・ハニーライトだ。


今の私は前世の記憶もあるけど、“メルル・ハニーライト”としての記憶もある。どちらかと言うと“メルル・ハニーライト”の意識の方が強いけど…。前世の記憶は何か、こう…、客観的に見てこれも私の記憶だー、みたいな…、私の記憶だけど、物語を見ている感じに近い。


それにしても何てとこに転生したんだろう、私。

しかもメルルって…っ!


弱いせいで一緒に旅に行けず幼馴染み二人に置いて行かれ、役に立とうと物資などを送ったりしていたのにそれに気づかれなくて、戻って来たと思ったらそれ以来村に帰ってこなくて…。

悲しい結末を迎える人……。


考えていても拉致があかないのでひとまずベットを出て、鏡の前に座って改めて“メルル・ハニーライト()”の外見を見る。


腰まである真っ黒な、でも日に当たるとほんの少し藍色がかった黒色になる艶のあるサラサラな髪。蜂蜜色のようだけど蜂蜜色より少し暗く濃い色で、光の当たり具合で黄金色のような蜂蜜色になったり、夕暮れの空みたいな蜂蜜色になったりする、たれ目の瞳。ほんのりと桃色に染まった頬と唇。


どちらかと言えば可愛い方だと思う。だけど冴えない感じで、そこら辺に沢山のいるような平凡な感じの印象を受ける。良く言えば素朴で可愛い、悪く言えば冴えない平凡そうな人。第一印象は、弱そう。


中身も弱いのに、外見も弱そうに見えるって……。作者さん、本当にメルルに何かされたの…?


「メェーールゥーーーー!!!!!!」


「っひ…!」


考えに熱中していると突然、外にいるはずのリンナちゃんの声が部屋の中まで聞こえる程大きな声で叫ぶリンナちゃんに、考える事に熱中していた私はリンナちゃんを迎えに行こうと慌てて部屋を出ようとし、足を滑らし転んだ。

その際いすと共に転んでしまい、そのイスが鏡に飛んでいき、家に響くぐらいの音を立てて鏡が割れた。


「ぁ……」


鏡を割ってしまった。私の5歳の誕生日にお母さんとお父さんがプレゼントしてくれた鏡を。

どうしよう…。


危ないと分かっているのに素手で割れたガラスの破片を拾う。前世の記憶の私の方は冷静なのに対し、メルル・ハニーライトの方の私は今にも泣きそうで、頭が纏まらずぐちゃぐちゃなまま割れたガラスの破片を拾おうとするので手が鏡の破片で切れていく。


鏡の音を聞いたのか何人かの足音がここに走って来て、部屋の扉を開け四人が部屋に入って来た。


二人がお母さんとお父さんで、もう二人が、リンナちゃんとイアンくん。


俯いたままでいる私に誰かの息を呑む気配がした。そして、誰かがこちらに歩いてくる。多分お母さんだと思う。

怒られる、と身を竦めていれば私の頭を一撫でをし、鏡の破片を持つ私の手を、お母さんはゆっくりと開いて私の手にある鏡の破片を床に落とす。


てっきり怒られるのかと思っていたら、お母さんは私を安心させるように「大丈夫よ」と笑って私の背中を撫でた。それに安心したのか、ポロポロと涙が出てくる。

どうやら前世の記憶はあって精神年齢は高くても、精神はメルルの方に引っ張られるみたいだ。


「ふぇ…っ、ごめ、なさ、い…、ごめ、ごめんなさ、い…っ、ごめんなさい…っ、鏡っ! たん、誕生、日に…、くれた…、鏡…っ!」


「ふふ、貴方は昔から物を大切にする子だったものね。」


泣く私にお母さんはポンポンと背中を撫で続け、優しく笑ってくれた。


自分では分からなかったけど、どうやら私は前世の記憶を取り戻した事を少なからず動揺していたみたいだし、強くならないと、と焦っていたみたいだ。


「メル…。大丈夫?」


「メル、何処か痛いところとかある? あったら僕に見せて。」


心配そうに見るリンナちゃんとイアンくんの姿を見て、ゆっくり確実に強くなればいいんだと思えた。前世の記憶に惑わされたら駄目。私は“メルル・ハニーライト()”。もう私は前世の私じゃない。今を生きるのは“メルル・ハニーライト()”だ。前世の記憶は私のだけど、“メルル・ハニーライト()”を惑わす事は許さない。

前世の記憶は“メルル・ハニーライト()”を助けるための辞書だ。“メルル・ハニーライト()”は価値のある辞書を手に入れたんだ。そう思おう。


…ちょっとだけ向こうの世界の事は気になるけど、向こうの世界には大事な人は皆死んでもういないし、私の居場所は元々無かったのだから、私が居なくなろうと対して変わらないだろう。

だから向こうの世界に未練は無い。私は“メルル・ハニーライト()”としてこっちの世界で生きていく。


「うぅん、どこも痛くないよ…! 二人に心配かけてごめんね…。二人に早く会いたくて、慌てて部屋を出ようとしたら転んじゃった…」


「んもぅ、可愛いこと言わないでよー、じゃぁこれで許してあげるー!」


「しょうがないなぁ。許してあげるよ。これが終わったらね?」


「ひゃ…っ!」


二人に髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで頭を撫でられ続け、二人が頭を撫で終えたのは、それから10分後の事だった。


その後イアンくんが、前日に丁度良く覚えた無機物を直す事が出来る魔法で鏡を直してくれて、お母さんに「ああいう時はお母さんを呼ぶの!」と、少しお説教を受けながら魔法で傷を治してもらった後、リンナちゃんとイアンくんと夕方近くまで遊んだ。


少しずつ確実に成長して行こう。

焦る必要は無い。まだ時間はたっぷりあるから。

ダラダラするのは駄目だけど、無理しすぎてもいい結果は出ない。

長い時間をかけてちょっとずつ積み重ねて、強くなろう。


大丈夫。私にはリンナちゃんとイアンくんがいる。それに前世の記憶()が共にいる。優秀な辞書(味方)があるんだから、焦る必要は無い。

絶対に私は大丈夫。明日も頑張ろう。


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