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6、不思議な夢

フワフワとした心地良い感覚に大人しく身を任せていれば、白い空間のどこからか懐かしい声が響いた。


━━━『私と一緒に来てくれる?』━━━


━━━『勿論(もちろん)。』━━━


━━━『もしかしたら…、生きて帰って来られないかもしれないよ?』━━━


━━━『そんな事、百も承知だよ。』━━━


━━━『それに……もしかしたら……』━━━


━━━『少しでも可能性があるのなら、俺はその可能性に縋りたい。それは、俺だけ?』━━━


━━━『うぅん。それは私も一緒。だけど……だからこそ私は、この願いがどうにも出来ないと分かった時、狂ってしまいそうで怖いの……。』━━━


━━━『それは俺も一緒だよ。』━━━


不鮮明で男か女かすら分からない声が会話するのを止め、無音がこの空間に広がる。

二人の声が何者なのかは分からないけど、悲痛な二人の声が聞いて取れ、とても辛い事があった事があったんだと分かり、何となく胸が苦しくなった。

そんな二人の声に懐かしさを覚える事を不思議に思いながら、私は焦った気持ちでその声を聞いていた。


━━━『じゃあ、行こっか……。』━━━


━━━『うん…そうだね。』━━━


その声を最後に二人の声は聞こえなくなり、その場に無音が広がる。

声が聞こえなくなって数分経った頃、白い空間はぐにゃりと歪に姿を変えながら、場面を変え続けた。


女性が剣を振り数多のモンスター達を切り捨てて行く姿。男性が辺りの森林を燃やしていく姿。


女性が色んな人に感謝されている姿。男性が色んな人と話している姿。


女性が神妙な雰囲気で羽の生えてる女性と話している姿。男性が倒れている女性を看病している姿。


女性の絶望している姿。男性の切羽詰まったように走り回っている姿。


女性の泣きわめいている姿。男性の絶望して放心している姿。


女性の燃える街を見つめている姿。男性の燃える街を見ている姿。


女性の狂ったように大声で笑う姿。男性の燃える街を見て笑いを堪えている姿。


女性の鼻歌を歌ってどこかへ消えていく姿。男性の楽しそうにどこかへ消えていく姿。


そして徐々に姿が消えていく男女の姿。


そんな二人の姿を見て二人へと手を伸ばし叫ぶが、その声は音を発さず声無き声へと変わった。


二人を追って走るが追いつけるどころが、二人を追いかければ追いかける程二人は更に遠のいて行く。


ソワソワと落ち着かない感覚に違和感を覚えながらも必死に、手を伸ばしポロリと口から零れた二人の名前を叫ぶ。


「行かないで、━━━━! ━━━━!」


二人の名前を叫んだと思った私の口からはしっかりとした声は出ず、音にならない言葉はそのまま空気へと溶けて行った。








「待って━━━っ!」


勢いよくベットから飛び起き、虚空へと手を伸ばす。


思わず周りを見渡すが部屋はいつも通り何の変わりもないし、リンナちゃん達が来た様子もないことから、まだ八時未満だと分かる。

リンナちゃんやイアンくんは、朝八時以上にならないと遊びに来ないから。


ふぅ、と一息吐いて起き上がろうと体に力を入れた瞬間、ビリビリ、という電気みたいな衝撃が体全体に走り、思わず身体中の力を抜いてベットへと逆戻りした。


声も出せないぐらい痛いその衝撃に、涙を滲ませながら歯を食いしばる。

そしてほんの一瞬、あのアサシンベアと戦った時に起こったのと同じように、心臓がズキリ、と痛んだ。

そして何か忘れているような心地になったのと同時に、何事も無かったように心臓の痛みは無くなった。


しばらくして落ち着いた頃に、何を忘れていたかを思い出しながらゆっくりとベットからでて、身支度をする。

それが終わり時計を見れば意外な事にまだ六時半だった。


六時半ならもうリンナちゃんやイアンくんは森へとモンスター討伐に行っている時間なので家にはいないだろう。


私も自分を鍛えに森へと行きたいけど、二人の探知能力は正確さが凄まじいので、森に入った瞬間多分バレる。


そしたら二人は間違いなく私の元に来るだろう。二人共過保護だから。

そうなると二人の鍛錬を邪魔をしてしまうし、私も二人に気を使われながら鍛えられてしまう。それだけはやだ。

二人揃うと気を失うギリギリを測られながら鍛錬することになるので、気を失う事も出来ないから凄く辛い。


まぁそれも今の内だけで、いずれその辛さも当たり前になっているんだろうなぁ…。


「……っ!?」


何てことをベットに座って考えていれば、突如魔力が半分以上ごっそりと無くなった。

何事かと思えば半透明の分厚い本がいつの間にか目の前に現れて、パラパラとその本がめくれていって、あるページのところでピタリ、と止まった。


「……?」


そのページは何も書かれていない白紙なのに、そのページから動く気配のない半透明の本を不思議に思い、ビクビクと怯えながらも半透明の本に触れた。瞬間、忘れていた記憶が頭の中に流れ込んできた。


それは今の今まで忘れていたこの世界で起こるであろう記憶。

リンナちゃんの物語。

その事を思い出した瞬間私は青ざめた。

それは、この世界の話しを忘れていた事もあるけど、一番はもう原作が始まっているって言うこと。


私はいつからこの事を思い出さなくなった?

辞書(前世)の事を考えなくなった?


リンナちゃんが旅に出る理由になった、あの痣が授けられた場所。リンナちゃんと一緒に閉じ込められたあのダンジョンが《乙女の祭壇》と呼ばれる、勇者に見初められた乙女が導かれる場所だ。


それが起きたという事は、もう少ししたらリンナちゃんとイアンくんが旅に出ると言うこと。

もし旅を出る時に、私がリンナちゃんに認められる強さじゃなかった場合、私は去って行く二人を見送らないといけなくなる。原作通りになってしまう。


「ど、どうしよう……っ」


今の私は本当に、リンナちゃんに二人に認めてもらえる強さになれてる?


もしかしたら旅に出るにはまだ弱くて、村にお留守番、ってならないよね……っ?


……いや、なりそう。だって二人共、過保護だから……。


こうなったらやる事は一つ。

先に二人に言ってしまえばいい。旅に出る、って。

そうしたら二人は渋々了承してくれると思う。

だって二人共本人の意思を曲げるようなことをするのは嫌いだから。


そうしたら二人にもこっそりと着いて行ける。

そして途中でバッタリあった、ていう風で二人と鉢合わせれば二人と話す事が出来るし、この案は結構いいかも知れない。

と、なれば。


「早く二人のとこ行かないと……っ!」


直ぐ様家を出て、森の奥のどこかにいるであろう二人の元へと走って行く。


「アンジュっ!」


『はいっ、ですわ!』


いつの間にか微かな光を纏わせながら、私と同じ速さで私の横を飛んでいたアンジュの名前を呼ぶと、アンジュは纏わせている光をチカチカと点滅させ、どこかに案内するように私の五歩前を飛んだ。


十分程走っていれば、森のかなり奥深くの場所にいる二人を見つけた。

二人は何かを話しては、叫ぶような声で言い合うのような事をしていたが、二人がいるのは開けた空間の真ん中なので、これ以上近付けば二人に気付いてもらえるだろう。

というかもう二人にはバレているかも知れない。


二人の元へ行く為に一歩踏み出そうとして、私は固まった。

二人の「旅に」という声と「メルに言わなきゃ」という聞きたくなかった言葉が聞こえたから。


もうそこまで進んだのか。

なら私に残された選択肢は一つ。


「あ、メル!」


「本当だ。」


走って二人に駆け寄り、二人が旅に出ると言う前に私は。


「私、旅に出ますっ!!」


叫んだ。


「「え、」」


私がそう言った瞬間、一瞬の間を置いて二人綺麗にハモリながら叫んだ。



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