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3、乙女の神域

この不思議なダンジョンに閉じ込められてから三十分。

私達はどうしたらいいか困り果てていた。

その理由は一つ。このダンジョンの道全てがボス部屋と呼ばれる場所に繋がっていたからだ。


入口が壁になっているのを見た私達は、直ぐに他に入口を探す為、このダンジョンを捜索する為にダンジョン内を動き回った。


そして十分程探索して分かったのは、ダンジョンの道はどれもボス部屋と言われる場所に繋がっている、という事と、完璧に閉じ込められたと言う事だけだった。


沢山の道があるけど、どの道も一本道で最終的にはボス部屋へと着く。絶対に逃がさないと言われているようで怖くなり微かに体が震え、泣くつもりはないのにジワジワと涙が溜まっていく。


リンナちゃんやイアンくんに鍛えられて強くなっても、やっぱり私は泣き虫で弱虫のままなんだ。

こういう時、やっぱり泣いてしまうし怖がってしまう。

大事な所で動けなくて、二人の役に立つどころが、迷惑をかけてしまう。


これ以上迷惑をかけたくなくて、絶対に泣くまいと手を握り、下を向いて唇を噛んで涙が零れるのを我慢していると、強く握る私の手をリンナちゃんの手が優しく覆った。


「大丈夫だよ、メル。」


「……っ!」


リンナちゃんの優しい声色に顔を上げリンナちゃんを見ると、リンナちゃんは頬をほんのりと赤く染めながら美しく微笑んでいた。


「私がいるから絶対に大丈夫。ね? そうでしょう?」


まるで愛しい者を見るかのように私を見るその表情に、思わずリンナちゃんをガン見してしまい、その際に目に溜まっていた涙がポロリと零れ、頬を伝って落ちて行った。


「メルには私がいるよ。だからね、もう、怖くないでしょ?」


強く自分の手を握り締めている私の両手を優しく解き、リンナちゃんは私の両手を握りながら私の前に膝を着き、私を見上げてきた。

私を見上げて来るリンナちゃんのその目には、私に対する絶対の信頼と信用の炎がボウボウと熱いぐらいに燃え盛っていた。


私はちゃんと動けるってリンナちゃんは信じてくれているのだ。


私は今の今まで、二人になんて思われているかを気にしていた。

前世の記憶があるせいで、前世で味わった人の裏の顔やら社会の裏などを知っているせいで、無意識にその言葉や態度の裏などを深読みしてしまう癖が着いた。


勿論二人を疑っている訳ではないけど、本当は私の事をうっとおしく思っているのか、とか、幼馴染みだからしょうがなく私といてくれているのかな、とか、心のどこかで思ってしまっていた。だって私には自慢出来るものや、二人に好かれる所が何一つ無いから。


だから、私に自慢出来るものがなくても私自身を好いてくれている事が、リンナちゃんが示してくれた私に対する愛情が嬉しくて、私は首を何度も縦に振ってリンナちゃんに抱き着いた。

そしてそれに応えるようにリンナちゃんも私の背中に腕を回し、背中と頭を優しく撫でてくれた。


「んふふ。メルの甘えんぼさん♪」


とても嬉しそうで楽しそうな声色のリンナちゃんを一度見てから、甘えるようにリンナちゃんのその首筋に私の頭を擦り付け、小さく「大好き」と呟いた。


二人が私をどんな風に思っているのか分からなかったから、今までは二人に甘えるのが怖かったけど、リンナちゃんの気持ちを知った今は素直に甘えられるし、凄くリンナちゃんに甘えたくなった。


「え、」


私の小さな呟きにリンナちゃんは驚いた声を出したけど、直ぐに私にしか聞こえないぐらい小さな声で「私も」と、嬉しそうに呟き、未だにリンナちゃんに抱き着いている私の背中を、リンナちゃんは私をあやす様にリズムよくポンポン、と優しく叩いた。


「私はメルに甘えてもらえてとても幸せ。だからゆっくりでいいんだよ、メル。」


「…うん」


リンナちゃんやイアンくんの言葉には裏がない。だから余計に不安だった。誰しも少なからず裏の顔は持つはずなのに、二人からは裏の顔が見えないから、二人にそこまで好かれる所がない私は凄く怖かった。

私が読み取れないぐらい、深く深くその思いを沈ませているのだろうか、とか二人を疑うような事を沢山考えて、その度に自分に嫌気が差した。

素直に二人を信じられないのか、って。


だけど今リンナちゃんが示してくれた愛情に嘘偽りはなく、その言葉に裏も無かった。あるのはただ私を思う気持ちだけ。


私は二人に大事に思われている。

それが分かっただけで私は沢山の感情が混じり合った言葉に出来ない感情に支配された。

それだけでやっぱり私は二人が大事に思ってるし、二人に支えられているんだな、って痛感した。


二人は絶対に純粋に私を思ってくれる。そんな優しい人達に返すのが「疑い」なんて、恩を仇で返すような真似なんてしたくない。

だから私はこれから二人に対して、なるべく思ったままに進んで信じる。もう疑う事はしない。いや、違う。もう裏を読むような事はする必要は無い。

だって二人は私を傷付ける事はしないから。


「…もう…大丈夫…っ!」


まだ目に涙は溜まっているけど、色々と吹っ切れた事が分かったのか、リンナちゃんは「そっか!」と、笑顔で頬に口付けをした。


「……え?」


「んじゃ、一緒に覚悟を決めよう?」


リンナちゃんに頬に口付けを落とされた私は、呆気に取られてリンナちゃんを見れば、リンナちゃんはキス如きでは何も思わないのかこれから行くであろうボス部屋へと視線をやった。


数秒するとボス部屋の入口の扉を見つめていたリンナちゃんは凛々しい表情で口元に笑みを浮かべ、未だに呆気に取られながらリンナちゃんを見つめる私を、ニコニコと微笑んで私を見つめ返し、私の手を優しく握って「ボス部屋へ出発!」と、ボス部屋へと歩き出した。


ボス部屋へ近付いて行くにつれ、リンナちゃんのその口元は大きく歪んでいき、瞳孔が徐々に小さくなっていくその目は、ボス部屋の中にいるであろう何かを見ていた。

口元が歪み瞳孔が小さくなっているその顔は、モンスターと戦っている時よりもずっと怖い顔で、明らかにこの先の部屋にいるであろう強者との戦いを喜ぶ顔である事がよく分かった。


色々言いたい事があったけど、これから起こる楽しい事を思って嬉しそうに笑うリンナちゃんを見ていると、色んな事がどうでもよくなり、大人しく嬉しそうに笑うリンナちゃんに手を引かれながら、ボス部屋へと進んで行く。


少しだけボス部屋に行くのが怖かったが、リンナちゃんと一緒なら不思議と大丈夫な気がした。だけどやっぱり少しだけ怖かったのでリンナちゃんの手を強く握り締めたら、安心させるように握り返された。


リンナちゃんと手を握り、ボス部屋の前に着くと、ボス部屋の大きな扉の前でリンナちゃんと一緒に深呼吸をした。


「…準備はいい?」


「うん…っ!」


お互い目を合わせて頷いてから、その大きな鉄製の扉をゆっくりと押したのだった。



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