1、ついに始まります
注意
・気持ち悪い表現アリ
・虫
・グロテスク
「ふぅー、今日のところは大体終わったかなー?」
結い上げた茶色い髪を靡かせながら、警戒を宿した緑の瞳を辺りを見渡して、辺りにモンスターがいない事を確認してからようやく、リンナちゃんは溜め息を吐いて気を抜いた。
「メルー、これで何体目〜?」
「えっと、リンナちゃんは二十二体目だよ」
「ああ〜、あと八体なんて多いよぉ〜〜っ!」
「あと八体だよ、一緒に頑張ろ…!」
「頑張る〜〜〜!!」
メソメソと泣くリンナちゃんの手を引き、今いる場所からさらに森の奥深くへと歩いていく。
私達が今いるのは森の奥深くにある湖。
そこに私とリンナちゃんは、モンスターを倒す為に来ていた。
森深くにあるその湖の近くには、モンスターが集まりやすい。
その理由は簡単。人が近づかない為、人の匂いがしないからである。
だから、リンナちゃんとイアンくんはモンスターの数を増やさないように、モンスターを狩る。
そのために森へ入っていくのだと気付いたのは、二人と一緒にモンスターを狩りに行くようになってからだった。
モンスター達の数が多くなると、食料がなくなったモンスター達が、住処を降りて来て村や国などを襲ったりするかもしれないから。
そして一番最初に被害に合うのはモンスターが増える場所の近くにある村などだ。
そこまで考えていた事に驚いたのと同時に、「二人は凄いなぁ…」って思う気持ちと、「勝手に強くなりたいからモンスターを狩っていたんだと思っていてごめんなさい」っていう気持ちが交わって、よく分からない気持ちになったのが懐かしい。
そして今モンスター達を倒しているのも、そんな事にならないようにする為。
ちなみにイアンくんの魔法は範囲攻撃の魔法が多いため、近距離のリンナちゃんと、中距離の私はイアンくんにとって邪魔にしかならない。
それを私達はよく分かっているので、別々に行動している。
イアンくんと私達で別行動する際に、何故かイアンくんに、「二人にするのは心配だ。」と、凄い心配され、「何かあったら叫んで呼んでね。」って子供を心配する親みたいな事を言われた。
しかもリンナちゃんに限っては「いいか? リンナ。モンスターを倒すだけだからね? モンスターを見つけたら倒すだけだよ? それ以外は余計な事しないでね? 分かった?」って、子供に言い聞かせるような言い方をしてモンスターを倒す手順みたいな事も教えていた。
流石にそれにはリンナちゃんも「私は戦い方も知らないガキか何かかっ!!??」って、怒っていた。
「メルー…、ちょっと休憩にしない?」
見て分かるほど疲れ切っている姿のリンナちゃんにそう言われれば、駄目と言う事が出来るはずも無いので、リンナちゃんをアイテムボックスから出した木のイスに座らせ、辺りに落ちている木の枝や葉を拾い、焚き火の準備をする。
「にしてもあの馬鹿イアン!! そんなに私を働かせて楽しいか!? ………いや、あのイアンなら笑顔で楽しいって言いそう…。」
「あはは……」
それに関しては否定出来ない。
だって昔、イアンくんそれに似たような事をさせて、笑顔で似たような事言ってたから…。
なんてことないお喋りをリンナちゃんと数分程していれば、途端に辺りの空気がグラリと揺れ、私の直感が「やばい」と、忠告してきた。
それにリンナちゃんも気付いたのか、顔を引き攣らせて笑いかけて来る。
「あのさぁ、メル。嫌な予感がするんだけど…私の気のせい?」
「あ、良かった…。私と同じ気持ちだった…!」
「だ、だよねっ!! と言う事は…。」
ギギギギ、と音がなりそうな程私達はゆっくりと後ろを向き、遠くに見えたのは、十匹程の⦅大ムカデ⦆の幼虫と、十体程の⦅ベビーベビー⦆の大群。
直後辺りに響く、私達の悲鳴。
「うわぁぁぁっ!!! 無理無理無理無理っ!!」
「やだやだやだやだぁぁぁっ!!!」
ただいま私達は⦅大ムカデ⦆の幼虫と、⦅ベビーベビー⦆と言うモンスターから逃げ回っています。
ちなみに⦅ベビーベビー⦆というモンスターは、四角い箱のようなものに手足がついているような感じ。
それだけならいいけど、その四角い箱は透明で、その箱の中は⦅ベビーベビー⦆の体内が入っている為、⦅ベビーベビー⦆の臓器が丸見えになっている。
別の意味でグロテスクなのだ。
「なんかこの頃こんなのが多くなってないかなぁーーーーっっ!!!???」
「何でこんなにいるの…っ!」
青ざめた顔のリンナちゃんと、泣きそうになっている私は、叫びながらでも走るのを止めない。というか足が止まらない。
リンナちゃんは強いから倒せるだろうって?
大ムカデの幼虫の方なら出来るだろうけど、ベビーベビーの方は無理だと思う。
ここで一つ、私達の苦手なものを言います。
私は、足が多かったり何かいっぱいついてる虫系が苦手で、リンナちゃんはグロいのが苦手。
グロいのって言っても、解体する時とかのは平気なんです。リンナちゃんが苦手なのは生きてる状態の中身。
あの、ドクドク脈打ってる臓器達が苦手。
だからリンナちゃんはモンスターを狩る時は、弱点を突いて一撃で倒す。
それが出来なくても、生きてる状態の中身が見えないように戦う。
だからリンナちゃんは、ベビーベビーがいるせいで戦うことも出来ず、私と一緒に走って逃げているのだ。
逆に私はグロイのはある程度大丈夫だし、リンナちゃんも足が多かったりする虫とかも平気。
本来なら互いの苦手なモンスター達を相手にすればいいのだが、めんどくさい事に、私達は苦手なものを見続けていたり、近付いて来られるだけで簡単に理性が吹っ飛びやすくなる。
そうなると、モンスター達を全部吹っ飛ばしてからこの辺りを更地にしないと止まらなくなるため、イアンくんには、「苦手なモンスターに会った時は相手にせず逃げろ」と言われている。
要するに、イアンくんが駆けつけて来てくれるまで、逃げているしか出来ないのだ。
「イアンお願いだから早く来てっ!!!!!」
「気が狂いそう…っ!!」
二人して絶対に後ろを振り向かないようにして、走って走って走る。しかも不幸な事にこの状態を何とかしてくれるであろうアンジュはイアンくんと一緒について行った。
故にどうにも出来ない。
しかも苦手なものに追いかけられているという事自体が私達を追い詰めているわけで、理性が吹っ飛ぶのも時間の問題だった。
そして追い詰められている時にまともに考える事なんてできるはずもなかった。
故に私は自分が魔法を使う事も、錬成したアイテム達を操れる事も、すっかり忘れていた。
リンナちゃんも、自分がモンスターを足止め出来る程度に魔法が使える事を忘れていただろう。
そして数分モンスター達と鬼ごっこをした後、何とかモンスター達から逃げきれたのだった。
…何かヤバそうなところに迷い込んだのと引き換えに。