11話
急に目の前が光に包まれたのと同時に、心臓の辺りが焼けるように痛み出した。
「ぃ……ぁぅ…っ!!」
あまりの痛みに、両手で心臓の辺りを握りその場に蹲った。
心臓が鼓動を刻む度に痛みが襲い、その痛みに呻く度に涙と汗が地面へと滴り落ちる。
痛みをなるべく軽減させる為か、息が自然と荒くなっていく。
叫べば痛みは少しだが軽くなると知っているのに、あまりの痛みに叫ぶ事すら出来ない。
息を、声を詰まらせながら、必死に痛みに耐え、その心臓の辺りから来る痛みに少しでも慣れることを優先させる為、全意識をそちらに持っていく。
本当ならばこんな事している場合じゃ無い。
だって目の前にはアサシンベアがいるのに、隙だらけの背をアサシンベアに見せることは、戦うことを諦めたって言っているようなものだ。
今は、アサシンベアは光のせいで身動きが取れないのか唸るだけで動こうとしない。だけどそれもこの光が消え失せれば終わりだ。私は直ぐに殺される。
だからそれまでに私は痛みになれておかないといけない。いつこの光が消えるか分からないから、少しでも痛みに慣れ動けるようにならないと。
私は死にたくないし、今までの頑張りを無駄にしたくない。
それに大人しく死んであげる程、私はこの人生にまだ満足していない。
歯を食いしばり、アサシンベアに向けて武器達を構える。
良く考えれば、死ぬより痛みの方がまだマシだ。
だって痛いだけで、少し我慢すれば、動けるんだから。
「〜〜っ!」
襲い来る痛みに耐え、アイテムボックスに入っている武器達を、アサシンベアに向けて次々と放つ。
光でどこにいるか、当たっているかは分からないけど、遠くから聞こえたアサシンベアの鳴き声で、ある程度どこにいるのか、当たったのかが、想像出来た。
卑怯かもしれないけど、今の私にはそれを卑怯って言える資格は無い。
そういうのは自分自信を守れるようになって、そして誰かを守れるようになって、ようやく言う資格が与えられる。強者に与えられた物のひとつだ。
今の私は守られている弱者だ。卑怯、なんて、言える資格は無い。今の私に出来るのは、卑怯でも何でも、とりあえず強くなる事。
そうして強くなってからようやく、私は一人前になれる。
こんな痛みで動けなくなっていたら、将来、リンナちゃん達と旅に出た時、足でまといにしかならなくなる。
そうならないためにも、痛みに耐えながら、時間を開けずに連射しながら、アサシンベアの鳴き声…いや、断末魔を聞きながら、アサシンベアの気配がしなくなるまで武器達を飛ばす。
しばらくすると、気配が感じなくなったので攻撃を止めると、同時に光が消え失せた。
その際見えたのは石剣や石斧、石鎖が刺さったアサシンベア。アサシンベアはかろうじて息があり、唸りながら私を睨んでいるが、その傷は酷く、生きていられるのも時間の問題だと言うのが見て分かった。
アサシンベアは歯を軽く打ち鳴らし動きを止め、ぐっ、っと、身を低くした。
多分、アサシンベアも自分が長く生きていられない事を察したのだろう。
だからせめて最後に全てをかけて、道連れにするか、多少なりともダメージを与えようとしたのだろう。
いつもやるより深く長く構えるアサシンベアと、武器達を構える私は、数秒見つめ合う。
そして数秒たったその瞬間、アサシンベアと私は走り出した。
アサシンベアは、突進力と分厚い腕を武器に、私は素早く操り、武器達を。
両方の命をかけた勝負。
負ければ死。
そして己の運命が決まったその時は直ぐに来た。
「ぐ……っ!!」
横腹と右腕から、血が吹き出す。
右腕は手首から肘辺りまで切り裂かれて、横腹はアサシンベアの長い爪の1本が掠って、浅く切り裂かれた。
右腕はまだ浅いが、横腹は思いのほか深く切られたせいか、血が止まらない。
浅い息を繰り返し吐き、なるべく血が出ないように横腹を抑える。
私の後ろでは、アサシンベアが背を向け立っている。
負けちゃった…。
傷を負い、座り込んでいる私と、背を向け動かないけど立っているアサシンベア。
アサシンベアは回り、ゆっくりと座り込んだ私の方へと歩いてくる。
勝敗は決まった。
負けは…、私。
あんなに頑張ったのに、結局モブがどんなに足掻いても、モブに救いはなくて、どうにもならないのかな…。
アサシンベアは私の前に来ると、グルル、と唸り、その分厚い腕を私目掛けて振り上げた。
…本当は逃げたくない。
諦めたくない。
立って戦いたい。
だけどもう体に力が入らない。
足は感覚がなくて動かせないし、両腕は動かせるが震えて的が定まらないから、腕は使えない。
どうしようも無い。
人には限界ってものがある。
しょうがない…。
アサシンベアの分厚い腕が振り下ろされる。
…しょうがないはずなのに…。
なのに…何で…。
アサシンベアの振り下ろされた分厚い腕を、銀の盾で防いだ私の手。操った訳ではなく、震える自分の手で銀の盾を持って、アサシンベアの攻撃を防いだ。
私はそれに抗おうとするんだろう。
負けは負け…なのに。
グルルル、と唸るアサシンベアを、私は驚きながら見つめる。
何でだろう。
アサシンベアは唸るだけで攻撃をしてこない。
アサシンベアは唸りながら、私の目をじっ、と見つめて来る。
何故だかその目は、熱の籠ったような目で。
その目を見ていると、うじうじ悩んで、落ち込んでいる自分に怒りが込み上げてきた。
ここで座り込んでいる場合じゃない。
痛みに耐えながら血が出ないように横腹を抑え、盾を支えにして立ち上がる。
負けたなら、勝つまでやればいいんだ。
生きていれば、何回だってやり直せる。
なのに私は、一回負けたからって、逃げて。
本当に馬鹿だ。
「も…、一回…、やろ…!」
疲労のせいで上手く喋れてないけど、目の前のアサシンベアに向けて微笑む。
武器達を操る魔力はもう残っていない。だから戦うことになっても手動になる。私は攻撃力が極端に低いから大した攻撃は与えられないけど、今度は絶対に負けない。
そんな私の意思が分かったのか、アサシンベアは、一際大きくそして低く、雄叫びを上げた。
グルルル、と唸り終えたところで、アサシンベアはどしゃ、と崩れ落ちた。
「え…っ!」
慌ててアサシンベアの側に行くと、アサシンベアは目を閉じていて、息もしていなかった。
その意味は直ぐに分かった。
アサシンベアが息絶えたのだと。
村の人達が言っていたモンスターに感情はないと言うのは間違いかもしれない。
だってさっきのアサシンベアは、唸りながら私を見ているだけで攻撃してこようとしなかった。
その目に、何かを言いたそうな陰りを見せながら。
それで私が立ち直ると、アサシンベアは息絶えた。
まるで安心したように。
もしかしたらアサシンベアは勝負が決まるあの時、既に致命傷を負っていたのかもしれない。
だって私を見ていた時、苦しそうにしていたから。
私を励ますために我慢して、私の元に歩いてきてくれたのかな…。
何か…、勝ったのに負けたような感じがする。
勝負には勝ったのに…。
一人でモンスターを倒せたのに…。
勝った気がしない。
悔しい…、凄く悔しい…。
鼻の奥がツン、と痛くなり、目に涙が溜まっていく。
これが悔しい。
今まで感じた事がなかった感情。
自分の意思なんて関係ないと言わんばかりに、ぽろぽろ、と涙が溢れ出して来る。
溢れて溢れて溢れて、止まらない涙。
「っひ…、っんく…っ、ふ…うぇ、ぇ…っ、う〜…っ」
ここで泣き声を上げてしまえば、本当に負けたように感じてしまうから、口を抑え、必死に泣き声を殺す。
そのまましばらく泣き続けた。




