10話
少し足しました。
急な話だけど、冒険者は八つのランクに分かれている。
上から、SSランク、Sランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、Fランク。
⦅Fランク⦆初心者。⦅Fランク⦆は、主に薬草採取や街での雑用など、戦闘をしない安全な依頼だけを受けれる。
主に登録可能年齢に達していない幼子は、登録可能な年齢になるまでこのランクから上がることは無い。勿論、普通の人も登録直後はこのランクになる。
⦅Eランク⦆
戦闘する依頼が増えてくるランク。登録可能な年齢に達した子供たちはこのランクに上がることが出来る。初心者用の依頼が多い。
⦅Dランク⦆になれば、初心者ではなくなる。ある一定の強さに達しないとなれない。このランクになってからが、本当の初心者の冒険者と言える。
⦅Cランク⦆は一般的なランク。ある程度の強さを持った冒険者で、一番人数が多い。
⦅Bランク⦆で凄腕と言われる、普通の人より強い人。
⦅Aランク⦆は、1人でモンスターの群れを倒せる強さを持つ人。Aランクになって直ぐに死んでしまう人もいる程、強いモンスターを相手にする。
⦅Sランク⦆は、Aランクでもなれる人が少なく、Aランクの中でもっとも強く、鬼畜と言える程の課題をこなしてやっとなれる。国に1人居れば国は滅びない、安心って言われる程に強い。だから国は、Sランクの冒険者を欲しがる。
⦅SSランク⦆は、全ての冒険者の親とも言える存在。
SSランクになる条件は小説の中でも詳しく明かされていなかったけど、唯一明かされていた条件がある。
それが、Sランクの冒険者を10人と同時に相手にして勝つこと。
Sランクのモンスター10匹を連続で討伐すること。
あと、災害級モンスターを1匹狩るか、そのモンスターの素材を回収するか、のどちらか。
この3つである。
まぁ、その他にも沢山あるって書いてあったけどね。
それでリンナちゃんとイアンくんの強さは、今のところCランクくらいだと思う。
あの強い2人が“C”ランク。
はい。これで何で急にこんな話しをしたのかある程度分かったと思います。
あの強い2人がCランクの強さ、って言うこと。
なら私は、冒険者になりたてのFランク。
そう、Fランクです。おまけをつけたとしても、ギリギリEランク。もしくはランクもない、戦い方も知らない一般人。
Dランクの冒険者さんがギリギリ勝てる相手に、Fランク、又は一般人の私が勝てる訳ないんです。
そんな私の考えを知るはずも無いアサシンベアは、早くもないけど遅くもないスピードで、その分厚く大きい腕を、私を目掛けて振り下ろして来る。
その攻撃を盾で受けて横に流すが、直ぐにアサシンベアは反対の腕で攻撃を仕掛けてきて、盾に力を入れるのが一瞬遅れた私は、盾が直撃し盾と一緒に吹っ飛んだ。
「……っ!! ぅぐ…っ!」
新しくアイテムボックスから出した鎖で、私と盾と一緒に巻き、辺りの木々に巻き付かせるが、それより少し遅い早さでアサシンベアは木々に巻き付いた鎖を壊していく。
それもそうだ。かれこれ1時間ぐらいこのアサシンベアとやり合っている。それぐらいの時間戦っていれば、アサシンベアも学習するだろう。
だけどそれは私も一緒。私だって、このアサシンベアの、癖や弱点は分かってきた。
この個体のアサシンベアは、交互に両腕で攻撃してきた時に、体制を崩して背中に一瞬隙が生まれる。
あとは、突進をする時は歯を軽く打ち鳴らし一瞬動きが止まる。
それが分かったところで、状況は一転しないけど…。
それにそろそろ私の方の体力が怪しくなってきた。
リンナちゃんとイアンくんに鍛えてもらったおかげで、前より体力が増えた感覚はあるけど、やっぱり弱肉強食の世界で生きてるモンスターの方が体力があるのは当たり前で、私の体力は限界に近付いていた。
だと言うのに目の前にいるアサシンベアは、疲れた様子を一切と見せない。それに私は、目の前にいるアサシンベアとの実力差をハッキリと見せつけられた。
私は弱点が多い。
その一つが私は攻撃力が物凄く低い事。
だが反対に防御力と素早さの数値は、レベルに合わず異常なくらいに高い。
このレベルで防御力と素早さの数値がこのぐらい高いとなると、成長してレベルが上がった時この二つの数値が有り得ないことになってそうだ。
数値がSS、とか……。
…、う、うん…。有り得ないよね…。…有り得ないよね…?
考えながら戦うって言う器用な事をやりつつも、アサシンベアを観察していると、突進する時にする行動を始めた。
歯を軽く打ち鳴らし一瞬動きが止まったのを見て、アイテムボックスから、鉄で出来た鎖を三本、鉄で出来た盾を二つ、鉄で出来た武器を七つ出した。
ここで私の弱点の内であるものが4つ出てくる。
まず1つ目。
⦅錬操術⦆は自分で錬成したものしか操れない事。
2つ目。
錬成したものが、ランクの高い素材を使ったものであればあるほど、操る時に消費される魔力の量が増える事。
3つ目。
それは、攻撃力の数値が低い為、⦅錬操術⦆でしか、大したダメージを与えられない事。
4つ目。
錬成したものを操るのにも、アイテムボックスに入ってないと駄目だし、何より魔力が切れれば終わりな事。
強そうに見えて、実は弱点だらけです。
普段私が私が操っているのは⦅石⦆の武器で、それで今私がアイテムボックスから出して構えたのは⦅鉄⦆の、武器。
⦅鉄⦆の錬成物に魔力を纏わせただけで、ゴリゴリ魔力が減っていく。チャンスは1回だけ。
ここで失敗したら私に待つのは死。
突進してきた後に出来る隙を狙って全武器を叩き込む。
全て叩き込めても、もしかしたら倒せないかもしれない。
その時は、魔力を回復させてまた全武器を叩き込めばいい。
あとは…、イアンくんに教えてもらった魔法の使おう。
実はイアンくんに習った魔法は、攻撃魔法じゃなくて、補助魔法なのだ。別名【支援魔法】とも言う。
自分や味方のステータスなどを上げたり、回復させたり、敵の邪魔をしたりと、補助する事に長けている魔法だ。
その魔法の1つ、〖アタックバースト〗。
この魔法は5分間の間、攻撃力を急激に上げる。
この魔法を2回ほど自分にかけ、アサシンベアが隙を見せるまで待つ。
ほんの一瞬、本当に数秒。その瞬間にアサシンベアは私目掛けて駆け出したのと同時に、鉄製の盾を前と後ろに置き、三本の鉄製の鎖を辺りに張り巡らし、7つの鉄製の武器を空中に浮かばせる。
アサシンベアは、それらに大して警戒心を持ってないのか、そのまま突進して来た。
そのアサシンベアの突進を盾で受け止める。完全に勢いを殺さなければ隙は出来ない。
だと言うのに、アサシンベアの突進の勢いが凄まじく、止められない。
あと少しだと言うのに、このままでは先に私の魔力が底をつく。魔力が無くなれば、私に待っているのは“死”だ。
潰されて死ぬかもしれない。食い殺されて死ぬのかもしれない。もしかしたら遊ばれながら殺される…。
そう考えた瞬間、まるで雪山にいるかのような酷い寒気を感じた。
魔力が減っていくにつれやってくる死の恐怖。この時初めて死の恐怖を感じた。本当の“死”を。
今までは何処かでこの人生を他人事のように思っていたんだと思う。だから、今までは“死”の恐怖を感じなかったんだろう。
多分さっき痛みを感じたから、私はこの世界を現実だと受け入れたのだろう。
これは現実。小説の世界じゃない。
痛みもあるし、恐怖もある。
そう自覚した瞬間、頭を埋め尽くしたのは「死にたくない」という感情だった。
他に何も考えられない程に、その感情でいっぱいになり、頭が真っ白になり、今までに考えていた作戦など全て忘れてしまった。
そしてそれと同時に自分の中にある何かが溢れて爆発したように感じ、目の前が真っ白になった。