9話
少し変更しました
あれから3週間が過ぎ、私はリンナちゃんとイアンに修行を手伝ってもらっていた。近頃モンスターが森にいないせいで修行相手に丁度いい相手がいないせいだ。
というのも、あの⦅フィアムカデ⦆の事件から4日ぐらいの間、⦅フィアムカデ⦆の姿を鮮明に思い出して、ご飯が食べられなくなった。6日目になると、無になる事でご飯を食べられるようになったけど。
それで私は思った。私が精神的にも肉体的にも弱いのは、私がモンスターに慣れてないからだと。だから、モンスターを倒せれるようになれば、少しは自信がつくのではないかな、と。
それで2週間前に2人にモンスターの倒し方を聞いた。多分それがいけなかったんだと思う。
私のその言葉を聞いて2人は私がモンスターと戦おうとしていること事が分かったのだろう。
2人は悲鳴を上げて、私がギリギリ1人で行ける手前の森にいるモンスターを全部2人が倒しまった。しかもお詫びというように、沢山のモンスターの素材を私に持って来て。
それを知った時は怒ろうかと思った。でも顔面蒼白な2人がモンスターの素材を持って来た姿を見ると、怒りたくても怒れなかった。
2人も、何故自分がこんな事をしたのか理解していないし、頭の上にハテナマークを浮かべながら、理解していないながらも静かにモンスターの素材を持って謝って来られたら、本人達も分かってないのだから「何でこんな事したの?」とも聞けないし、許すしかなかった。
だから、そのお詫びにと2人が私の修行に付き合ってくれるって言ってくれた時、少しだけ安心した。
今はあの時にやった錬成したものを自由自在に操れるようになるための修行中である。操れる事が出来たあの時は、両方とも無我夢中でやった事だから、自分の意志でやろうとすると、凄い難しい。
「メル、何かすっごいフラフラしてるっ!」
「うぁ…っ、うん…っ!」
「メル、的はこっちだっ!」
「う、うん…っ」
操ろうとすると魔力がゴリゴリ減っていくせいで、フラフラして安定感が無くなり、そのせいか狙った場所に行ってくれない。鮮明にリアルに想像しているはずなのに、上手く操れないのは何でだろう。
あの時の私、本当にどうやって操ったの…? 数打ちゃ当たる、って感じでやったのかな…?
『ご主人様、魔力が減ってきましたわ。』
「あり、がとう…っ!」
魔力が減って無くなりそうになったら、アンジュが魔力を回復してくれて、また、錬成したもの達を操る事に集中する。それを何度も何度も繰り返す。私の疲労が限界に来るまで、時折休みを入れて、繰り返す。
それをこの2週間ずっと繰り返していた。もう止めたいって思うほどこの修行はキツい。ここ2週間は同じ事の繰り返し。だけど全然進歩しない。唯一の救いが魔力の総量が増えた事と、Lvが2も上がった事。
だけど疲労が蓄積して限界が近い私は喋る事も出来ず、操る事だけを黙々とこなしていた。そんな私を見てリンナちゃんは慌てて止めて来たけど、私は首を横に1回振る。
喋らなくてごめんね。だけど疲労のあまり声が出せないの。
「メルーっ!! お願いだからちょっと休憩しよっ!」
出来るだけ長く修行していたかった私は、リンナちゃんの言うことを首を振って拒否すると、イアンくんが溜め息を吐き、分厚い本のようなものを開いて、「メル、休憩するよ。」と、イアンくんは何かの魔法を発動させた。ふわり、と甘い匂いが辺りに広がり、その匂いが私に纏わりついた。
イアンくんの発動した魔法が、相手を睡眠状態にする魔法だと気付いたのは、次の日の朝、自分のベットで起きた時だった。
それから1ヶ月後。
私はようやくまともに、錬成したものを操る事が出来るようになった。ふらつかないし、狙った的に命中するようになって、やっと始まりに立つ事が出来た。
あと、私の錬成したものを操るこの技は《錬操術》と言って、錬金術師達がよく使う技らしい。イアンくんが言ってた。
そして途中から私に余裕が出た来たからか、リンナちゃんは剣を、イアンくんの魔法を、私に教えてくれた。
おかげで魔法は初歩的な初級と中級を少し覚えられたし、剣は身を守る程度には強くなれた。…多分。
いや、でも、2人からはモンスターを1人で討伐しに行く事を許可されたから、ある程度の強さは身に付けたはず。
そして今日、初めて1人だけでモンスターを倒しに行く。
「ねぇメルぅ…。こっそり付いて行ったりは……?」
「駄目…!」
「リンナ、諦めなよ。メルはこの日を楽しみにしていたんだから。」
「でも、だってぇ…。」
「リンナ。僕も不安なんだ。」
「うぅ〜、分かった…。」
リンナちゃんを宥めながら、イアンくんはモンスターと戦うために必要なものを渡してくれた。
傷薬に体力回復薬。魔力回復薬。あとその他諸々。
応援してくれているけど、イアンくんの顔は真っ青で不安そうに私を見ているから、多分不安だけど私の不安にしないように我慢してくれているんだろう。リンナちゃんも応援してくれているけど、つい不安の方が勝っちゃったみたいだ。
「メルぅ。危なくなったら逃げる事。それも出来なくなったら大声で私達を呼ぶんだよ? いい?」
「リンナ…。ま、いっか。じゃあ僕からも。メルは攻撃力が極端に少ない。それ以外は高いけど、攻撃するとなったら、武器系を選ぶんだよ。防御は必ずする事。いい? 」
「う、うん…っ!」
2人の真剣な表情に素直に頷く。
2人が警戒するぐらいにモンスターは危険な生き物なのだ。
どんなに弱いモンスターでも、急所を攻撃されたら重症を負う。だから、辺りを警戒し、意識を辺りに張り巡らす。
そして「どんなモンスターでも気を抜かない。」
これが2人とのモンスターを倒しに行くための約束。
2人は私の頭を撫で、背を向けた。
行ってらっしゃいって言う合図だ。
2人に聞こえるぐらいの小さな声で「行ってきます。」と言って、森へと足を進めた。
バサバサ、と鳥の羽ばたく音と獣の鳴き声が聞こえて来る。
ここは森の真ん中辺りで、私がまだ1人では来た事の無い場所。
いつもはリンナちゃんとイアンくんがついてきてくれていた場所なので、1人だと少しだけ不安に思ってしまう。
それだけでいつも私がどれだけ2人に甘えていたのが、痛いほどよく分かる。
辺りを見回し、リンナちゃんとイアンくんが教えてくれた、右手側の木にあとをつけて進めば迷いにくくなるって言ってたのをやりながら森を進む。
1人でモンスターを倒せるようになって、少しは自信を持ちたい。1人でモンスターを倒した事はあったけど、あれは2つとも無我夢中でやった事だから数には入らないけど、2人には敵わなくても、2人から許可をもらえた。
それだけでも自信を持っていいと思う。
あとはモンスターを1人で倒せられるようになれば、私は落ち込む事は無くなる。いや、落ち込む理由が無くなるから、どんな事があっても前を向いて歩いて行く事しか出来なくなる。
だからこれは、自分が自信を付けるために、ある意味自分を追い込んでいるのと変わらない。
だけどそれでいいの。
2人と一緒にいられるなら、私はどんなキツい事でもやり切ってやる。
そう決心した瞬間、修行中、2人からよく浴びせられたどす黒い空気のようなものに似た、殺気のようなものが後ろから溢れ出した。
「っ!」
慌てて錬成した鎖と盾をアイテムボックスから出して操り、盾を私の前に置くと凄まじい重さの攻撃が直撃し、私の体は綺麗に吹っ飛んだ。
すぐさま鎖を体に巻き付け周りの木々に絡ませて、木々や岩などにぶつからないように阻止すると、木にぶつかる前に私の体は止まり、すぐさま体に巻き付く鎖を解いて、警戒態勢に移ってから初めて目の前のモンスターを見て、少し固まった。
攻撃力が異様に高い、Bランクの冒険者さんがギリギリ倒せる相手。
その名は⦅アサシンベア⦆。
暗殺者の異名を持つ、熊のモンスターだ。