CAR LOVE LETTER 「Keep COOL!」
車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。
貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?
そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。
<Theme:SUBARU Impreza WRX STi(GDB)、MITSUBISHI Lancer Evolution7(CT9A))>
今日は本当に頭に来た。
仕事の進め方で上司とぶつかり、かなり議論をしたのだが、結局俺が3日間考えて練り上げた案は没。
その代わり上司のくだらん案を押し進める事になった。
午後にはパソコンが突然フリーズして、昼一から作っていた企画書が消えてしまい、更にアプリケーションも立ち上がらなくなるダブルパンチ。
そして極めつけは、仲良くしていた会社の同僚と、他愛のない事でケンカになってしまった事だ。
元々口の悪い奴だったんだが、俺の方が年上だし、奴の性格もわかっていたつもりだったから、奴が何か言って来ても、まぁ我慢していたんだ。
だけど今日は俺も虫の居所が悪かったのと、奴の言い方があまりにも気に触ったので、久しぶりにブチ切れたんだ。
今思うと、ちょっと大人気なかったかも知れないが。
いや、やっぱり奴の言い方は許せん。俺だって怒る時は怒るんだ。
今日は仕事もプライベートも本当に散々だった。
明日仕事じゃなかったら、浴びる程酒を飲んでやるんだが、明日も大事な会議がある。
酒の代わりに、今日はコイツでストレス解消だ。
会社の駐車場にはコイツ、俺のインプレッサが待っている。
お前が三菱ならば俺はスバルだと、同僚のランエボに対抗して選んだ。
別にインプレッサにこだわりはなかったんだが、その時は奴に負けたくない気持ちでいっぱいだった。
しかしいざ乗ってみると、強烈な加速と独特のエンジン音、操り易いハンドリングと意外にファニーなご面相で、俺はインプレッサ以外は考えられない位この車の虜になった。
もちろん不満が無い訳でもない。
エンジンはよく回るんだが、いかんせん実用トルクではランエボの方が上手だし、ハンドリングの軽快感はあるのだが、ランエボの方が安心感がある。
いや、別にランエボに負けている訳じゃない。いつだってランエボといい勝負を繰り広げている。コイツは俺の最高の相棒だ。
今夜は少し遠回りだ。気晴らしにワインディングでコイツを振り回して、嫌な事はサッサと忘れてしまおう。
相手が居れば最高なんだが、インプレッサでのワインディングは、独りでも十分楽しめる。
さぁて、一丁やるか!
アクセルをあおり、エンジンの回転を合わせてギヤを2速にねじり込む。
ターボと可変吸気で武装したボクサーエンジンを一気にレッドゾーンまで引きずり上げると、弾ける様な勢いで、俺のインプレッサはワインディングを駆け上る。
外からは、まるで青い弾丸の様に見えるだろう。
しかしその瞬間、俺のミラーにチラリとヘッドランプの光が見えた。
物凄い威圧感を漂わせ、そのHIDの光は俺と同じ勢いでワインディングを駆け上って来る!
あのシルエットは・・・ランエボ!
俺はそれを確認した瞬間、舌の奥の方でアドレナリンの味を感じた様な気がした。
少しだけペースを緩め、ランエボが追い付くのを待つ。
程無くランエボの強烈なヘッドランプが俺のミラーを目一杯照らす程の距離まで張り付いて来る。
このランエボ。・・・奴だ!
また俺の脳で大量のアドレナリンが出ているのがわかる。
オーディオのボリュームを右に目一杯ひねり、「行くぞー!ウォー!!」と叫ぶ。
俺は床までアクセルを踏みつける。ケツから背中に武者震いが走る。
短いストレートの先には左の直角コーナーが待っている。ぜってぇ奴よりも先にブレーキは踏まねぇぞ。
しかし奴もそのつもりの様だ。ブレーキで車間は開かない。お互いかなりギリギリのブレーキングだ。俺のだけでなく、後ろからはランエボのABSのスキッド音が聞こえて来る。
低速コーナーはランエボの得意中の得意だ。トルクの鬼がAYCとACDの金棒を持っているんだ。卑怯にも程がある!
コーナーの立ち上がりで車間を更に詰められるが、この先の高速スラロームセクションは、インプレッサの得意としている所。
ランエボが3速と4速で迷う所を、インプレッサは3速のまま駆け抜けられる。
しかも軽快なハンドリングとあいまって、ここはランエボよりアドバンテージがあるんだ!
案の定、ランエボとの車間はほんの少し広がるが、またすぐ先には急勾配の七曲りが待っている。
トルクのランエボ、軽快なハンドリングのインプレッサ、七曲りの勝負はほぼ互角!しかしトルクのある分、この勾配ではランエボの方に少し分がある。
勝負はこの先の下り右コーナーだ!
ランエボのフロントヘビーとアンダーステアを何処までなだめなれる?!
とは言えこちらも同じく4WDだ。アンダーステアが皆無な訳ではない。
じわりとインプレッサをコーナーへと導く。
軽くスキール音を立てながら弱アンダーの姿勢で下りにアプローチする俺のインプレッサに対し、フロントタイヤを唸らせながらもハイテクデバイスでガリガリとコーナーを削りとる奴のランエボ。
キャラクターの近い二台ではあるが、車の特性は明らかに違う。俺はインプレッサとランエボを比べるのは実はナンセンスな事だと、奴とのバトルでひしひしと感じるのだ。
しかし一度俺の前にランエボが現れたならば、俺は全身全霊を傾けてランエボを追い掛け回すのだが。
最後まで俺も奴もがっぷりよっつで、一歩も引かなかった。
今夜の決着は、まぁいいとこドローって所にしておこうか?
去り際、俺はハザードを2回ともす。それに答え、奴は軽くホーンを鳴らす。
俺のインプレッサの車内には、うっすらとタイヤとブレーキの焦げる臭いが残り、俺には爽快な疲労感が残った。
帰宅すると、奴から「今日はすんません」とぶっきらぼうにメールが来た。
まったく、何言ってやがるんだ。
それより俺は、次には勝負の白黒をはっきりさせる事を考えているぜ。
いつもの様に、あそこのブレーキが甘いだの、ライン取りがおかしいだの、送って来いってんだ。
俺は携帯をベッドに放り投げ、鼻孔の奥にかすかに残るバトルの臭いをたぐりよせ、今夜の熱闘を反芻しながらシャワールームへ足を向ける。
また、走ろうや。




