吹雪
凄まじい吹雪が体を煽る。深い雪に足を取られる。
向かうは山の上に建つ屋敷。数年前から一人の中年男性が住んでいる。
大雪のため外出は控えるように、という呼び掛けの為にベテラン職員に駆り出された。下の集落は回り終わり最後の家なのだが遠すぎてイライラしてきた。
そのイライラが頂点に達する前に屋敷は姿を見せた。
インターホンは無い。ドアを叩く。コンコン。物音はしない。ドアを開けてみると正面に階段があり、左前右前両方に両開きのドアがある。
中の様子を伺っていると一人の女性が階段を下りてきた。
目の下にうっすら隈があり、頬はこけているが、がたいは良く体調が良いのか悪いのか分からない。
「どちらさまでしょうか?」
「警察です。今日明日と大雪になる為外出は控えて頂けるようお願いに参りました」
女性は私の職業を知り安心したようだ。
「そうでしたか。わざわざ遠いところまでありがとうございます」
ここで私はふとある事を思い出した。
「失礼ですが、ここは男性が住んでおられるのではないのですか?」
すると、女性は思い出したように話し始めた。
「あ〜明夫様のことですね。ここの家主は明夫様で、私はこの家でお手伝いとして働いている藤原純子と申します」
この家にお手伝いがいるとは聞いたことがなかったがいつから働いているのだろうか。
気になったがあまり詮索しないことにしよう。
「あの、そろそろ失礼させていただきます」
「大丈夫ですか?外、猛吹雪ですけど」
「大丈夫ですよ」
ドアを開け外に出ると先程までの吹雪が可愛く見えるほどの猛吹雪になっていた。
帰れる気がしない。そう思っていると屋敷の中から一人の男性の声がした。
「今、外に出ると凍え死ぬ。屋敷に泊まっていきなさい」
声の主は、整った顔立ち、整った服、整った髪型の見本のような紳士であった。
「今日は他に客人がいるが部屋は余っている。そこを使うといい」
「いいんですか?」
「いいとも。食事も賑やかな方が楽しいからね」
私は靴を脱ぎ、雪を落として屋敷に上がった。
奥のドアへ向かう二人の会話を聞くかぎりこの男性が家主の明夫さんらしい。
家主の明夫さんによって奥の部屋へのドアが開かれた。