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糠壁市奇譚

糠壁市奇譚:怪奇ぬりかべ伝説

作者: 桜桃露雨


 糠壁大学の学生の朝は早い。地方都市ゆえの閉塞感から常に面白いことを探す癖がついたからだ。


 今日も朝からゾンビの様に学生がさまよっている。面白いことを求めて。


 だがここに、異なる動きをする学生がいる。どうやら昨夜のうちにネタを仕入れたようだ。

「ぬりかべ伝説だって?」

 そう聞いてきたのはこの集団のリーダーであるバンク渡辺氏(28歳)である。彼は某任期制公務員を4期8年勤めあげ、家庭の事情であきらめた大学に進学してきたのが2年前まだ2年生である。

 バンクと呼ばれるのは登校初日に自転車でカーブをバンクすることで減速せず曲がろうとしガードレール下の農業用水に落ちたからだ。

「ぬりかべって北九州の伝説でしょ?」

 そう聞いたのはバッテン江戸川女史。

 バッテン嬢は東京生まれの東京育ちだが母親が八女市出身の九州烈女。

「それでどうしたんだ?」

 その質問はマテン小田氏(21歳)

 本名が、小田伸永(おだのぶなが)というせいで織田信長から第六天魔王に変化しテンマだとペガススに聞こえるとひっくり返されマテンと呼ばれるようになった。

 そしてこのネタを持ってきたオレオ久永嬢(19歳)の4人がつるんで暇つぶしをする仲間だ。

「オレ昨日、糠壁史の小冊子を見てたの。そしたら、江戸時代後期にぬりかべが出たって伝説を見つけたのよ」

「オレは閃いたの、ぬりかべ伝説を調べればいい暇つぶしになるって。」

 オレオ嬢のオレオは某焼き菓子じゃなく一人称が俺と言っているのが原因だが本人は気が付いていない。


 バンク氏は遠い地方出身だがこの地方に配属され任期満了になる前に許可を受けて受験したため日帰りで門限に間に合う唯一の大学ということでここに入学を決めた。

「う~ん?もうここに10年住んでいるけど初耳だな。」

 バッテン女史は入学当初は自宅から愛車の軽4で通学していたが、通学時間が無駄だと言ってアパートを借り移り住んだ。

「ぬりかべねぇ?母の故郷にもある伝説だから興味がないとは言わないけど。」

 唯一地元出身のマテン氏

「俺の祖父は左官で壁塗りならしてたけどな?」

 そして火付け役のオレオ嬢

「マイナーな伝説だからこそ探りがいがあるのよ!オレを呼んでるのよ~」


 まずは地元の老人からと手分けをして聞き込みをかけたが、結局2週間かけて手掛かりはゼロ。むしろ初耳だと情報を教えろとつかまって遅々として進まない。

 大学生以上に暇なリタイア組がそろっている老人のパワーをなめていたのが敗因だろう。


 『元禄6年、弥生6日。半月に近い月明かりの元、宿場にたどり着けず夜旅を続ける旅人がいた。あと半里で宿場にたどり着く、宿場の手前の地蔵堂で夜明かししようと足を急がせるも気が付けば半刻近く同じ場所で足踏みを続けていた。世に言う塗り壁に歩みを止められたのであろう。』


 この一文だけが糠壁のぬりかべ伝説を今に伝える。

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