グールと仮面
よろしくお願いします
鎧の人物はエルカが振り向くとどこか戸惑うような動きを見せた。
エルカに話しかけてくるプレイヤーで考えられるのは……。
「──もしかしてウク?」
「……おう」
そう言ってその人物は頭に被ってた兜を取る。すると、いつもの見知った顔が出てきた。
「……どうした?」
さっきからウクが俺の顔を物珍しそうに見ている。
……やっぱり俺の格好が変なのか?
「あ……ああ。珍しいもの見たなと思って。種族グールでしょ?」
「うん。グールにしたけど……」
「グール選ぶの流石だわ。戦いにくいでしょ?」
ウクは呆れ半分、関心半分といった様子だ。
「……何で?」
「だって日中のステータス減少と太陽光での持続ダメージだよ?難しくない?」
……えっ、そうなの?
「……マジで?」
「マジ、てか説明見てないの?」
「……うん、後で確認しようと思って」
ゲーム開始時に選べる種族の能力や特徴は運営から公開されている。
グールに決めるときは「吸血鬼に似てる」という勢いだけで決めたので、種族説明をよく読んでいなかったのだ。
「今見てみたら?ほら、ステータス欄から確認できるよ」
「……ああ」
ステータス画面を開き、種族説明を押す。
そこに記載されている情報は──
グールという種族はHP、MP共に高い。始めからスキル【再生】【病魔耐性•微】を持っている。そして、ステータスの多くの項目が他の種族と比べて優秀だ。
しかし、太陽が出ている時にはテータスが減少し、太陽光に当たると徐々にHPが減少していくらしい。
その代わり夜になるとステータスが少しだけ上昇する。それにグールは【再生】だけでなく、【夜目】と言うスキルをゲームスタートから有しており、夜になれば他の種族よりは動きやすくなるみたいだ。
要は夜に特化した性能の種族。……変な意味じゃないぞ。
「それにしても、これはちょっと……」
ステータスに表示された各種ステータスの数字を見て思わず呟く。ステ減少前と減少後の数字の開きが大きすぎる。
俺の本来のステータス(減少なし)。
エルカ レベル1 種族 グール
HP 100
MP 100
【STR】 20
【VIT】 15
【AGI】 15
【INT】 20
スキル 【再生】【病魔耐性•微】【夜目】【魔法の心得1】【火魔法1】
称号 なし
今のステータス。
エルカ レベル1 種族 グール
HP 50(-50)
MP 50(-50)
【STR】 10(-10)
【VIT】 8(-7)
【AGI】 8(-7)
【INT】 10(-10)
スキル 【再生】【病魔耐性•微】【夜目】【魔法の心得1】【火魔法1】
称号 なし
こ れ は ひ ど い
本当のステータスの半分も無い。
レベル1の半分以下ってことはもの凄く弱くなっているだろう。
ちなみにウクのステータスはこんな感じだ。
ウク レベル6 種族 人間族
HP 150
MP 150
【STR】 15
【VIT】 10
【AGI】 15
【INT】 10
スキルや称号はさすがに見せてくれなかったものの、【STR】や【VIT】をはじめとする項目は俺と余り差は無い。だがHPとMPの差がひどい。
レベルの差があるとはいえ、減少後ではHPとMPがウクの三分の一しかない。
「これじゃワンパンで死に戻りだろ……」
「そんなに?」
ウィンドウを可視化させてウクに見せる。
「──ここまでひどいのか。このステータスだと初期モンスにも苦戦するのでは?」
「キツ……レベル、上げられないやん」
「それに今調べたんだけど、運営調べではグールを選んでるのは50人らしい」
「…………マジで?」
そんなに少ないのか。。
「──あ、でも他にもオークとかも100人くらいだし他にも少数派な種族はいるみたいだね」
「おぉ、そうなんだ」
それなら少し安心かも。
「ただオークと違って、ステータス減少が入るグールだと昼間に誰もパーティー組んでくれないんじゃ……」
「──それは確かに」
このゲームでは、パーティーを組んで得た経験値はパーティーメンバー全員に均等に与えられる仕組みになっている。グールの減少したステータスでは弱すぎてパーティーでの戦闘は難しい。パーティーを組むと経験値だけ貰う乞食野郎になってしまう。
「それにグールは見た目があんまり良くないから、嫌悪感を示す人もいるんじゃない?」
「見た目……?」
ウクが黙ってアイテムボックスから手鏡を出してきた。
よくわからないまま鏡を見る。
「──きもっ!なにこの色!?」
鏡に映っていたのは普段とは程遠い、いわゆるゾンビのような顔だった。
まず肌が全然違う。所々崩れていてボロボロだ。色も作り込まれていて、かなりグロい。ほんとに腐っているかのようなクオリティ。
「人気なくて当然かもね。人口も少ないから良くも悪くも注目されるしね。その見た目だとここに来るまでも見られたんじゃない?」
「……見られた」
あれはグールの見た目が原因だったのか。確かにこんな見た目だとつい見てしまうだろう。
「──そうだ。とりあえずこれ付けとけばグールってことは分からないんじゃない?」
そう言ってウクが差し出してきた仮面。それは到底人に薦めるような物とは思えない、薄汚れた汚い仮面だった。
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