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一週間から十日に一度の頻度で、姿を現す天空の島はトレジャーハンターにとって是が非でも発掘しに降り立ちたい遺跡である。が、未だかつて、それを成し得た者はいない。
理由は単純。人間は空を飛べないからだ。スイフトはまず間違いなく超古代文明の遺跡、すなわちオーパーツの塊だろう。
たが、喉から手が出るほどの宝島であっても、辿り着く手段が無い。ハンター達は指をくわえて、ただ空を仰ぐのみだ。
「ねぇ、ナッちゃん!ここからジャンプしたら、あの島に届くかな?」
「いや……どう考えても無理だろ……」
ナツメが言い終わる前に、キャロルは足をくの字して垂直ジャンプした。飛んで飛んで飛んで、彼女は三十メートルの高さで静止すると、クルクルと回転しながら地面に着地した。
薄い綿の素材で作られたスカートが、ひらひらと風になびく。
「やっぱ届かないや……」
キャロルは真剣に残念そうな表情を浮かべている。
本気で届くと思ったのかよ!と、俺は内心で突っ込んだ。ナツメは、こうした突拍子もない行動にでるキャロルの姿をたびたび目にしてきた。
正直、ヒヤヒヤさせられる事の方が多い。が、そうした行動が出来ない自分と比較した時、少し羨ましいというか憧れを感じる事がある。
口には出さないけど。
「残念だったな」
ナツメは苦笑する。
「ねえ、ナツメ……見た?」
「何を?」
「僕のパンツ」
ナツメはまぶたを閉じながら、目頭を指先で揉む。
「んなもん、見るわけないだろ!」
「嘘だぁ。でも大丈夫だよ。今履いてる下着は見せパンだから!ダッサイ黒いパンツ!だから安心していいよ」
キャロルは、ニコニコしながらまくし立てた。
前言撤回。俺はキャロルを睥睨する。
「お前、明日からスカート禁止な!」
「えぇー。なんで?」
「明日からスカート禁止な!!」
「何?その大事な事だから二回言いました!みたいなの。ひどいよ、ナツメは!女の子にスカート履くなとかマジ最低。そんなだから女の子にモテないんだよ」
キャロルは恨めしそうな目で、俺を見つめていた。
「うっさい。モテないんだよは余計だろ」
「でも、さ。大丈夫だよ!お兄ちゃんには僕がいるから!ね?」
大丈夫だよ!じゃねーよ。なんかため息出てきた。
血の繋がりがないとはいえ、ナツメはキャロルの事を女性として見たことなど、一度として無い。
幼い時から兄弟同然で過ごしたことも理由として挙げられるが、とにかくそういう目で彼女を見ることは、この先も決して無いだろう。
「キャロ。もうすぐキーロフに着くけど、俺は遺物管理局の出張所に行って、今日発掘した分を引き取ってもらうから、お前は先にアルバの食堂に行っててくれ」
ナツメはポケットから銅貨二枚を取り出し、キャロルに手渡した。
「うん、わかった!今夜の夕食、なにを注文しようかなー」
「節約しなきゃいけないの、忘れるなよ!あと、俺の分まで食べてたら本気で怒るからな」
「わかってるって!お兄ちゃんはほんと心配性なんだから」
——本当に分かってんのかよ。
ナツメは暗雲たる気持ちを拭うことが出来なかった。